最終更新:ID:CZpxRTnkOw 2016年12月06日(火) 17:05:52履歴
198 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/21(月) 01:28:11.58 0
「彼氏にさ、私のこと好き? って聞いたら、重たいって言われちゃって〜」
「えー! なにそれひどくない?」
「なかなか言ってくれないから、不安になるのにさー」
駅ですれ違った女の子たちが話していた恋バナをたまたま耳にする。
女の子ってよく恋バナしてるよなぁ、なんて他人事のように思いながら、桃子は話の内容に、ちょっとだけ思い当たる節があった。
(…そういえばみやも、好きって言わないや)
駅の改札を抜けて、マネージャーさんに車で拾ってもらう。
メンバーのみんなと合流するまでの間の、ほっと一息する時間に切り替わった。
(不安になる、って言ってた)
携帯を開いて見てるつもりでも、頭の中は先程の内容で埋められる。
たまに話しかけてくるマネージャーさんの声は、右の耳から左の耳へそのままするりと抜けていく感じで、上の空になっていた。
(不安…ふあん、かぁ)
みやは滅多に好きを口にしない。
まぁ、もぉもあんまし言わないけど、みやに比べたら言ってる方なのかなってくらいで。
(…そもそも、好き、って、恥ずかしいし)
そりゃ言われるのは嬉しいし、言うのも心が温かくなるけど、やっぱり恥ずかしさが勝ってしまう。
でも、不安になったことはない。思ったこともない。だって、
「そういえば、来週ちょっとスケジュールの変更あるから」
とんとんとスケジュール帳を指で示すマネージャーさんにはっとして、慌てて自分のスケジュール帳を鞄から取り出す。
スケジュールの変更という単語にびびって、それからはしっかりマネージャーさんの話を聞いた。
199 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/21(月) 01:31:11.12 0
その日はコンサートのリハーサルだった。
休憩時間に仲良しの真野ちゃんの楽屋にふらふらと遊びに行っていた。
そんな時、携帯の着信音が鳴りメールがきたことを知らせる。
その内容に慌ててお弁当を食べようとしたのを止めて、一緒に食べましょうと準備してた真野ちゃんにごめんねと言って、桃子は急いで楽屋を出た。
階段を駆け上がり、最上階の踊り場で壁に寄りかかりながら、携帯を弄っていた雅に声をかける。
送られてきたメールは『いつもの踊り場』とだけ書かれたシンプルなものだった。
「みや」
「来るの遅いって」
「だってさあ、声かけるなら早めに言ってよぉ。焦るじゃん」
「直前じゃないと忘れられそうな気がして」
「…ちょっと、どんだけもぉのこと、忘れっぽいと思ってんのさ」
「実際そうじゃん」
もー! と怒りながら雅の隣に腰を下ろした。
扉は鍵がかけられていて屋上へ出ることはできないけれど、ここの踊り場は二人きりになれる一つの穴場だった。
楽屋の並ぶ階から離れていて、屋上に出れないのでひと気もない。
静かな場所が好きな桃子にとってもお気に入りの場所だし、見られる心配もないから雅も気兼ねなく待ち合わせに使えるようだった。
この会場でライブがある時は、呼び出される時に大抵ここが多かった。
「みやって相変わらず小食だよね。それで足りるの?」
「ももは小さいのによく入るよね、小さいのに」
「二回も言わないの! ん、」
「…なに?」
「しっかり食べなさいって、ダンスの先生が言ってたから、もぉの、お弁当のから揚げ! 分けてあげる」
箸に掴んだ唐揚げを雅の口元へ運んだ。
しかし口を開けない雅に、疑問を持ち名前を呼ぶ。
「食べないの?」
「そこは、あーんってしてくれるとこじゃないの」
「え…してほしいの?」
「なにちょっと引いてんの。できないわけ?」
