まとめ:雅ちゃんがももちの胸を触るセクハラ

98 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 00:20:05.36 0

こつん、と軽い音で、グラスはぶつかった。
何の乾杯だよって、ももが苦笑いするのが見える。
うちにとってはある意味で決意表明みたいなものだったけど、そんなのももは知るはずもない。
その後、サワーを口に含んだももの眉毛が少しだけ歪むのが見えた。

「サワー飲めるようになったんだ?」

メニューをめくりながらももがそれを選んだ時、正直言うと少しびっくりした。
知らないよ、ももがサワー飲むなんて。
だって、だってさ。あのももだよ?
苦いのも炭酸も苦手だと思ってたのに。
意外すぎて、あまり考えずにビールを選んじゃったし。
今日の料理には赤ワインだったなあなんて、今ちょっと後悔してる。

「まあ、それなりにね。やっぱりあんまり苦いのは飲めないけど」
「強いのにもったいなーい」

戸惑ってるのが伝わらないように、適当なテンションで笑ってみせた。
まだ、全然酔ってなんかいないのに。

もも、食べる量減ったな。
次に気づいたのは、そんなことだった。
雑炊に溶き卵を落としたところで、お腹いっぱいと言いたげにももが息を吐くのが聞こえたのがきっかけだった。

「もも、食べる量減った?」
「前が食べ過ぎだっただけだから」
「そっか。まあ、カントリーは食べなさそうだよね」
「あれがフツーだからね、言っとくけど」

今と昔じゃ違うって言われたみたいで、ちょっとフクザツ。
じわっと舌の奥に苦いものが広がったのは、たぶん、さっき飲み干したビールだと思う。

「どのくらい?」
「良い感じで」

相変わらず無茶振りしてくるね、もも。
今と昔じゃ感覚が違うんだからさ、分かるわけないじゃん。
そう思いつつも適当によそって渡してあげると、嬉しそうにももは頬を緩ませた。
熱々の雑炊をそうっと一口。うん、やっぱり鍋が売りなだけあって美味しい。
向かいに座るももは、ダシがどうこうとか語り始める。
何かを食べてきちんと感想を言おうとするのって、もう癖みたいなものなんだろうな。

99 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 00:23:08.16 0

最後の一杯は、サングリアを選んだ。
ちょうど赤ワインが飲みたい気分だったし、食後でちょっと甘さもほしかったから。
あと、他のお酒に比べて飲みやすくて、酔いやすいから。

「……で、今日はどういう用事?」

ちょっと落ち着いた雰囲気の中で、ももがぽつりと聞いてくる。
そういう話題を振るなら今だっていうのは分かってたけど、ももに見透かされているようでちょっと気に入らない。
何か用事でもなきゃ、誘っちゃいけない?って拗ねてみせた。

「そういうんじゃないけど」

まあ、ももがそう思うのも無理はないんだけどさ。
だって、何かしら理由がないとももを誘えないのは本当だから。
前みたいに一緒にご飯食べたいって理由だけでは、もう今は誘えなくなってしまった。
少しだけ心の準備がしたくて、間を持たせるためにサングリアを口に含んだ。
するすると喉を通り過ぎていく感覚と共に、体温が少しだけ上がった気がした。

「うーんと、ね。ももには最初に報告しとこうと思って」

言った後で、曖昧な物言いになってたことに気がついた。
まるで、ももの様子を伺ってるみたいに。
何を?って聞いてくるももの表情は、うっすらと曇り始めてる。
どう言えば、ももが一番傷つかないんだろう。
そんな風に考えてしまってから、違うな、と思った。
どう言ったところで、ももがショックを受ける未来に変わりはないんだ。

「ケッコンゼンテーの、おつきあい?」

形になった言葉は、びっくりするほどありきたりだった。
こんなセリフ、映画かドラマくらいじゃないと聞くことはないかもね。

「いや、なんで疑問形?」

ほんのりと笑いを含んでいたけど、ももの声は少しだけ震えていた。
珍しく動揺しているらしいももは、もうすっかり氷が溶けて薄まったチューハイに逃げ場を求めたみたいだった。
それらには気づかなかったふりをしながら、うちはももの疑問への答えを探す。

「うーん、なんだろ。まだピンとこなくて」
「いや、相手いるんでしょ?」
「いないことも、ないけど」
「何? はっきりしてよ」

ももが苛立っているのは、痛いほど伝わってきた。
落ちのないトーク、まとまりのない話。
それらをももが嫌うのは知ってるけれど、適当なことを言いたくないのも分かってほしい。
ここまできて、うちはまだ、ももを傷つけない方法を探っている。
意気地なし、と自分を笑う声がした。
神様でも誰でもいいから、少しだけ、うちに人を傷つける勇気をください。

