262 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 04:53:11.86 0 

メンバーカラーを引き継いだからなんだっていうの? 
馬鹿馬鹿しい。 
同じメンバーカラーだからって 
プライベートの服や小物までその色に揃えたからってなんだっていうの。 
ほんとに、ほんとにほんとに馬鹿馬鹿しいったらない――――――。 

そう思ってるのに。 

「しょい!」の時に手が重なったとき 
歌割や台本なんかで名前が並んで書かれているとき 
差し入れから同じアイスを選んでたとき 
マジックで名前を書いた紙コップがすぐ隣に置いてあっただけでも 
なんだか胸がギュッとなる。 

こんな些細なことしか、ないんだもん。 
あの人と違って「大好きです!」って言われることも嬉しそうに名前を呼んで貰えることもないんだもん。 

でも、今モーニング娘。として一緒にいるのは私。 
辛いことも嬉しいことも。今を共有して過ごしているのは私。 

日々の小さな小さな幸せの破片。幸福な人にはきっとゴミのような欠片。 
それだけを支えに、誰にも見せることのない想いを募らせていった。 

でもそんな支えに頼るには、いつのまにか私の気持ちは重くなりすぎていた。 

もうきっと私、限界だったんだ。 

263 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 04:54:18.89 0 
「道重さぁ〜ん!聞きました?聞きましたぁ?」 
ハイテンションでいつも以上にニヤニヤしている締りのない顔。 
「今年の24時間テレビ、OGと共演とは聞いてましたけど!新垣さんも一緒に出るんですよぉ〜〜!」 
「知ってるよ。私も一緒に聞いてたじゃん」 

近頃はいつだって、生田との会話は気を遣う。 
いかに自然に、道重さゆみらしく返せるか。 
KYな生田に対しては、ちょっと冷たく、毒を含ませつつ、でもリーダーとしての愛情は平等に。 

この気持ちを誰にも気づかれないように。 

後から上手く言えていたか、不自然じゃなかったか不安に駆られることも多い。 

24時間テレビの件だって、マネージャーからの報告を聞いて、胸が苦しくて苦しくてしかたなかった。 
だけど、とにかく何を言われても平静を装わなきゃって。 
生田は喜ぶんだろうなって。 
嫌だなって。 
嫌だなんて思ってる自分も嫌だなって。 
ううん、そんなこと考えてちゃいけない、とにかく自然に、上手く、うまく、うまく・・・。 

私が生田の事を想ってるなんてこと、誰も思わないだろう。 
ヒガイモーソーに近いとはわかっていても 
いつ不自然な態度をとって気づかれてしまったらと思うと怖くって、ノイローゼ気味になっていた。 


「ちょぉお嬉しいんですけどー!久しぶりにテレビで一緒に歌えるんですよぉ!」 
「はいはい、よかったね。でもどうせ生田は歌割ないでしょ。私と一緒で。」 
いつも通りのノリで軽くあしらうつもりだったけど、無意識に『私と一緒で』なんて言ってしまったことは 
言い終えてから気づいた。 

大丈夫?不自然じゃなかった? 

264 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 04:55:41.61 0 
「いいんですー!もう今回は一緒に出れるだけで嬉しいんですよ!最近のテレビの仕事で一番嬉しかったかも!」 
「へえ。私と出るMステよりも?現メンで初だし、これからの足がかりになる放送だよ。 
それよりもって、向上心ないんじゃない?ほんと何考えてんの?ガキさんガキさん言ってる場合じゃないでしょ!!」 

流石に一瞬むっとする生田。 
だめ、冷静にならなきゃ。また『私と』なんて、こんなこと言ったら嫉妬むき出しだ。 
それを誤魔化すかのようにきつい言葉を重ねてしまう。声も大きくなりすぎてしまった。 

