まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

665名無し募集中。。。2017/11/06(月) 14:14:27.050

その電話は突然だった。アドレスにない番号だったが
出た瞬間に聞こえてきた「あーっ!良かったいたぁ」という声でみやは声の主を悟った。

「みやびちゃん?久し振りー。今おうち?」
「あっはい。家ですけど」
「今ね、向かってるとこなの。行っていい?」
「えっ。……今?」
11月にしては差し込む陽のあたたかい、昼下がりだった。
今日は特にすることもなくて、午前中に簡単に掃除してからは
付けっぱなしのテレビを時折眺めるくらいだった。
ももはソファで丸くなっている。
みやは立ち上がるとももに背を向けて、なんとなく通話口を片手で覆った。

「今向かってるって、うちにですか?」
「あっごめん、もしかして忙しかった?」
「いや、いやそんなことはないんですけど」
「だと思った〜。暇そうだよね」
冗談で言っているのはわかっている。実際暇は暇だった。
だけどなんかこう、刺さる、刺さるんだけど。

「……どれくらいで着きます?」
「えっと、ここどこだろ、ね、こっからどれくら……」
通話口を手で塞いだのか、声が急に遠くなった。誰か一緒なんだろうか。
うちに来るなら、ももを二階にでも片付けておいた方がいいかもしれない。
寝起きで機嫌の悪いのを引っ張り上げることを想像すると、ちょっとだけため息が出た。

「……っと、10分くらいだって」
「あのー、誰か一緒ですか?」
「あ、そっか言ってなかった。そうなのもう一人。みやびちゃんとは初めての子だけどいいかな」
「もう、はい。もうなんでも」
「ありがとう。優しいね」
「そんな褒められてもお茶くらいしか出せないですけど。うちに来るの久し振りじゃないですか?」
「れいなに聞いたの。みやびちゃん、夢魔と同棲してるんだって?」
みやは深呼吸した。
これはちょっと、厄介なことになりそうな。

「あの、道重さん」
「さゆちゃんって呼んでって言ったよね」
「しげさん」
みやがそう言うと、さゆみは電話口の向こうで「それ一番やなんだけど!」と派手な声を上げた。

666名無し募集中。。。2017/11/06(月) 14:19:46.320

電話を切ると、すぐ後ろにももが立っていてびっくりする。
「なっ、な、なに」
「誰?」
「えっと、お師匠さんのお友達。と、もう一人今から来るんだって」
「なにその顔」
「なにが」
「もも上にあがってようか?」
いつの間に、こんなに気の利く子になって。みやはちょっとホロリとした。

しかし、ももを隠すわけにもいかなくなっていた。
「そう、そうしてくれるのは嬉しいんだけど、あのね、なんか、ももに会いたいみたい」
ももの顔がほんの僅か引きつったように見えた。
けどそれは一瞬で、すぐに笑顔をつくると、ももはみやの肩を軽く叩いた。
「まあ、いいんじゃないの」

そう、まあ、いいんだけど。
師匠が道重さんに話をしたというなら、それは何か意味があるのかもしれないし
ない可能性もあるけど
それは置いといて、人が遊びに来てくれるのは大歓迎だし
お茶だけって言ったけど、お菓子もあるし。

みやが玄関のドアを開けると、ピンク色のコートに身を包み
巻いた髪をツインにしたさゆみが立っていた。相変わらずお人形のような白さだった。年齢不詳である。
さゆみは「ごめんね?急に来ちゃって」と言いながら、不適な微笑みを浮かべた。
その影、少し後ろに下がったところに小柄でロングヘアの女の子が立っていた。
白いコートの前開きから、ピンク色でフリルたっぷりのワンピースが見える。みやの顔を認めるとぺこりと頭を下げた。
「はじめまして」
「最近、さゆみのお友達になったの。山木ちゃん」
「りさって呼んでください」
「山木ちゃん」
みやはにっこりと微笑みながら「かわいいね」と付け加えた。