「いや、できなくはないけど…雅ちゃんは甘えたさんですね〜」
「…腹立つ」
「ししっ、ほら、あーんっ」
じゃれ合いながらもお互い弁当を食べ終え、ごちそうさまと手を合わせた。
200 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/21(月) 01:33:42.50 0
すると腕をぐいっと引っ張られ、桃子はぽすんと雅の胸元に寄り掛かる構図になる。
食後はこうして雅に抱きしめられることが多い。向き合う形だったり、今みたいに後ろからだったり。
特に何か話すわけでもなく、ただこうして雅に抱きしめられながら残りの昼休みを過ごす。
最初はビックリしたしすっごく照れくさかったけど、
今は随分慣れてもぉもみやの手で遊んだり擦り寄ったりできるようになった。
どきどきと心臓は大きく鳴ってはいるけど。
「…みや、」
「ん?」
「……みーや、」
「…なに、」
「んーん…なんでもない。けど、呼びたくなった」
へへっと恥ずかしさを紛らわすように笑う。
すると腰に回されてた雅の手が桃子の頬を優しく撫でる。それが心地よくて、嬉しくて、桃子もその手にすり寄った。
好きを言われなくても、好きは十分感じられた。
耳元から聞こえるみやの心臓の音。
頬に触れてくるみやの手の温かさ。
「もも」
もぉの名前を呼ぶみやの声の優しさ。
もぉを見つめるみやの瞳の柔らかさ。
全てから、好きを感じた。好きが伝わった。
好きと、言われてる気がした。
みやは滅多に好きを言葉にはしないけど、瞳から、声から、手から、心臓から、全身で。
もぉが好きと、言ってくれてるのを感じる。
「…もも、」
また名前を呼ばれ頬に添えられてた手がぐいっと顔を雅の方に向けられ唇が重なる。
ちょっとだけ苦しい顔向きにはなるけど、その苦しさすらいとおしい、なんて。
もぉのこの想いも、届いてるのかな。
もぉの好きも、伝わっているだろうか。
(みや、)
リップ音が静かな踊り場に軽く響く。合わさる度にお互いの息がかかる。
(好き、すき、みや、)
頭の中は雅のことでいっぱいで、心の中は好きがいっぱいで。
全部、伝わったらいいのに。こんなにも好きだということ。全部。
201 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/21(月) 01:36:22.25 0
終わりを告げるアラームが鳴る。
もうそんな時間かと、夢中になりすぎてたキスに桃子は腰砕けになっていた。
力が入らなくなった体を、くたっと雅の胸元に預ける。
「…立てる?」
「む、むり…もうちょい、休ませて…」
「つぐさん年寄りみたいだよ」
「うっさい」
乱れる息を整えようと息をゆっくり吸ったり吐いたりする。ちょこっとだけ首が痛くなった。
その間雅は頭を撫でたり、頬をさすったり、手にキスをしてきたりして、多分落ち着かせようとしてくれてるのだとは思うんだけど、心臓に悪くて逆に落ち着かない。
かといって、その優しさを無下にできるわけはなく、心地よさに目を閉じた。
まだ、こうしてくっついていたいけどさすがに時間がもうない。
リハーサルをさぼるわけにはいかないし。
「…ん、もう平気。楽屋、戻ろ」
ぐっと足に力を入れて立ち上がる。空になった弁当の包みを持って階段を降りようとする
と、雅に呼び止められた。
「…今日、うち来なよ」
「へ? …いいけど、また急だね。なんで?」
「…足りないって、顔してる」
「っ!し、してない!そんな顔!」
「してる。…同じだから」
「…え、」
「みやも、一緒だって…言ってるんだよ」
同じ、みやも、一緒。
まだ、もぉといたいって、触れ合っていたいって、思ってくれてるんだ。
「へへっ、」
「何笑ってんの、行くよ。遅れる」
「わっ、待って待って!」
みやは滅多に好きを口にはしない。
もぉもあんまし言わない。
だけど、十分すぎるくらい、想いは伝わり合っている。
