まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

488 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/29(月) 23:40:38.47 0

何かが、まぶたの向こう側でキラキラと揺れている。
なんだっけ、どうすればいいんだっけ。
ああそうか、目を開けるんだっけ。
でも、なにがなんだかよく分からない。
もやもやした空間に、ぼんやりとした蛍みたいな光が漂ってる。

「愛理?」
「う、ん?」

まだ目はしょぼしょぼしていたけど、何度かまばたきをしたら少しずつはっきりしてきた。

「……梨沙子?」
「うん」
「えっと、あたし……?」
「心配しなくていいから。大丈夫」

梨沙子は、いつもみたいに形の良い唇をくいっと持ち上げて笑っていた。
もう一回まばたきをしてみたけど、さっきまであたしが何をしていたのか思い出せない。
というか、ここ、どこ?

「もうちょっとかかる。でも、ちゃんと戻れるから」
「戻る……?」

そうだ、あたし戻らないといけないんだった。
どこって……どこ、だっけ。
通り過ぎるぼんやりとした光が、目から脳みそまで突き刺さる。

「ぅ、いた」

頭の真ん中に針でも刺されたかのように、とんがった痛みが走った。

490 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/29(月) 23:41:54.89 0

「まださ、ちょっとかえったばっかりだから痛むかも」
「あ、う、どういうこと……?」
「んー……まあ、大丈夫大丈夫」

軽い調子で梨沙子は言うけど、なんかさっきからすっごい勢いでずきずきしてるんですけど。
何これ、どうしたらいいの。

「ほら、成長痛とかあるでしょ? あれと同じ」
「いやでも、あたしもう成長期終わってるはず……」

というか、普通に話してるけど全然状況がつかめないままなんだけど。
梨沙子は全部分かってるの?

「……どこまで、覚えてる?」
「どこまで、って」
「ももと、みやのことは?」

もも。みや。
その響きが、ちくりと頭の片隅を刺激する。
知ってる。絶対忘れちゃいけない、名前。

「……もも、と、みや」
「うん」
「あの……なんで、梨沙子が知ってるの?」

小さい頃からあたしと友達だった、座敷わらしのもも。
あたしが出来心で注文した棺になぜか入っていた、居候の吸血鬼のみや。
そうだよ、覚えてる。忘れるはずない。
でも、梨沙子には二人のこと、話してないはずなのに。

「よかった、そこは覚えてるんだ」
「いや……うん、忘れられないでしょ、あれは」

あたしの言葉に、梨沙子は今までにない顔をした。
心底ほっとしたみたいな、そんな表情。

「てか、さっきの質問答えてもらってない」
「へへっ。それはまた、ね?」
「え、ちょっ」

気をつけて、と梨沙子がウインクをする。
なんで、と言う間もなく、いきなり重力が全身を襲った。

「つ、ぁ……」

肺が押しつぶされて、息が詰まる。
その瞬間、漂っていた小さな光がぶわっと大きくなった。

……あたし、死ぬのかな。

そんなことが、頭をよぎった。

491 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/29(月) 23:46:02.13 0


次の瞬間、あたしはなぜか空を飛んでいた。
いや、自分でもちょっとどうかなって思うくらい間抜けな表現なんだけど、そうとしか言いようがない。
だって、あたしの足元にはあたしの家があって。
顔をめぐらせると、星空が広がってたんだもん。
うちって案外大きいんだなあ、なんて思ってたら、突然視界に妙なものが現れた。

