ブログ「日々是千早」もよろしくね!

[SSメモ] xx 2011/11/27 29-617[6]

以上のスレ投下分にブログに続きとして連載、完結したときの仕様です。
(これとは別に続編をスレッド投下ように編集しなおしたREMIXもあります)

  • 以下本編-


◆1 母

一人暮らしがしたいと千早が言い出したのは、Cランク昇格直後のことである。
家事や学業の負担による影響を考えれば、当然反対したいのだが
決然とした千早の表情をみれば、それが得策ではないこともよく分かる。
彼女のご機嫌を損なわずに打開する適切なプランを考え、そこに思い至った。

「無条件に賛成できんが、千早の意思も尊重したい。親御さんのご意見はどうなんだ?」

予想通り千早は黙って俯く。
離婚後、母親と二人で暮らしているという話はこの前聞いた。
その時の様子から、母娘の関係が上手くいっていないのは推察できた。
つまり独り暮らしはその延長にある話であり、
問題をこじらせれば、影響は彼女のメンタルに及んでしまう。

「まだお母さんとは話、していないんだな」

そう聞くと、無言で頷いてから不貞腐れた顔で俺を小さくにらむ。
家を出たいからあなたが何とかして、とこの幼い歌姫は仰せのわけだ。
独り暮らし云々はともかく、これは千早の母親と話をする絶好の機会である。
本人が明かさない家庭の内情を掴めるかもしれないし、上手くすれば…
いや、今の段階で高望みはするべきでない。
まずは情報を集めること。どうするかはそれ次第である。
俺の第一義が、千早をトップアイドルに仕立てることにあるのを忘れてはいけない。

「分かった。君のお母さんと話をしてみよう」
「……では、お願いします」
ほっとした顔を見せた千早に、俺は母に渡すよう名刺を託けた。
生意気で強情なところのある小娘だが、大切な存在であることに変わりはない。
千早が笑顔でいてくれるに越したことはないのである。



母親から連絡が来たのは翌日のことである。

「千早、この日君は春香たちと地方にいく予定だったな」
「ええ。それが何か?」
「君自身のプライベートな話し合いの場になぜ本人が同席しないのかな?」
「プロデューサーがあの人と話をつけてくれるといったではないですか」
「確かに言った。でも君がいなくていいとはいってない、君の母親なんだぜ」
「母といっても血縁だけの存在。子供をネグレクトするような人と話し合うつもりはありません」

実母に対し容赦の無い言葉を淡々と並べる千早。
その表情と口調に問題の根深さが感じ取れるが、あえて追及はしなかった。
この子は人が思うほど無愛想でも冷たくもない、少しばかり不器用なだけだ。

「分かった。だが、話の結果がどうなっても文句は言うなよ?」
「かまいません。プロデューサーにお任せすれば上手くいくと信じていますから」

勿論きっちり話をまとめる自信はあった。
そして千早の信頼を、できれば公私共々頼りになるパートナーであるという認識を
抱かせたいというのが俺が密かに書く絵ズラなのである。


人と会う場合、ホテルというのは実に便利な場所である。
待ち合わせ、喫茶に食事あるいはアルコール、場合によっては客室。
さすがに今回は喫茶室あたりが妥当だろうが、できればレストランに誘えるような
フレンドリーな会見になってくれれば言うことはない。
そんなことをぼんやり考えながら、俺はロビーのソファーで入口を眺めていた。

あれ、千早?
入口に現れたスーツ姿の細身の女性。
よく見れば似ているわけではないが、身にまとう雰囲気から千早を連想したか。
そのとき携帯が振動で着信を伝えた。通話ボタンを押してロビーを見回したとき
さっきの女性が携帯を耳にあて、こちらを見て目が合った。
それが千早の母親との初対面だった。



「こんな若い方とは思っておらず、先ほどは失礼しました」

初対面の挨拶で狼狽していたのはそういうことか。
やはり先入観など持つものではないと実感する。
千早の言葉だけを聞いていると、冷たい利己的な母親を想像してしまいがちだが
目の前にいるのは、愛する息子を事故で失い、その後8年間家庭不和に苛まれ
その果てに夫と離別し、娘にすら見放されようとしている哀れな女だった。
遠めにはすっきりとみえたスーツ姿も、間近でみれば草臥れた感じは隠せないし
精一杯と思えるメークも、時代遅れな感じがいかんともしがたい。
唯一の救いは、大人びて見える娘とは反対に若く見える童顔であることか。
実年齢はともかく、30前半に見えなくも無い容貌のおかげで、多少やつれた感じが
かえって女の色気を感じさせてくれている。

まずはリラックスしてもらわないと。
緊張を隠せない彼女を観察しながら、俺がそう考えたのは千早の用件のためでもあるが、
彼女を見て抱いた個人的興味からでもあった。
かつてはさぞ美貌だった…いや、今でも十分魅力的な女性のはずである。
それを引き出し見てみたい。その理由が俺自身の欲望であったとしても。

「ええ、多分私の方が若造のようですから、そんなに改まらないでください」
「そうですか。でも……」
「それに敬語はやめてください、もっとフレンドリーにいきましょう。ところでえーと、
本当に母親ですか? お姉さんとかじゃなくて?」
「あら、からかわないでください。そういうノリにはついていけませんから」
「からかうだなんて。千早さんを生んだのは実は10代の頃だったとか」
「まさか。今時の言葉で言えばアラフォーってやつですよ」
「そうですか? では詳しい話は食事でもしながらゆっくりと」
さりげなく彼女の肩に手を回してレストランに誘導する。
体型は千早と似ていても、彼女の体には女らしい柔らかさと熱さがあった。



喫茶室の予定をレストランに変更したのは正解だった。
高層階からの夜景やシャンパンといった陳腐な仕掛けも、彼女を解きほぐすのには十分で
おかげでフレンドリーな雰囲気に持ち込めたのはいいが、彼女に請われるまま披露する
芸能界の裏話を、肝心の話に切り替えるタイミングがつかめない。
だがこの時、俺の目的は別のものに変わっていた。

自分がなぜ千早のような、タイプでもない少女に執着するのか、その理由が目の前にあった。
俺は既に彼女を千早の母親ではなく一人の雌として認識している。


どうしたら千早の話にかこつけて彼女をバーに誘い、アルコールを摂らせられるか。
どうしたら保護者面談であるべき場を、大人の駆け引きを楽しむ場所に変えられるか。
久々の狩りの予感に、俺の気分は騒々しく浮き立っていく。
獲物は世間知らずの元人妻、なら変化球よりも直球勝負だろう。

「そういえば肝心の話がまだでした。時間が大丈夫ならバーにお誘いしても?」
「…そういうお誘いは嬉しいけれど、飲みながらするような話だったかしら?」
「アルコールの力は人の本音を見せてくれるといいますから」
「いやねぇ、別に隠し事なんてないのに」
そうは言っても、俺が差し伸べた手に遠慮がちながら手を重ねてくる彼女。
その手を俺の肘に誘導すると、そのままバーに向かう。



