トレゾアに初めて来てから数ヶ月。すっかり常連になっていたあんなは、今日も仕事の合間にふらりと店に来ていた。
「こんにちはー。また来ちゃった♪」
「いらっしゃいませ。いつもありがとうございます」

丁寧に挨拶をするココ。そして、その後ろから子供のように駆け寄ってきたのは中国人店員のリーだ。
「あんな、今日も可愛いネ!今日はなんの仕事だ?」
「雑誌の取材なの。そういうわけで時間ないんだから、早くしてね」

いつものアイドルスマイルと、高飛車口調で言うあんな。
しかし、それを見たリーは不思議そうな顔をして、それからすぐにパタパタと店の奥に消えた。
「あんな、ちょと待っててネー!」
「ちょ、リーさん?…あぁ、消えた」
あんなより先に間抜けな声を上げるココ。
しかし、何秒もしないうちに再びパタパタと戻ってきた。
「はい、アメだヨー!手出して!」
「え?うん…」
言われたとおり出した手に乗せられる飴。
あんなは怪訝な顔をした。

「どうして?くれるの?」
「うん。だって、風邪ひいてるダヨネ?」
「えっ…なんでわかるの?」
「声少しいつもと違うヨー」

リーがそう言って初めて、ココも頷いた。
「そういえばそうかも。でもよく気づいたねえ」
「へへー。テレビ出てるあんなも、いつも見てるだからネ!」
リーがブイサインを出す。
普段高飛車キャラのあんなだけれど、とっさにリアクションを取り損ねたのか、柔らかい表情を見せた。
「…ありがとう」
そして、それに気づいた美優が、レジカウンターから出てきた。
「あれ?あんなさんもそんな風に笑うことあるんですね」
何気ない口調で言ったものの、あんなは顔を赤くして睨んだ。
「な、なによ!なんか文句ある!?」
しかしこの取り乱し様も普段のあんならしくなく、美優は苦笑した。
「…いいえ。失礼しました」

「あんな怒るな!笑う方が可愛いダヨ!」
再び無邪気に寄ってくるリー。そのおでこに、あんなはピシッとデコピンを食らわせた。

「イタっ!…えー、ナニ?ナニ?」
「うるさい子ねえ。…あなた、名前は?」
「え?…リーだよ。李芳芳」
「ふーん。…やっぱり今日は時間ないから、帰るわ。気が向いたらまた来るかもね。じゃあね」

そう言って出て行こうとするあんな。
ココが慌てて入口まで追いかけて、お辞儀をした。
「またお待ちしてます!」

その後ろ姿が見えなくなってココが戻ってくると、リーがぶつぶつと文句を言う。
「なんであんな怒ったカナ?アメあげたのに。私のこと嫌いか?」
すると、ココはふっと笑った。
「違うよ。むしろその逆、かも」
「ンー?」

よくわかっていないリーの表情に目を細める。
あのあんなが、服のコーディネートをしてくれたわけでもない店員に名前を尋ねるなんて。
なんとなく楽しい気持ちになっていると、同じことを思っていたらしい美優がココに声をかけた。
「…なんだか面白くなりそうですね」
「ホント。…またすぐ来るでしょ、あんなさん」
「ナニガ?ナンデ?もー、教えろヨ!!」

ひとりでバタバタするリーを見て、二人は声をあげて笑った。

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