「この子がみやびちゃんって言ってね、悪魔バスターなのに悪魔と暮らしてるんだって」
「いやあの、その話は中で」
「あ、そうだよね、ごめん、入っていい?」
「どうぞ」
ドアを大きく開き、招き入れると、さゆみはいい香りをさせながらみやの横を抜けて玄関に入った。
続いて入ってくる山木ちゃんと目が合う。
大きくて茶色い瞳に一瞬釘付けになった。山木ちゃんは目を細めると
「私のことはどうぞお気遣いなく」と言った。
さゆみ同様、食えない来客に違いないとみやは思った。

668名無し募集中。。。2017/11/06(月) 14:27:36.810

ももは一応立ち上がって、2人を出迎える素振りを見せた。
着替えさせようかとも思ったが急に面倒になったので、フリースのパーカーにゆるいズボンのまま。
そこまではまあいいけど、なぜみやが玄関行ってる間にフードを被ったのか。
みやにはわからない。

さゆみは一瞬面食らったように、その場に棒立ちになったが
気を取り直すように小さく咳払いをした。
「まあ、てきとうなところに座ってもらって」とみやは言い、2人のコートを受け取った。
ソファの隅に座り直したももの対面に2人は腰掛ける。
みやはももの顔を見た。「お茶入れてくるけど」
何もすんなよ。と視線で牽制を入れると、ももは笑いを噛み殺すように口許を歪めた。

急いで、準備していた紅茶を淹れる。
ももを見に来たというなら、あとはお喋りでもしていればいいんだろうか。
最近めっきり大人しいし、来客対応くらいはできるようになっている気がする。さっきのを見ても。
大丈夫。うん。

3回深呼吸して、居間に戻ると、全員押し黙っていた。

「あれ?なんか話とか」
みやが言いかけると、さゆみが「紹介してくれないと」と言った。
「あ、ああ、そっか」
全員の前にカップを置き、一息つく。
「えー、じゃああらためて、師匠のお友達の道重さん」
「さゆみっていうの」
「……で、こちらがそのまたお友達?の」
「はじめまして。りさって呼んでくださいね」
「山木ちゃんなの」
「山木ちゃんって言うんだって」

「あ、ああ……そう、よろしくね」
ももは紅茶のカップを両手に取って、何故か匂いを嗅いだ。
「何も入れてないし」
「お砂糖入れた?」
「入れたし」

「あなたが桃子ちゃんなの?」
さゆみの言葉に思わず聞き返す。
「ももこちゃん?」
「れいなが桃子ちゃんって言ってたけど。なんか下級のわりにはまあまあ有名な夢魔だったんだって?」

今さゆみが言った、なにもかもが初耳のような気がした。

669名無し募集中。。。2017/11/06(月) 14:32:58.480

師匠はみやには、何も言ってなかったのに。みやは思わずももの顔を見た。
「なにそれ。自分ではももって言ってるよね。ももじゃないの?」
「いや桃子ですよ桃子」と横から山木ちゃんが口を挟んだ。
「山木ちゃんも知ってるの?」
「へ?えっあっ……いやーなんだったかな?何かで読んだのかな?」
山木ちゃんはきょとんとした顔で天井を仰いだ。
「すごーい!文献に載ってる悪魔なんだ桃子ちゃんって」
「まじか。本名桃子なのか」
本名がどうとか、考えたこともなかった。

「み……みや」低いトーンで絞り出すような、ももの声が聞こえた。
「なに」
「このくだり要らない」
「え?要るよ?だってさゆみ桃子ちゃんって呼びたいし。ね、山木ちゃん」
「あの、呼び方についてなんですけど、私はちょっと、考えさせてもらっていいですか。なんかこっち睨んでますし」
片手で優雅にカップを手に取った山木ちゃんは「ああ、いい香り」と言って目を閉じた。

「で、桃子ちゃんなんだけど、なんかさゆみのイメージと違う〜」
ソファに深く腰掛けたさゆみは、ね?と言わんばかりに隣の山木ちゃんの顔を覗き込んだ。
山木ちゃんは小首を傾げてから、ニッコリと同意の微笑みを浮かべた。

みやが何も言わないのを見て、さゆみは言葉を続けた。
「だって夢魔でしょ。どんなセクシーな子と暮らしてるのかなってさゆみドキドキしながら来たのに
なんか……この子、ぜんぜん色気もないし」
最後を半笑いで言うと、さゆみはカップを手に取り、一口飲んでから息を吐いた。
「まあでもホッとしたー。みやびちゃんが悪魔にすっかりたぶらかされてるんじゃないかって
すごい心配してたんだけど、この子だったら別にって感じ」

