最終更新:ID:SQW/bm85Rw 2017年03月09日(木) 15:53:03履歴
830 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:19:46.00 0
朝、雅が目覚める前に部屋から抜け出した。
リビングのテーブルにメモを残すと手早く着替えて家を出た。
ゆっくり歩いてもすぐ着いてしまう学校。
朝練の生徒の為に早々に門が開かれているのは救いだった。
一直線に生徒会室に向かう。
締め切られた部屋に篭った熱気。
集中管理のせいで使えない冷房が恨めしい。
窓を開け放ちカーテンを閉め扇風機をつける。
時折、カーテンが揺れるもほとんど風の入ってこない室内。
まだ早いからいいかと制服を着崩した。
手持ち無沙汰にパラパラと近くにある未処理のものや過去の資料をめくる。
自分だけの裁量で今できることはもう既に終わっていた。
視界に入るのは部屋の隅にあるプリントの山。
本来、自分がする仕事ではないがそれに手を伸ばす。
端から順番に紙を重ねていきホチキスでとめるだけの単純作業。
繰り返される紙の擦れる音とパチンとホチキスのとめる音。
校庭から聞こえてくる掛け声がどこか遠く感じた。
頭を撫でられる感覚。
それで自分が寝ていた事に気付いた。
触れる手の大きさで誰かすぐにわかった。
「おはよ」
顔を机から上げるとニコッと笑顔。
その姿の後ろに見える時計はもうお昼をさしていた。
「おはよう。起こしてくれてよかったのに」
「目の下、クマできてたから、ってあれっ?」
胸元に向けられた視線。
いつもは首元までしっかりしめているボタン。
今はだらしなく開けていた。
「もも、いつもの指輪どうしたの?」
目敏く気づかれ聞かれる指輪の事。
「捨てた」
「大切にしてたじゃん。急にどうしたの?」
「んー大切にしてたというより習慣?チェーンが切れたからもういいかなって」
831 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:21:14.86 0
なんでもない風を装う。
怪訝な表情だがどことなく少し嬉しそう。
小さい頃からの付き合いだけに人から貰った事だけは知っていて。
どこかいつも少し気にしていたのはわかっていた。
わかっていても外せなかった。
申し訳ないと思っていた心がその言葉を吐き出させた。
「今度、新しいの一緒に買いに行こう。ペアリング」
「ほんとに?めんどいからやっぱりやめたとかなしだからね」
喜色満面な様子に罪悪感を覚える。
嬉しそうに話し出す様子にただ相槌を打つ。
どうしても上滑りしていく会話の内容に不満の声が上がった。
「もーちゃんと聞いてよ」
「ももは人の話聞かないから」
ドアを開けて現れる副会長。
二人きりに少し気まずさを感じていた為、その登場はありがたかった。
副会長の手にはコンビニの袋。
「ひどーい。いつもちゃんと聞いてますー。それ何」
「いや、聞いてないでしょ。ももの分はありません」
定位置に座る副会長。
袋から水とアイスを取り出した。
「あーいいなぁ一口ちょうだい」
あえて顔がくっつく程に近づく。
前と後ろからグイッと力を加えられ仰け反る。
嫌そうな顔で額を押しのける副会長と襟首を引っ張り不愉快そうなくまいちょー。
832 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:22:05.32 0
「近すぎ」
「もも」
ストレートな苦情と咎めるような低い声。
「ごめんね」
まったく謝られてる気がしないと苦情。
やれやれと声が聞こえてきそうな態度。
「お昼買いに行くなら早く行かないと他の子もう来ちゃうよ」
時計を指し時間を示される。
もう三十分もない。
走ってまで食べたいほどの食欲はなかった。
いいやと言うと意外そうに二度見された。
それはよくないよとくまいちょーがお弁当を分けてくれた。
時間通りに集まる他の面々。
さっきまでの弛んだ空気から一転してピリッと引き締まる。
いつものように二時間足らずで終わる会議。
自分たち三人を残してさっと帰っていった。
また三人きりになったがそれも少しの間だけ。
