EEさくら
（そういや、こいつと二人っきりって久しぶりかもしれんな）
斑目は、ふとアニメ雑誌から顔を上げた。
久我山は風邪、田中は大野さんと買い物、笹原はバイト。
それに加えて、春日部さんは家庭の事情（高坂談）で休みだ。
ミーティングのない日だとはいえ、ここまで集まりが悪いのも珍しい。
まあ、人数が少なかろうと多かろうと、やることはいつもと同じ。
――各自、好きなことをする。
（そうはいってもな）
視線の先では、高坂が同じようにゲーム雑誌を読んでいる。
こんな時、同じ後輩といっても笹原のほうだったら、
適当に話題振って、適当にゲームやって、適当にアニメ見て、時間になったら適当に帰るというところなんだが。
（ひょっとして俺、コイツのこと苦手なのか？）
「どうしました？」
「あー、いや、なんでもない」
考えを読まれたようで、ギクッとする。
いや、読まれたのか？
高坂はいつもの表情。感情があまり顔にでないので、何を考えているのかわからない。
「今日は終わりにするか」
雑誌を鞄に詰めながら、高坂に声をかける。
「雑誌読むのは、家でも出来るしな」
返事はない。まるで独り言でも言っているかのような気になる。
やや不安になって高坂を見れば、ヤツはじっとこっちを見ていた。
オタクとは思えない、きれいな顔立ち。
「…高坂？」
「EEさくらの新しいガチャポン、やりましたか？」
突然の話題転換。戸惑いつつも、少しホッとした。
「お、新しいのが出てたのか。どこにあった？秋葉原のA店あたり？早速行かねば！」
「ダブりがあるんで、差し上げますよ」
鞄をごそごそあさり、卵型のプラスチックケースを出した。
EEさくらシリーズのガチャポンは、不透明な卵型カプセルに入っており、
中が見えないのが欠点とも言える。
俺の側に立った高坂は、カプセルを3つ、手渡しながら、
「『これが食べられれば、エッグ・イーターとして、もう一人でもやっていけるであります』」
卵を守る精霊ケロンが、行方不明になる前に言ったセリフ。ストーリー上、重要なシーンの一つだ。
EEさくら4巻だったか？
ふむ、ならば、
「『ケロンちゃん。…うん、さくら、全部食べてみせるよ！』」
卵を大事そうに抱く。こんな感じか？
「『がんばるであります、さくら殿』」
で、次のシーンだが。
マンガ版ではケロンはそのまま窓から出て行くのだが、アニメ版としてはその前に頬にキスをしたことで、ファンの間で非常に物議を醸したのだ。
俺としては、頬を染めて怒るさくらがかわいかったので、あのシーンはアリだがな。
まあ、いくら高坂といえども、キスまではすまい。
とすれば、次のさくらのセリフは、マンガ版の「でもケロンちゃん、『一人でも』って？」だ。
そう言おうとした俺の口を、何かがふさいだ。
離れていく高坂の顔。
なるほど、今のは、今のやわらかかった何かは、高坂の唇だったということか。マンガとかアニメとかゲームとか小説とか、そういう創作
物でありがちな、いきなりのチュウか。実際に可能なのか検証したことはなかったが、やればできるもんなんだな。いや、やられたのか。
それにしても
「斑目さん、次のセリフは『ケロンちゃん、いきなりなにするの？！』ですよ」
「あ、ああ。『ケロンちゃん、いきなりなにするの？』…って、ホントに何すんだ、お前！」
「何って、EEさくらの再現を。ひょっとして、ケロン役の方がよかったですか？」
「そうじゃねぇ。今、お前、俺に！」
「キスですか？だって、そういうシーンですからね」
シレっと言い切られ、頭を抱えて脱力した。絶対にわかっててやってる、コイツは。
「斑目さんって、キスするとき、目閉じないんですね」
「いきなりだったからよぉ。いきなりのときは閉じないのがお約束だろ。確かアニメのさくらも閉じてないし。いや、あれは頬だから、普
通閉じないか。って、あれ？頬だろ、口じゃなくて！」
「はは、気づいちゃいましたか」
「普通、気づくわい」
「だって、斑目さんが『雑誌読むのは、家でも出来る』って言うから」
話しながら、すっと俺の正面へ。ヤツの手が、俺の両肩に。
「一人じゃできない、二人きりじゃないとできないことを、しようと思いまして」
顔が、近づいてくる。今度はゆっくり。
その距離に比例して、俺はまたパニックに陥っていった。
（続かない）