「え……巨、人……?」

と、その肩に座っている梨沙子。
さらにその横に座っている、小麦色の肌をした女の子。
座敷童や吸血鬼と暮らしてる時点で、もう何があっても驚かないけどさ。
うちの庭に足を踏み入れると、巨人はするすると縮んで梨沙子よりちょっと高いくらいのサイズになっていた。
そこで初めて、その巨人さん?も女の子だって気がついた。
梨沙子はなぜか慣れた様子でうちの中に入っていき、そしてみやとももを連れて戻って来た。
ああ、それで知ってたのか……って、え?
あたしも戸惑っていたけど、ももとみやも何やら狼狽えているみたいだった。
特にももは、もともと白いのにさらに血の気が引いてて本当に幽霊みたい。
座敷わらしだし既に幽霊みたいなものだけど、そんなことは置いといて。
梨沙子が何かを二人に説明しているけれど、声は全く聞こえない。
まるで、消音にしたテレビを見ているような気持ち。
梨沙子が何かを合図すると、巨人は再び大きくなった。
うちの庭に足跡つけたのあいつだな……なんて思っていたら、巨人はひょいと4人を肩に乗っけると歩き出した。

492 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/29(月) 23:46:42.83 0

どこへ行くんだろう。
目で追いかけようとしたら、ビデオテープを早送りしたみたいに景色が流れ始めた。
酔いそうになった瞬間、あたしはまた別の場所にいた。
開かれた窓から入ってきた風に、真っ白なカーテンが揺れている。
足元には真っ白な床と、ベッドと、シーツ。
そこに寝かされている人は、誰か分からなかった。
だって、その顔には真っ白な布がかけられていたから。
冷たいものが背筋を通り過ぎていき、なぜかいつもより脈が大きく聞こえてくる。
あたし、どうしてこんなところにいるんだろう。
そう思った時、カーテンが不自然に揺れる。
その向こうから現れたのは、予想通りの集団。
でも、梨沙子が躊躇なくめくった布の向こうの顔は、私の予想外だった。

「……あた、し?」

まってまって。
あたし、今ここにいるのに。
ちゃんと、感覚があるのに。
はっと目をやった先で、あたしの指先は、透けていた。

「あ、えっ? うそ……?」

ばちん、と何かが弾ける音がして、思わず目をつぶる。
突然、雪崩みたいに脳みそへと流れ込んでくる記憶の数々。
次に目を開けた時には、どうして自分がこんなことになっているのか全部理解していた。
梨沙子が、何をしにきたのかもなんとなく。

ももが子どもみたいに泣きじゃくってる。
みやが、呆然とした顔で梨沙子を見つめる。
梨沙子が、何かを言っているのがわかった。
それを聞いて、みやの表情が一瞬晴れたような気がして。
でも、それはすぐにまた曇ってしまった。
無理だ、というみたいに首を振るみやに、梨沙子が摑みかかる。

……梨沙子がこんな風に感情をむき出すの、初めて見るかもしれない。

目の前の光景は相変わらず消音の映像で、あたしはただ見ていることしかできないままで。
しばらくして、みやが何かを決めたように頷く。
みやの視線がまっすぐにベッドの上の、あたしの体に向けられて。
そして、みやがゆっくりとあたしの体に覆いかぶさった——。

493 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/29(月) 23:47:48.51 0

「あいり、あいりぃっ」

体がぐらんぐらんと揺すられる。
ちょっとまって、出ちゃいけないものが出そう。

「うぇ、すとっ、ぷ」
「あ、愛理……愛理っ」
「おわっ」

ストップって言ったのに、お腹の上に重さがのしかかってきた。
待って、マジで、ちょっと無理……。

「愛理、わかる?」

梨沙子の声だ。

「愛理……」

これは、みやの声。
あと、さっきからぐりぐりおでこを擦り付けてきてるのは、多分もも。

「あたし……」

なんだか、すごく長い間寝ていたような気がする。
体を起こそうとしたら、体の節々が軋んで思わず声が出た。

「まだ返ったばっかりだから、無理しないで」
「どういうこと……?」

何もかも分かってますって感じで梨沙子が笑うけど、あたし何も分かってないから。
いや、事故に遭ったのは覚えてるの。
でも、その後からすっぽり記憶がないんだもん。

「手っ取り早く言うと、生き返った、みたいな?」
「生き返った……?」
「ママのこと、覚えてる?」
「ママ? あたしのお母さん?」
「ううん。黒い長い髪の女の人。たらこ唇の」