「一人暮らしの話、あの子がいいだしたことなら賛成するつもりよ」
「いいんですか、それで」
「どうして? 他に何か選択肢があるのかしら」
「家を出たいと思う理由が無くなれば、一人暮らしなど望まないかと」
「……確かにそれは理想だけど、もう無理なのよ、そういうのは」
「事情を知らずにいうのもなんですけど、簡単に諦めてしまうことでしょうか」
「もういいの。あの子の望みを叶えてやれるなら、なんだっていいの」
「……分かりました。そのように話をすすめます」
「ねぇ、そんなことより。こういう場所でお酒を飲むなんて独身以来なの。
少しくらい気晴らししたっていいわよね?」
「ええ、もちろん」
「千早のことはあなたに任せます。それがあの子に一番いいとと思うから」
「それは責任を持ってそうさせていただきますよ」
「でも……今夜だけは、お願い、忘れたいのよ私だってつらいことやいやなこと……」

目的や過程がどうあれ、今夜の終着点がどこかお互い分かっていたと思う。
あと必要なのは、彼女の背中を押す力、ただそれだけだろう。
三杯目を干す頃、さして強くなさそうな彼女の肩を受け止め、俺たちは寄り添いあう。

「あまり強くないのなら、そろそろお酒は……」
「まだ大丈夫よ。ちゃんとエスコートしてくれるのでしょう?」
そういってお替りを頼もうとする手を俺はとどめる。
「帰れなくなりますよ?」
「……いいのよ、もう帰る場所なんてどうだって」
「帰さない、という意味だとしたらどうします?」
俺は無言でルームキーをカウンターに置いてみせた。

「……年上をからかうのって、面白い?」
「冗談でこんなことはしません。本気です」

彼女はキーから目をそむけ、立ち上がろうとしてよろける。

「ほら、つかまって。エスコートします」
今度は彼女から手を絡ませてきた。
抱きかかえるようにして彼女を部屋に入れ、ドアが閉まるのももどかしく
俺は彼女を壁に押し付けて唇を重ね合わせる。
だかその薄い唇は震えながら、固く閉ざされ開こうとはしない。
思い浮かぶ千早の口元を振り払いながら、俺は何度も舌でなぞる。
それでも応じてくれない彼女を抱き寄せ、その耳元に口を寄せた。

「僕じゃ、だめなんですか? ならなぜここまで付いてきたんですか」
「……だめ、あなたは千早のものでしょ。私なんかが……こんなことしちゃ」


俯いてしまった彼女の顎に手を添え、顔をあげる。
「今はそういうのは関係ありません。一人の男と一人の女、それじゃだめですか
「……やっぱり駄目。やめましょう、こういうのは…んっ!?」
あとの台詞を唇で塞ぎ止めると、彼女もすぐ瞼を閉じた。
舌で催促するまでもなく、今度は彼女も素直に唇を開き、すぐキスが深くなる。
千早に似た薄い唇を夢中で貪り、華奢な体をしっかり抱きしめた。

千早より少し背が高いが、華奢な分重さは感じないその体を抱き上げると
ベッドに運んで無造作に落とした。
ヒールを脱がせ、俺も上着を脱いでベッドに上がる。

「明かりはつけないで」
手で顔を覆った彼女が、かろうじてそう呟く。
覆いかぶさり、もう一度唇を重ねる。
先ほどよりも積極的に舌が絡まり始める。
荒い呼吸。押し殺した喘ぎ声。
ブラウスのボタンを慌しく外し、そのままブラの中に手を差し込む。
娘より一回りだけ大きい乳房。だがしっとりと汗ばんだ肌が掌に吸い付くようで
柔らかく重みが感じられる乳房を手のひらで包みゆっくりと揉んだ。

「あぁっ……」
ずっと堪えていたらしい女の声を、一旦こぼしてしまうともう止まらない。
ブラを押しあげ、曝け出した乳房を揉み、乳首を指でつまみ、舌で啄ばむ。
吐息と喘ぎに、どこかぎこちなさがあるのは長かった空閨のせいか、
それとも元から経験が少ないためか。
どちらにせよ、やることに変わりは無い。

体型も表情も声も、全てに千早の面影を宿していた。
そして体つきも、恐らく千早が成人したら恐らくこうなるだろうという風に。
千早の母親を抱こうとしている現実より、未来の千早を犯そうとしている錯覚。
それが俺をさらに激しく滾らせる。

「ねっ、待って……さきシャワー浴びさせて」
俺の手がスカートのホックにかかると、不意に慌てた声があがる。
「駄目ですよ」
そのままスカートを脱がせて放り投げると、ショーツに手をかける。
「いやっ……」
押さえようとした手を頭の上でひとまとめに拘束する。
スイッチに手を伸ばし、さらにスタンドを燈すと、途端に部屋が橙色で満たされる。
子供のように手で顔を隠したのを幸い、じっくりとその半裸身を眺めてみれば
ピンク色の洒落たショーツは新品かそれに近いらしく、ブラともおそろい。
つまりはそういうこと、なら遠慮するのは彼女に失礼だろう。
抵抗は言葉だけで、体、特に下半身にもう抵抗の力は残っていない。
ショーツを下ろしてしまうと、足首を掴んで大きく開いてやった。
薄めのヘアーに飾られた彼女のその部分。
開き始めた花弁は充血して紅く、その中はもうすっかり雌の沼地と化してしまっている。

「駄目、見ないで……お願いだから」
「綺麗ですよとても。だからここにもキス、してあげます」
「や、やめて。汚れてるから、シャワーあびてないから、やめて」
力ない抵抗を押さえつけ、足首を掴み拡げるとそのまま口をつけた。

濃厚な女の味だった。
流れ出る愛液は強く粘り、舌に喉に絡みつく。
彼女が恥じるような汚れはなく、かすかな尿臭すらほどよい刺激となって鼻をつく。

「やぁ、だめ、いや、やめてぇ、お願い、だめなの、やぁ、いやぁ……」
制止の声はもう力を失い、ただ惰性だけで続いている。
「やめてもいいですか?」
「だめ、やめないで、もっと……ひさしぶりなの、だからお願い、いっぱい」
ようやく堕ちたか。
俺は彼女の秘部を丁寧に嘗め回しながら服を脱いでいく。

のしかかりあてがうと、彼女は俺の意図を察して薄く目を開ける。
「ねえ、危ない日なの」
「わかっていますよ」

服を脱ぐとき出しておいたパッケージを示してみせる。
それだけで安心したのか、目を閉じた彼女にあてがい腰を前に進める。
先が潜り込もうとしたところで抵抗がそれを拒む。
狭く、硬い。
彼女の眉間に深いしわが刻まれる。
長い空閨のあとだろうから早急にはしない。
緩慢に抜き差ししながら、ようやく整い始めた潤いに男根をなじませる。