でもさすがKY極まれりというか。 
「もぉ〜、冗談ですよ冗談!その辺はちゃーんとわかってますから!」 
調子の変わらない生田に、少しほっとしたのも束の間 

「あっもしかして道重さん、ヤキモチですか〜?もぉ、ダメですよ、えりは新垣さん一筋なんですから!」 
  コノコノー!みたいなジェスチャーをつけて生田が言う。 

言葉が出なかった。 
ヒュッ、っと息を吸ったまま、声を出せず固まってしまっていた。 
きっと顔はどうしようもなく強ばっていたと思う。 

だめ、だめだよ。いつも通り、言わなくちゃならない。 
バレてるわけじゃない。隠さなきゃならない。 
でも本当は気づいて欲しい。ムカつく。なんで私を見てくれないの。 
ヤキモチとかバカじゃないの。一筋ってなんなの。私があんたを好きな気持ちはどこへやればいいの。 

嫉妬と矛盾でぐちゃぐちゃだった。 
いつも通りに、ちょっと冷たく、でも嫌われないくらいに、不自然じゃないように、上手く、上手く、上手く 

「えと、道重さん?」 
流石の生田も空気を察したのか、不安そうに私の顔を覗き込んでいる。 
「あの、すみません冗談です!嬉しくって調子乗っちゃったっていうか、あの、その」 
「ヤキモチとかありえないのわかってるからこそ言えるっていうかなんていうか!」 
でも、生田が発言すればするほど私の心は惨めになっていく。 

265 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 04:56:30.11 0 
だめ、爆発させてはいけない。 
今までのことが無駄になる。 
ううん、いままでのことだけじゃない。 
これからの関係は? 
私はモーニング娘。のリーダーなんだから。 
こんな勝手な感情で全てを壊すことになる。 

言ってはいけない。言ってはいけない。言ってはいけない。 

ドン!! 

生田の手首をつかんで、そのまま壁に体ごと押し付ける。 
「痛っ!え、み、道重さん!?」 

「ねえ、あんたほんとになんなの!?なんで私の前でばっかり新垣さん新垣さんいうの!?いい加減にしてよ! 
  ムカつくのよ!人の気も知らないで!それともわかってて言ってんの!?馬鹿にしてんの!?」 

止まらなかった。わたし、滅茶苦茶なことを言っている。 
生田は、怯えた目で私を見てる。 
いけないって頭ではわかっていても、コントロールできなかった。 
自分が自分でないように感じた。 

「ねえ生田。わかるよね?お願い、わかってくれるよね?」 

震える声で言う。 
奥底の理性がそうさせるのか、決定的な言葉は出なかった。 
生田を押さえつけているのとは逆の手で、そっと生田の頬を撫でる。 

「生田。生田。生田。わたし、もう、限界なの」 

涙があふれた。 

266 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 04:57:54.45 0 
放心状態の生田衣梨奈は 
背中を壁につけたまま、ずるずると座り込んだ。 

先ほど撫でられた頬に手をやる。 

どういうこと?今、なにが起こってた? 

頭を整理するより早く 
「えりぽーん」 

1つ年上の同期がひょっこりと顔を出した。 

「なんか道重さんの声が聞こえたんだけど・・・ってえりぽん、何でそんなところに座ってるの」 
手を差し出し、よいしょ、っと私を起き上がらせる。 

「ねーえ、また道重さん怒らせたでしょー。何言ってるかまでは聞こえなかったけどさ」 

どう答えていいかわからず俯く私を見て、多分聖は勘違いしたんだと思う。 
「え、ごめんそんなに真剣に怒られてたの?もうっえりぽんなにやったの・・・。あんまり道重さん困らせちゃだめだよ」 
一人にしておいたほうが良いと判断したんだろう。 
じゃあね、と手を振り聖は去っていった。 

