まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

957名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 12:18:59.720

「罪な女 6」

続けざまに、もう一つの外箱が発見されたとの報がもたらされた。
それはレインコートが捨てられていた工事現場のすぐ横の路地
側溝の泥に半分埋まっていた。指紋は出なかった。
雅の指紋がついた箱とのすり替えが行われたことを、疑わないわけにはいかなかった。

取調室を出るとき、雅は「あの、これからはちゃんと家に帰るようにします」と言った。
返事はなかった。刑事達は疲れているように見えた。
同じ事ばかり繰り返し訊かれ、雅もいい加減疲れ切っていた。

署の階段を降りると、下に立っていたスーツ姿の男性が顔を上げ、雅は目を細めた。

「彼女から連絡が来ましてね。何年振りか、連絡などもらいました」と石川は言った。
「それで、疑いが晴れたんでしょうか」
「任意同行については係長から許可が下りましたが、令状の請求には至っていません。
異例ではありますが。我々は早晩事件が解決すると高を括っていました。
しかし機捜も容疑者絞り込みへ繋がる物証や証言を得られず
その後も捜査は難航し時間ばかりが過ぎてしまっている。
あなたを別件で引っ張れないか検討もされましたが、きれいなもんだった。勇み足を踏みました。
申し訳ありませんでした。
恐らく今後も、あなたへの令状を請求することにはならないだろうと、思っています」
言っている言葉はあまり耳に入ってこなかった。雅は石川の顔を見ていた。
「あなたのことは、結婚当時聞いてましたよ」
「えっ」
「中学時代の話を」

警察署を出ると、雅は知らず知らず駆け足になっていた。
さっきの、取調室での刑事の言葉に頭を掠めたものがあった。
確かめたい。
部屋に戻ると雅はすぐにクローゼットを開けた。引き出しを漁る。目的の手帳はすぐに見つかった。

3年前、雅に嫌がらせしていた能妻。数えきれない程、物を隠された。
日付と、見つけた場所を雅は書き留めていた。
隠された場所は10箇所以上にものぼり、初めのうちこそ必死に探すことにばかり時間を取られていたが
メモするようになって、そこに法則があることに気付いた。

それは能妻の不思議な癖のようなものだったのだろう。或いは彼女なりのルールだったのかもしれない。
隠されている場所と日付の数字は常に紐付いていた。それに気付いてからは
雅は必死に探すフリだけをして、こっそりと的確に隠し場所を当てることができていた。
あの日、営業部長が殺害された日。
3日。雅はノートを繰った。

そこには “袖机の下” と雅の字で書かれていた。
「よく、覚えててくれたもんだわ」
雅は思わず呟き、それから、スマホを手に取った。

958名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 12:21:47.970

「元旦那にお手柄をありがとう」と桃子は言った。
「ごめん、怒ってる?最初にももじゃなくって、石川さんに連絡取ったこと」
「いや、一番真っ当だったんじゃないの」
「麻布署で会ったとき、やさしかったから」
「言ったでしょ。顔が良くて優しいだけの人だって」

鹿賀島と関係があったと社内で噂になっていた能妻は捜査初期にリストアップされていた。
しかし彼女が退社してから後は二人が連絡を取っていた痕跡はまったくなかった。
彼女自身現在はホストクラブの若い男に入れあげ、借金を抱えていたが
鹿賀島殺害前後、口座にも特に動きは見られず
捜査員が向かった際も当時関係があったことは認めたものの
それ以外の怪しい点など見受けられず、動機も浮かばなかった。
当日は自室で寝ていたとの証言だったが
これについては初動で訊き込みしたほぼ全員がそうであったため、一旦マークははずされていた。

雅の証言によりあらためて周辺を洗ったところで、鹿賀島ではなく
鹿賀島の妻との関係が浮かび上がってきた。
先月の25日、能妻の現在の勤め先近くの喫茶店で、鹿賀島の妻らしき人物と能妻が会っていたという
目撃証言が上がった。
裏で糸を引いていたのが妻ならば、動機は充分に考えられた。

令状が出され、能妻の自宅を捜索したところ、雅の会社の発売前の美容液サンプルのボトルが発見された。
商品倉庫に置かれていたもので、その赤褐色のボトルに微量の血痕が付着していた。
DNA鑑定で鹿賀島のものと断定された。
物証を持って能妻を追求したところ、自白に至った。
ボトルは、新商品が気になってつい1本持ち帰ってしまったと語った。

会社に在籍していた当時、能妻は横領に手を染めていた。一件一件は小額だったが
積み上った金額はかなりのものになっていた。
それを知った鹿賀島は、退職と引き換えにその事実を揉み消し、関係を清算していた。
鹿賀島の妻は、そのことを知っていた。
能妻の職場を訪ね、横領の証拠書類を突きつけ
その証拠書類の抹消と能妻が抱えている借金の肩代わりとを引き換えに
鹿賀島の殺害を依頼したのだった。

鹿賀島と能妻は直接連絡を取り合う事はなかった。妻が間に入り
能妻が横領の件で連絡を寄越していると鹿賀島に伝え、巧みに当日会社へ誘導した。
商品倉庫を待ち合わせ場所に選んだのは能妻だった。
1階の奥まった場所にあり、裏の通用口へ抜けるのも容易な場所だった。

