最終更新: dragons_roar_for_me 2009年08月23日(日) 08:34:58履歴
「やめろ!暖めてどうなる物でもあるまい…」
そう呟いた。咆哮は天を劈き、全ての生物に恐怖の念と死を意識させる。
小動物程度ならば辺り一帯、すべて死滅してしまうほどの殺気。
物理的衝撃すら伴うその怒気に空気すら凍る。
しかしソレを向けた相手は、世界の全てに感心が無いように
ただたゆたうばかりで、動きは無い。無数の"分身"が巨体の周りを飛び交うばかりで、
まるで意思も無いように思える。
しかしちょうどいい。これほどの相手ならば我の気持ちも確かめられよう。
背に乗せた男は、再び我の首を摩る。心地よいと感じるのはもはや間違いではない。
この戦いを経て、自分の心に生まれた感情を理解するつもりだ。
目の前に居るは最強にして最古、竜族に適う者無しと言われた伝説。
腕を振れば山は裂け、魔法を放てば島が消える。ゆうに10000もの竜が束になってかかろうと勝ち目は無い。
そのような出鱈目な相手に、たった一体の赤竜が挑むだと?
まったく、馬鹿げている。勝ち目などないのだ。一瞬でこの身、百に裂かれるだろう。
ならば何故、我の翼は前へと進む?
逃げればよいのに。この場から飛び去れば、あ奴は追ってはこないだろう。
しかし、首を撫でる手はどうしようもなく暖かく、気持ちがよかった。
そして体は目の前の敵に向けられるのだ。
命令されるでもなく。囃されるでもなく。
背に乗る男は、前へと進もうとしている。
おそらく、一人でもアレに立ち向かってゆくだろう。
それならば離れたくない、と。絶対に死なせたくない、と。
契約相手であるこの人間が死ねば、当然我も死ぬこととなろう。
だから守り、戦うのか?
応えは「否」。
仮にこの者が息絶え、我が一人生き残ったとしても、我は自ら命を絶つだろう。
もはや依存と言っていい。契約者であるかどうかなど、関係ないのだ。
そばに居れば心の臓の鼓動は早まり、触れられれば体は火照り、我にしか聞えぬ声は、我が心をざわつかせる。
このような感情は聞いたことも無いし、まして感じたことなど初めてだ。
なれば、これは我ら竜にとって極めて異端なことなのだろう。
この暖かくも苦しく、とても幸せな気持ちを。
まったく知識の無いこの感情を。
この気持ちを、なんと呼ぼう。
背に乗る男が、再び首を撫でる。
ああ、この戦いが終われば、打ち明けよう。
柄にもなく、夜通し気持ちを伝え聞くのも、悪くない。
「ゆくぞ、カイム。馬鹿の力を見せ付けてくれようぞ。」
エンシェントドラゴンは目の前に在った。
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