ギシッとソファの軋む音がした。
「あー、わかってないな、全然わかってない」
ももはそう言うと、わざとらしく伸びをしてから、肘掛けに寄り掛かって頬杖をつく。
「あ、でも?わかってなくてもいっか。別にっていうか?」

みやはそっと山木ちゃんにクッキーを薦めた。
山木ちゃんは「いえいえほんと、私のことはおかまいなく」と小声で言いながら顔の前で手を振った。
さっきからなんだか、この子のことが気になってしょうがない。
道重さんのお友達なのはいいけど、この子も興味本位に悪魔を見に来たというんだろうか。
の、わりにはさっきから、この子がちらちらと見ているのはももではなく、道重さんの顔なんだけど。

670名無し募集中。。。2017/11/06(月) 14:38:52.610

「さゆみがわかってないって何。悪いけどさゆみの方が全然色気あるなって思っちゃうくらい」
「え、ごめん、ももが言ってるのはそういうことじゃないから」
「やだ、なんか上からー。言っとくけどさゆみバカじゃないからね」
「じゃあももが言ってることだってわかるはずだけど」
「全然わかんないんだけど」
「あ、そう、知りたい?」
「教えてほしーい。悪いけどその地味なルックスでどう人間を誘惑するのかわかんないし」
さゆみの言葉を聞くと、ももは身を乗り出して肘掛けをばんっと叩いた。

「はっ。色気?そんなもんで気を惹くなんていつの時代の話?ってことですよ!
大体そんなあからさまなセクシーさに引っかかるのなんて、言っちゃなんだけどロクなのいないし
ももはそーいうの相手にしないし
ぐっとさせたりきゅんきゅんさせるのは断然……かわいさだから!」
「は?かわいさだってさゆみの方が」
言いかけたさゆみをももは手で制した。
「ほれ、萌え袖」

さゆみは一瞬体を退いた。
「なんなの。そんな萌え袖くらいさゆみだってできるし!おうちで可愛いルームウェアのときは」
「うそだね!その腕の長さでやろうと思ったら男物とかよっぽど大きいサイズの用意しなきゃ無理。
ももなんかふつーのMサイズで、ほら、あんよもかかとが被っちゃう〜」
「ふ……ふーん、よっぽど手足が短いんだね」
「でも落ち込まなくても大丈夫だからね?その良さをわかってくれる人もきっといると思うし、その、隣の子とか」

ももからチラっと視線を投げられ、山木ちゃんはぴっと姿勢を正した。
「わっ私はもちろん、わかりすぎるくらいわかってます!手足が長いに越したことないですよ。セクシーさも断然上ですし」
「かわいさは?もちろんさゆみの方がかわいいよね」
「当たり前じゃないですか!」

「わぁー良かったね、わかってくれる人が近くにいて」
ももは袖から覗かせた指先をふーっと吹いた。
「なんか全然可愛げないんだけど。みやびちゃん、こんな子でいいの?」

「えっ?あっごめんあんまり聞いてなかった」

昼まであんなにいいお天気だったのに、窓の外、なんだか雲行きが怪しく見える。
お洗濯ものを今のうちに取り込んでおいた方がいいのか
さっきからみやはずっとそれについて考えていた。

863名無し募集中。。。2017/11/07(火) 20:23:11.260

「まあ、それはともかく?」
と、ももが言い、一同の視線が一斉にそちらを向いた。

「一応聞いておきたいんだけど、みっしげさんはバスターじゃないですよね?」
「ちがうけど。なに?別に問題ないよね」
「問題ないです。で、みやのお師匠さんに話聞いて、今日ここに来たんですよね?」
「そう。なんなの急に。気になるんだけど」
さゆみの目が不安そうに揺れた。
ももは何を言い出してるんだろう。顔を見ると面白がっている風でもない、妙に真面目な顔になっていた。
さっきまでしょーもない言い争いしてたんじゃなかったっけ?