不安なことはなにもないのだ。
おしまい。
「彼氏にさ、私のこと好き? って聞いたら、重たいって言われちゃって〜」
「えー! なにそれひどくない?」
「なかなか言ってくれないから、不安になるのにさー」
駅ですれ違った女の子たちが話していた恋バナをたまたま耳にする。
女の子ってよく恋バナしてるよなぁ、なんて他人事のように思いながら、桃子は話の内容に、ちょっとだけ思い当たる節があった。
(…そういえばみやも、好きって言わないや)
駅の改札を抜けて、マネージャーさんに車で拾ってもらう。
メンバーのみんなと合流するまでの間の、ほっと一息する時間に切り替わった。
(不安になる、って言ってた)
携帯を開いて見てるつもりでも、頭の中は先程の内容で埋められる。
たまに話しかけてくるマネージャーさんの声は、右の耳から左の耳へそのままするりと抜けていく感じで、上の空になっていた。
(不安…ふあん、かぁ)
みやは滅多に好きを口にしない。
まぁ、もぉもあんまし言わないけど、みやに比べたら言ってる方なのかなってくらいで。
(…そもそも、好き、って、恥ずかしいし)
そりゃ言われるのは嬉しいし、言うのも心が温かくなるけど、やっぱり恥ずかしさが勝ってしまう。
でも、不安になったことはない。思ったこともない。だって、
「そういえば、来週ちょっとスケジュールの変更あるから」
とんとんとスケジュール帳を指で示すマネージャーさんにはっとして、慌てて自分のスケジュール帳を鞄から取り出す。
スケジュールの変更という単語にびびって、それからはしっかりマネージャーさんの話を聞いた。
199 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/21(月) 01:31:11.12 0
その日はコンサートのリハーサルだった。
休憩時間に仲良しの真野ちゃんの楽屋にふらふらと遊びに行っていた。
そんな時、携帯の着信音が鳴りメールがきたことを知らせる。
その内容に慌ててお弁当を食べようとしたのを止めて、一緒に食べましょうと準備してた真野ちゃんにごめんねと言って、桃子は急いで楽屋を出た。
階段を駆け上がり、最上階の踊り場で壁に寄りかかりながら、携帯を弄っていた雅に声をかける。
送られてきたメールは『いつもの踊り場』とだけ書かれたシンプルなものだった。
「みや」
「来るの遅いって」
「だってさあ、声かけるなら早めに言ってよぉ。焦るじゃん」
「直前じゃないと忘れられそうな気がして」
「…ちょっと、どんだけもぉのこと、忘れっぽいと思ってんのさ」
「実際そうじゃん」
もー! と怒りながら雅の隣に腰を下ろした。
扉は鍵がかけられていて屋上へ出ることはできないけれど、ここの踊り場は二人きりになれる一つの穴場だった。
楽屋の並ぶ階から離れていて、屋上に出れないのでひと気もない。
静かな場所が好きな桃子にとってもお気に入りの場所だし、見られる心配もないから雅も気兼ねなく待ち合わせに使えるようだった。
この会場でライブがある時は、呼び出される時に大抵ここが多かった。
「みやって相変わらず小食だよね。それで足りるの?」
「ももは小さいのによく入るよね、小さいのに」
「二回も言わないの! ん、」
「…なに?」
「しっかり食べなさいって、ダンスの先生が言ってたから、もぉの、お弁当のから揚げ! 分けてあげる」
箸に掴んだ唐揚げを雅の口元へ運んだ。
しかし口を開けない雅に、疑問を持ち名前を呼ぶ。
「食べないの?」
「そこは、あーんってしてくれるとこじゃないの」
「え…してほしいの?」
「なにちょっと引いてんの。できないわけ?」
「いや、できなくはないけど…雅ちゃんは甘えたさんですね〜」
「…腹立つ」
「ししっ、ほら、あーんっ」
じゃれ合いながらもお互い弁当を食べ終え、ごちそうさまと手を合わせた。