慣れ始めた膣口が先端を包み込むと、そのまま滑り込ませる。
今度はもう拒まなかった。
「あっ、ぁあん!」
背中にまわされた彼女の手が爪を立てる。
大きなため息とともに表情が緩み、あとは腰を押すだけで全体が呑み込まれていく。
すべてを収めきったところで一旦動きを止めると、彼女の頬に手をやりキスを浴びせる。
「そろそろ動いて大丈夫ですか?」
「……待って。お願い、しばらくこのままで……」
胎内に迎え入れた異物の感触を味わうよう、ゆるやかに深呼吸を繰り返す彼女。
その吐息に合わせるよう、包まれた男根が軽く締め付けられる。
「痛くはないですか?」
「……馬鹿」
それが俺の冷やかしだと知って、彼女は顔を赤らめながら腕をつねる。

「まだ動いちゃだめですか?」
切羽詰った声を装い、俺はセックスに初心な若者を演じてみせる。

「我慢できないの、君は」
俺が渡した主導権を、彼女はためらいながら使ってみせる。
「早く、教えてください。どうしたらいいか……」
「いいわ、動いても。でもゆっくりよ?」

俺は彼女の目を見つめながらゆるやかにピストンをはじめる。
「どう、女とするのは気持ちいいかしら?」
「はい。すごく……もっと動いても?」
「ええ……いいわっ、あぁ、そう、上手よ、少しはやく……」
そうして抽送をしながら、彼女の感触を存分に味わう。

「ねえ……このこと、絶対に……」
「千早には内緒に、でしょ?」
「そう、あっ、んっ……死んでも内緒よ、んぁっ、はぁあん、言ったら殺すわよ」
「あなたに殺されるならベッドの上で」
「あぁっ、ば、馬鹿なこといわないの……やっ、そこ……あたる」

もう大丈夫かと、俺は膝を立てると彼女の腰を掴み激しい動きを加えていく。
彼女の手が催促するように尻に回され、その腰も妖しくうねりはじめていく。

「あっ、あ、あ、あああ、やぁ、もっと、い、いい、あぁん、いいの……」
長らく遠ざかっていたとしても、体質のせいか愛液は豊富だった。
ペニスを抜き差しするたび、じゅぷじゅぷと溢れた愛液が泡立ちシーツを浸していく。

「あ、ああ、だめ、くる…き、きもちいいの、いく……いきそぉ」
「いいですよ、僕も合わせていきますから」
「おねがい、いっしょに来て、もっと、強く、あああ、そこ、もっと強くぅっ」
「僕もいきそう、行きますね一緒に」
「ええ、きて、いっしょに、いく、いきそう、ああ、いっちゃう、だめぇ、いくぅーー」
「僕も行きます、中に一杯出しますから、受け止めてくださいね、お母さん」
「あああ、あ、え、やぁ、駄目よ、出しちゃ、出来ちゃうから、だめぇぇぇぇ」
「孕んでください、そうしたら家族になれますから」
「駄目、やめぇ……あっ、出さないで、ほんとに、やぁっ、いやぁあああ!」
「……いく!」
快感と抵抗にさいなまれながら、なんとか逃れようともがく腰を強く引き寄せ、
その最奥までペニスを打ち込み、子宮口をこじ開ける勢いで俺は引き金を緩めた。
溜まっていた分射精は長く続き、逃れようとした彼女も途中で抵抗を諦め
快感を貪ることに集中した末、そのままベッドにぐったりと落ちた。


「年上をからかって楽しかった?」
シーツにくるまった彼女は、そういって俺の胸をさっきから強く抓っている。
生で入れたのは最初だけだ。途中で体位を代える隙を見て手早くゴムは装着していた。
もちろん、終わったあとすぐに抜いてそれを彼女に示して見せてのことである。

「もし本当に出していたら?」
「冗談でもそういうこと、言わないの。今度いったら」
「それが本気だとしたら、許してもらえますか?」
「……冗談はやめなさい。それより今何時?」
「もうすぐ11時ですけど。帰るつもりなんですか」
「そうだったわね、今日はあの子……」
「そういうことです。大人の時間はまだまだありますから」
「シャワー、浴びてくるわ」
そういって彼女は立ち上がると散らばった衣類を拾い集め、バスルームに向かう。
その後ろ姿は、千早ほど引き締まってはないが弛みもほとんど感じられない。

薄化粧をしてバスローブ姿で戻ってきた彼女と入れ違いに俺も浴室に入る。
もう一度、今度は恋人同士のようにもっとゆっくり丁寧に愛し合おう。
そう思いながら部屋に戻ったとき、既に彼女の姿は無かった。

テーブルの上に一枚のメモがあった。
千早とそっくりの、丁寧な文字はこうかかれていた。

「今夜のことは全部忘れて。千早のことお願い。大事にしてあげて」


◆2 母語り

初対面の相手と会ったその日のうちにベッドを共にし、あまりの快感にはしたなくも
相手の男性に催促までしたうえで、あっけなく絶頂させられてしまった。
3年にわたる空閨を経てなお、私の体は性の快楽を忘れていなかった。
それどころか冷水のシャワーを被っても、収まるどころか昂ぶる一方に性欲に
私は恐怖を感じ、浴室にいる彼に断りもいれずに逃げ出したのである。

酒の上での一夜の過ち、忘れてしまうしかない。
けれども、目覚めてしまった女の本能はそう簡単にはいかない。
ベッドにはいるたび、彼と過ごした夜を思い出しては指を蠢かせ
後悔をかみ締めながらあの夜の続きを夢想している。
私にとって、セックスというのが悪夢に等しい忌まわしい行為のはずなのに。



壊れかけた家庭が崩落したきっかけはセックスだった。
夫との行為、特に最後のそれには忌まわしい記憶しか残っていない。
破綻しかけの夫婦に残された唯一の関係が、口論の果てに行う争いのような交わり。
決して心の通じないうそ寒い交わりでも、体温や吐息の熱さは感じることができる。
無言で抜き差しを繰り返す夫の背中に手を回し、私は喘ぎ声をかみ殺しながら
惨めさに埋もれそうな快感を、懸命に集め味わおうとしている愚かな私たち。

そして終局というのは馬鹿馬鹿しいほどあっけないものだった。
出かけたまま遅くまで戻らないはずの娘に、事後の姿を見られることがなければ
この異様な営みによる夫婦の関係は歪ながらも続いたかもしれない。
その日を境に、娘は父親に対するのと同様、私に話しかけることをしなくなった。
性交を終え、だらしなく呆けるような母親に、真面目な娘がそうするのは当然だろう。
異様な夫婦の営みはそこで終わり、離婚への秒読みが始まった。

娘の気持ちを踏みにじった行為。千早のため? 千早のためって何?
既に妻でなく、まもなく母でもなくなる。そうなれば、あとに残るのはただの“女”だ。
空っぽになった女が空白を埋めるものを求めるのは悪いことなの?
彼があの時いった“家族”という言葉。
そんなものに縋るのは愚かな事と分かっていながら、手の中の幻を離せない。