斑目は、ふとアニメ雑誌から顔を上げた。
久我山は風邪、田中は大野さんと買い物、笹原はバイト。
それに加えて、春日部さんは家庭の事情（高坂談）で休みだ。
ミーティングのない日だとはいえ、ここまで集まりが悪いのも珍しい。
まあ、人数が少なかろうと多かろうと、やることはいつもと同じ。
――各自、好きなことをする。
（そうはいってもな）
視線の先では、高坂が同じようにゲーム雑誌を読んでいる。
こんな時、同じ後輩といっても笹原のほうだったら、
適当に話題振って、適当にゲームやって、適当にアニメ見て、時間になったら適当に帰るというところなんだが。
（ひょっとして俺、コイツのこと苦手なのか？）
「どうしました？」
「あー、いや、なんでもない」
考えを読まれたようで、ギクッとする。
いや、読まれたのか？
高坂はいつもの表情。感情があまり顔にでないので、何を考えているのかわからない。
「今日は終わりにするか」
雑誌を鞄に詰めながら、高坂に声をかける。
「雑誌読むのは、家でも出来るしな」
返事はない。まるで独り言でも言っているかのような気になる。
やや不安になって高坂を見れば、ヤツはじっとこっちを見ていた。
オタクとは思えない、きれいな顔立ち。
「…高坂？」
「EEさくらの新しいガチャポン、やりましたか？」
突然の話題転換。戸惑いつつも、少しホッとした。
「お、新しいのが出てたのか。どこにあった？秋葉原のA店あたり？早速行かねば！」
「ダブりがあるんで、差し上げますよ」
鞄をごそごそあさり、卵型のプラスチックケースを出した。
EEさくらシリーズのガチャポンは、不透明な卵型カプセルに入っており、
中が見えないのが欠点とも言える。
俺の側に立った高坂は、カプセルを3つ、手渡しながら、
「『これが食べられれば、エッグ・イーターとして、もう一人でもやっていけるであります』」
卵を守る精霊ケロンが、行方不明になる前に言ったセリフ。ストーリー上、重要なシーンの一つだ。
EEさくら4巻だったか？
ふむ、ならば、
「『ケロンちゃん。…うん、さくら、全部食べてみせるよ！』」
卵を大事そうに抱く。こんな感じか？
「『がんばるであります、さくら殿』」
で、次のシーンだが。
マンガ版ではケロンはそのまま窓から出て行くのだが、アニメ版としてはその前に頬にキスをしたことで、ファンの間で非常に物議を醸したのだ。
俺としては、頬を染めて怒るさくらがかわいかったので、あのシーンはアリだがな。
まあ、いくら高坂といえども、キスまではすまい。
とすれば、次のさくらのセリフは、マンガ版の「でもケロンちゃん、『一人でも』って？」だ。
そう言おうとした俺の口を、何かがふさいだ。
離れていく高坂の顔。
なるほど、今のは、今のやわらかかった何かは、高坂の唇だったということか。マンガとかアニメとかゲームとか小説とか、そういう創作
物でありがちな、いきなりのチュウか。実際に可能なのか検証したことはなかったが、やればできるもんなんだな。いや、やられたのか。
それにしても
「斑目さん、次のセリフは『ケロンちゃん、いきなりなにするの？！』ですよ」
「あ、ああ。『ケロンちゃん、いきなりなにするの？』…って、ホントに何すんだ、お前！」
「何って、EEさくらの再現を。ひょっとして、ケロン役の方がよかったですか？」
「そうじゃねぇ。今、お前、俺に！」
「キスですか？だって、そういうシーンですからね」
シレっと言い切られ、頭を抱えて脱力した。絶対にわかっててやってる、コイツは。
「斑目さんって、キスするとき、目閉じないんですね」
「いきなりだったからよぉ。いきなりのときは閉じないのがお約束だろ。確かアニメのさくらも閉じてないし。いや、あれは頬だから、普
通閉じないか。って、あれ？頬だろ、口じゃなくて！」
「はは、気づいちゃいましたか」
「普通、気づくわい」
「だって、斑目さんが『雑誌読むのは、家でも出来る』って言うから」
話しながら、すっと俺の正面へ。ヤツの手が、俺の両肩に。
「一人じゃできない、二人きりじゃないとできないことを、しようと思いまして」
顔が、近づいてくる。今度はゆっくり。
その距離に比例して、俺はまたパニックに陥っていった。
（続かない）
2006年07月11日(火) 23:22:02 Modified by korewanetadesu