椅子に座り直し、テーブルに突っ伏す。 

あんな道重さんは初めて見た。 

「信じられんのやけど・・・」 

『わかってくれるよね?』 
道重さんの言葉がリフレインする。 
あんなに感情をぶつけられたのは人生で初めてだ。 
そして、あんなに切ない表情を向けられたのも。 

267 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 04:59:23.72 0 
「・・・。」 

KYな自分でもわかる。 

「そういう、ことやんね?」 

道重さんが、えりのこと好いとるってことよね? 
改めて言葉にして頭に思い浮かべる。 
カーッと体が熱くなった。 

えりの新垣さんに対する好きと 
道重さんの好きは違うと思う。 

自分でいうのも恥ずかしいけど、あの、あれやろ? 
Like と Love の違いやろ? 

あの道重さんが?えりを? 
あああ、なんかえりなんかがすみません!おこがましい! 
でも、でもそういうことっちゃろ!? 
ひゃー!!告白されたんなんか初めてやし!どーしよー! 

えー、今までそんな素振り全くみせんかったやん。 
それだけずっと隠していたってことか。 

・・・そんな道重さんの前で、えり、何度新垣さんの話をしたっけ。 
体の熱が一瞬で引いていくのがわかる。 
何をのぼせとるの?自分。 

「道重さん、泣いてたな・・・」 
自分が泣かせたのか。胸が痛かった。 

268 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 05:00:54.56 0 
8月17日 ハロコン控え室にて。 

あれからしばらく経ったけど、道重さんと会話らしい会話はできていない。 

みんなでいる時すら、こちらを向こうとしない。 
一瞬目があっても直ぐに目を伏せられてしまう。 

はーーー。 
今日のハロコンは新垣さんが来てくれるらしいのに、気分が上がらん。 
いやいや、新垣さんのことを考えるなんて失礼・・・ 
ん?新垣さんのことはLikeやねんから別に罪悪感覚えることでもないやろ。 
ん?そもそも、別に道重さんと付き合っとぉわけでもないし・・・関係ないっちゃね・・・。 
よくわからんくなってきた。 

近くでは聖とあゆみちゃん、かのんちゃんが、差し入れのフルーツゼリーを食べながら 
『メンバーを果物に例えると!?』なんて話をしている。 
いや、ほぼ一方的に聖が話をしているの間違いか。 
「道重さんはね、絶対いちごだと思うの。アイドルの王道っていうかぁ」 

えりは、道重さんは桃じゃないかななんてぼんやり思う。 
黄桃じゃなくて白桃。 
メンバーカラーがピンクだからとかそんな理由じゃなかよ? 

白に、ほんのりピンクがさして。薄い透明なうぶげ。 
ほんのりと甘く香って。 
触れたくなるけど、少し触っただけでも痛めてしまいそうで触れることのできない、完熟の白桃。 
柔くみずみずしく、甘い汁があふれ。 

・・・どろどろとした果肉がぎっしり詰まっている。 

女性を体現したかのような果物。 
まるで、道重さんそのものだ。 

269 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 05:01:35.15 0 
「―――生田さん、生田さーん」 

はっと顔を上げるとどちらかというと黄桃、な雰囲気の年下の後輩が私を呼んでいた。 

「あ、ごめんはるなん、どうしたと?」 
「差し入れのフルーツゼリー、もう残り1つずつなので生田さん先に選んで頂こうと思って」 

はい、と差し出された箱には果肉たっぷりのフルーツゼリー。 
「白桃とメロンとオレンジなんですけど。どれにしますぅ?」 

白桃、美味しそうだなと思ったけど先ほどの妄想がちらりとよぎる。 

「そこはえり的にはやっぱりメロンっしょー!黄緑やもんね!」 
から元気で箱からメロンのフルーツゼリーを取り出そうとする私に、はるなんがそっと囁いてきた。 

―――――いいんですか?本当にそれで。 

「えっ!?」 
「え?」 

思わず大声を出してしまった私に、はるなんは 
ただでさえ大きな丸い目を、さらに大きくさせている。 

「な、な、なんで?」 
「いえ、白桃じゃなくていいのかなって」 
「え!?ななななんで」 
もしかして、えりの妄想がダダ漏れやったと!? 
「いえ・・・ほら白桃が一番果肉たっぷりで美味しそうですし、カラーなんかで選んじゃっていいのかなーと思って。 
 今が旬ですしね。オレンジはいつでも食べられますし。」 