知ってるでしょ、みたいな雰囲気を出してくるけど、全くもってピンとこない。
そんな特徴の人、会ったこともないはず。

494 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/29(月) 23:50:35.08 0

「……そっか」
「何?」
「……なんでもない」

梨沙子は、ちょっとだけ寂しそうに顔を歪めた。
でも、でも、どれだけ掘り返してもやっぱり会ったことないよ、その人には。

「ごめん、梨沙子」
「ううん、大丈夫」

何が大丈夫なのか分からないけど、この話はおしまいってことらしい。
さて、と梨沙子が合図を送ると、部屋の隅っこにいた小麦肌の女の子がこちらに近づいてくる。

「ちょーっとごめんね」

言うが早いか、その子は細い割にしっかりとした力であたしを抱き上げた。
えって思っているうちに、さっさと窓の外へ運ばれる。
帰るよ、と梨沙子が言うのが聞こえたかと思えば、巨人の肩の上にあたしは乗せられていた。
ゆったりとした上下の動きに、どっと睡魔が襲ってくる。
巨人の肩の上って、案外心地いいものなんだ。
初めて知った。


家に戻ると、血相を変えて飛んできた舞美に迎え入れられた。
あたしを抱きしめる腕にはいつも以上に力が入っていて、どれだけ心配をかけていたか思い知る。

「しばらく安静にしてもらいますからね」
「や、でも本当に大したことな——」
「生き返ったばかりで何を言うんですか!」

あれ?
舞美が、なんでそのことを。

「舞美。愛理のこと、よろしくね」

いつのまにか背後に立っていた梨沙子が、そんなことを言う。
それに対して、もちろんって返す舞美がいて。
当たり前みたいに会話が進んでるけど……おかしくない?

「梨沙子? 舞美?」

もしかして、二人とも……知り合い?

「まあ、舞美とはもう……何年?」
「何百年?」
「千……はいかないかな、さすがに」

は? 何の話をしているの、お二人さん。

497 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/29(月) 23:57:58.14 0

「あれ? 舞美、言ってなかったの?」
「まあ、わざわざ言わなくてもいいかなって思って」
「……ちょ、ちょっとまって。舞美って小さい頃から、あたし、と……おぉ?」

あたしを抱きしめていた体が、じわじわと小さくなっていく。
やがて、あたしの腰くらいまで縮んだ舞美は、確かに幼い頃、一緒にいた姿だった。

「あの、舞美さん」
「ん?」
「今更、あまり驚かないんだけど。……あなたも、妖怪?」
「そういうことですよ。あ、ももちゃんのことも、よーく知ってます」
「えぇ……そんなぁ」

あたし、何のためにみやともものことを隠してきたんだろう、本当。
そう思うと、一気に体から力が抜けた。

「ということで、これからもよろしくお願いしますっ! あ、二人もー!」

舞美が、玄関の向こうに隠れているはずの二人にも声をかける。
こそこそしなくて良くなるのは、まあ良いことなのかもしれないけど。
それにしても、我が家に3人も妖怪がいたなんて。