あの夜私は、彼を、男を、セックスを心の中で求めてやまなかった。
その結果、不憫な娘がただ一人心を許す大切な存在を誑かし咥えこんだ。
新しい下着を身に着けたのは、女性の身だしなみだという言い訳。
部屋についていったのは、酔いを覚ますためだったという言い訳。
いかなる言い訳も、彼の逞しいペニスに貫かれてもだえた事実は覆らない。
そうなることを、心のどこかで期待し、待ち望んでいた事実は隠せない。

そして今ベッドの中で、またあの夜の出来事を思い出している。
もちろんそれは後悔や反省ではない。
雌の欲望が命じるまま、手をパジャマに差し込み、下着をくぐらせる。
湿っているなど生易しいくらい、花弁の中が熱い沼地と化しているのは、
平凡な交わりしか知らないかった私に、セックスの快楽を刻み付けた彼のせい。
だったら、その張本人に責任を取らせるのは当然のこと。
携帯を開き、放置していた着信の番号をプッシュする。
耳に心地よい彼の声を聞きながら、沈めたままの指を中でうごめかせる。

性欲という本音を、娘のためという建前で覆い隠した大人の会話。
ついに私は、あの若い雄に再会を約束させてしまっている。
一度きりなら過ちで済ませられたとしても、二度目となるとそうはいかない。
娘を守ろうとする母親としての理性が、淫欲に溺れる本能にあっさりと負けて
再び彼に抱かれることは、一体どのような罪になるのだろう?

「あまり時間がないし、もうお酒は駄目よ」
「かまいません。ただ重要な書類なので人目に触れる場所ではまずいんです」
そういって彼はバッグから封筒を覗かせる。
「……そう。で、どこで見ればいいのかしら」
必要だけれど馬鹿馬鹿しい茶番を演じながら、私たちは密室に向かう。
彼も心得たもので、ドアが閉まる直前にはもう私の唇を塞いでいた。

ほんの少しだけ抗って見せながら、若い彼の情熱的なキスを堪能する。
息継ぎに与えられたわずかな時間、弱々しい声で抗議を口にするのは
それを塞ぐため、すぐ次のキスをもらえるからでもあり、そうしたほうが
大人しく愛撫を受けるだけの女より、彼の加虐心が刺激されるはず。

「いっておきますけど僕は本気ですよ?」
抱き上げられたまま耳元で彼に囁かれる。
お姫様だっこで喜ぶような年ではないのに、弾む心が止められない。
「駄目よ、前にもいったでしょ。あなたは千早を……んっ」
「今はその名前を聞きたくありません」
「やめなさい、体だけでいいなら、いくらでも遊んであげるから」
「……しょうがない。遊びじゃないことを分かってもらいますよ」

ベッドに落とされた私を見ながら、彼が服を脱ぎ捨てていく。
全裸になった彼の中心には、既に逞しいペニスが天を仰いでいる。
それから目が離せない私は、催眠術にかかったように自ら服を脱ぎ始める。
彼のぎらぎらとした目が見守る中、脱いだ下着を放り投げると
生まれたままの姿になり、ベッドの傍らに突っ立った彼の前に膝をついた。

あの夜、私に堕落の烙印を焼き付けた彼のペニス。
手を沿え、透明な液体をにじませた先端に唇を寄せてその味を確かめる。
こんなことをするのが初めてだと、彼は気づくだろうか?
膨らんだ先端に舌を絡ませみてから、思い切って喉の奥まで深く飲み込んだ。
えづきそうになるのを堪えていると涙が滲んでくる。
そんな私の髪を優しく撫でながら、それでも彼は口を犯すことをやめようとはしない。
犯されることで得られる、男に支配されていく感覚。それだけで私は溢れさせている。
やがて彼は私をベッドに寝かせると、待ち望んでいたものを押し付けてきた。
それが抜き身のままであることを確かめ私は目を閉じる。
彼の本気がそういうことなら、私にも私なりの本気がある。


酔っていた前回と違って、与えられる感覚は鮮明だった。
自分の指で繰り返したシミュレーションを遥かに上回る快感がいきなり押し寄せ
あとはただ彼のするがままに翻弄され、あっけなく理性を手放してしまう。
かろうじて彼の肩に唇を押し当て、止まらない喘ぎを押しとどめようとするが
彼は意地悪く笑い体を交わす。
「ほら、我慢しないで声きかせてください」
「いや、駄目よ恥ずかしい……お願い、あっ、そんな、だめ、そこ、もっと」
「ほら。感じてるんでしょ? 声と顔で分かりますよ。それに腰だって」
「ち、違うわよ、あぁ……ちがう、もっと、お、奥まで」
彼の慎重で丁寧な愛撫が物足りなくなり、無意識に腰を振り始めていたらしい。

「じゃあ、こういうのはどうですか」
強引に抱き寄せられたと思えば、体がひっくり返され彼の上にまたがる格好になる。
「ほら、こうして自分の気持ちいい場所、探してください」
仰臥した彼の上で、言われたとおり自分で腰を動かしてみる。
体重をかけているせいか挿入は深く、奥をノックされているのが分かる。
「あっ、あたってる……んっ、いいわ、ここ…、あぁっ!」
それからは夢中になり、彼を貪るように腰を動かし続けた。

何度も達しそうになって遠のきそうになる意識を、突き上げてくる刺激で取り戻され
乳房、お尻、脇腹、お腹と縦横に動く彼の手が、次々と私の快楽を目覚めさせ
そのたびに私も顔を寄せて唇を与えてあげる。

「そろそろ、いいですか?」
「駄目……まだよ、もっといっぱい」
「そんな、もう我慢が……」
切なそうな顔をみて、ついいじめてみたくもなったけれど、彼の切迫は本当だったらしい。
「いきますよ、このまま」

彼は起き上がると、つながったまま私の体を持ち上げる。
ベッドの上で胡坐をかいた膝の上に載せられて向かい合わせになると
彼は私の名前を、初めて私の名前を呼びながら抱きしめてくれた。
そうして私は、子宮に勢いよく叩きつけられる精液を感じながら果てた。



「これで出来たなら、僕と、その……一緒に」
あとの言葉を指で塞いだのは、情事のあとの気だるさをもう少し味わっていたかったから。
男の腕を枕に、胸の中に抱きしめられるのは悪いものではなかった。
「あなたが本気なのは分かっているわ」
さっき受け止めた精液がとろとろと溢れていくのを感じ、私は目を閉じる。
私の子宮がどれだけの精液を飲み込んだのかと考えながら。
空っぽの子宮に虚しく満たされる彼の精液。

「千早だってきっと分かってくれます」
ため息をかろうじて抑え、生真面目な彼の横顔を盗み見る。
分かるはずもないのに、どうして男はこうも愚かな夢を見たがるのだろう。
返事の代わりに胸を抓ってやる。
それならあなたが千早と家庭を築けばいいのに。

