エロスはほどほどに
「……わたしの、わたしのはだかなんか、見てもおもしろくないデスよ」
真っ赤になってうつむく美しい少女に、笹原は見とれた。
風呂あがりの上気した肌。濡れた髪をおろして、胸元から堅くバスタオルを巻いただけの姿。
彼のオタルームに敷かれた妹の布団に女の子座りしているのは、ありえない妄想のような現実だった。
「そ、そんなことないよ荻上さん。ええと、じゃあ、バスタオル、ほどくね」
「だ、だめです！」
バスタオルの結び目にかかった指を、小さな両手が必死で押さえた。
へたれ攻めすらできない笹原の鼓膜を、か細い呟きが打った。
「だって知ってるんですよ。笹原さんがほんとうに好きなのは、スタイルが良くて色気のある女の人なんです」
「え？」
「現視研の人たちが言ってました。それに笹原さん、アニメとかのキャラもセクシー系が好きじゃないですか。くじアン見ててもカイチョーカイチョーってそればっかり……」
「はは。いくらなんでもアニメと現実を混同したりしないよ」
「そんなことないです。見たらやっぱりがっかりします。他の女の人と較べます」
「……ひょっとして合宿で恵子に何かひどいこと言われたりしたの？」
「……違います……合宿の温泉で、大野先輩や咲さんだけじゃなくて、年下の恵子さんとも較べて……わたしが勝手に一人で傷ついてるだけなんです。
わたしはずっとそうだったんです。他の子は別に何も言わないのに、いつも勝手に他人と自分を較べて、一人で劣等感を感じていじけてるバカがわたしなんです」
「いやあの、大野さんとかは特別だから……荻上さんは荻上さんだと思うよ」
「それじゃいやなんです。わたしは、自分が笹原さんが喜ばせてあげられるようなスタイルじゃないのがいやなんです。
子供っぽい体型が恥ずかしくて、だぶだぶの男物のパーカー着たりして誤魔化してる自分がもっといやなんです。
笹原さん優しいから絶対言ったりしないけど、ほんとうは違うタイプが好きなのに妥協してわたしと付き合ってるんじゃないかとか疑うのもいやなんです」
わたしは自分のことが大嫌いだから、そんなわたしのことを好きだって言ってくれる笹原さんのことも信じられないんです」
「……荻上さん」
「はい」
「あのね、夏コミの前にコスプレして見せてくれたことがあったでしょ？」
「……あれは、見せたわけじゃなくって大野先輩が口車に乗せて無理矢理……」
「あの時、オレ荻上さんを見て凄く興奮してドキドキしてたんだよ。そのこと知ってた？」
「え？え？え？そんな……でも、でも大野先輩の方がずっとスタイル良いし……」
「オレ大野さんのコスプレは一年のときから見慣れてて、もう日常風景というか、どんな過激なの見ても何とも感じないんだ。はは。こんなこと言うと大野さんと田中さんには悪いけど。それに咲さんのコスプレの話は聞いてる？」
「イベントで優勝したんでしたっけ。やっぱりすごく美人ですからね。咲さん」
「うん。確かに綺麗で感心した。高坂クンのことがうらやましくも思った。でも荻上さんのコスプレを見たときみたいに興奮したりは全然しなかったよ」
「興奮って……それってえっちな意味ですか？」
「うん。そうだよ。オレ、荻上さんが着てたコスの、露出度の高い胸元とか、鎖骨とか、細い肩とか、小さくて締まったお尻とかを見てとても興奮してたんだ」
「笹原さん……えっちです……」
「はは。そうだね。でもそれから、オレは荻上さんをえっちな目で見るようになったんだ。荻上さんみたいな体型の女の子が大好きだってことにも気づいちゃったんだ。
大野さんや咲さんなんかより、オレにとっては荻上さんの方がずっと魅力的なんだよ」
「笹原さんって……ロリコンなんですか？」
「うーー。どうかな。斑目さんの趣味のツルペタ系のエロゲーや同人誌をいっぱい貸してくれたおかげで、ちょっと洗脳されちゃったのかな……」
「……ツルペタって……そんな斑目さんみたいな変態の笹原さん、嫌いですっ」
オタクは嫌いです。というあの態度で、荻上はそっぽを向いた。
