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20XX年――世界は壊滅まであと…というカウントダウンをたどり始め、世間では人類滅亡がまことしやかに囁かれるまでとなっていた。

そんな中。新人類「ネオテニー」は、その背後を取るかのように、その存在を表し始めていた。

ネオテニーとは、堕天使の力を身に宿す種を指す。彼らは人間と比べ、その知能は劣るが、そのぶん治癒能力ははるかに高かった。そして、その外見や人格は、人類と大差のないものなのだ。世界壊滅から逃れた人間は、そんな彼らと居場所を分け合っていた。

しかしながら、それは決して共存ではなかった。どうして、互いに似通っている両者に対して、角の立つ物言いをするのか。それは、ネオテニーの食性と彼らの精神から成る境界が、曖昧だったからである。

ネオテニーは、人の血肉を食らうことでしか生きながらえることはできない。彼らが崩壊する世界の中で進化できたのは、自らを食すことでどうにかその命を繋ぎ止めていたからだ。

なかには、そんな性質を嫌悪し受け入れられないと、人間のように牛や豚、蛸や鯨を食べて生きようとする者もいた。

しかし、それらは決して身体には成りえないのだ。繋ぎ止める程度の役割しか果たさないのだ。なんとか逃げ道を探そうする彼らをあざ笑うかのように、ほどなくしてその本能がすべてを支配し、自らの意識が戻る頃には血の海で涙を流していた。そんな彼らに、救いはあるのか。

いや、実はあるのだ。

そう、それはドラッグ。麻薬が彼らの衝動を抑えるなんて、なかなかどうして面白い。まるで、狂気に走る人間のようじゃあないか。彼らを研究している物好きたちは、そう言って笑った。

さて、そんなネオテニーにとって、太陽の光は毒だったのか。夜行性のもと、怪奇で数奇な能力を持ち合わせた彼らは、仄暗い夜のマンハッタンを闊歩していた。今やマンハッタンに崩壊前の面影はない。荒れ朽ち果てた建造物は、鉄骨が剥き出しの状態となり、誰の手が加えられるでもなかった。しかし、ネオテニーの存在が主張されるそこでは、たとえ遠くから見渡しても分かるほどに、臓物や眼球がそこら一帯を埋め尽くしていた。
そして、それらを眺めながら、彼「ムルムル」は夜の散歩を楽しんでいた。

まあ、彼は夜しか行動できないのだが。

この言葉の通り、彼もまた「ネオテニー」に属す一青年である。黒髪に、ところどころ白髪の混じるその髪から、青年とは言い難い何かを感じるが、その面は端正なものである。黄色の猫目に、身の丈は180cmを越えているだろうか。しっかりとした骨格の割に、細身に見えるその背は少し曲がっている。しかし、角度によっては金に見えるその目を光らせ、夜のマンハッタンを散歩するその恰好は、やはりネオテニーのものだった。

彼の白かった服は、洗う気も失せたのか真っ赤であった。マーブルや、少し飛び散ってしまったと笑うくらいならまだよかった。一面、「これはもともと赤一色のシャツなのだよ」と言われてもおかしくないくらい、彼の服は染まっていた。

下が黒のジーンズだからか、無駄に決まっている。彼が聞いたら、「へえ、そう」の一言で終わらせそうだが。

「うーん、会わないし帰るか」

彼は、たいそうな面倒くさがり屋で、散歩途中に人間と会わないときは決して食事をしなかった。なんでも、わざわざ見つけに行ってまで食べるのは面倒なそうな。理性と本能の狭間で苦しむネオテニーにさえ笑われる始末だった。

――だって、食べたくもないのに食べている連中にとって、食べたいけど面倒だから食べないなんて酷い有様でしょう?

そんな性格の彼に、友人や仲間はいなかった。ふらり、と寝床のバーに帰るくらいである。さすがに、面倒くさがりの彼でもそこらで寝るのは勘弁だった。寝ている間に共食いなんて願い下げだからである。

「あー、アスモデウスちゃんだ」
「…俺の名前は、アレンだ」

「へえ、力と名前は別物なの。その名前って、誰かにもらったもの?」

ムルムルは、バーに帰るとこうしてアスモデウス、いやアレンに絡む。彼は、綺麗なものと本能を抑えられない輩を見るのが好きだった。アレンは、その象徴のような男だった。

「ねえ、アレン。今日は誰を引っ掛けるの?」
「引っ掛けるんじゃない…ひとりになりたくないだけだ」
「だから、俺といればいいって言ったのに。俺は食事を集めてきてくれる子なら大歓迎だよ」
「お前はまたそうやって、人任せか」
「だって、エサにつられた魚を横取りする猫だもの」

にゃーん、金の目を輝かせて微笑んだ彼に、アレンは呆れたようにして席についた。立ったまま、ムルムルの話を聞くのは疲れそうだと思ったからである。

「で、俺の邪魔をして、何がしたいムルムル」
「俺は、お前を見ていたいだけだよ。お前は探さなくてもここにいるし、何より綺麗で俺の好みだ!」
「口説いているのか」
「いや、恋人になってほしいわけじゃないもの。俺の隣でずっと見ていたいだけ」

――ただし、お前が寂しいときも独りになりたくないときも、ずっとそばにいてあげるよ。

ムルムルは、そう言ってまたも微笑んだ。彼は、あどけない表情をして目を細めて笑うのだ。その細めた視線の先で、何を見ているかを悟らせないように優しく微笑む。

「かわいいねアレン。お前のそういう、悩ましいところが好きだよ」
「そういって、おまえがくれるのは、食事のお願いだけだ」
「だって、採りにいくのは面倒だもの。鬼さんこちら、だよ。追いかけるようにして俺の懐に飛び込んで来いってんだ」

ぶすくれた顔をして肘をついた、ムルムルの額をアレンは右手の指ではじいた。爪が引っ掛かったのか、一筋できた蚯蚓腫れに、クスッと笑う。

「…ひどい。すぐ直るけど」
「目玉くらいしか持って行ってやれないぞ」
「構わないよ。キャンディーにして口移ししてあげる」

そう言って、アレンの右手を取った彼は、先ほどの指を見つめた。

爪先についた血をひとしきり眺めると、それをアレンの目の前へと近づける。

「ほら、真っ赤」

――人間と同じだね。

やっぱり、ムルムルは微笑むのだった。

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