少しだけできた雑務をさっと片付けると塾があるからと一足先に帰った副会長。
二人きりになった室内。
「帰ろっか」
頷くくまいちょー。
もはや帰る前の恒例行事。
椅子に座ったまま閉じられた目。
昨日までなら普通にできていたのに。
唇に触れる寸前、脳裏に過る雅の泣き顔。
掠めるようなキス。
それも唇の端に触れるか触れないかの微妙なもの。
キスできない。
不思議そうに首をかしげるくまいちょーに笑って誤魔化した。
833 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:23:12.23 0
重い足取りで帰路を辿る。
大したことのない距離だけにあっという間に自宅に着いた。
まだ雅の帰宅時間よりだいぶ早い。
リビングのメモと冷蔵庫の中身は無くなっていた。
どうするか何も考えられないまま、まんじりともせず雅の帰宅を待った。
それなのにいつの間にか寝てしまって気がつけば朝。
雅の姿はなかった。
どこに泊まっているのかは知らないがその次の日も帰ってこなかった。
朝、玄関からの物音で目を覚まし部屋から出ると今から出ようとしている雅と目があった。
さっと目を逸らされる。
声をかける前に足早に立ち去られた。
その日から目が合う事も会話もなくなった。
それと同時に今までの時間に帰って来なくなり早くても日付の変わる寸前の時刻。
知る限りでは実家に帰った時以外は外泊する事もなかった雅。
遅く帰るようになり一ヶ月ほど経った頃から週に一回は確実に外泊するようになった。
まるで少し前までの自分と同じ行動。
フラれた相手との同居など気まずいに決まっているし一緒に居たくないのもわかる。
自分自身、何を話してどう接するのが正解かもわからない。
それでもその行動がひどく心を乱した。
やめて欲しいと言ってしまいたい。
でもただの同居人でしかない自分にそんな事を言う権利はない。
何かそれらしい理由をつけようにも相手はもう大人で咎める事もできない。
そんな気持ちを持ってしまう全くもって諦められていない自分。
全てがただただもどかしかった。
834 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:24:56.12 0
「もも、何がしたいの」
副会長と二人きりの生徒会室。
疑問というよりは詰問。
「何が?」
「熊井ちゃんこの間、泣いてた。さっきもそう。話、全然聞いてないし。帰るって言った時も無反応。遊びじゃないって言ってたのにどうなってんの」
思いある節が多過ぎて返す言葉がない。
最初はまだ取り繕えていた。
デートもしていたし、その度に口にはできなくとも頬や額にキスできていた。
お互いが気にいるまで何度も出掛けてペアリングも買った。
楽しそうにする姿に癒されもした。
でもそれだけだった。
気付けば頭を占めている雅の存在。
リングは違和感をもたらしいつの間にかデートの時しかしなくなっていたし、キスも頬にすらできなくなっていた。
大事にしたいからと何度もした言い訳。
それも恐らく限界にきているのだろう。
「ごめん、ちょっと家の事で気になることがあって」
また口にする誤魔化し。
家の事といえばそれ以上、何も聞いてこれないだろうと嘘でもなければ本当でもない答え。
案の定、口ごもり追求はなかった。
「ごめんって私じゃなくて熊井ちゃんに言いなよ」
そうすると答えた声は我ながら力なくて。
視線の先の副会長は心配そうな複雑そうな顔をしていた。
851 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:39:02.82 0
遅くなった帰り道。
点灯されているイルミネーションにクリスマスが近いことを気づかされる。
冬休みが目前に迫っているのにどこか日付の感覚が狂っていた。
手早くクリスマスにデートしようとシンプルなメールを送る。
すぐに了承の返信がきた。
文面からでも嬉しそうなのが伝わってくる。
可愛らしいなと思ってもやはりそれ以上ではない。
恐らく恋人の好きになる事はないという思いはほぼ確信に近い。
それでも別れると言われるまでは自分から言い出すつもりはなかった。