あ、そ、そういうことね。びっくりした。 

270 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 05:03:15.13 0 
「うん、メロンでよかよ。確かに美味しそうやけど、今は白桃って気分じゃなくって」 
「そうですか。じゃあ白桃は私が頂いちゃいますね。」 

そして、もう一度こっそりと囁く。 

――――――あとからやっぱり食べたい、って言っても遅いことだってありますからね? 

含みのある言い方に、思わず立ち上がる。 
椅子が音を立て、聖たちが怪訝な目で見ている。 

「ほら、今が旬ですから。白桃。」とにっこり笑いながら、平然というはるなん。 

はるなんの真意がわからんと、無言で立ち尽くす。 
当のはるなんは、残ったフルーツゼリーが入った箱を持って、さっさと戻ってしまった。 

「あーー、まってはるなん!ハルが白桃食べる!」 
・・・まあ結局白桃はくどぅーに奪われて、はるなんはオレンジを食べることになったみたい。 

何故かほっとしている自分に気づく。 
なんで?はるなんが白桃を食べなかったから? 
はるなんが白桃を食べなかったらなんでほっとするの? 

無意識にまた、白桃と道重さんを重ねている自分に赤くなる。 

271 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/08/27(火) 05:08:53.54 0 
道重さん。 
どこかさばさばとした男性的な部分もある私や新垣さんと違って、あまりにも女性そのものすぎて。 
触れるのが怖かった。 
少しでも触れると傷つけてしまいそうで。 
触りたい。でも触れない。 

話すときも、冗談めかした言葉でしか会話できない。 
本気の言葉でぶつかっていくのがなんだか怖かった。 

道重さんを特別視していた自分に気づく。 
あの時の道重さんを思い出す。 
道重さんに触れたい自分を自覚する。 
はるなんの言葉を思い出す。 

今更、あの時抱きしめていたらよかった、なんて思った。 
あの時はただただ驚いて、そんなこと思う余裕はなかったけど。 

結局メロンのゼリーは食べずに、まさきちゃんにあげた。 

531 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:36:53.36 0 

工藤遥は絶望していた。 
研修生の控え室に遊びに行っている少しの間に、目をつけていたフルーツゼリーの箱がなくなっていたのだ。 

どこだどこだ。ぴったり人数分あったはずなのに。 
はっ、まさかあゆみんが!? 
くっそぉ、高そうだったからな。あのゼリー・・・。 

「白桃とメロンとオレンジなんですけど。どれにしますぅ?」 

あーー!ハルの白桃ゼリーがあんなところに!! 
ちぇっ、はるなん余計なことするなあ。 

少し離れた位置で、メロン選べメロン選べ、と念じる。 
だって黄緑だし、メロンでいいっしょ生田さん! 

「そこはえり的にはやっぱりメロンっしょー!黄緑やもんね!」 

よっしゃ!はるなんが白桃を選ぶ可能性もあるけど、はるなんはチョロいからな。 
そうなったら譲ってもーらお・・・って。んん? 