そしてあわあわと慌てる笹原にいたずらっぽい視線を向けて、くすりと笑った。それは笹原がはじめてみる、安心しきった優しい笑顔だった。
そして小さな声で言った。
「笹原さん。わたし、ちょっと寒くなっちゃいました」
笹原は鈍感な男であるが、その言葉の意味がわからないほど鈍くはなかった。
「じゃ、じゃ、じゃあ、バスタオル濡れてるから、ほどくね」
「はい」
へたれ攻めがはじまった。震える指が、バスタオルの結び目にかかった。
「やっぱりダメ！ダメです！恥ずかしいです！」
しかしバスタオルを剥がされたら丸裸にされてしまうという思いに、荻上は頬を紅潮させて胸元を押さえた。
「千佳」
名前を呼び捨てられるのははじめてだった。
驚いて大きな瞳を見開いた至近距離に、童貞とは思えないほど落ち着き払った男がいた。
荻上も数度しか見たことが無い、強気の笹原だった。
「脱がすよ」
「……はい」
少女は、強気の笹原に絶対逆らえない自分を自覚した。女は生まれつきみんな「受け」なんだなあとか、それはちょっと悔しいなあとか、でも笹原さんのこと大好きだからいいやとか、渦を巻く東北弁で脈絡も無い事を考えているうちにバスタオルは奪われていた。
「あ……」
裸にされて布団に転がされた荻上は、今までに無いほど血の昇った顔をそむけた。
「綺麗だよ。千佳」
囁きが、荻上の真っ赤に染まった耳朶をくすぐった。
それは事実だった。お風呂あがりの肌理の細かい色白の肌。小さいが形良い胸。薄紅色の乳首。わずかに浮き出た肋骨。華奢な鎖骨。そして細い太腿を擦り合わせている股間の薄い陰り。
彼女の筆名の「雪」を思わせる、儚く無垢な美しさがそこにあった。
「恥ずかしいです……」
熱い視線を体中に感じて、荻上は呟いた。
「ほんとうに綺麗だ。荻上さん。じゃ、じゃ、じゃあ、胸にさわるよ」
笹原流へたれ攻めが再開された。
再びくすりと笑い、荻上はこたえた。
「はい。でもあまり強く揉むといたいです」
「うん。いたかったら言ってね」
（未完）
真っ赤になってうつむく美しい少女に、笹原は見とれた。
風呂あがりの上気した肌。濡れた髪をおろして、胸元から堅くバスタオルを巻いただけの姿。
彼のオタルームに敷かれた妹の布団に女の子座りしているのは、ありえない妄想のような現実だった。
「そ、そんなことないよ荻上さん。ええと、じゃあ、バスタオル、ほどくね」
「だ、だめです！」
バスタオルの結び目にかかった指を、小さな両手が必死で押さえた。
へたれ攻めすらできない笹原の鼓膜を、か細い呟きが打った。
「だって知ってるんですよ。笹原さんがほんとうに好きなのは、スタイルが良くて色気のある女の人なんです」
「え？」
「現視研の人たちが言ってました。それに笹原さん、アニメとかのキャラもセクシー系が好きじゃないですか。くじアン見ててもカイチョーカイチョーってそればっかり……」
「はは。いくらなんでもアニメと現実を混同したりしないよ」
「そんなことないです。見たらやっぱりがっかりします。他の女の人と較べます」
「……ひょっとして合宿で恵子に何かひどいこと言われたりしたの？」
「……違います……合宿の温泉で、大野先輩や咲さんだけじゃなくて、年下の恵子さんとも較べて……わたしが勝手に一人で傷ついてるだけなんです。
わたしはずっとそうだったんです。他の子は別に何も言わないのに、いつも勝手に他人と自分を較べて、一人で劣等感を感じていじけてるバカがわたしなんです」
「いやあの、大野さんとかは特別だから……荻上さんは荻上さんだと思うよ」
「それじゃいやなんです。わたしは、自分が笹原さんが喜ばせてあげられるようなスタイルじゃないのがいやなんです。
子供っぽい体型が恥ずかしくて、だぶだぶの男物のパーカー着たりして誤魔化してる自分がもっといやなんです。
笹原さん優しいから絶対言ったりしないけど、ほんとうは違うタイプが好きなのに妥協してわたしと付き合ってるんじゃないかとか疑うのもいやなんです」
