・深夜の一コマ


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部屋の電気を消そうとさゆみは壁のスイッチに手を伸ばしたが、指先が微かに震えていることに気づき苦笑した。
生田と体を重ねるのは別にこれが初めてのことではない。
さすがに両手を越すほどではないが最近は少し慣れてきたと思っていた。
なのに指先が震えるのはさゆみの心のどこかに未だ戸惑いがあるからで、でもそんな自分を鼻で笑って嘲笑するとスイッチを押した。
部屋は一気に暗くなり、ベッドの脇に置いてある間接照明が淡い光が生田をぼんやりと照らしている。
ゆっくりとした足取りでベッドに近づくと、生田は今まで俯けていた顔を静かに上げる。
「最近全然できなかったから・・・すごく嬉しいです」
「うん。さゆみも嬉しいよ」
視線が重なり合うと生田は目を細めて嬉しそうに笑う。
純粋で無邪気で子どもみたいな笑顔だった。
さゆみは少しだけ視線を横に逸らすと、何も言わずに生田の肩を掴んでそのまま軽く後ろに押す。
重力に従って生田はベッドに倒れ込むと、さゆみは間髪入れずにその上に馬乗りになって
パジャマに手を伸ばした。
生田は特に抵抗もしないので、いつものように手馴れた所作で服を脱がしていく。
「なんか今日の道重さんはちょっと乱暴ですね」
「そう?あー、でもそうかもね。っていうかさゆみは元々優しくないし」
「そんなことないですよ。道重さんは優しい人です」
「うっさいよ・・・バカ生田」
自分には憂いも罪悪感も理性もちゃんと備わっている、とさゆみは自負している。
ただ服を脱がし終わって生田の白い肌が目に入ると、その全てが吹き飛んでしまうだけだ。
その首筋に顔を埋めると、生田は15歳とは思うない声で啼いた



それじゃSATOYAMA見るからあとはよろしく




712
ふと目が覚めた。
部屋の中はまだ暗い。窓の外にはぽっかりと月が出ていて、まだ深夜といえる時間だとわかる。
肌には仄かな温もり。でもその温もりに触れていない部分が酷く寒い。月明かりの中に生田の寝顔が映る。綺麗であどけない寝顔。
さゆみが勢い上体を起こしたせいで、二人を覆っていた毛布の隙間に冷たい風が流れ込んで
素肌を冷やされた生田が顔を顰める。
それから手が温もりを求めるようにもぞもぞとさゆみの肌を這った。さゆみは毛布から抜け出す気にもなれなくて、生田の柔らかい肩に手を回す。
温もりが戻ったはずなのに、生田の寝顔はまだどこか不安げで
その表情は暗闇で母の温もりを求めるような、別の誰かを探しているような覚束無いものだった。
まるで先程まで情事にふけっていたとは思えない幼い顔を眺めながら肩にかかる空気の冷たさに一つ身震いする。
いったい自分は何をやっているんだろう―――情事の最中には一切吹き飛んでいたその思考が
また小波のように押し寄せてきた。
生田の手が求めているのは自分ではない、そんなこと分かりすぎるくらいに分かっている。
「ねえ、生田……ここにいるのはさゆみだよ…?」
返事がない代わりに、さゆみの身体に回された手に少し力がこもった。
「怒ってくれていいんだよ?突き飛ばしてくれたっていいのに、なんであんたは笑うのよ…」
腕力ならきっと敵いっこないのに。

さゆみは本当に嫌な人間だと思う。全部自分のせいで、生田には何の非もないのに、まるで生田が悪いみたいに考えてしまう。
そうでないと、あまりにも汚い自分とあまりにも綺麗な生田との対比に押しつぶされてしまいそうで。
ふと自分の目から涙が溢れていることに気付いた。
その涙の意味はさゆみ自身よくわからなかったけれど、なんて汚い涙なんだろうと思う。

「ごめん…ごめんね…」
何についての謝罪なのかさえ分からない、微かな言葉が口から漏れる。
その時月明かりの中に伏せられていた生田の長い睫毛が静かに動いた。
「………道重さん?」
腕の中からの突然の声にさゆみの思考は停止した。



勝手に書いた
寝るのであとよろしく



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