まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

18名無し募集中。。。2017/12/31(日) 14:03:44.870

校舎の裏手に回った。裏門の向こう側に、扉が開いたままになっている通用口が見えた。
無用心じゃない?そう思いながらみやは門を乗り越え、そこから校舎の中へ忍び込んだ。
奥の廊下に明かりが漏れているのは、職員室だろうか。
磨かれた床が音を立てる。みやは履いていたブーツを脱ぎ、屋上へ上がれる階段を探した。

靴下越しに、冷たさが這い上がってくる。
階段を上がるほどに嫌な予感がみやの胸を塞いだ。
屋上へ出る扉は閉まっていた。磨りガラスで外は窺えない。
手をかける。強風に押されているかのように、その鉄の扉は重かった。

広い屋上の真ん中に、女の子が座っていた。
ゆっくり近づくと、その子を中心に、魔法陣のようなサークルが描かれているのがわかった。
みやに気付いた女の子が、俯いていた顔を上げた。
「あなた……誰?」
その声に、みやは聞き覚えがあった。

「こんなとこで、何してるの?」
「……なんだ、悪魔じゃないのか。帰んなよ」
「そういうわけにはいかないんだよね」
みやが歩み寄ろうとすると、女の子は「近づかないで」と言った。

「危ない目に遇いたくないなら、すぐに帰って。これから、悪魔が来るんだから」
「何も、クリスマスイブに、そんな怖いもの誘わなくっても、いいんじゃない?」
「バカにしないでよ。本当なんだから。実際に一回、呼び寄せたんだから。……逃げられたけど」
やっぱり、あの時の子か。みやはさらに近づいた。

「こんな手間かけなくたって、今、街に出れば悪魔がいっぱいいるよ?」
「え?」
「案内してあげてもいいよ」
この子を、無事おうちに送り届けてあげなきゃいけない。
「あんた、何者なの」
「これでも、悪魔とはなんだかんだ通じてるからね。ねえ、何があったの。聞かせて」
「……れた」
「え?」
「フラれたの!クリスマス前に!」

19名無し募集中。。。2017/12/31(日) 14:07:02.670

「バイト先の店長で、すごい優しくて、ご飯食べに行ったりして
絶対、うまくいくと思ったのに、彼女もいないって聞いてたのに、こっちから言おうって勇気出したのに」
「それは……可哀想だったけど、でも、若いんだしまたきっと」
「またなんてない。いい。もう死にたいの」
「何、言ってんの」
「生きてくのムリ。絶対うまくいくと思って、ずっと友達にも自慢してたし今更フラれたなんて言えないし」

そんなことで。とみやは思った。
そう。そんなことで、絶望してしまう。それくらい、人の心は、弱かったりするんだよ。
弱い生き物なんだ。

「だから、だったらいっそ、店長も道連れにするって決めた。
こんな恥かかされて、あの人だけ生き延びてこれから幸せになるなんて、許さない」
「……そんなこと、できるわけないじゃん」
座り込んでいる女の子の、目の前まで近づいていた。見上げる女の子の顔がふっと笑った。
「だから、悪魔に頼むんだよ」

みやは、女の子の目の前に屈んだ。その目をじっと見据える。
「生半可な気持ちで甘っちょろいことやってんじゃないよ。自分自身でカタつけな」
女の子の目が見開かれた。
「……わかったようなこと、言わないで。だから、大人ってキライ」
「辛いのは、わかるよ。けど、いくら辛くても悲しくても……生きてかなきゃなんないの」
「……嘘つき」
「なにが」
「さっきは悪魔のとこ案内してくれるって言ったくせに!!……嘘つき!嘘つき嘘つき嘘つき」
「……っ!」
次の瞬間、ものすごい力で掴み掛かられ、みやは押し倒されていた。
冷たく硬いコンクリートに背中を押し付けられる。女の子の全身が伸し掛かってくる。
目の前の、正気を失った形相に胸を突かれた。伸びてくる手を払いのけようとした。

「おまえも、道連れだ」
凄む声は低く掠れて、ほとんど聞き取れなかった。
女の子の両手が、みやの首にかかった。

おいおい。スタビちゃん
どうした?何やってんだよ、油断にもほどがある。

急激に首が締まる。みやはカッとなった。
引きはがそうと両手で女の子の手首を掴もうとした。力任せに爪で引っ掻いた。
手の力は緩むことなく、さらに喉を潰される。
一気に、顔が熱く膨れ上がるような感覚があった。脚を突っ張り、背中に力を入れて仰け反ろうとした。
みやの両脇を挟んでいる膝の力、お腹にかかる重さも、まるで撥ね除けられない。
腰を捻りながら足をめちゃくちゃにバタつかせた。