クリスマス当日。
誘ったのが直前だったせいでバイトを入れていたくまいちょー。
夕方からの待ち合わせ。
時間を過ぎても来ない。
ぼんやりと道行く人々を眺めた。
雅と似た髪色の女性がいやに目についた。
そんな自分に呆れる。
気にするのが嫌で下を向いていると肩を叩かれた。
「ごめん」
「仕方ないよ、クリスマスは忙しいし」
息を切らせて現れたくまいちょー。
いつもよりさらに気合の入った格好。
何度も謝るくまいちょーを遮って可愛いと褒め倒す。
まるでバカップルのようなやり取り。
「もーそんな可愛くないから。早く行くよ」
最後の方はもう褒めてるのかからかっているのかわからない言いように少し怒ったような口調。
先に歩き出したくまいちょーを慌てて追いかける。
横に並ぶとチラチラと視線が道行くカップルを追っていて。
躊躇いがちに動く手先にピンときてその手を握って歩き出した。
一緒に映画を見てその後、少しだけ背伸びをした食事。
他の事を考えないように集中したおかげでくまいちょーの曇った表情を見る事なく楽しめた。
852 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:41:14.70 0
駅に向かって歩く途中、最後にイルミネーション見ようよと予定にない行動。
もう帰るだけのつもりで気が抜けていた。
きらめくイルミネーション。
駆けていくくまいちょーの後をゆっくり着いて行く。
駆けて行った先にいる男性と腕を組んで歩く女性が雅にそっくりで。
最初はまたかと自分の思考に呆れた。
急に進路をかえたカップル。
ちょうど向かい合う形になり正面から顔が見えた。
女性は間違いなく雅で。
久しぶりに正面から見る雅の顔は笑顔だった。
幸いまだ雅はこちらに気づいていない。
不自然にならないように人混みの多い方へ足を向けた。
ああやはりあの時の判断は間違っていなかった。
その思いが渦巻き、冷静になれない。
電話が鳴って、でるとまいちょーの声。
ふらふらと元の目的地に足を向けた。
笑顔を貼り付け会話する。
後で振り返っても会話の内容もどう帰ったのかも全く記憶がなかった。
いつもならその日の夜には何かしらの連絡が来るのに翌日になってもくまいちょーからの連絡はなかった。
二日後に届いたメール。
受験勉強、大変だろうからしばらくはデートしないでおこう
連絡も控えるね
珍しく短文の用件だけの素っ気ないメール。
もう既に推薦で内部進学は内定していた。
それは決まった時点で伝えていたのにこの内容。
会いたくないと距離を置きたいとしかとれない。
あの時の自分の行動がひどく気になったし、罪悪感も感じた。
それなのに取り繕わなくてよくなることにほっとした自分もいてそんな自分が嫌だった。
853 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:42:16.68 0
その後は本当にクリスマスのデートから二人きりで会う事もなく、会話も生徒会だけで校内で会う事も無かった。
付き合っているのかわからない状態。
雅のこともくまいちょーの事も何も考えたくなくて増やしたバイトの日数。
渋る店長を半ば脅すように説き伏せて休みの日には店に入り浸った。
約束した雅とはほとんど顔を合わせることすらなく恋人かわからない状態のくまいちょー。
誰にも気兼ねせず遊べる状態に戻っていた。
それでも雅と約束した日、あの日のお姉さんを思い出すととてもまた遊ぶ気にはなれなかった。
学校とバイトの繰り返しであっという間に卒業式が目前に迫っていた。
卒業式前日バイトに行くとげっそりした店長。
明日、卒業式に行くからと手短に伝えられる。
その言葉でげっそりしている理由が察せられた。
両親ともに都合がつかない事は聞いていた。
恐らくその事で電話を受けたのだろうと思うと同情を禁じ得なかった。
卒業式当日。
つつがなく式は終わった。
カメラを持った店長に先に帰るからと声をかけられ見送った。
ほとんどが内部進学のため割とあっさりクラスメイトとも別れが済んだ。
教室を出ると待っていた元副会長。
行くよと手を引かれ門の前に行くと生徒会の面々。