「ねえはるなん」 
「なあに?」 
「さっき生田さんとコソコソなに話してたのさ」 
「なにって、ゼリー選んでもらってたの」 
「その後だよお!なんかコソコソやってたじゃん!」 

532 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:38:00.96 0 
はるなんが生田さんとひそひそ話なんて。 
ぜーったい怪しい!! 
自分で言うのもなんだけど、ハルって年齢のわりに空気が読めると思うんだよね。 
しっかりしてるってよく言われるし。周りを見てるっていうかさ!へへへ。 

「なんにもないよ。はい」 
包装をあけてスプーンを添えて、ハルに白桃ゼリーを差し出す。 
「うっそだあ!だってさっきから生田さん超キョドウフシンなんだけど!立ったり座ったり頭抱えたり繰り返して」 
「白桃にしとけばよかった!って思ってるんだよきっと。ほらぬるくなる前にゼリー食べちゃいなよ」 
生田さんの方を、ちらりとも見ようとせずはるなんが言う。 

「んなわけ・・・うわっなにこれメッチャうめー!」 
「もう。あたしだって白桃食べたかったんだからね」 
はるなんがオレンジゼリーをつつきながら頬を膨らます。 
「へっへっへ。わるいね〜はるなん!あ、でもオレンジ嫌いだった?」 
「ううん。好きよ、オレンジも」 
じっとハルを見つめて言ってくる。 
はるなんの目ってほんとにおっきい。 
・・・なんかそんな目で見つめられて、オレンジが好きとか言われたら 
なんか自分のこと言われてるみたい、なんて・・・。いやいやいや!! 

「ごーめんって!ほら白桃ひと口あげるからさ!はいあーん!」 
特別に大きくすくって、はるなんの口に乱暴にスプーンを入れる。 

「あ、生田さんがゼリーまーちゃんにあげちゃった」 
「あらら」 
「あ、あゆみんがまーちゃんにゼリーせびってる」 
「ふふふ」 

533 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:39:31.55 0 
なんだか恥ずかしくなって、ごまかすように目に入ったどうでもいい事を喋ってしまう。 
えーと何か他に話題、話題。 
あ、そういえば。しっかりもののハルはもう1つ気になってることがあるんだった。 

「話変わるんだけどさ」 
「なあに?」 
「最近道重さんって、元気ないよね?」 
ちょっと声を潜めて言う。 
周りは多分気づいてないと思うんだけど、ハルにはそう見えるんだよね〜。 
「そーう?」 
「そうだよお!なーんか元気ないじゃん!はるなん気づいてなかったの?」 
だめだこりゃ。その内サブリーダーはハルに交代だな。ひひひ。 
「最近ハロコンとか撮影で忙しいし、疲れてんのかな」 
「うーん」 
「はるなんさあ、サブリーダーなんだからしっかり見てないと」 
「すぐ元気になると思うよ」 
「えー、なんでわかるのさ!」 
案外無責任なこと言うなあはるなんも。 
「もうちょっとオトナになればわかるかもね?」 
「なんだよお!子供扱いすんなよな!当てずっぽ言ってるだけだろー!?」 
人がせっかく真面目に話してたのにさ!はるなんが思ってるほどハルは子供じゃないし! 

「ごめんごめん、くどぅーは優しいもんね。メンバーのこともしっかり見ててえらいなあ。さすがだなあ。ほら、ゼリー半分あげるから許してよ」 
「えっ、ほんとに?しかたないなー」 

へへへ、と今泣いた烏がもう笑う。 
・・・くどぅーは本当に簡単よね。 
いつでも食べられそうだけど、もう少しオトナになるまで待っててあげる。 
そのほうがおいしく頂けそうだもんね。 
でもね。熟したら摘み取らないと、だめになっちゃいますよ生田さん。 
「くどぅー、おいしい?」 
飯窪春菜はにっこり笑った。 

534 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:40:48.03 0 
はるなんに煽られて道重さんを探しにきたっちゃけど。 
道重さんは、どうやら一人で書物をしているようだった。 
今忙しいかな?と思ったけど、ペンは全く動いていない。心ここにあらず、って感じ。 
・・・できれば新垣さんが来るまでに決着をつけたい。 
これ以上道重さんに辛い思いをさせたくないし、だからと言ってえりが新垣さんを避けると不自然やし。 
コンサート前の今しかない。よし。深呼吸。 

