293 名前:名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/02/26(火) 21:34:21.87 0


さゆみが目を覚ますと隣にいるはずの衣梨奈の姿が見当たらなかった。
自分の部屋にでも戻ったんだろうか。
それにしても一言くらい声をかけてくれればいいのに、と溜め息を吐きながら思うとさゆみは衣梨奈がいた辺りのシーツを撫でる。
乱れた既にシーツは冷たくなっていた。
撫でるのをやめて顔を上げると、1人用のベッドなのにいやに広く思えた。
一体いつからそう思うようになったのだろう。
あの子がいないと広すぎるベッド、冷たいシーツ、その上にたった一人佇む自分。
何かが足りない。生田が、足りない。
いつもより落ち着いた声で好きだと、愛してると言ってほしい。
例えその言葉に心がなくても想いがなくても構わない、建設的な明るい未来なんていらない。
ただクシャっと猫みたいに目を細めて笑って、真っ直ぐな熱い視線でこの胸を貫いてほしかった。
やっぱり生田が足りない。
さゆみがシーツを強く握り締めていると、道重さん起きてたんですね。と能天気な声が聞こえてきた。
「い、生田?自分の部屋に帰ったんじゃなかったの?」
「いやシャワー入ってました。汗?いたからなんか気持ち悪くて」
少しだけ濡れたタオルを肩にかけて困ったように笑う衣梨奈。
さゆみはもう自分を抑えることができなくて、ベッドから降りると衣梨奈の元に駆け寄った。
そしてその引き締まった体を思い切り抱きしめる。
「道重さん?」
「ねぇ生田・・・好きって言って?」
「えっ?あぁ、いいですよ。好きです、道重さん」
いつだって衣梨奈は嬉しそうな顔をしてさゆみに好きだと告げる。だから時折本気なんじゃないかと錯覚しそうになる。
生田の好きな相手は自分じゃないことなど、ずっと前から分かっていることなのに。
その隣の席に自分は座れない。
さゆみは軽く唇を噛み締めると、衣梨奈の頭を抱え込んで自分の胸に引き寄せる。
「・・・もっと・・・もっと好きって言って、生田」
さゆみの命令に衣梨奈が逆らったことは一度もない。
現に衣梨奈は小さく笑うと、『好きです』と何度も何度もさゆみの胸で呟く。
その言葉をさゆみは望んでいた、でも衣梨奈が呟くそれは自分が求めているものではなかった。




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