その中には当然、くまいちょーもいて。
全く目が合わない。
それなのに急に手を握られ引っ張られる。
向かった先は生徒会室。
久しぶりに二人きり。
向かい合って座ったきり沈黙が続く。
不意に近づく距離。
目は瞑られていて。
何を求められているかわかっていてもできない。
思わず目を逸らした。
「もも」
その声に正面を向くと予想に反し笑顔のくまいちょー。
「卒業おめでとう。それと誕生日空けといてね」
それだけ言うと立ち上がった。
「さっ帰ろ」
手を繋ぐこともなく少し距離を保った状態で歩みを進めるとあっさり校門でバイバイと別れを告げられた。
854 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:43:44.29 0
空けといてねと言われたが何も聞いていなかったし、何の連絡もないまま迎えた誕生日当日。
朝早く、くまいちょーの家に呼び出された。
妙に静かな家の中の様子に首をかしげると家族皆、旅行中だからと教えられた。
自室に通され座るように促された。
「うちからの誕生日プレゼントね」
何故か硬い表情。
プレゼントと言ったがそれらしいものは見当たらないし動く気配もない。
何か言いたげにしているのを黙って見ていた。
別れてあげる
唐突に言われた一言。
短いたった数文字のその言葉が理解できなかった。
「目、瞑って」
混乱していて素直にその言葉に従っていた。
近づく気配。
チュッと軽いキス。
告白された日を思い出す。
ポツリと頬に落ちてきた涙。
目を開く前に大きな手で目を覆われた
「これで最後。明日からまた友達。何の連絡もしてこないっていうのはなしだから」
目元から手が離される。
視界に入るのは背中を向けたくまいちょー。
みやとうまくいけばいいね
最後に付け足された言葉に目を見開く。
何か言おうと口を開いた。
「く…」
「ごめんもも、今は帰って」
震えた声にかける言葉を見失う。
立ち尽くしているともう一度強く帰ってと言われ室内を後にする。
ドア越しに泣き声が聞こえた。
家を出ても泣き声が耳にこびりついて離れなかった。
朝、雅が目覚める前に部屋から抜け出した。
リビングのテーブルにメモを残すと手早く着替えて家を出た。
ゆっくり歩いてもすぐ着いてしまう学校。
朝練の生徒の為に早々に門が開かれているのは救いだった。
一直線に生徒会室に向かう。
締め切られた部屋に篭った熱気。
集中管理のせいで使えない冷房が恨めしい。
窓を開け放ちカーテンを閉め扇風機をつける。
時折、カーテンが揺れるもほとんど風の入ってこない室内。
まだ早いからいいかと制服を着崩した。
手持ち無沙汰にパラパラと近くにある未処理のものや過去の資料をめくる。
自分だけの裁量で今できることはもう既に終わっていた。
視界に入るのは部屋の隅にあるプリントの山。
本来、自分がする仕事ではないがそれに手を伸ばす。
端から順番に紙を重ねていきホチキスでとめるだけの単純作業。
繰り返される紙の擦れる音とパチンとホチキスのとめる音。
校庭から聞こえてくる掛け声がどこか遠く感じた。
頭を撫でられる感覚。
それで自分が寝ていた事に気付いた。
触れる手の大きさで誰かすぐにわかった。
「おはよ」
顔を机から上げるとニコッと笑顔。
その姿の後ろに見える時計はもうお昼をさしていた。
「おはよう。起こしてくれてよかったのに」
「目の下、クマできてたから、ってあれっ?」
胸元に向けられた視線。
いつもは首元までしっかりしめているボタン。
今はだらしなく開けていた。
「もも、いつもの指輪どうしたの?」
目敏く気づかれ聞かれる指輪の事。
「捨てた」
「大切にしてたじゃん。急にどうしたの?」
「んー大切にしてたというより習慣?チェーンが切れたからもういいかなって」
831 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:21:14.86 0
なんでもない風を装う。
怪訝な表情だがどことなく少し嬉しそう。
小さい頃からの付き合いだけに人から貰った事だけは知っていて。
どこかいつも少し気にしていたのはわかっていた。
