まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

247名無し募集中。。。2018/08/02(木) 21:57:16.190

スーパーで花火のセットにライターと小ぶりのピンクのバケツを買った。
冷房の効いた店内から出るとむわっとした暑さが肌にまとわりつく。
花火大会はクライマックスを迎えたようで一層大きなものが連続で上がっているのがビルの隙間から見えた。

誰もいない夜の公園。
桃子の持っている花火に火をつけてやるとシュウウウウと煙を立てながら勢いよく光り始める。
「わー!!」
幾つになってもこんな瞬間にははしゃいでしまう。
照らされた桃子の横顔に笑みがこぼれる。

バチバチと派手に火花を飛ばすもの、色を変えながら光るもの。
赤やピンクや緑にオレンジ…
二本まとめてつけてみたり、空に文字を書いてみたり、火花を振りかざして追いかけ合ったり。
終わった花火がバケツに溜まっていく。


二つ並んだブランコに腰掛けた。
最後の打ち明け花火が弾けるのが遠くに見える。
手の中では線香花火が丸く花を散らしている。
今たくさんの人があの大きな花火を眺めているんだろう。
まるで世界に二人きり取り残されたような静けさがそこにあった。

ぽとりと線香花火の明かりが落ちたとき、煙で星の見えない空を見上げていた桃子が口を開いた。
「みや、ごめんね」
「なにが?」
「急に出て行ったこと」
「…もういいよ」
「よくない。前、付き合ってって言われたとき断ったことも。ごめん」

多分ももは、と口ごもりながら桃子が頭を掻く。赤くなった耳がちらりと見えた。
「どっかで、普通になりたい、普通でいたいってずっと思ってた」
「そうね」
「“みんな”が憧れるものが自分も欲しいって諦めきれなかった」
「…うん」
火薬の匂いの中で急に喉の渇きを覚える。
「でもさ」
立ち上がった桃子が、目の前にしゃがんでまっすぐに見つめてくる。
「でも多分、間違ってた」
桃子は微笑んでいた。
「確かに“みんな”が見上げている景色は綺麗かもしれないけど、もっと素敵なものがそばにあること、忘れてた。もっと自分が大切にしなきゃいけない、必要としている人がずっと近くにいてくれたんだから」

248名無し募集中。。。2018/08/02(木) 22:00:01.220

「もうさぁ…」
自分の声が震えているのが分かった。
「いなくならないでよ」
こくりと桃子が頷く。
「置いてかないで」
直接的にこんな我儘を言ったのは初めてだった。
少しでも負担にならないように、気持ちを抑えつけてきた。
嫌われたくなかった。
けれど今日は駄目だった。
なかったことにはできない。
思っていたより自分は弱っていたみたいで、あっという間に潤んだ瞳から一滴の雫が落ちると、堰を切ったように涙がこぼれた。
「ごめんね」
桃子に抱き寄せられる。
「ずっとそばにいてくれて、ありがとう」
耳元でそう言われたとき、目頭が熱くなった。
体を離され、目を合わせる。薄い唇が視界に入ってどきりとした。
引き寄せられるように桃子の顔が近づき、目を閉じるとそっと唇が触れて。
舌でなぞられ、小さく開けると一気に中に潜り込まれる。
自然と吐息が漏れて、頭の中が痺れてくるのを感じた。
過去も未来も、後悔も安堵も涙も、謝罪も感謝も刹那も永遠も。
すべてを飲み込むような深い深い口づけだった。
やがて桃子がそっと顔を離す。

「ねぇみや」
「…うん」
「ももの、恋人になってくれますか?」
やさしく覗き込む桃子の顔が滲んで見える。
「はい」
掠れた声で雅は答えた。

雅の頰を伝う涙。
桃子は顔を寄せてそっとそれを舐めた。
「…!」
「…あ」
何かを確かめるように固まった桃子。
「なに?」
視線がぱちりとぶつかる。
「…あじだ」
「え?」
「味がする」
はにかんだ笑顔で桃子は言った。
潮の味がする。

249名無し募集中。。。2018/08/02(木) 22:01:21.290

そしてもう一度顔を近づけようとした瞬間。
グゥーと場違いな間抜けな音。
桃子は腹を押さえて言った。
「お、お腹空いた…」
吹き出し、笑いあった二人は手をつなぎ、帰ろっかと呟いた。

バケツの黒い水を捨て、ゴミをまとめてビニールにしまう。
安心して力が抜けたのか、桃子は今更酔いが回ってきたようだった。
「もぉちゃん疲れてもう歩けない…」
「何歳児だよ」
「おんぶー」
「ぐぉっ」
後ろから突進してのしかかってくる。
「…重い」
背中に伝わる熱い体温。
「このバケツ、お家に置いといてね」
「なんで」
「来年も使うから」
「…ダサいからやだなぁ」
バケツの間抜けなネコのイラストが不思議そうにこちらを見つめている。
仕方ないなと雅は苦笑し、ネコにウィンクしてみせた。

桃子を背負いゆっくりと帰り道を歩む。
「南風が君の髪なびかせて〜」
ご機嫌に口ずさみ始めた。
「緩やかに夏が〜歩んでくる」
舌足らずな甘ったるさと澄んだ伸びのある唄声。
「慌ただしい毎日を忘れてしまいそうな 時間に身をまかせ目を閉じた…」
こてんと肩にのる頰。

「こら、ほんとに目を閉じるな」
「もぉちゃん眠たい…」
「26歳児?」
「ズズズズズ…」
「寝たら置いていきます」
「すいませんでした」

250名無し募集中。。。2018/08/02(木) 22:02:27.210

素麺を茹でてやると桃子は嬉々として頬張り出した。
落ち着いて食べな、と諭しながら座卓の上にハムやきゅうりや薬味を切ったものを置く。

「平成最後の夏だって」
「ね」
「時代が終わるんだねぇ」
そう言ってクッションの上に腰かけると、急に箸を置いた桃子が顔を近づけてくる。
「な、なに?」
「なんか………むらっとした」
「は?!」
唇が合わさると、めんつゆの味がして笑ってしまいそうになる。
ちょっと待ってと肩を押そうとしたのに、ついばむように再び弄ばれて腰が砕けた。
「た、食べるかキスするかどっちかにしない?」
見上げると、妖しく笑みを浮かべた桃子。
手首をそっと掴まれて、じゃあこっち、と床に押し倒される。
首筋に顔を埋めた桃子が、お外の匂いとみやの匂い、どっちもするのいいなぁと嬉しそうに囁いた。
桃子からこれほど積極的にされるのは初めてのことで、困惑したまま、けれど少しずつ理性が溶けていく。
キスが深くなるとともにめんつゆの味はいつの間にか桃子の味になっていた。
小さな手が服の中に入りお腹を撫でられる。
これから桃子にされること。
期待で霞んでいく頭の片隅で、明日の朝食は何にしよう、とぼんやり思った。


明日、雅は26歳になる。

病めるときも、健やかなるときも、あなたとともにありたい。

そう祈りながら二人は目を閉じ、安らかな夢の中へと身を委ねた。

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