「道重さん。失礼します」 
一応ノックはしたけど、返事は待たずに部屋にはいる。 
「あ、え?生田」 
驚いて反射的にこちらを見るも、視線が交差すると直ぐに目をそらされてしまった。 
「なに?私、忙しいんだけど」 
「話があります」 
「・・・忙しいって言ってるじゃん。後にしてくれない?」 
「いやです。今お願いします。」 
「なんで?」 
「えっ?なんでって、コンサート終わったら新垣さんも来るし、その前に」 
って、えりのアホ!! 
そんな突っ込んで聞かれると思っていなかったけん、思ったままに答えてしまったけど・・・ 
いくらKYなえりでも、まずいこと言ってしまったってわかるとよ!! 

ギラリ、と道重さんの目が光る。 
「・・・ガキさんがなに?」 
「え、いやえっとこの前の事で」 

ふう、っと道重さんは大きく息を吐いた。 
「あーもしかして生田、何か勘違いしてない?」 
「え?」 
「いや私もさ、誤解させちゃったかなーって思ってたんだよね。 
  あんまりあんたがうるさいからムカついてさ、一応今のリーダさゆみなんですけどみたいな。 
  こっちは疲れてんのにしつこいな、みたいな。まあ勘違いさせる様な言い方になっちゃったのは悪かったよ」 
早口に捲し立てる。椅子に座ったまま、一切こちらを見ようともせずに。 

535 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:41:33.99 0 
ああ、このひとは。 
今までだってその言葉の裏に、どれだけの本音を隠していたんだろうか。 
強がりながら、どれ程傷ついていたんだろうか。 
・・・なんて可愛いんだろう。 
目の前の8つも年上の女性が、少女のように愛おしく思えた。 

「多分『新垣さん一筋ですから!』みたいなことを言いに来たんだろうけど、そういうんじゃないから。じゃあ私もう行くね・・・ってちょ、ちょっと!!」 

立ち上がり去ろうとする道重さんを、思わず抱きしめていた。 
耳元の髪に顔を埋める。甘い匂いがした。 
「なっ・・・は、離してよ」 
「いやです」 
「離して・・・」 
でも振り払われることはなかったから。 

「道重さん、えりのこと好きなんですよね」 
「違うって言ってるじゃん」 
「嘘」 
「違う・・・」 
顔を覗き込んでみるも、この期に及んでまだこちらを見ようとしない。 
伏せられたまつ毛も、声も、震えている。 
肌が触れた部分から、熱くなった体の熱が伝わってくる。 

赤く染まった頬に、つやつやと光るくちびる。 

今まで感じたことのない衝動が、体から湧き上がった。 
ドクドクと胸が鳴り、頭が痺れる。 

・・・食べてしまいたい。 

536 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:42:37.23 0 
頬を両手で包み、こちらを向かせる。 
道重さんの体がビクッと強ばる。 
面白いくらい目が泳いでたけど、初めてこっちを向いてくれた。 
欲望のまま、吸い寄せられるかのように口付け・・・ 

「ちょ、ちょっと生田!!」 
もう少し、のところで顔を抑えられ止められてしまった。 
湯気でも出てるんじゃないかってくらい真っ赤になっている。 
「なんですかあ」 
「な、ななななに!?なにすんの!?」 
「まだ何もしてませんけど」 
「そうじゃなくて!なんでこんな」 

だって、だってあんまりにも。 

「おいしそうだったんで」 
「はあ!?何言ってんのあんた・・・ってちょっと!」 
目を白黒させてる道重さんをよそに、もう一度口づけようとするも 
顔を大きく背けられてしまったので、仕方なくそのまま首筋にくちづける。 
「ひゃんっ・・・」 
へんてこな声を出して、体をすくめる。 
ああ、かわいい。かわいい。かわいい! 
止まらなくなって、白い首筋に何度も何度も口付ける。 
「や、やあっ、何す、ひゃっ、やめ、やめて」 
その度に道重さんはびくびくと体を震わせる。 