わかっていても外せなかった。
申し訳ないと思っていた心がその言葉を吐き出させた。
「今度、新しいの一緒に買いに行こう。ペアリング」
「ほんとに?めんどいからやっぱりやめたとかなしだからね」
喜色満面な様子に罪悪感を覚える。
嬉しそうに話し出す様子にただ相槌を打つ。
どうしても上滑りしていく会話の内容に不満の声が上がった。
「もーちゃんと聞いてよ」
「ももは人の話聞かないから」
ドアを開けて現れる副会長。
二人きりに少し気まずさを感じていた為、その登場はありがたかった。
副会長の手にはコンビニの袋。
「ひどーい。いつもちゃんと聞いてますー。それ何」
「いや、聞いてないでしょ。ももの分はありません」
定位置に座る副会長。
袋から水とアイスを取り出した。
「あーいいなぁ一口ちょうだい」
あえて顔がくっつく程に近づく。
前と後ろからグイッと力を加えられ仰け反る。
嫌そうな顔で額を押しのける副会長と襟首を引っ張り不愉快そうなくまいちょー。
832 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:22:05.32 0
「近すぎ」
「もも」
ストレートな苦情と咎めるような低い声。
「ごめんね」
まったく謝られてる気がしないと苦情。
やれやれと声が聞こえてきそうな態度。
「お昼買いに行くなら早く行かないと他の子もう来ちゃうよ」
時計を指し時間を示される。
もう三十分もない。
走ってまで食べたいほどの食欲はなかった。
いいやと言うと意外そうに二度見された。
それはよくないよとくまいちょーがお弁当を分けてくれた。
時間通りに集まる他の面々。
さっきまでの弛んだ空気から一転してピリッと引き締まる。
いつものように二時間足らずで終わる会議。
自分たち三人を残してさっと帰っていった。
また三人きりになったがそれも少しの間だけ。
少しだけできた雑務をさっと片付けると塾があるからと一足先に帰った副会長。
二人きりになった室内。
「帰ろっか」
頷くくまいちょー。
もはや帰る前の恒例行事。
椅子に座ったまま閉じられた目。
昨日までなら普通にできていたのに。
唇に触れる寸前、脳裏に過る雅の泣き顔。
掠めるようなキス。
それも唇の端に触れるか触れないかの微妙なもの。
キスできない。
不思議そうに首をかしげるくまいちょーに笑って誤魔化した。
833 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:23:12.23 0
重い足取りで帰路を辿る。
大したことのない距離だけにあっという間に自宅に着いた。
まだ雅の帰宅時間よりだいぶ早い。
リビングのメモと冷蔵庫の中身は無くなっていた。
どうするか何も考えられないまま、まんじりともせず雅の帰宅を待った。
それなのにいつの間にか寝てしまって気がつけば朝。
雅の姿はなかった。
どこに泊まっているのかは知らないがその次の日も帰ってこなかった。
朝、玄関からの物音で目を覚まし部屋から出ると今から出ようとしている雅と目があった。
さっと目を逸らされる。
声をかける前に足早に立ち去られた。
その日から目が合う事も会話もなくなった。
それと同時に今までの時間に帰って来なくなり早くても日付の変わる寸前の時刻。
知る限りでは実家に帰った時以外は外泊する事もなかった雅。
遅く帰るようになり一ヶ月ほど経った頃から週に一回は確実に外泊するようになった。
まるで少し前までの自分と同じ行動。
フラれた相手との同居など気まずいに決まっているし一緒に居たくないのもわかる。
自分自身、何を話してどう接するのが正解かもわからない。
それでもその行動がひどく心を乱した。
やめて欲しいと言ってしまいたい。
でもただの同居人でしかない自分にそんな事を言う権利はない。
何かそれらしい理由をつけようにも相手はもう大人で咎める事もできない。
そんな気持ちを持ってしまう全くもって諦められていない自分。
全てがただただもどかしかった。
834 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 13:24:56.12 0