「ねえ……あの子、まだ処女かしら?」
「さあ、多分そうだとは思いますけど、なぜそんなことを」
「あなたが教えてあげたらいいかと思って」
「母親のいう台詞じゃありませんね」
「母親だからこその意見だと思うけれど。それともあの子なんてダメかしら」
しばしの沈黙で真意を露呈してしまうのが若さであり彼の実直さというべきか。
「……それより、まだ時間ありますよね?」
返事をする前に、彼はもう私の体を押し開こうとしている。
はっきり応えない私に焦れたのか、それともまた催しただけなのか。
まあ、理由などどうでもいい。
体で済むことなら、どれだけしようと、何をされようと。

結局その夜は中に2回。それから口にも一度。
初めて口にした精液は私の人生のように苦く後味が悪かった。
それでもまあ、彼がが人生最後の男というのは、そう悪いことでもない。
喉にからまる精液を唾液で流し込みながら私は改めて決意を固めていた。
先の見えない、いや破局に向いて突っ走るような行為を続けるほど
私は愚かでも未熟でもないつもりだった。
この手に抱く赤ん坊が、自分が産む子供であってはいけない。
それは千早が、大切な娘が生んだ赤ん坊でなければならないのだから。

千早の引越しが決まるまで、さらに数回彼と体を交えたのは
彼の期待を込めた膣内射精に応えるためなどではない。
この先の人生を独りで歩けるよう、女としての記憶をできるだけ沢山抱えていたい、
ただそれだけだった。



◆3 千早語り

ささやかな荷物をワゴン車に積み込んだら、もう引越しはそれでおしまい。
今までお世話になりました、と別れの挨拶を告げた私に、母はポツリと言った。
「彼のこと、好きなのでしょ」
「……えっ、何?」
聞き返したけれど、もう母は口を開かなかった。

新居への道中、あの言葉の理由を考えたけれど答えはでなかった。
母の言う通り、確かに私はプロデューサーのことが好きだけれど、
それは人として好きという意味で、恋愛の要素は含まれたりしない。
時には厳しい指導者、時には優しい兄のような存在である仕事のパートナーに
好意を持つのは当然のことだし、私の態度をみればそれはすぐ分かることだろう。
それを母があのタイミングで言う必要、あるいは理由はいったい何?

「さっきから静かだな。千早でも感傷にふけることもあるのかな」
「変なこと言わないでください。ただ考え事をしていただけです」
「お母さんのこと?」
「……まあ」
内心をずばり指摘されて驚いたが、彼の言葉に他意はないようだった。
今度の件で二人は何度も話し合いをしているから、大人同士で人間関係ができて
いるのは自然だし、さっきだってそれなりに親しい感じで会話していたし。
もしかしたら、二人の間で私についての話があったのかもしれない。

「あのプロデューサー、母は私のこと何かいっていましたでしょうか?」
「ああ、頑固で意地っ張りでどうにも扱いにくい娘で困ってるって」
「ふ、ふざけないでください!」
「ははっ、千早のことよろしくお願いしますとは頼まれたけど、それくらいだな」
「そう、ですか。ではあの、プロデューサーは母のこと、どう思いますか?」
「どう思うって、それはどういう角度の質問だい?」
「えっと、それはあの、一般的な質問です」
「千早に似て美人」
「聞いた私が馬鹿でした」
「千早に聞いていたほど酷い人とは思えない、それが正直な感想だな」

彼の意見は間違っていないから否定はしない。
私だって問題の原因が何かくらい分かっている。ただそれに納得できないだけなのだ。
彼が母に好意的なのも否定はしないけれど、やはり納得はできそうになかった。



待望の一人暮らしが始まったけれど、どうにも心がざわついて落ち着かないのは
新しい環境に慣れないというより、母の言葉が心に引っ掛かっているせいかもしれない。
何故なら、あのとき母が一瞬浮かべた表情には見覚えがあったからだ。
忘れもしない3年前のあの日、偶然見てしまったあの行為直後の母の姿。
その時浮かべていた“女”そのものの表情が、あの別れの日とまったく同じだった。
両親の性行為を見るなど嫌悪以外の何物でもないのだけれど
あの表情だけは、なぜか私にはとても自然で印象的な記憶として刻み込まれている。
いったい母はあの表情を浮かべ、何を思っていたのだろうか。

そうしてもう一つの変化。
プロデューサーのことを、変に意識してしまいがちになっていること。
今まではそんなことは全くなかったのに、例えば二人きりでいるときなど
妙に彼のことが気になって仕方がない。
心がざわめくのは同じでも、こっちの方は心地よい感覚とでもいっていいのだろう。
それが恋愛感情のわけはないと思うのだけれど
だとしたら、この感情は一体何……?



多忙な日々を過ごしていれば、母の言葉やプロデューサーへの過剰な意識も
自然と薄れがちになってくるものだけれど、ささいな拍子に思い出してしまえば
またしばらくはもやもやを抱えて過ごさなければいけない。
仕事に影響を及ぼすほどではなくても、寝つきが悪くなるのもまた事実。

今夜眠れない原因はプロデューサーの携帯電話。
いつもは私に構わず電話に出ていた彼が、最近になって妙に声を潜めたり
席を外すようになったこと。
プライベートな電話かもしれないけれど、今までにはそんなことがなかったから
相手や内容がどうしても気になってしまう。
自分だけがプロデューサーにとって特別の存在ではなくなっていること。
今日のように席を外す彼の口元が綻んでいたのが見間違いでなければ
彼に問いただしたい衝動に駆られるほど私の心は乱されている。
そしてプロデューサーの電話の相手はほどなく判明した。

打合せの途中、プロデューサーが社長に呼ばれて席を外した。
テーブルには飲みかけのまま冷めたコーヒーと彼の携帯電話。
悪いことだと分かっていながら、自分を止めることができなかった。
小さく震える手で携帯を開く。
昨日のあの時間の通話履歴には見たことのない会社の名前。
電話番号を記憶して携帯を元の場所に戻すと、自分の携帯にメモしようとして
その番号を入力した途端、画面に現れたのは「母」の一文字だった。

プロデューサーが母と電話でやり取りすること自体おかしなことではない。
定期的に私の状況を報告するという約束が交わされているからだけど
そこまで頻繁にする必要はないはずだし、そもそも変な会社名で登録する理由が
思いつかない。その上なぜ私にこそこそしなければならないのか。
もやもやは黒い雲のように心の中で膨らんでいく。



あれから何度か携帯をチェックしてみたけれど、二人は定期的に連絡を取り合っている。
平均すれば週に1、2度。電話の内容はわからないけれど、彼の行動を見ていれば
私にも大体の推測はつく。
仕事が早く終わった時、プロデューサーがさっさと帰ってしまうその行き先。
本来なら私との食事や買い物に付き合ってくれているはずの時間を奪ったのが誰か。
それに対して私がどうすべきか。

