まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

471名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/28(金) 00:29:34.410

「みやもものしんぎたい 6」

エレベーターの前に立つ。箱は既に1階に降りていた。
ここから歩いて一体どこへ行こうというんだろう。
桃子にかける言葉は思いつかない。
それでも、今掴まえられなかったらもう、何も言えなくなってしまう。
呼び出したエレベーターが上がってくる。やけに遅く感じて雅は焦れた。

違う。

雅はゆっくりエレベーターの前を離れた。
足音を殺しながら、外階段へ向かう。
下か、上なら、上だよね。
屋上まで上がる必要はなかった。
足が疲れる、そう思う前に
雅は階段に座り込んでいる桃子を見つけた。
「見つけた」

すぐ目の前に立った。
桃子はもう、泣いてはいなかった。

「追っかけてくると思わなかったよ」
「追いかけなきゃいけないと思ったから」
桃子は目を伏せた。
「ごめん。知ってる。みやがそういう人だって、知ってるよ。
だけどそこに甘えて、困らせたくて逃げたわけじゃなくて
そういう、わけじゃなくて
泣くつもりなんかなかったし
ちょっと、自分でもびっくりしてさ」

淡々としたそれも、確かに桃子の本心だろうと雅は思った。
それがどうして、こんなに辛いのだろう。苦しい。

「今、すごく苦しいんだけど。どうして?」
「なんだろね。多分、私がこんなカタチに持ち込んだんだよね」
「それを言うなら、お互い様じゃん」

私たちは、あの日、同時に予防線を引いたのだ。
遊びに興じるフリをして、不確定な本心はそのまま塗り潰した。
その結果が、これだ。
黙ったままの桃子に声をかける。

「もうこの際だからストレートに聞くけど」
「手短に、どうぞ」
「みやから好きって言われたいわけ」
桃子は、何なの?とでも言いたげに顔を歪め、雅を見上げた。
「そうだよ」

ストレートに、とまで前置きしておきながら
すごくつまらないことを聞いてしまったと雅は後悔した。

「……冗談みたいに、言うのが嫌だっただけ」

どうしても、訥々とした言い方になる。言い過ぎたらまた桃子を傷つけそうで怖かった。
桃子は両腕で膝を抱え、雅を見上げていた。

「じゃあ、今ここで本気で言ってみて」

472名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/28(金) 00:32:05.720

雅は拳を握りしめた。
ここで?ここでか。
いや、別にここまでの会話できゅんきゅんもしてないし
盛り上がってるどころか、ふたりとも凹みまくってない?
これまでで一番ムードがないんじゃないかっていうくらい
薄暗くて色気のないマンションの外階段で
じめじめするばっかのヌルい夜で
すっぴんで安いルームウェアで髪ボサボサで

「みやがんばってー」と桃子が言った。

は?何言ってんのコイツ。ムカつく、ムカつくわ。やっぱ無理
大体、本気って何。ていうか自分で言ったんだけど
冗談みたいに言いたくないって言ったんだけど
それじゃあ本気でももの事好きみたいじゃん
意味わかんないよねそもそも。そういうんじゃないし
ももへの想いは
そんな、カンタンなもんじゃない
この想いは

探って、探って
頭の中で形作られた言葉が、キラキラ輝きながら雅の心に落ちる。

私が、殺したい。

「ははっ……」
辿り着いたその言葉はあまりにも恐ろしく
雅は身振いする。
怯えか、それとも、その答えが蕩けるほど甘く心を震わせたからか
そして、そこから愛おしさが込み上げ続けた。

ほら、見てよももの顔。絶対言えないだろって顔してんの。
今なら、殺せる。
一撃だ。

「好き」

雅は桃子の顔が微かに引き攣ったのを確認する。
あれ、致命傷じゃないんだ。やっぱもも強いわ。
雅は微動だにしない桃子の隣に腰掛け、抱き寄せた。ああ、でも、手負いだね。
腕に力を籠める。
「聞こえた?もう一回言うからね、本気で」
「……みや」

「好きだよ」
自分でもゾッとするほど色気のある声になったと思った。
抱きしめたまま深く、深く、奥まで言葉を挿し込んで、雅は陶然とする。
腕の中で、桃子の全身の力が抜けていくのを感じた。

475名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/07/28(金) 00:36:07.110

雅は桃子の“事切れた体”を引きずって部屋に戻った。

服を脱がせるとバスルームに放り込む。
雅も全身がベタベタしていた。構わずシャワーを全開にしてそのままお湯に打たれる。
桃子はしかめっ面のまま、髪が濡れていくのに任せていた。
シャワーを浴びせれば生き返るかと思ったんだけど。
雅は、少し思案したが
それならそれでいい。と開き直り、シャンプーを泡立て、桃子の髪の中に指を突っ込んだ。

指の間で桃子の髪がするすると解ける。
柔らかい泡で頭を撫でた。いいこいいこ。黙ってるとほんと可愛いよ。

桃子をバスタブに寄りかからせると、全身も洗ってやった。
顔を覗き込むと、気持ちよさそうに目を閉じている。
桃子はゆっくりと蘇生しているようだった。

後ろからぴったりと身体を合わせた。
指先が滑らかに動く。お腹に両手を回すと、つるんと滑るように抱き締めた。
後ろから肩に顔を乗せる。
桃子の濡れた髪が頬に貼り付いた。

雅はフワフワとした気分のまま、抱く腕に力を込めた。
桃子が小さく笑う。
その声を聞いて
沸き上がってきている欲情はこのまま放置することに決めた。

この幸せと引き換えにしたいほどのものじゃない。

緩い熱気をお腹に抱えたまま、少しの間じゃれ合う。
「ふふ、楽しいね、楽しくない?」
「うーん……」
「顔がふにゃふにゃしてるよ」
「なぁんにも考えてないからね」

桃子がくしゃみをして
慌てて雅はバスタブに湯を張った。
眠そうな桃子を無理矢理浸からせる。
世話が焼ける。
きっとこの後ドライヤーだってしてあげなきゃいけない。
雅はため息をついた。
仕方ない。みやが1回殺しちゃったからね。

仰向けに並んでベッドに入ると、すぐに桃子は眠りに落ちた。
雅が目を遣ると、無防備な寝顔は
ドキリとするほど大人びていた。
一人の見知らぬ女の顔のようにも見えた。

雅は初めて、それを嬉しく受け止めた。

いつだって、桃子はその時の顔を切り取って見せてくれていた。
今を見せようとしてくれる。
不意に流れ込んできたものに、雅は泣きそうになる。
それが、誠実さでなかったら、何だったというのか。

これからだって、新しいももの、顔を見たいんだ。

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