「横の、りさちゃんとはいつからお友だちでいつから一緒にいるの?」
「先月からですよね」
山木ちゃんがウキウキとした表情で横を向くと、さゆみは訝しげな表情のまま頷いた。
「りさちゃんはみやのお師匠さんに会った?」
「会いました」
「今日、どうして一緒に来ることにした?もものこと気になった?」
「あ、ごめんなさい、そういうわけじゃなくって、えっと、どこに行くにもずっと一緒にいるからなんです。だからですよね」
「そう。れいなのところに行ったときも、今日も、山木ちゃんと一緒なの。なにか悪い?」

「だって、みや」

急に振られて、みやは固まった。
「えっ?」
「ももだけ状況が見えてるのもどーかと思うんで」
「どういうこと?」
「全部説明すんの?やだよぉもぉー。自分で考えて」
そこまで言うとももは小脇にあったクッションを抱えて顎をのっけた。
「考えればわかるの?」
「……たぶん」
「どういうなぞなぞ?さゆみも考えていい?」
「どうぞ」

「もうちょっとヒント」
と言ったら睨まれたので、みやは諦めて紅茶を一口飲んだ。
考えるのは苦手だ。ううん、考えることはできるんだけど
ただ考えるだけでももに求められてる答えに辿り着ける自信が、ない。
急にテストを出された気分で、じわーっと汗が出て来た。

866名無し募集中。。。2017/11/07(火) 20:28:58.370

「あっ……まさかそういうことなの?」
さゆみが呟いた。
目を向けると、さっと顔を逸らしたさゆみから伝わってきた動揺が、みやに何かを閃かせた。
隣の山木ちゃんが一瞬、対面のももに向かって送った、不安げな瞬きを見た。
続けてももを見る。ゆっくり顔を上げたももが、ほら、と言わんばかりに
視線でみやをけしかけた。

「なんで?」
そう言いながら、みやは立ち上がっていた。

射るような視線を投げると、さゆみは弾かれるようにソファから飛び退いた。
それと同時に片足を振り上げ、ソファの背を思いっきり蹴ると、三人掛けの大きいソファはゆっくりと後ろに倒れ、どすんっと鈍い音を響かせた。
座った格好のままソファと一緒に倒れ、びっくり顔で固まっている山木ちゃんの頭のすぐ横
片足を置いてぐっと重心を移すと、背もたれが派手な音を立てて軋む。
ほらほら現れちゃうんだなミヤビヒルドが。しゃきん!
みやは、山木ちゃんの細い喉元めがけて、その鋭く輝く切っ先を勢いよく、振り下ろした。

師匠はいじわるだ。みやがこの事態をどうするのか、興味津々で見てるんだ。
きっと師匠は、道重さんにくっついている山木ちゃんを見て、すぐに悪魔と見抜いたんだろう。
くやしい。みやには見抜けなかったことがくやしい。

瞬間、目の前で、わっと白い閃光がはじけた。
その眩しさにみやは思わず目を瞑る。
「なに……」よろめきながら腕に力を込め、再びぐっと踏み込むと
ガチン!という音と手応えに、はっとして目を見開いた。

剣先は、山木ちゃんの顔を覆うほどの大きな鏡面を突いていた。
両手でその鏡を掴んで突き出したまま、こちらを見上げているさゆみと目が合う。
「ごっ、ごめんね」
さゆみの言葉に、思わずみやの顔は歪んだ。
「……いや別に、首から上だけ隠されたとこで、お腹でも太腿でも突っつけるんだけど」
ほいほいと剣先を動かすと、山木ちゃんは慌てたように、両手でスカートの裾を引っ張り膝を隠す。
テーブルの上からずずっという音が聞こえて、目をやると
ももが山木ちゃんの前に出していたクッキーの小皿を自分の方へ引き寄せているところだった。
「もも」
「だって、もういなくなるじゃん」

「わかりました!!こうしませんか!」鏡の下から上ずった山木ちゃんの声が響いた。
「どうするの」
みやが聞くと、山木ちゃんは鏡の縁から恐る恐る目だけを出した。
「こんなこと前例がないんですけど、やむを得ません。この契約は解除しましょう」
「やだ!契約解除しないで!」さゆみが叫んだ。

868名無し募集中。。。2017/11/07(火) 20:33:51.090

一瞬、途方にくれる。
なに……どうしろっていうわけ?
「みや」
もものやけに軽やかな声が耳を刺す。
「一撃で仕留められなかった時点でみやの負けでしょ」
「……」
みやは口を開きかけたが、諦めて、手にしていた聖剣を下ろした。
そう、こうなってしまえば、ももの言う通りだった。