仕事が遅くなった日、彼の車で自宅まで送ってもらった夜に私は決心をした。
コンポの調子が悪いと偽り、彼を家にあげる。
その間に寝室で準備を済ませてから私は何度も何度も深呼吸をする。
うまくいく自信はないけれど、失敗した先のことなど考えられない。

「千早、別に悪いとこ無さそうだけど……ちょ、おい!」
照明のスイッチを消して、彼の背中に抱きついた。
「プロデューサー、教えてください」
「どうした千早。子供みたいだぞ」
「もう子供扱いしないでください。プロデューサーは私のこと、す…好きですか」
「好きに決まってるだろ。候補生の千早に一目ぼれしたって」
「違います、そういう意味ではなくて」
「俺と千早にそれ以外の意味なんてあるのか?」
「あります。私と母どちらが好きか答えてください」
「おいおい、変なこというなよ。なんでお母さんが出てくるんだ」
「で、では……母は関係ないのですね?」
「千早、とにかく落ち着けって。ちゃんと話をしよう、な?」
「私はただ質問に答えてほしいだけです。話し合いなんて……」
「じゃあ千早のその格好。それにどうして電気を消したんだ?」
「……分かっているくせに」
「分かっても、はいそうですと俺の立場じゃいえないんだよ」
「今は関係ありません。誰も見てません。それに誰にもいいません」
「わかったから、とにかく背中から離れなさい」

渋々と私が背中から離れた瞬間、プロデューサーに引き寄せられて
今度は私が彼に抱きしめられていた。
彼の顔が真正面に来たと思ったら……
そのまま
キス
された。


「これで分かったか?」
「……は、はい」
「じゃあ風邪引くまえにちゃんと着替えてきなさい」
「あの……プロデューサー、私…その、か、覚悟できてますから」
「覚悟って何の覚悟かな?」
「えっ、それはつまり、ですから……そういうこと、の……」
「そういうことって何?」
「……分かっているくせに」
「千早、その台詞さっきもいったよな。自分で言いにくいこと全部相手に
言わせようなんてちょっとずるいんじゃないか?」
「えっ、あっ……でも」
「千早がもう少し大人になったら考えてみるが今はまだだめだよ」
「どうしてですか。私、そんなに魅力ありませんか?」
「そうじゃない。大人の考え方ができるようになったらって意味」
「大人の考え方、ですか」
「そう。今日の君はまるっきりワガママな子供みたいな振る舞いだったぞ」
「じゃあどうしてキ、キスなんか」
「好きだって証拠、だろ。いいか、俺以外としちゃだめだからな、ははははは」

結局彼は母とのことは曖昧にしたまま帰っていった。
確かにキスはしてもらえたけれど、私がその先に進むためには。
大人の考え方になるには一体どうすればいいのだろうか。
彼を母ではなく私だけを見るようにするには。

いや違う。
あのひとはもう母なんかではない。
家を出た理由がなんだったか。
そしてあの人が私の大切な人に何をたくらんでいるのか。
もう遠慮や気兼ねは必要ない。
私はもうあの人と対等の立場なのだから。

それが大人の方法かどうかはともかく
私の意志だけはきちんと通しておく必要がある。
彼が帰ってからだいぶ時間がたってしまったけれど
そのことに思い至った私は携帯を取り出し、電話をかけた。
だるそうな、眠そうな声の相手に宣戦布告を済ませて電話を切ると
登録名を<母>から彼女の名前に変更をしておいた。


◆4 母と娘

「千早、なんて?」
「宣戦布告されたわ。あなた、あの子に何をいったの?」
「……さあ、別に大したことは」
気まずそうな顔を背けたのを私は見逃さなかった。
この男が千早に何らかの言葉、あるいは行為をもちかけたのは明らかだった。
そのことで男の気持ちに自信を得た千早が電話をしてきたはずである。
けれど経緯がどうあれ千早の気持ちが動き出せば話は早い。
あとはこの男の目をそちらに向けさせるだけの話だ。

「そろそろ私たち、潮時のようね」
「またそんなことを……」
ゆるやかな挿入を受けながら私は彼のたくましい背中に手を回す。
「あなたは私と結婚することがベストだと思ってるようだけど、そうじゃないわ」
「どうして。千早なら僕が説得します」
「私にその気がないから無理よ。そろそろ気づいて、あなたの体を楽しませて
もらっているだけってことに」
「嘘でしょ、そんなこと」
「本当よ。何故避妊もせず妊娠しないか考えてみたことある?」
「まさか……ピル?」
「初めて会った日のあとすぐ処方してもらったの」
「じゃあ最初から子供なんて作る気なかった……」
無言になり動きを止めた彼の肩をあやすように撫でる。

「あなたには感謝しているわ、女として。今度は母として感謝させて欲しいの」
「じゃああなたは最初から僕と千早をくっつけようと?」
「何度もそれは言ったはずよ。それに千早とは……もうキスくらいしたんでしょ?」
「それでいいのですか? こんな風に男と女の関係になっている僕たちが……」
「いいじゃない。私も千早も気になんかしないわ」
「では、本当に千早を僕のものにしてしまってもいいと?」
「あなたがあの子を幸せにしてあげて」
「……わかりました、そのことは真剣に考えます。けど」
「けど、なあに?」
「いえ、何でも」

彼の顔つきが変わり、中で力を失いつつあったペニスが再び漲ってくるのを感じる。
「あっ、ちょっと……まだするの、あっ、ああ……もっとゆっくり、あぁあああ!」

その夜の彼はまるで獣だった。
ひたすら激しく私を責め苛み、そうすることがピルの効果を超えるとでもいうように
何度も何度も私の子宮めがけて射精を繰り返した。


「これで最後ね。女としてとても楽しかった」
「本当にいいんですね、僕が千早を……その、奪っても」
「あの子がそれを望んでいるのだから。でも最初は優しくしてあげて」
「そのあとはどうするつもりですか」
「そのあとって……どういうことかしら」
「僕が千早と関係を持ったあと。たとえば結婚した場合とか」
「あら、それはおめでとう。精一杯の祝福をしてあげるわよ」
「約束ですよ。逃げるのは無しですから」