「もも、何がしたいの」
副会長と二人きりの生徒会室。
疑問というよりは詰問。
「何が?」
「熊井ちゃんこの間、泣いてた。さっきもそう。話、全然聞いてないし。帰るって言った時も無反応。遊びじゃないって言ってたのにどうなってんの」
思いある節が多過ぎて返す言葉がない。
最初はまだ取り繕えていた。
デートもしていたし、その度に口にはできなくとも頬や額にキスできていた。
お互いが気にいるまで何度も出掛けてペアリングも買った。
楽しそうにする姿に癒されもした。
でもそれだけだった。
気付けば頭を占めている雅の存在。
リングは違和感をもたらしいつの間にかデートの時しかしなくなっていたし、キスも頬にすらできなくなっていた。
大事にしたいからと何度もした言い訳。
それも恐らく限界にきているのだろう。
「ごめん、ちょっと家の事で気になることがあって」
また口にする誤魔化し。
家の事といえばそれ以上、何も聞いてこれないだろうと嘘でもなければ本当でもない答え。
案の定、口ごもり追求はなかった。
「ごめんって私じゃなくて熊井ちゃんに言いなよ」
そうすると答えた声は我ながら力なくて。
視線の先の副会長は心配そうな複雑そうな顔をしていた。
851 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:39:02.82 0
遅くなった帰り道。
点灯されているイルミネーションにクリスマスが近いことを気づかされる。
冬休みが目前に迫っているのにどこか日付の感覚が狂っていた。
手早くクリスマスにデートしようとシンプルなメールを送る。
すぐに了承の返信がきた。
文面からでも嬉しそうなのが伝わってくる。
可愛らしいなと思ってもやはりそれ以上ではない。
恐らく恋人の好きになる事はないという思いはほぼ確信に近い。
それでも別れると言われるまでは自分から言い出すつもりはなかった。
クリスマス当日。
誘ったのが直前だったせいでバイトを入れていたくまいちょー。
夕方からの待ち合わせ。
時間を過ぎても来ない。
ぼんやりと道行く人々を眺めた。
雅と似た髪色の女性がいやに目についた。
そんな自分に呆れる。
気にするのが嫌で下を向いていると肩を叩かれた。
「ごめん」
「仕方ないよ、クリスマスは忙しいし」
息を切らせて現れたくまいちょー。
いつもよりさらに気合の入った格好。
何度も謝るくまいちょーを遮って可愛いと褒め倒す。
まるでバカップルのようなやり取り。
「もーそんな可愛くないから。早く行くよ」
最後の方はもう褒めてるのかからかっているのかわからない言いように少し怒ったような口調。
先に歩き出したくまいちょーを慌てて追いかける。
横に並ぶとチラチラと視線が道行くカップルを追っていて。
躊躇いがちに動く手先にピンときてその手を握って歩き出した。
一緒に映画を見てその後、少しだけ背伸びをした食事。
他の事を考えないように集中したおかげでくまいちょーの曇った表情を見る事なく楽しめた。
852 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:41:14.70 0
駅に向かって歩く途中、最後にイルミネーション見ようよと予定にない行動。
もう帰るだけのつもりで気が抜けていた。
きらめくイルミネーション。
駆けていくくまいちょーの後をゆっくり着いて行く。
駆けて行った先にいる男性と腕を組んで歩く女性が雅にそっくりで。
最初はまたかと自分の思考に呆れた。
急に進路をかえたカップル。
ちょうど向かい合う形になり正面から顔が見えた。
女性は間違いなく雅で。
久しぶりに正面から見る雅の顔は笑顔だった。
幸いまだ雅はこちらに気づいていない。
不自然にならないように人混みの多い方へ足を向けた。
ああやはりあの時の判断は間違っていなかった。
その思いが渦巻き、冷静になれない。
電話が鳴って、でるとまいちょーの声。
ふらふらと元の目的地に足を向けた。
笑顔を貼り付け会話する。
後で振り返っても会話の内容もどう帰ったのかも全く記憶がなかった。
いつもならその日の夜には何かしらの連絡が来るのに翌日になってもくまいちょーからの連絡はなかった。