「あ、正確に言えば4人ね?」
「え、何が?」
「愛理、本当に何ともない?」

梨沙子の言葉に、じんわりと体が汗ばんだ。
ここに戻ってくるまでが慌ただしすぎて、今まで気がつかなかったけど。

「……ちょっと、喉が渇いた、ような?」
「あ、私の吸います?」
「へ、何、を?」

くん、とあたしの目の前にある肩口が、甘く匂い立つ。
その香りに反応して、否応なしに胃がぎゅるっと鳴るのが分かった。

「……まさか」
「あ、分かった?」

……せっかく生まれ変わるなら、河童がよかったなぁ。
そんなことを思いながら、あたしは舞美の肩に歯を突き立てた。

517 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/30(火) 03:03:40.39 0

*  *  *

「これからしばらくお世話になります。梨沙です」
「知沙希です」
「舞です」
「奈々美です」
「結です」

丁寧に三つ指をついて、深々と頭を下げる5人の女の子たち。
みんな白い着物に身を包んでいて、昔のもものことがちらっとよぎった。

「はいはいみんなー、おうちを案内するからね」

赤いちゃんちゃんこを羽織ったももが先輩面してるのが、ちょっと面白い。
横からくすっと笑ったのが聞こえたから、みやも同じことを思ったんじゃないかな。

「ももってば張り切っちゃって」
「ホントホント。夜はぐっすりかも」

あ、そういうところでさりげなく仲良し感出してくるんだから。
まあ、実際仲良いみたいで何よりだけど。

「愛理。あのさ」
「ん?」

すっとみやの声のトーンが落ちて、空気が変わったのが分かった。
今だから言えるんだけど、と目を伏せたままでみやが言う。
真面目な話だ、そんな気がして自然と背筋がまっすぐになった。

「あの日……本当は、迷ったんだ」

あの日——つまり、あたしがもう一回この世に返ってきた日。
梨沙子に説明されて、自分しかできないことだって分かってもなお、迷ったんだと。

「人間には人間の寿命があるわけじゃん?」

それを、あたしの意志も分からないまま、いたずらに永らえさせることが本当に良いことかどうか。

「愛理が、妖怪になってまで生きたいかどうか、分かんなかった」

みやの声が震えて、頬のあたりに骨が浮かび上がる。
ぐっと胸のあたりで拳を固めるみやは、やがてゆるりとあたしの方を向いた。
眉がハの字に下がっていて、眉間には皺が寄っている。

518 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/30(火) 03:05:40.58 0

「だからね、いつか愛理が望むなら、みやの手で、」
「あたしはっ!」

肌にちりちりとした痛みを感じて、あたしは思わずそれを遮っていた。
みやの言いたいことが、言おうとしてることが、何となく染み込んでくる。
だから、それ以上はみやの口から言わせたくない。
今、あたしは必死だ。

「あたしはね、今のくらしも楽しいんだ」
「愛理……」

あたしの勢いにびっくりしたのか、みやの眉がびくりと持ち上がる。
あれから、もう数ヶ月は経っていた。
その間、ずっとみやが背負ってきたものを、少しでも軽くしたい。
そのために、あたしの気持ちを間違いなく、きちんとした形で届けたかった。

「人間だった頃も。今も。どっちも、幸せなんだよ」

だって、みやがいて、ももがいて。
もちろん、舞美もいるし、梨沙子も、うちにやってくるたくさんの妖怪たちもいる。
気づけばうちは妖怪たち御用達のホテルみたいになってて、各地から妖怪たちがやってくる溜まり場になってた。
毎日が賑やかで、騒がしくて、温かい。
そんな中でこうして暮らしていられることが、何より幸せなんだってば。

「みやは……今、幸せ?」
「それはっ! もちろん」
「よかったぁ」

こっちに来たばっかりの頃は、さっさといなくなりたいんだと思ってた。
そのためには、みやに託された願いを叶えなきゃいけなくて。
あたしとももは、その手がかりを探したこともあったっけ。

「みやは、願いを叶えたらここからいなくなっちゃうんだっけ?」
「そういうことになってるらしいけど」
「……だよねえ」

頭では理解していても、噛み砕いて消化することはまだ難しい。
みやに願いを託した人が、どんな思いでいたのかは分からないけど。
でも、それでも。
みやに、ずーっといてほしいって思うのは、わがままかな。
口にするのは憚られて言葉を探していると、ふっと隣のみやの空気が緩むのを感じた。

「愛理と……あと、ももが許してくれるなら、みやはずっと、ここにいたい」
「みやぁ……」

あ、どうしよう。
じわって滲む視界に慌てて顔を拭った。
流れる水ってまずいんだっけ、どうなんだっけ、自分が流すものならいいのな。
気づいたら心臓がとくとくしていて、たぶんそれはみやにも伝わってる。
ちょうどその時、障子の向こう側から聞き慣れた声が響いた。