「用事って何? 私忙しいのだけれど」
「いいから聞きなさい。この間あなたが寄越した電話のことよ」
「プロデューサーのことなら話すことなんてないわ」
「そのプロデューサーのことよ。あなたの勘違いを解いておきたいだけ」
「何が勘違いなのかしら。いまさら誤魔化せるとでも思ったの?」
「誤魔化すつもりなんかないわ。彼と会っていたのは事実だし」
「やっぱりそう……で、あのときみたいに……」
「彼と会ったのはあなたの母親として話をするためだけど、そのあとお酒を飲んで
寝たわ。そのあと何度も会って寝た」
「わざわざそんな汚らわしい告白をしにきたのなら、もういいから帰って」
「汚らわしいなんていうと彼が悲しむわよ。あの人、私に子供を生ませて
強制的に結婚するつもりだったのだから。あなたの家族をつくるためにね」
「う、うそよ。プロデューサーがそんなことを……」
「事実よ。でも安心して、私にはそんな気なかったから。ただ女として
その汚らわしいことをして愉しむだけだったのだから」
「もういいから止めてよお母さん! そんな話聞きたくない!私の大事なもの
これ以上奪わないで!!」
「落ち着きなさい千早。あなたの大切な人を横取りしようなんて思ってないから」
「でも……プロデューサーとお母さんは……」
「終わりにしたわ。どうしても家庭が作りたいなら千早とどうぞってことで。
彼のこと好きなんでしょ? あとはあなたが頑張りなさい」
「……そんな、だって私、まだ」
「いい千早。あなたもいつか分かるだろうけど、汚らわしいなんていわないで」
「ちょっと待ってよ、一方的過ぎるわ、ねえお母さん、私どうしたらいいのよ!」
「私はもうあなたの母じゃないのでしょ? 自分で考えなさい」
「いや、いやだ、そんなのいや!」

胸に飛び込んで泣きじゃくる千早を抱きしめ、その長くて綺麗な髪を撫でながら
私は母親として最後に果たすべく覚悟を決めていた。

「あなたには彼と幸せな家庭を築いてほしい、ただそれだけなのよ」
「……お母さんはどうするの」
「私のことなら心配しなくていいわよ。あなたは自分のことだけを考えなさい」
「勝手なこと言わない。母親っていうのならちゃんと教えて」
「何を教えればいいのよ。ほんとあなたはいつまでも子供ね」
「彼にキスされたときにも言われたわ、大人の考え方ができるようになったら
もっと真剣に私のことを考えるって」
「あなたもそろそろ18だものね。いいじゃない、体から先に大人になってしまえば」
「それは……その、セ…セッ……」
「セックス。あなたまだ処女なのよね。だったら彼と既成事実作ればいいわ」
「そ、そうだけど……それはその……」
「不安なのはわかるけど大丈夫、男と女ならだれでもしていることよ」
「でもどうすればいいとか分からないし、怖いんだもの」
「全部お母さんに任せなさい」

母親が娘の初体験の手ほどきに立ち会うことの妥当性はあえて考えない。
娘の相手をさせる男と私が体を通じているのだ。
世間ではそれを親子丼といって揶揄するかもしれないけれど
それでも親子の絆が回復するのであれば
手段や対面などどうでもいいことかもしれない。


◇ 

「こういう形で会わないと決めたのは確かあなたでしたよね」
「ふふっ、ごめんなさいね。女というのはしょうがないものなの」
「僕は嬉しい限りですけど」

千早を通じてスケジュールを確認し、その夜の一切の段取りを千早と打ち合わせして
予約しておいたホテルに彼を迎え入れた。
口では軽い皮肉をいいながらも、彼の表情と体がその気持ちを如実に表している。
騙すことに気が咎めなくもないけれど、私と関係を持ちながら娘とキスを交わすような男には
相手にしているのがどういう母娘か、しっかり知ってもらうべきだろう。

一緒にシャワーを浴び、バスローブを羽織っただけでベッドに移る。
クローゼットの中では愛娘が息を潜め、今から始まる男女の営みを待っている。
以前彼女に見せたのは、事を終えた直後の女の素顔。
今から見せるのは男を受け入れたときの女の本性だから、
母親であることは頭から捨て最初の奉仕から全力を尽くす。
見ていなさい千早、これが女であるということだから。
私はベッドに寝かせた彼の上に跨ると、クローゼットに向かって合図を送った。

「ち、千早!?」
「ええ、そうよ。千早、よく見ていなさい」
慌てる男にかまわず、私は彼の股間に顔を埋めて既に反応を見せ始めている
半勃ちの陰茎を口に含んで見せる。
「ちょ、ちょっと待って、これはどういうことですか」
「あなたが希望してくれた通り三人で仲良くするのよ。少し形は違うけれど」
そういってベッドに千早を呼び寄せる。

「さっきのは見ていたわね。早速だけどあなたもやってみる?」
「待ってください、いきなりそんなことを千早にさせる気ですか?」
「キスは済ませたって聞いていたからいいじゃないの?」
「そうじゃなくて、こんなのって変です、千早やめなさい!」

娘がためらったのは彼の言葉に対してではなく、目の前に頭をもたげている
男性器が思っていた以上に大きく醜悪な形状だったからであることが分かる。
それでも千早は一つ深呼吸をしただけで、私がしたように顔をそこに伏せて
私の唾液で濡れ光る逞しい亀頭部分をそっくり口に含んでみせた。
私に目線を送る彼女に頷いてみせながら、ゆっくり動かしなさいと伝えてあげる。

「うっ、千早ぁっ、やめろ、あっ、ううっ……」
「そう、上手よ千早。彼も喜んでくれているでしょ?」
そういって頭を撫でてやると、娘は笑顔を見せてより大きく口を動かし始める。
無邪気に、そして懸命に舐めしゃぶる娘の口元から涎が垂れ落ちて
それが陰茎にそって流れるのを見ていると、ただ眺めているのが惜しくなった。
空いている陰茎の下部に舌を這わせ、睾丸も含めて舐め始める。
それを見て娘も舌を伸ばして舐めることを覚え、時折彼女の舌と触れ合うと
お互い顔を見合わせ笑みを交わす。

その頃には彼も抵抗をやめ、自分に与えられる母娘による口淫の光景を
呆けたように眺めているだけだった。
やがて陰茎が小さく震え始め、睾丸が何度かぴくぴくと動きを見せる。
そろそろかしら? 
初めてでいきなり受け止めさせるのはどうかと思ったけれど
そうそう何度も娘のセックスに付き合うわけにもいかないから
今夜できることはすべて教えておいてあげよう。
そう考えた私は口を離し、娘の耳元にこれから起こることとすべき事を伝える。
彼の陰茎から口を外さないまま頷いた千早は、両手で幹をささげるようにもつと
顔を大きく上下させ始める。

「千早、だめだ、出る、だすぞっ……」

直後彼の陰茎が大きく爆ぜて娘の口内に注ぎ込んだのが分かった。
射精はかなり大量だったらしく、目を白黒させている娘の背中をさすりながら
最後にすべきことを耳元に囁いてあげる。

「千早、それが彼の精液よ。こぼさずに全部飲み干しなさい」
「…………!?」
「無理なら手に出しなさい。私がいただくから」
直後千早は大きく喉を上下させ、口に溜まった精液を懸命に飲み下していく。

「苦くて喉にひっかかるでしょ? 洗面にいってうがいしてきなさい」
そういって娘を送り出すと、横たわって虚脱している彼の陰茎を口に入れ
残った白い雫を吸い出してから陰茎全体を舐め上げてきれいにする。
「今からが本番なのよ、まだ大丈夫かしら?」
「本気なんですね、あなたは」
「そうよ。前からいっていた通りにね」
「じゃあもう遠慮はしませんよ、最後まで」