二日後に届いたメール。
受験勉強、大変だろうからしばらくはデートしないでおこう
連絡も控えるね
珍しく短文の用件だけの素っ気ないメール。
もう既に推薦で内部進学は内定していた。
それは決まった時点で伝えていたのにこの内容。
会いたくないと距離を置きたいとしかとれない。
あの時の自分の行動がひどく気になったし、罪悪感も感じた。
それなのに取り繕わなくてよくなることにほっとした自分もいてそんな自分が嫌だった。
853 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:42:16.68 0
その後は本当にクリスマスのデートから二人きりで会う事もなく、会話も生徒会だけで校内で会う事も無かった。
付き合っているのかわからない状態。
雅のこともくまいちょーの事も何も考えたくなくて増やしたバイトの日数。
渋る店長を半ば脅すように説き伏せて休みの日には店に入り浸った。
約束した雅とはほとんど顔を合わせることすらなく恋人かわからない状態のくまいちょー。
誰にも気兼ねせず遊べる状態に戻っていた。
それでも雅と約束した日、あの日のお姉さんを思い出すととてもまた遊ぶ気にはなれなかった。
学校とバイトの繰り返しであっという間に卒業式が目前に迫っていた。
卒業式前日バイトに行くとげっそりした店長。
明日、卒業式に行くからと手短に伝えられる。
その言葉でげっそりしている理由が察せられた。
両親ともに都合がつかない事は聞いていた。
恐らくその事で電話を受けたのだろうと思うと同情を禁じ得なかった。
卒業式当日。
つつがなく式は終わった。
カメラを持った店長に先に帰るからと声をかけられ見送った。
ほとんどが内部進学のため割とあっさりクラスメイトとも別れが済んだ。
教室を出ると待っていた元副会長。
行くよと手を引かれ門の前に行くと生徒会の面々。
その中には当然、くまいちょーもいて。
全く目が合わない。
それなのに急に手を握られ引っ張られる。
向かった先は生徒会室。
久しぶりに二人きり。
向かい合って座ったきり沈黙が続く。
不意に近づく距離。
目は瞑られていて。
何を求められているかわかっていてもできない。
思わず目を逸らした。
「もも」
その声に正面を向くと予想に反し笑顔のくまいちょー。
「卒業おめでとう。それと誕生日空けといてね」
それだけ言うと立ち上がった。
「さっ帰ろ」
手を繋ぐこともなく少し距離を保った状態で歩みを進めるとあっさり校門でバイバイと別れを告げられた。
854 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/03/06(月) 21:43:44.29 0
空けといてねと言われたが何も聞いていなかったし、何の連絡もないまま迎えた誕生日当日。
朝早く、くまいちょーの家に呼び出された。
妙に静かな家の中の様子に首をかしげると家族皆、旅行中だからと教えられた。
自室に通され座るように促された。
「うちからの誕生日プレゼントね」
何故か硬い表情。
プレゼントと言ったがそれらしいものは見当たらないし動く気配もない。
何か言いたげにしているのを黙って見ていた。
別れてあげる
唐突に言われた一言。
短いたった数文字のその言葉が理解できなかった。
「目、瞑って」
混乱していて素直にその言葉に従っていた。
近づく気配。
チュッと軽いキス。
告白された日を思い出す。
ポツリと頬に落ちてきた涙。
目を開く前に大きな手で目を覆われた
「これで最後。明日からまた友達。何の連絡もしてこないっていうのはなしだから」
目元から手が離される。
視界に入るのは背中を向けたくまいちょー。
みやとうまくいけばいいね
最後に付け足された言葉に目を見開く。
何か言おうと口を開いた。
「く…」
「ごめんもも、今は帰って」
震えた声にかける言葉を見失う。
立ち尽くしているともう一度強く帰ってと言われ室内を後にする。
ドア越しに泣き声が聞こえた。
家を出ても泣き声が耳にこびりついて離れなかった。
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