21名無し募集中。。。2017/12/31(日) 14:11:06.610

ああ。
ばちがあたったのかもしれない。
一瞬でも、人間より悪魔の方が、だなんて、思ってしまったから。
そんなだから、女の子一人、守れやしない。
そんなだから
悪魔バスターを続けながら、ずっとみやが守ってきたと思っていた人間

その人間に、殺されるんだ。

力を込めて目を見開くと、片目の分だけ、女の子の頭越しに夜空が見えた。
瞬いている星が、滲む。
みやの頭の中、なにかの音が流れ始めた。知っているメロディ。なんだっけ。
そうだ。
『星に願いを』
そうだよ。ねえ、悪魔に頼むんじゃなくてさ、みやと一緒に、星に願いをかけよう?

大好きなひとに、想いが伝わりますように。

頭がドクンと脈打って、夜空が霞んだ。ああ……星が見えなくなっちゃう。
気を抜いたらすぐにでも意識が遠のきそうだった。
ダメ!目を開けろ!みや!開けろ!
そう心の中で叫んだとき、最後の世界、必死に睨みつけている夜空の真ん中
みやの片目だけの視界を、すっと縦に光の線が切り裂くのが見えた。
もうダメ。みやの世界が、終わる。

その線が、ぱかっと左右に開いた時、みやの思考は完全に停止した。

スローモーションのように見えた。
歯を食いしばり、顔を歪ませながら
長い悲鳴を上げて、ももが、みやの真上に、落ちてくる。

もも!

視界が開けたと思った瞬間、みやの首を圧迫していた力が緩んだ。
ももは女の子を後ろから引き摺るように引き剥がし、みやから離すように後ずさった。
何かが喉を上がってきて、みやはその場に転がり、激しく咳き込む。
頭が割れそうだった。体を折り曲げたまましばらくみやは、体の激しい反応に任せるしかなかった。

薄目を開けると、少し離れたところで
ももが女の子の両肩を掴み、押し倒しているのが見えた。

だめ!
腕をつき体を起こそうとすると、めまいがして、すぐ
世界がぐるんとひっくり返った。

22名無し募集中。。。2017/12/31(日) 14:13:25.850

ふわふわの真っ白なシーツの上だった。みやは体を丸めたまま動けなかった。

「あんた、もしかして悪魔?」
女の子の声が聞こえた。
「そうだよ」
「ほんとに?」
「ほんと。もものこと呼んだでしょ?」
「呼んだ!呼んだの」

これは、夢の中だ。ももがつくった夢の中にいる。
呼吸は楽で、体も軽いのに、どうしてみやは全然動けないんだろう。

「さっきまで、ここにいた女の人は」
「え?ああ、そこ、そこにある、枕にしちゃった」
女の子が振り返って、こっちを見た。

えっ。枕?みや枕なの?
「まじで……」女の子のため息が聞こえた。

「それはともかくさ、もも呼んで、どうするつもりだったのかな」
血の気が引いた。
「もも!」そう叫んだつもりだった。息だけが抜けて、声はまるで出なかった。
契約するつもりなの。まさかその女の子と魂の契約を
「この世から消し去って欲しい人がいるの。魂なんて、あんたにくれてやる」
「へぇ」

ももは首を傾げながら、女の子の顔を覗き込んだ。
「悪魔ってさあ、そんなニンゲンを一撃で消し去るような魔力なんて持ってないんだよね」
「え?」
「できることって言ったらまあ、せいぜいべったり取り憑いて、弱らせて弱らせて弱らせて
それでもトドメ刺せるわけじゃない。勝手に弱って死んでくのを眺めるだけ」
「それ、それって、どれくらいかかるの」
「そうだなぁ、まあ、来年のうちには」
「来年?」
「いや、うーん……再来年かも?」
「そんな先」
「ももの好みにもよるから、まあ、そのへんは何とも言えないけど、要するに」
ももは手を伸ばすと、女の子の前髪を掴んだ。

「今ももはあんたのこと、八つ裂きにしてやりたいくらいなんだけど、できないの。
このまま頭蓋に指突っ込んでそのバカな脳みそを掻き回してやりたいんだけどさ。
でもそれでいいのかもね。だってそんなことしても、みやは喜ばないから」