わたしは自分のことが大嫌いだから、そんなわたしのことを好きだって言ってくれる笹原さんのことも信じられないんです」
「……荻上さん」
「はい」
「あのね、夏コミの前にコスプレして見せてくれたことがあったでしょ？」
「……あれは、見せたわけじゃなくって大野先輩が口車に乗せて無理矢理……」
「あの時、オレ荻上さんを見て凄く興奮してドキドキしてたんだよ。そのこと知ってた？」
「え？え？え？そんな……でも、でも大野先輩の方がずっとスタイル良いし……」
「オレ大野さんのコスプレは一年のときから見慣れてて、もう日常風景というか、どんな過激なの見ても何とも感じないんだ。はは。こんなこと言うと大野さんと田中さんには悪いけど。それに咲さんのコスプレの話は聞いてる？」
「イベントで優勝したんでしたっけ。やっぱりすごく美人ですからね。咲さん」
「うん。確かに綺麗で感心した。高坂クンのことがうらやましくも思った。でも荻上さんのコスプレを見たときみたいに興奮したりは全然しなかったよ」
「興奮って……それってえっちな意味ですか？」
「うん。そうだよ。オレ、荻上さんが着てたコスの、露出度の高い胸元とか、鎖骨とか、細い肩とか、小さくて締まったお尻とかを見てとても興奮してたんだ」
「笹原さん……えっちです……」
「はは。そうだね。でもそれから、オレは荻上さんをえっちな目で見るようになったんだ。荻上さんみたいな体型の女の子が大好きだってことにも気づいちゃったんだ。
大野さんや咲さんなんかより、オレにとっては荻上さんの方がずっと魅力的なんだよ」
「笹原さんって……ロリコンなんですか？」
「うーー。どうかな。斑目さんの趣味のツルペタ系のエロゲーや同人誌をいっぱい貸してくれたおかげで、ちょっと洗脳されちゃったのかな……」
「……ツルペタって……そんな斑目さんみたいな変態の笹原さん、嫌いですっ」
オタクは嫌いです。というあの態度で、荻上はそっぽを向いた。
そしてあわあわと慌てる笹原にいたずらっぽい視線を向けて、くすりと笑った。それは笹原がはじめてみる、安心しきった優しい笑顔だった。
そして小さな声で言った。
「笹原さん。わたし、ちょっと寒くなっちゃいました」
笹原は鈍感な男であるが、その言葉の意味がわからないほど鈍くはなかった。
「じゃ、じゃ、じゃあ、バスタオル濡れてるから、ほどくね」
「はい」
へたれ攻めがはじまった。震える指が、バスタオルの結び目にかかった。
「やっぱりダメ！ダメです！恥ずかしいです！」
しかしバスタオルを剥がされたら丸裸にされてしまうという思いに、荻上は頬を紅潮させて胸元を押さえた。
「千佳」
名前を呼び捨てられるのははじめてだった。
驚いて大きな瞳を見開いた至近距離に、童貞とは思えないほど落ち着き払った男がいた。
荻上も数度しか見たことが無い、強気の笹原だった。
「脱がすよ」
「……はい」
少女は、強気の笹原に絶対逆らえない自分を自覚した。女は生まれつきみんな「受け」なんだなあとか、それはちょっと悔しいなあとか、でも笹原さんのこと大好きだからいいやとか、渦を巻く東北弁で脈絡も無い事を考えているうちにバスタオルは奪われていた。
「あ……」
裸にされて布団に転がされた荻上は、今までに無いほど血の昇った顔をそむけた。
「綺麗だよ。千佳」
囁きが、荻上の真っ赤に染まった耳朶をくすぐった。
それは事実だった。お風呂あがりの肌理の細かい色白の肌。小さいが形良い胸。薄紅色の乳首。わずかに浮き出た肋骨。華奢な鎖骨。そして細い太腿を擦り合わせている股間の薄い陰り。
彼女の筆名の「雪」を思わせる、儚く無垢な美しさがそこにあった。
「恥ずかしいです……」
熱い視線を体中に感じて、荻上は呟いた。
「ほんとうに綺麗だ。荻上さん。じゃ、じゃ、じゃあ、胸にさわるよ」
笹原流へたれ攻めが再開された。
再びくすりと笑い、荻上はこたえた。
「はい。でもあまり強く揉むといたいです」
「うん。いたかったら言ってね」
（未完）
2006年06月23日(金) 01:59:11 Modified by korewanetadesu