戻ってきた千早をベッドにあげると、代わりに私はベッドから降りる。

「いい、千早。あとは彼のいうとおりにすればいいのだから」
「お母さんはいてくれないの?」
「私がいないと不安?まだ怖い?」
「……放っておかれるがいやなだけ」
「分かったわ。あなたもそれでいいわよね」

部屋の明かりを絞り、椅子をベッドサイドにおいてそこに腰を下ろす。
「千早、ここでちゃんと見ていてあげるから心配しないで」

ベッドの上に座って向き合ったままの二人。
やがて彼が手を伸ばして千早の肩を抱き寄せると躊躇いがちにキスを交わす。
おとなしいキスをただ受け止めるだけの娘が、おずおずと彼の背中に手を回し
キスが深くなるごとにその手はしっかりと男の体を受け止めていく。
唇を重ねたまま彼は千早を優しく押し倒すと、唇を首筋にずらしながら愛撫が始まる。

「……んっ、ぁっ……」

初めての愛撫を受け、遠慮がちながら女としての反応を見せ始める娘を愛しく思う。
彼も最初は私に気兼ねがあったのかもしれないけれど、千早の肌を開いていくたび
そして娘の初々しい喘ぎを聞くたび、雄としての本領を発揮し始めていく。
やがて娘の着ていたパジャマが剥ぎ取られ、この日のために用意してあげた
大人っぽいデザインのインナーも取りされれ、生まれたままの姿になった娘。
唇から始まったキスはほぼその全身に及び、いまだその洗礼を受けていないのは
ベッドにつけている背中と、しっかり閉じ合わせた足の付け根にあるその場所だけ。
そして彼の手がついにそこにかかる。

力んで抵抗する力を、手馴れた様子の愛撫でそぎ落としていきながら
ついにその場所が開かれる。

「やぁ、恥ずかしい……だめ」
両手で顔を押さえた娘にかまわず若い雄はその体をのしかからせる。
腰の動きからその目論見を見ながら、娘の破瓜の瞬間を待つ。

「やぁ、やっぱり怖い、やだ、お母さん……怖いの、あっ、やぁあ、痛い!」
恐らくはまだ彼の先端を宛がわれただけだろうが
娘のおびえた視線を見かねて私は立ち上がってしまった。

「いい、千早。よく見ていなさい。怖いことなんてないのだから」
娘と場所を変わり、仰向けになって足を広げる。
まだ潤いは十分ではないけれど、すぐに満ち溢れるから大丈夫だろう。
「来て……」

先走りを滴らせている彼の亀頭がゆっくりこすりつけられ、そのまま何度か
上下に動かされるにつれ、私の花弁がゆるやかに開かれるのが分かる。
彼の陰茎も動くたびに徐々に奥に向かって沈み始め、膣口を捕らえた瞬間
ずぶりと中に挿入を受ける。
「あぁっ…いいわ」
「お母さん、痛くはないの?」
「大丈夫……気持ちいいだけよ、あっ、そう…そこ……」
彼も心得たもので、ことさらゆっくり、前後に腰を振っておおげさに
抜き差しを千早に見せ付ける。
「いい、千早。女のここは男のひとのを受け入れるようにできているの。
初めてのときは少し痛みがあるだろうけど、それだけは我慢しないさいね」
「……うん」
「ここはね、ペニスよりももっと大きい赤ん坊を産むだけの余裕があるの。
だから大丈夫よ、力を抜いていれば」
「……わかった、お母さん」
「じゃあ、今度こそあなたの番よ」
「ね、お母さんにそばにいてほしい」
「まあ……本当にあなたって子供みたいね」

それでも、そうしてあげることで不安が払拭できるのであればと
私は千早の後ろに座って、その体全体を抱きしめてあげる。
「少しくらい痛がってもやめちゃだめよ」
「いいのかなぁ」
「わ、私なら大丈夫ですからお願いします、プロデューサー」
彼はもう一度娘の足を開くとその間に腰を進める。
そして手で支えた陰茎を娘の秘部にあてがい、馴染ませるようこすり付ける。
そうしながらごくごく細かい動きを加えてゆっくりと娘の処女地に沈めていく。

「……んっ、つっ、くぅ……」
やはり痛みがあり、食いしばった歯の隙間から声を漏らすたび
私は抱きかかえた娘の体をさすり、耳元で力をぬくよう囁きつづける。
「ゆっくり息を吸って。そう、いいわ。今度はゆっくり吐いて」
そうして長い時間をかけながら、それでも確実に彼の陰茎は娘の処女を侵してゆく。
およそ半分ほど進んだあたりで娘の目から涙が零れ落ちる。
「大丈夫よ、千早。あと少しだからね」
「……うん、だ、だいじょう…ぶ、んっ……、あぁっ!!」

もう奥まで入れて大丈夫と判断したのか、彼は大きく腰を前に進める。
「千早、全部はいったぞ。大丈夫か、痛い?」
「……うん、痛い、けど…大丈夫」
「しばらく動かさないであげて。千早、ほら彼をちゃんと見てあげて」
「あぁ、プロデューサー……私、これで、やっと……やっとあなたのものですよね?」
「そうだ千早。お前はもう俺のものだからな」
「おめでとう千早。よかったわね」
「うん、お母さん……わたし、私……」
「じゃああとは彼と最後まで、二人でするのよ」

ベッドに二人を残し、わたしは湯を張った浴槽に疲れた体を沈めた。
役割を果たし終えた達成感と、それからいくばくかの寂寥感。
それがわたしの中からすべて消えたときこそ
わたしの母親としての役割が終わるときなのだから。


◆エピローグ

「服を着ていればあまり目立たないわね。もう8ヶ月だというのに」
「お母さんもこんな風だったの?」
「ええ、まあそうね。でもあなた、お腹にいるときはすごい暴れん坊だったのよ」
「……そんなの知らない」

高校を出て2年後、娘は予定通りあの男と結婚した。
もちろん妊娠したのが理由ではなく、計画的な出産である。
そして私は新婚夫婦の隣の部屋に住み、必要とされるときには
すぐ娘達の部屋に駆けつける。
体調が悪いとき、料理の手ほどき、そして夜のひととき。
もうすぐそこに赤ん坊の世話が加わることになるが、それが今の私にとって
何よりの楽しみである。
娘の妊娠を知ったときには、ふと自分の息子となったあの若い雄の子種を
受け止めたいとも思ったもの。
けれど、ようやく築くことのできた幸福な家族を維持するためには
それはあってはならないこと。

一度は壊し、諦めた家庭。
今度こそ大切に守っていかなければならない。
世間では決して認められない関係であっても
それが私たち親子にとって幸せであるなら
私にとっては命にも等しい価値がそこにあるのだと思う。


おしまい

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