あたしだけは、そんなこと絶対にあり得ないと思ってた。

「れいなー」

後ろから抱き締められる。コイツの腕の中にすっぽりと収まってしまうのが悔しい。

「なんとや?」
「ナニ怒ってるんデスか」
「怒っとらんから離れて。暑い」
「キスしてくれたら離れマス」
「アホ言うな」

無理矢理に離れて肩を小突いた。ジュンジュンは不機嫌そうにあたしを見下ろす。

「ジュンジュンのこと嫌いか?」
「嫌いちゃうって。何言おうと」

今にも泣き出しそうな顔をしている。頬を包んで笑いかけると、すぐに笑顔になった。

「大好きっちゃよ〜?」

からかうように言ってみた。ジュンジュンはすぐにムキになるから、
きっとくすぐったりして、攻撃してくるはず。
そう、思ってたのに。

いつの間にかジュンジュンの胸の中にいた。大きな背丈、長い腕。
ジュンジュンの匂いが、呼吸とともに身体中に広がる。

「からかわないでください」
「え…?」
「ホントに好きデス。我愛、」

聞き取れなかった。うぉ、あい…?何て言ったの?って尋ねる前に、
ジュンジュンはどこかに駆け出していた。
追いかけようか。遠のく背中を見て思う。と同時には体が動いていた。

あたしだけはそんなこと絶対にあり得ないと、そう思ってたんだ。
女を好きになるなんて、遠い世界のものだと思ってた。なのに、
今あたしはジュンジュンの背中を追いかけてる。

泣いてるなら涙を拭うし、笑ってたら心配させるなと肩を叩いてあたしも笑う。

そして、さっきの言葉の続きが、聞きたい。
この気持ちは、恋と呼ぶべきなのだろうか。


トイレにいた。鏡の前でうつむいている。その背中に触れると、
鏡のジュンジュンと目が合った。

「何で逃げたの?」

ジュンジュンは鼻をすすり、もう一度うつむいてから言った。

「嫌われたかなと思って…」
「嫌うわけないやん」

顔をのぞきこんだら、ジュンジュンは真っ赤な目で笑った。頬に触れると、
その手をつかまれ、引き寄せられた。

「ジュンジュンがれいなさんのこと好きなの、嫌じゃないデスか?」
「嬉しいよ」
「結婚できナイけど、いいデスか?」
「はは、いいよ」

ぎゅーって強く抱き締められる。ちょっと苦しいけれど、幸せだ。

壁に背中を押し付けられる。手を包まれ、優しく口づけられた。
好きだ。誰が何を言おうとも、あたしはジュンジュンが好き。
それにしても結婚できなくてもいいかって質問、面白いね。

「れいなさんはジュンジュンのこと好きデスか?」
「さあねー」
「嫌い?」
「もー・・・好きだよ」

脇腹をくすぐると、くすぐり返された。トイレから走って逃げ出すけど、
後ろから掴まえられた。やっぱりジュンジュンは、笑ってる顔が一番可愛い。

「そういえばさっき何て言おうとしたの?」
「さっき?」
「うぉ…あい…?」
「ああ、アレね」

ジュンジュンは意地悪く笑ってあたしの頭をくしゃくしゃに撫でた。

「我愛イ尓」
「うぉーあいにー?」
「愛してる」

うわ、やばい。なんか頬が熱い気がする。

「れいなサン、顔赤い」
「赤くないし」
「我愛麗奈」
「それはなんて言うとや?」
「れいな、愛してる」

中国での自分の名前の発音に少し感動した。ジュンジュンだけに
呼ばれる特別な名前な気がした。
これからも、呼び続けてね。

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