「嫌なんですか?」 
「や、やだよ」 
「なんでですかあ」 
「だって」 
泣きそうな顔で道重さんは続ける。 
「だって、私のこと好きじゃないくせに」 

537 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:43:52.38 0 
涙が一筋、頬を伝った。 
「好きじゃないくせに、好きじゃないくせに!なんでこんなことするの。かわいそうだと思ってんの?哀れんでるの?」 
泣いてる道重さんもかわいいな。ひとり感情を高ぶらせている道重さんを見ながら冷静に思う。 
涙に光る頬が、朝露に光る白桃みたい。聖、やっぱり道重さんは白桃っちゃよ。 

「ガキさんにもおんなじ事してるんでしょ?それとも他にもいるのかな。生田誰にでもこんなことできそうだもんね」 
道重さんは、自分の気持ちを隠したい時ほど強がってよく喋るみたい。 

「道重さん」 

もう一度強く抱きしめる。 
「ほかの誰にもこんなことせんとよ。したいとも思わんし」 
少し体を離して、道重さんを見つめる。 
まだ目をそらそうとするので、また両手で頬を掴んでこちらを向かせた。 
「確かに新垣さんのことは好きっちゃけど、そういう好きじゃないとよ?」 
頬の涙を親指でそっと拭う。困惑した目でこちらを見る。唇が何か言いたそうにふるえている。 
吸い付きたい衝動をぐっと抑え 
「でも道重さんは違う。もっと触れたいし、ちゅーしたいし」 
拭った頬に口づけし、そのまま耳元で囁く。 

――――――――全部、えりのものにしたい。 

538 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:44:45.90 0 
・・・生田は何を言っているんだろう。 

心臓がばくばくと音を立てている。 
生田に抱きしめられながら、心臓の音聞こえてないかななんて 
バカみたいなことを考えている。 

触れたいって思うのはさゆみだけ、ってこと? 
全部えりのものに、ってさゆみ、を? 
体熱い。頭がくらくらして、この状況も生田の発言も処理しきれず、言葉が出てこない。 

さゆみが何も言わないからか、生田がつけくわえた。 
「えりも、全部道重さんにあげますから」 
ね?とさゆみの頭を優しく撫でる。 

ああ、これまで何度夢見ただろう。 
絶対に叶わなと思っていた。 
この手のぬくもりがさゆみに向けられる事なんてないと思っていた。 
でも心のどこかで期待してしまう自分もいて、苦しかった。 
でも今、生田に求められている。ほかの誰でもない、さゆみが。 

「うっ、ひっく、いっ、いくた、生田、生田」 

嗚咽に言葉を詰まらせながら何度も名前を呼ぶ。 
何も考えずに名前を呼ぶことができることすら嬉しかった。 

今までは普段の会話でも舞台のトークでも。 
その名前を呼ぶ声に熱がこもらないように。 
名前を出す回数すら不自然にならない様に、考えなくちゃいけなかったから。 

539 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:45:48.24 0 
「生田、生田、生田ぁ」 

生田はずっと、子供を慰めるみたいにさゆみの頭を撫でてくれている。 

「ほんとに?ほんとにさゆみだけ?」 
「ほんとですよぉ」 
「ほんとにほんと?」 
「ほんとですってばぁ。もぉ、道重さん涙でメイクぐちゃぐちゃ」 
生田が目を細めて笑う。 
さゆみの事を見る目が優しくって、なんだかすごく安心できた。 

