まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

571 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/07(日) 21:26:47.95 0

あの、と雅が言いかけたのと、ええと、と桃子が漏らしたのはほとんど同時。
お互いにどうぞ、と譲り合って、桃子がとりあえず、と息をつく。

「買ったもの、収めてからでも良い?」
「あ、もう、どうぞ! 全然!」

両手に提げられたビニール袋から取り出され、てきぱきと収められていく食材や消耗品の数々。
膨れていたはずのビニール袋は、みるみるうちに萎んでいく。

「あのー……お姉さんはどなたですか?」

あまりの早業に雅が呆けていると、ふと隣から声をかけられた。
艶やかな長い黒髪とあまりに綺麗な額の形に、思わず目が奪われる。

「もも姉のオンジンなんやって!」
「違うよ結、もも姉の方が恩人なの」
「え、せやった?」
「あらまあ! 姉様の?」

大げさに胸の前で両手を組み合わせ、少女の視線が雅に注がれた。
咄嗟に口から出た言い訳が、こんな風に広がっていくのは少々決まりが悪い。
しかし、乗りかかってしまった船だ、今更どうしようもない。
雅が名乗ると、少女は奈々美です、と頭を下げた。
その隣で、一緒に帰ってきたショートヘアの少女が舞です、と続く。

「ほーらー、みんな手伝ってー」
「はぁい」

桃子の呼びかけに、雅を囲んでいた5人がぞろぞろと台所へと向かう。
それを見送りながら、雅は無意識にまっすぐ伸ばしていた背筋を少し緩めた。

572 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/07(日) 21:28:23.71 0

「お待たせしました。すみません、ばたばたしてて」

下の子たちが食事を作る制度なのだろうか、5人に台所を任せて桃子が雅の隣へとやってくる。

「大丈夫なの? 任せちゃって」
「え? 大丈夫ですよ、いつもこんな感じなんで」

いつもお手伝いしてもらってるし、とかなんとか。

「で、なんでしたっけ。恩人なんですか? 私」
「あ、や、それは……咄嗟に、出ちゃったって言うか」

いたずらっ子のような表情はやけにあどけなくて、さっきまでレジ袋を両手に提げていたとは思えない。
ころころと変わる桃子のイメージに惑いながら、雅は視線を彷徨わせた。

「えっと……いきなり訪ねちゃって、すみません」
「いいですよ、そんなに気にしなくても。それにしても、よくうちが分かりましたね」

桃子の疑問も最もだ。
隠すこともなかろうと雅が事の顛末を話すと、店長の名を出した途端に桃子が苦笑する。

「店長、夏焼さんのことお気に入りですからねー」
「え、お気に入り?」
「そうですよ、お気に入り」

なんでも、昼休憩に決まって現れる美人さんということで顔を覚えられているらしい。

「……恥っず」
「あ、たまに栄養バランス偏ってないか気にされてますよ?」
「ちょっ! やめてよ……」

そんなことを聞かされては、おちおち昼食を買いに行くこともできないではないか。
明日からどうしよう、と頭をかかえる雅に、桃子がふっと吹き出したのが聞こえた。

573 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/07(日) 21:29:34.09 0

「まあ、それだけじゃないんですけど」
「どういうこと?」
「以前、うちのコンビニの前で暴れてた酔っ払いを追い払ったらしいですよ? 夏焼さん」

覚えてます?と桃子の首が傾げられたが、雅の記憶には全く残っていない。
人違いじゃないかと思ったが、店長いわく雅に間違いないとかで。

「だからそれ以来、夏焼さんは店長のお気に入りなんですよ」

夏焼さん。
何気なく流れていく会話の中で、それだけが耳に突っかかった。
普段なら、そんなことはないのに。

「……話し辛い」
「え?」
「どうせ年そんな変わんないでしょ? 敬語。やめてくんない?」
「は、はあ……」

いきなりすぎただろうか。
ちらりと伺うと、口元に指先を当てたまま考え込む桃子が映った。

「じゃあ……えーっと夏焼?」
「いや……みやで良いよ」
「あ! そうで……だよね」
「で、なんて呼んだら良い?」
「んー……もも?」
「分かった」

まだ舌先に馴染まないのか、みや、と再びつぶやかれるのが聞こえた。
それに倣い、もも、と息だけでくり返す。

「もも姉ー! カレーそろそろできるでー!」

今度は声に乗せようとしたところで、弾けるような結の声に遮られた。
言われてみれば、食欲をそそる香辛料の匂いが充満していることに気づく。
あ、そーだ、と隣から聞こえて目をやると、桃子の唇が綺麗な弧を描くのが見えた。