519 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/30(火) 03:07:28.58 0

「お嬢様、梨沙子様がお見えです」
「どーぞ」

からりと障子を開くと、はあいって梨沙子が手を上げて入ってくる。
後に続くのは、あの日あたしを持ち上げた、小麦色の肌の女の子——チナミちゃん。
後から知ったけど、どうも彼女も吸血鬼らしい。
みやと知り合いだってことも、しばらく経ってから知ったことだった。
続いて入ってくるのは、2mくらいありそうな背丈の子で。
今でもあたしは彼女——クマイちゃんを、どう捉えていいかよく分かってない。
巨人っちゃ巨人なんだけど、状況に応じて身長を自在に操れるんだって。
見上げたらどんどんでっかくなるよって梨沙子に言われて、一度試してみたこともある。
その時は、本当にどこまでも大きくなるものだからびっくりしたっけ。

「今日はさ、新入りを紹介しようと思って」
「新入り?」

と言われても、目の前には3人しかいないような。
なんて思ってたら、クマイちゃんがそっと両手を差し出す。
梨沙子に手招きされるままに近づくと、クマイちゃんの両手の中に、確かにもう1人立っていた。
親指姫とか一寸法師を思わせるようなサイズ感。

「こりゃまた、小さいね」
「サキっていうの。北の方で出会ってさ、ちょっと面白そうだから一緒においでって誘っちゃった」
「サキ、ちゃん……初めまして」

ぴょこり、とサキちゃんも挨拶を返してくれる。

「小さいけど、狩りとかすごく上手だよ」
「えっ、こんなに小さいのに?」
「小さいなりにやりようはあるんだよ、ね?」

サキちゃんは、力こぶを作るみたいに腕まくりをしてくれた。
いや、それにしてもそんなに筋肉があるようには見えないけどね。

「お茶でも、いかがですか」
「あら。では遠慮なく」

ふと振り返ると、舞美がきちんと人数分のお茶を用意して待ち構えていた。
本当によくできた使用人……いや、使用妖怪?
とか思ってたら、目の前でぱりんと湯呑みにヒビが入るのが見えた。
確かに以前から物を壊すことが多かったけど、やっぱり妖怪だから?

520 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/05/30(火) 03:07:53.59 0

「……いや、単純に元から力が強いんでしょ」

梨沙子が、苦笑気味にあたしの思考に割り込んでくる。
しゅん、としょぼくれる舞美のお尻あたりで、二又の尻尾が揺れていた。

「舞美、出てる出てる」
「あ、おっとっと」

ここには妖怪しかいないわけだし、別に出てたっていいとは思うんだけども。
どうも、舞美の気持ち的には収めておきたいらしい。

「離れの方にも運んでますね」
「あ、みやも行く」

ついでにご飯も済ませてくるつもりかな。
そう思ったら、きゅる、とお腹が鳴る。
耳聡くそれを聞きつけたらしい舞美が、恐ろしいスピードであたしを見たのが分かった。

「すぐ戻りますっ!」
「あ、そんな。急がなくてもいいよ」
「そんなこと言ってたら、みやみたいに干からびちゃうよ」
「もうその話はいいからっ!」

みやはそれだけ言うと、舞美の後を追っていなくなってしまった。
ちょっと耳、赤かった気がするなぁ。
……なんて言ったらまた拗ねちゃうかも。
みやが干物になった話を梨沙子はかなり気に入っていて、ことあるごとにああやってみやをからかう。
そんな時のみやは、ももやあたしといる時とはまた違う感じで可愛いなって思う。

「さて、じゃあそろそろ行くね」
「あ、もう?」
「んー、まあ今日は挨拶と、様子見に来ただけだし」

またお土産持って遊びに来る、と梨沙子が立ち上がる。
にょきにょきと伸びるクマイちゃんの肩に乗り込むと、みんなはまたねと手を振った。
それに手を振り返した次の瞬間、庭には鶏……じゃなくて、大きな足跡だけが残されていた。
一気に静かになった部屋の中で、不意に強烈な眠気が襲ってきて畳に横になる。
そろそろ夜が明ける頃かな。
舞美が帰ってきたら起こしてもらえばいいや。
そう考えて、あたしは穏やかな眠りに意識を預けた。


おわり

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