200 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/21(月) 01:33:42.50 0
すると腕をぐいっと引っ張られ、桃子はぽすんと雅の胸元に寄り掛かる構図になる。
食後はこうして雅に抱きしめられることが多い。向き合う形だったり、今みたいに後ろからだったり。
特に何か話すわけでもなく、ただこうして雅に抱きしめられながら残りの昼休みを過ごす。
最初はビックリしたしすっごく照れくさかったけど、
今は随分慣れてもぉもみやの手で遊んだり擦り寄ったりできるようになった。
どきどきと心臓は大きく鳴ってはいるけど。
「…みや、」
「ん?」
「……みーや、」
「…なに、」
「んーん…なんでもない。けど、呼びたくなった」
へへっと恥ずかしさを紛らわすように笑う。
すると腰に回されてた雅の手が桃子の頬を優しく撫でる。それが心地よくて、嬉しくて、桃子もその手にすり寄った。
好きを言われなくても、好きは十分感じられた。
耳元から聞こえるみやの心臓の音。
頬に触れてくるみやの手の温かさ。
「もも」
もぉの名前を呼ぶみやの声の優しさ。
もぉを見つめるみやの瞳の柔らかさ。
全てから、好きを感じた。好きが伝わった。
好きと、言われてる気がした。
みやは滅多に好きを言葉にはしないけど、瞳から、声から、手から、心臓から、全身で。
もぉが好きと、言ってくれてるのを感じる。
「…もも、」
また名前を呼ばれ頬に添えられてた手がぐいっと顔を雅の方に向けられ唇が重なる。
ちょっとだけ苦しい顔向きにはなるけど、その苦しさすらいとおしい、なんて。
もぉのこの想いも、届いてるのかな。
もぉの好きも、伝わっているだろうか。
(みや、)
リップ音が静かな踊り場に軽く響く。合わさる度にお互いの息がかかる。
(好き、すき、みや、)
頭の中は雅のことでいっぱいで、心の中は好きがいっぱいで。
全部、伝わったらいいのに。こんなにも好きだということ。全部。
201 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2016/11/21(月) 01:36:22.25 0
終わりを告げるアラームが鳴る。
もうそんな時間かと、夢中になりすぎてたキスに桃子は腰砕けになっていた。
力が入らなくなった体を、くたっと雅の胸元に預ける。
「…立てる?」
「む、むり…もうちょい、休ませて…」
「つぐさん年寄りみたいだよ」
「うっさい」
乱れる息を整えようと息をゆっくり吸ったり吐いたりする。ちょこっとだけ首が痛くなった。
その間雅は頭を撫でたり、頬をさすったり、手にキスをしてきたりして、多分落ち着かせようとしてくれてるのだとは思うんだけど、心臓に悪くて逆に落ち着かない。
かといって、その優しさを無下にできるわけはなく、心地よさに目を閉じた。
まだ、こうしてくっついていたいけどさすがに時間がもうない。
リハーサルをさぼるわけにはいかないし。
「…ん、もう平気。楽屋、戻ろ」
ぐっと足に力を入れて立ち上がる。空になった弁当の包みを持って階段を降りようとする
と、雅に呼び止められた。
「…今日、うち来なよ」
「へ? …いいけど、また急だね。なんで?」
「…足りないって、顔してる」
「っ!し、してない!そんな顔!」
「してる。…同じだから」
「…え、」
「みやも、一緒だって…言ってるんだよ」
同じ、みやも、一緒。
まだ、もぉといたいって、触れ合っていたいって、思ってくれてるんだ。
「へへっ、」
「何笑ってんの、行くよ。遅れる」
「わっ、待って待って!」
みやは滅多に好きを口にはしない。
もぉもあんまし言わない。
だけど、十分すぎるくらい、想いは伝わり合っている。
不安なことはなにもないのだ。
おしまい。
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