「みや。晩ご飯食べてかない?」
「いや、でも」
「こんな時間になっちゃったし」

ね、と念を押す桃子の背後から、きらきらと期待に満ちた5人分の視線が痛いほど雅に突き刺さる。
こんな状態では、断りようもなくて。
じゃあ、と雅が頷くと、静かに聞いていたらしい5人からわっと歓声が上がった。

574 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/07(日) 21:31:31.39 0


カレーとサラダが並べられた食卓は、7人で囲むには少々狭い。
けれど、そんなことは気にならないくらい楽しい時間だった。
思い返せば、こんなに大勢で食事をするなんて久しくしていないな、とふと思った。
奈々美が学校での出来事を雪崩のように話したかと思えば、結のツッコミが入って。
知沙希のまとまらない話を梨沙がまとめたかと思えば、舞は自分のペースで部活のことを話し始める。
年下の子どもたちが代わる代わるしてくれる話は、少し昔の青春時代を懐かしく蘇らせてくれた。
活き活きとした輝きに満ちて、目に飛び込む風景も鮮やかな色彩にあふれていたような時代を。

心地よい時間はあっという間に過ぎ去って、
みんなで手を合わせ、「ごちそうさま」が揃う。
そんな単純なことさえもおかしくて、ついつい顔が緩んだ。


最寄り駅まで送ると言い出した桃子の申し出は、ありがたく受け取った。
年下の子どもたちとの会話は楽しかったが、本来の目的はそこではない。
それは桃子も同じだったのだろう。
二人になった途端、急に気温が少し下がった気がした。

「で、なつ……みやは、何しに来たの?」

お礼なんてものは口実で、目的は他にあるだろうと言わんばかりの口調。
図星を突かれて、これ以上隠すこともないだろうと雅は腹を括った。

「昨日のこと」
「ん?」
「何が、あったの?」

二人で楽しく飲んだところまでは良い。
問題は、その後だ。
あのホテルで、一夜を共にした二人に何があったのか。

「うち、何かした?」
「何もされてないよ」
「じゃあ——」
「言っとくけど、私も何もしてないから」

ぴしゃりと言い切る桃子の声は、嘘をついているようには聞こえなかった。

「……そっか」

あの日の夜は、本当に何もなかった。
だとしたら、安堵すべきなのに。
胸の奥で、冷たいものが滑り落ちたのはなぜだろう。

575 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/07(日) 21:32:38.83 0


目的を果たしてしまうと、自然と二人の間の会話は減っていった。
最寄り駅が見えてきた辺りで、桃子の歩調が緩むのを感じて振り返る。
かちりと目が合って、桃子の唇が次に口にする言葉を予感した。
さよならと手を振るために、桃子の腕が持ち上げられかけて。
それを思わずつかんでしまってから、あ、と声が漏れた。

「……? なに?」
「あ、のー……」

雅自身も、確たる理由は浮かんでいなかった、咄嗟の行動。
強いて言うならば、これで終わりたくないと思ってしまったとでも言うべきか。

「また、来ても良い?」
「え?」
「ももんち。その、なに? みんな、いい子たちだった、し」

不自然にならないようにと考えながら選んだ言葉は、ぎこちないまま形になった。

「え、いいの?」
「いや、こっちが聞いてるんだけど」

思いもしない言葉を聞いたように、目を丸くしている桃子がいて。
雅だって、自分がこんなことを言い出すなんて思ってもみなかった。

「ふふ。みんな喜ぶと思う」
「だと、いいけど」
「じゃあ、また……コンビニで?」
「うっ……思い出しちゃったじゃん」
「あ、ごめんね」

くしゃりと破顔した桃子にからかわれて、言葉が上手く出てこない。
結局、雅ができたことといえば、もう!と軽く背中を叩くくらいだった。

ひとしきり笑い合った後、どちらからともなく視線がぶつかった。

またね、と約束できることが、なぜだかひどく嬉しかった。

続?

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