一瞬こっちを向いたももと目が合った気がした。そう、気がしただけ。

ももが、女の子の手に何かを握り込ませた。
「なに、これ……毒薬?」
「ちがーぅよ。魔女の惚れ薬。これあげるからさ、一回おうちに帰って考えな。あ説明書よく読んでね。
説明書通りに好きな相手の行動を追ってから、説明書通りの時間と方法で飲ませてね。
その時にはもう、その相手のことなんかどーだっていいと思ってんじゃないかと思うけどまあそれはいいや」

ももがシーツを切り裂き、その中に「いぇーい」と言いながら女の子を投げ込むのが見えた。

23名無し募集中。。。2017/12/31(日) 14:15:24.910

冷たい風が、みやの髪を頬に打ち付けた。
校舎の屋上を照らすライトの逆光の中、ももが立っていた。
目が、合う。

「みや!見てー、これ」
ももはパタパタと音を立てながら走り寄ってきて、横になっているみやの傍らにしゃがみ込むと
小さなタブレットを取り出し、みやの目の前にかざした。
「これ、くまいちょーが、あの、この間ももを迎えに来た吸血鬼だけど、あの子が持ってきた招待状と一緒にあったの。
悪魔専用のデバイスなんだけどさ」
みやはちらりとそれを見て、すぐ目を逸らした。
「え?」
「枕なんでしょ」
「なに」
「みや、枕だから喋れないから」
「喋ってんじゃん」
みやは頭ごとそっぽを向いた。

「……じゃあ、勝手に喋るけど。どうやってあのお城から抜け出すか、ずーっともも考えてたわけ。
そしたらやなみんに会って、そう、みやをおうちに帰してくれたんだってね
ももの子たちって優秀だと思わない?親の贔屓目なのかもわかんないけどさぁ。
でね、最新の召喚アプリをインストールしてもらったの」

みやは横たわったまま、やなみんがマップをくるくるといじっていたのを思い返す。
そうなんだー。
「まあ、ももはニンゲンと契約して魂をどうこうする能力はないわけで、使ってもしょうがないアプリなんだけど
これ使えばおうちに帰れるって教えてもらって」

……待って。
みやは静かに震えた。
ももって、悪魔の契約できないわけ!?

ついさっきの、さっきのみやの焦りと悲しみを返して!
瞬間的に湧き上がった怒りを必死に押しとどめた。
みやは唇だけを戦慄かせながら聞いていないフリを続けた。

24名無し募集中。。。2017/12/31(日) 14:17:35.610

「これが位置指定までできるとか、優秀なアプリだったわけよ。すごくない?
時代はももが知らないうちにどんどん進んでるんだなーって感心したんだけど
だったらできるだけおうちの近くに召喚されたいと思うじゃん。
みやの靴借りちゃったからさぁー。サイズ合ってなくって長く歩くのイヤだったし」

何普通に、帰ってくるのが当たり前みたいに喋ってんの。
みやは瞼を閉じ、唇を噛んだ。
「みや……どした。どっか痛い?」
「……痛い」
少しの間のあと、ももが覆いかぶさるように顔を寄せてきて、一旦そっと首筋に触れ
みやの背中に両腕を回した。ゆっくり抱き起こされる。
抱えられた枕って、どんな感じだろう。ふわんって感じかな。
みやはそう思って、ももにぐにゃっと体重を預けた。

「どこが痛い?」
返事をしないでいると、ももの小さな手が、背中を撫でる。
「……それでね、やなみんに教えてもらった通りにやってたら、見つけたの」
耳元に響くももの声は、雪みたいに静かだった。
「みやを、見つけた」
背中を抱くももの手に、力の篭ったのがわかった。そんなにぎゅっとしたら、潰れちゃうんだけど
「……みやを助けられて、良かった」

そう。そっかぁ……でもざんねん。みや枕になっちゃったからねー。
「良かった……」

みやの肩に顔を埋めたまましゃくり上げる、ももの幼い嗚咽をしばらくの間聞いていた。
ゆっくり、心がほどけ、和いでいくのを感じる。
「みや……みや、会いたかった」
鼻声みたいに聞こえた。
知らなかった。
悪魔もこんな風に泣くんだ。

知らなかったよ。みやのこと、そんなに想ってたなんて。

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