「一体……どういう契約を結んだんですか」
ソファを戻すのを手伝ってくれた山木ちゃんは、もとの場所に座ったものの、居心地悪そうに顔を伏せていた。
「山木ちゃんがちっちゃい女の子をどんどんさゆみのとこに連れてきてくれる契約なの」
さゆみの言葉にみやの手は震えた。
「それ人さらいだし!」
「違うの!ちゃんと暗くなる前にはおうちに返してるし。ちょっとぬいぐるみで遊んだり一緒にお風呂に入ったりするだけ」
「私はふかふかのバスタオルをたくさん用意する係なんです」
幸せそうに山木ちゃんが口を開き、みやの視線に気付いて再び目を伏せた。
「ニンゲンに都合よく使役されてるだけじゃん……」ももが呟いた。
「いや完全に犯罪だわー。これは見過ごせない」
みやが言うと、さゆみはうっとりと空を見つめた。
「ほんとに可愛い子ばっかり連れてきてくれるの。大人になる前の、ううん、大人になりかけの」

もう既に魂を持っていかれてるんじゃないか、と、みやは思った。

「契約解除したら、どうなるわけ」
ももの方を振り返った。
「さぁ……聞いたことないけど」
「それはですね、私が魂をひとつ取り損ねるわけなんですけど」
「可愛い子と遊べるなら別にさゆみの魂なんてどうでもいい」
「黙っててください」みやが言うとさゆみは「えっひどーい!」と叫んだ。

「悪魔としては完全に落第だし、粛正されるんじゃないの」
ももの言葉に「ええっ」と山木ちゃんの声が裏返った。

「だっ、だったらそっちはどうなんですか」
「は?」
「悪魔の仕事もしないでニンゲンとただ一緒に暮らしてるのはどうなんですか」
「ほぉ。なんでももが粛正されないかって?なんでだと思う?」
山木ちゃんは唇に指先をやり、考え込んだ。
「待ってください。何だろう……上級悪魔と繋がって定期的に貢ぎ物をしている!」
「ブー」

871名無し募集中。。。2017/11/07(火) 20:39:26.220

「わかった!わかりました!収集した悪魔バスターの情報を事細かに魔界に横流ししている!」
聞き捨てならなくなってきた。
「してないよね、もも」
「えっ」
ももの横に移動し、手を掴んだ。
「みやの目を見て。そんなことしてないよね」
「しっ……してないしてない」
ももは首をフルフルと左右に振った。

「うーん……桃子ちゃんは日頃の行いがいいとか?わかんないけど」
「ももの日頃の行いと言ったら、昼間だらだら寝てるだけ、ときどきお菓子をこっそり食べたりしてるだけだよね」
思わずみやが言うと
「ああ『怠惰』ってやつですか」山木ちゃんが両手を合わせた。
「桃子ちゃんはベルフェゴールなんだ」
さゆみが感心したように目を丸くする。

「いや……勝手に怠惰の悪魔にしないでくれる」
ももが急に立ち上がり、みやがずっと掴んだままにしていた手がするりと抜けた。

「どうしてかって?……ももには羽がないからだよ」

次の瞬間、ももはテーブルを乗り越え、山木ちゃんに掴み掛かっていた。
さゆみが悲鳴を上げて飛び退く。
ももはソファの上で山木ちゃんの背中を返すと、腰の上に跨がり押さえつけた。
「もも!」

「ももが文献に載ってる有名な悪魔?そんなのあるわけない。もしあるとしたら
ニンゲンに羽を毟られたみっともない悪魔として一行、どっかに書かれてるかもしれないね。反面教師かな?
その情けなさにお目こぼしもらってるだけだよ」
ももは山木ちゃんの背中に手をかけた。ワンピースの背中に並んだ奇麗なボタンが音を立てて無惨に弾け
へたりこんでいるさゆみが声にならない悲鳴を上げて顔を覆う。
肩まではだけると、そこに顕れた黒い羽の右側を、ももは両手で掴んだ。