959名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 12:25:20.100

イヤリングの箱は、鹿賀島の書斎でまだプレゼントされる前のものを妻が見つけ
能妻に託したものだった。
興信所の調べで二人が食事していたことを知り、その後プレゼントを発見した妻は
このタイミングで能妻に手を汚させ、雅に罪を着せられる絶好の機会と、実行に移したのだった。
箱ごと殺害現場に置いていくのは得策ではないと考えた能妻は
鹿賀島と落ち合う前に上のフロアへこっそりと上がった。
雅の指紋のついているであろう全く同じ外箱を発見したのは、偶然だった。
狡計を巡らせ、咄嗟にすり替えた。
雅自身が最初に発見し、万が一隠蔽することを恐れた能妻は、後から発見されるよう隠すことにした。
それを考えた時、つい癖で、覚えのある場所に、隠した。
まさか雅が、日付とも関連させ手帳に付けていたなどとは思いも寄らぬことだった。

「って、石川が言ってた」と桃子は言った。
話を聞き終わるまでに紅茶を2回おかわりし、出してもらったクッキーは食べつくしていた。
「すっごい頑張って全部聞いて思ったんだけど」
「うん」
「疲れた」
雅がテーブルに突っ伏すと、桃子は頭を撫でてきた。
「お疲れさま」

「いや、待って。みやが一番気になってたことが聞けてない」
撫でられるに任せたまま、雅は言った。
「レインコートの女でしょ」
「それ!」
雅が顔を上げると、桃子の顔が近くにあった。
「なんと灯台下暗し。茉麻が知ってた」

「聞いてしまえば何の事はない、訊き込みの時は留守にしてた上の階の男の子の、彼女さん。
前も雨の日の真夜中、茉麻がエントランスで会って話したことあるんだってさ」
「なんでそんな真夜中に」
「彼氏の鼾がうるさいんだって」

「もう捜査は終わってるからさ、仕方ない、私が直接裏取りに行ってきたよ」

「彼は帰省してたみたいで、一昨日帰ってきたばかり。
ちょうど彼女さんも来てて話を聞けたわけ。
雨の日はグレーのレインコート着て、傘持ってるけどすっぴんだからフード目深に被っちゃうんだって。
ファストフードとかネットカフェで時間潰してたみたいなんだけど、彼は知らなくて
ゴメン、オレ、鼾直す努力する!だって。いいお話だねえ」

960名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/08/13(日) 12:28:48.820

「リュウくんインドに行っちゃったわよ」
「……そ、そうなんだ。なんでインド」
店に入るなりマスターからそう声をかけられた。
雅はマスターの顔を見ながら、すっかりいつもの場所になっているスツールに腰掛ける。
「あの国は今同性愛は犯罪でもゲイの王子様がいたりするのよね。
人生を見つめ直すとか言ってたけど、始末に追えなくなって帰ってくる予感しかないわね」
そう、雅にごめんねって伝言預かってた。まさかだったわ。送らせて悪かったわね」
「ううん。いいの。……悪気はなかったと思いたい」
「まあ、シンプルな男の子なのよ」
「……ももが同じこと言ってた」
雅がそう言うと、マスターは苦笑した。
「あの子の変な達観はどうにかなんないのかしら」

マスターは知っている気がした。
「ねえ、偉い人に囲われてるなんて、本当にあるの」
「そんな話どこで耳に入れたの」
「取り調べの刑事」
「噂話が好きなのね」
「嫌い。嫌いだけど……なんか、否定したいから聞きたい事もあるんだって、思った」

「あたしだって、噂があるってことくらいしか知らない」
と、マスターは前置きした。

「桃ちゃんは今でこそまるで食えない女だけど、昔はアイドルだったのよ」
「アイドル?」
「そ。刑事課のアイドル。昔このあたりでちょっとした事件があって
警察の輩が出入りしてたことがあってね、その頃聞いたの。
ジュク署のアイドルが結婚しちゃったんだよってさ。嘆いてんの見てバカかしらと思ったわよね。
仕事しろって話よ。
まあそこまでは可愛らしいもんだったけど
それからちょっとして、その噂も耳に入ってきた」

「件の嫁がキャリアと寝て、旦那は本庁に上がったらしい」
「なんか、ほんとにそんなことあんのって感じなんだけど」
初めて麻布署の刑事から聞かされた時の不快な気分を思い出す。
事実はともかく、噂が蔓延っていたのは確かだ。
「当時は、まあ、知らない女の話だし、できた嫁ね、なんてこっちじゃ笑い話にしてたわよ。
そこまでして夫を出世させたいなんて妻の鑑ね、なんて。
あたしが知ってるくらいだから、まあ、今思えばどれだけのやっかみが渦巻いてたんだか。
結局、噂が大きくなりすぎて、関係がこじれ離婚したって聞いたわ」
雅はチラリと思う。前にマスターが言っていた色男というのは、警察関係者なのだろうか。

「二人、嫌い合ってる感じがしない」
「夫婦の間のことなんてわかんないわよ」マスターは手を振った。
「その噂、絶対、そんなこと、なかったと思う」
「今、あの子のことを知ってしまえばね、あたしもそう思うんだけど。
離婚の話を聞いたすぐ後よ、一時停止義務違反で取っ捕まったのが、あたしと桃ちゃんの出会いなの」
「え、しょぼ……」雅は思わず言いかけ、口に手を当てた。
「融通の利かない女で腹が立ったわ。それからちょっとして、ウチに来るようになった桃ちゃんと
雅が幼なじみだったっていうのもね、まあ、運命よね」
マスターは片頬を歪ませて、笑った。

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