100 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 00:24:46.60 0

「子どももほしいしさぁ、年とか考えるとそろそろかなーって思うわけ」
「リアルな話ですねえ、夏焼さん」
「ちゃんときいてよ」
「聞いてる」

ふざけたように笑ってるけど、たぶん今ももはすごく傷ついている。
一緒にいた年月が長すぎて、もものことならすぐ分かるんだよ。
今くらいは、知らないでいたかったけど。

「だからさぁ、たぶん今の人とケッコンするんだろうなーっておもうんだけど」
「待って。みや、それ……まだ、言ってないの?」

相手の人に?ってももの目が丸くなる。
傷つきつつも、うちと、うちの相手のことを考えて意見をくれるんだね、ももは。

「まず、ちゃんと言うところからじゃない?」
「やっぱりー?」
「いや、そうでしょ。普通に考えて」

怒ってる? それとも、呆れてる?
ももは目をそらしてしまったから分からないけど、たぶんどっちも。
もしかしたら、もっといろいろ。
ももはそういうところ、ちゃんと筋を通したい人だもんね。
でもね、もも。

「ツグさんには、はじめにいっときたくて」

ももの答えを聞いてから、あの人には言いたかった。
なんて言ったら、もっとももを傷つける気がしたから言わなかった。
多少ふらふらしてる頭でも、そのくらいは簡単に想像できる。

「その呼び方やめてって何度も言ってるんですけどー」
「はは、ごめんごめん。そーだった」

ももは思った通りのツッコみをしてくれたから、許してにゃんって雑にやってみせる。
重たくなりかけた空気は、ここでおしまいにしたかった。

「ま、でも。マジで信頼してるから、もものことは」

今までだって嘘はついていないけど、これだけは一番の本当だった。
伝わってほしいと祈りながら、ももをまっすぐに見つめる。
今度は目をそらされなかったことに、うちは勝手に満足をした。

「ありがと、ちょっとすっきりした」
「ならいいけどさあ」

何か言いたげな雰囲気を醸しながら、ももはそれ以上何も口にしなかった。
聞いてみたい気もしたけど、ももが踏み込むべきじゃないって判断したなら無理に聞き出すのは違う気がした。
うちが話したかったからとか適当なことを言って、会計は勝手に全額支払った。
貸しを作っとけば、また次も会ってくれないかな、なんて下心があるのは内緒。

101 : 名無し募集中。。。@無断転載は禁止2017/06/04(日) 00:25:47.72 0


外に出ると、露出した肌に排気ガスやら湿気やらが混じった空気がまとわりついた。
タクシーを拾うつもりなのか、ももの足が大通りに向く。
でも、今の時間を終わらせてしまうのが惜しくて。
そっと服の裾を掴んだら、ももは当たり前のように振り返ってくれた。

「どうしたの、みやびちゃん」
「なんでもないけどぉ……ちょっと、のみすぎた」
「そーだね」
「ももはぁ、なんでよってないの?」
「酔ってる酔ってる」

酔ってますって雰囲気を全面に出しながら、わざと舌ったらずな喋り方をしてみる。
ももは、呆れたように笑った。

「うち、あるいてかえろーかな」
「え? 駅まで結構あるよ?」
「んー、でもくるときあるいてきた」
「そりゃ酔ってなかったから……」

酔ったふりをし始めると、なんだか本当に酔っているような気がしてきた。
今くらい、わがまま言ってもいいじゃん。
タクシーなんか乗っちゃったら、あっという間に終わっちゃうよ。
それに、今の二人の時間に、誰か別の他人が入ってくるのがなんだか嫌だった。

「あーもう分かった。歩こ」
「わあい、もも、すきぃ」
「ちょっと、ほら前向いて歩いて」

ももに体重を預けてひっつこうとしたら、引き剥がされた。
まだ、意識されてるんだ。
そう思うと胸が弾む一方で、うちはすごくすごく悪いやつなんじゃないかって気持ちになった。

それから駅までは、何を話すわけでもなく並んで歩いた。
ももの方からも何も言ってこなかったけど、二人のテンポで進むのは悪くなかった。
駅の改札に入った後で、ももとうちとで向かうホームが違うことに気がつく。
うちにとってはあの人に部屋に行くことが自然になっていたけれど、ももにとっては自然じゃないんだった。
背中に視線を感じて振り返ると、ももは今にも泣きそうな顔でそこに立っていて。
ここで立ち止まっちゃったらもう歩き出せない気がして、エスカレーターに乗っていたのはわりと無意識だった。

「またねー、もも」

笑ってほしいとまでは望まないけれど、泣いてほしいわけじゃないから。
意識してあっけらかんと言うと、ももがバイバイ、と言ったのが聞こえた。

バイバイ、だって。
今まで、またねとしか言わなかったくせに。
耳に残るももの声に溢れそうになったものは、ぐっと上を向いて堪えた。

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