この光景は見たことがある。

あの時、ももは言った。
「悪魔の羽とか、ゆーてもただの飾りだし。みやがなくしたいっていうなら、いいよ」

ソファに頬を押し付けられた山木ちゃんは、歯を食いしばりその大きな目を見開いていた。
嫌な音がして、右の羽が根元から千切られていく。まだ、ももにはそんな力があるんだ。
手つかずの左側の羽がもがくように、力なく数回ゆらめく。
「りさちゃんのは、ももがもいであげるからね。そこまでの汚名にはならないよ」
山木ちゃんは唇を噛み、覚悟を決めたように目を閉じた。

あの時、この羽と尻尾を取ってしまえば、ももはニンゲンになるんだって
みやは単純に、思い込んでいたよ。

876名無し募集中。。。2017/11/07(火) 20:44:16.500

「逃げたりしないから、一回外に出してもらえるかな」
ももがそう言って、みやたちは玄関から庭へ回った。

さゆみは山木ちゃんを見送りたいと言った。
「山木ちゃん、楽しかったよ。さゆみのこと忘れないでね」
「わっ忘れるわけないじゃないですか!」
さゆみは山木ちゃんの手を取って、ぎゅっと握り締めた。それからももの方を向いて言った。
「山木ちゃんは大丈夫なの?」
「ゆーても飾りだし」とももは笑い「これからどうするかは自分でちゃんと考えな」と山木ちゃんに言った。
さゆみの手が離れると、山木ちゃんは自分でその手を握りしめた。

ももの指先が空を縦に切る。裂け目が広がって、その向こう側に歪な空間が見えた。
何度か見たことがある。追いつめられた悪魔が魔界への入り口を裂き、みやから逃げようとするの。
その前に仕留めたこともあるし、逃げられたこともある。

入っていこうとする山木ちゃんにももが近づき、何か耳打ちする。
山木ちゃんは数回頷いた。
「お騒がせしました」
向こう側に入り込むとこちらに向き直り、山木ちゃんはぺこりと頭を下げた。

再び顔を上げようとするのを認めた一瞬、息を呑む間もなく裂け目はぴたりと閉じ
あとに残った縦線は、陽の光に溶けてほどけるように、ゆっくりと消えていった。

ぼうっと空を見ていたさゆみが、ふと思い出したように、こっちを見た。
「ねえ、みやびちゃんと桃子ちゃんは何の契約もしてないの?」

ももを見ると目が合った。
「……みやの魂、欲しい?」ふと思って聞いてみる。
ももは薄く笑っただけで、言葉は返ってこなかった。

消えた縦線の方向から、遠く雷の音が聞こえた。

「みや、洗濯物!」
ももが慌てたように叫び、みやは屋根の上の物干し台を見た。
「まだ間に合うよ。じゃあ、さゆみは帰るね。お見送りはいいから」
「傘は」
「折りたたみがあるから大丈夫」
さゆみは大きなピンクのバッグからレースのついた傘を取り出すと、ばんっと音を立てて広げ
髪を揺らすようになびかせながら、庭を出ていった。

878名無し募集中。。。2017/11/07(火) 20:49:19.080

雨音が窓を激しく叩いていた。
雷鳴が近づいてくる気配はなく、みやはちょっとホッとしていた。

2人で洗濯物を畳む。
「なんで、ソファ倒すなんて手間かけた。あんなことしなきゃ一撃だったよ」
ももがそんなことを言い、みやは顔を上げた。

気づいた瞬間に有無を言わさず突き刺すことだって、できた。
そうしていれば、鏡の反撃に遭うこともなかっただろう。
だけど
悪魔を貫く瞬間を、ももに見せたくなくて、隠してしまった。
怖かった。

「イヤなの」
「……なにが」
「ももが、いつかみやに消されるって考えてるのが、イヤ」
「そんなこと」
「思ってるじゃん。それくらいわかるから」
思わず手にしていたTシャツをももに向かって投げつけると、ももはそのまま顔で受け止めた。

今、どんな顔してるの。

「そんなの、許さないから」
続けて言った。圧し殺すような声になった。ももの顔を覆っていたTシャツが間を開けてするりと落ちる。
手を止め、じっと見つめた。

「そんなこと、思ってないよ」
ももは目を細め、こちらを見て笑っていた。

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