「生田、好き・・・大好き。大好き・・・」 



随分抱き合っていた様に思う。 
涙と嗚咽も落ち着いて冷静になってきたのか 
道重さんは、恥ずかしそうにそっと体を離してきた。 

道重さんにあんなに名前を呼ばれたのは初めてやね。 

この人は自分のことが本当に好きなんだと実感できてゾクゾクした。 
潤んだ目で名前を呼ばれる度に頭がじんわりと痺れた。 

改めて思う。 
この人を全部自分のものにしたい。 

540 : 名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 02:46:26.91 0 
道重さんの耳を両手で塞ぐようにし、ゆっくりと唇を近づける。 
「えっ、だ、だめだよ生田」 
「だって道重さんはもうえりのものっちゃろ?なにがいかんと?」 
今にも唇が触れそうな距離で、囁くように言う。 
「だ、だってさゆみこんなの初めてだし、それにすぐこんなのって、その」 
「悪いのは道重さんとよ。こんなに可愛くって、おいしそうで、いい匂いさせられたら」 

我慢できない。 

「い、いくた、ふっ・・・」 

まだ何か言おうとする道重さんの口を、唇で塞ぐ。 
甘く、柔らかい。もっと、もっと欲しい。 
角度を変え、何度も何度も唇を味わう。 

「ん、ん・・・ふぅん・・・」 
ギュッと目を閉じていた道重さんの体の力が徐々に抜けていくのを感じた。 
そのまま舌を滑り込ませ、逃げる舌を追いかけ掬い、擦り合わせる。 
「あふ、ん、ん、ん・・・いく、た、だめ、ん・・・ん・・・」 

ああ、気持ちいい。 
くちゅくちゅと漏れ出る音も、道重さんの吐息混じりの声も 
胸を柔く押し返してこようとする道重さんの細い腕の感触も 
道重さんを貪る舌の感触も、全部気持ちいいけど。 

何よりこの自分が道重さんを支配しているという感覚が気持ちいい。 

でもまだ足りない。もっと、もっと深く・・・ 

542 : 一旦ラスト[sage] 投稿日:2013/09/05(木) 03:04:58.35 0 
「痛ったあ!?」 
ガンッ と 後頭部に痛みを感じて反射的に体を話す。 
頬をふくらませ、涙目で拳を握る道重さんが見えた。 

「えーーーっっ!!何するんですか道重さぁん!いいとこやったのに・・・って痛い!痛いですう!!」 
ポカポカと、というには大分強めの拳が降ってくる。 
「生田のばか!!さゆみ、は・・・初めてだって言ったのにっ!」 
「えー、いいじゃないですかぁ。えりのこと好きなくせにー」 
「それとこれとは話が別なの!初めてなのに、こ、こんな、なんかやらしぃ・・・」 
自分で言っておいて、また道重さんはカーッと赤くなって行く。 
あれ、なんか案外・・・ 
「道重さんって純情なんっちゃね・・・」 
アイドルやしそーゆー経験なかったとしても、見た目キレイなオトナのお姉さんやし。 
まさかそんなリアクションが返ってくると思わなかったけど。返ってそれが、自分の支配欲を高めていくのを感じた。 

「うるさいよ!あんたがチャラすぎんのよ!」 
「・・・えりも一応初めてっちゃけど。でもこうなっちゃうのは道重さんが可愛すぎるのが悪いとよ? 
 もう道重さんはえりのものやから、逆らっちゃいかんとよ?」 
口をパクパクさせている道重さんの体に指を這わせながら言う。 

いつも自分で可愛い可愛い言ってる癖に。 
えりの一言一言に翻弄される道重さんがかわいくって、不思議と恥ずかしい言葉もすらすら言えてしまう。 

「ね、だからもう一回」 
「そ、それとこれとは別だったら!」 
「えー?しょうがないなあ・・・じゃあ今日は我慢してあげますけど」 

でもそのうち、甘くてどろどろの中身も全部ぜーんぶ、曝け出させて食べてやるんだ。 

「あ、そうだ道重さん。えりって果物に例えるとなんだと思います?」 
「え、にんにく。野菜だけど」 
「えー・・・」       
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