約束はしていたけれど、いつもいつも思い通りにいくはずはなくて。
メンバー全員が揃ってお仕事をしている日。

今夜は、満月。

−−−

「月は見ないようにします」

月の暦を見ながら、リンリンは昨日そう言っていた。
さゆみがしてあげた後だったから、少し照れたようにタオルケットにくるまって。
恥ずかしそうな瞳は、純粋そのものだった。

けれど、そういうリンリンとはまったく表情を変えてしまうのが満月で。
『見ない』って言ったって、なにかのはずみで見ちゃうかもしれないし。
さゆみ以外の人の前だと、どう豹変してしまうのかもわからない。
正直、気が気じゃない。

さっきから、撮影中も、休憩中も、ちらちらとリンリンを気にしていた。
…他の人の目にはどう映ってるかわからないけど。
月が視界に入っていないとしても、満月という事実だけで、少し様子が違う感じがする。
しかもこんな日に限って雲ひとつ無い夜空で。
カーテンを閉めていても、月明かりが入ってくるんじゃないかと心配になるほどだ。

…それとも、月を見る見ないはそれほど関係がないんだろうか。
リンリンはいつもと同じようにニコニコしてはいるけれど。
どこか、目つきが鋭い。
微笑む口元が、冷たい。
そう思うのは、自分だけだろうか?

ジュンジュンと話しているリンリンを眺める。
二人で談笑している。

そのときだった。

「なんか熱気こもって熱いね。ここ開けていい?」
「うん」

…!
スタッフさんの中の誰かが、控室の窓を開けた。
音につられてリンリンがそっちを見るのがわかった。

自分まで、なるべく見ることを避けていた満月は
大きくて、不気味なほど紅くて。
それだけで、リンリンがどんな風にコワれてしまうのかが想像できて、寒気がした。

「…リンリン?」
振り向くと、リンリンは月を凝視していた。
そしてすぐに、苦しそうに手で顔を覆う。
やばい。

「どした?ダイジョウブ?」
隣のジュンジュンが声をかける。
するとすぐさま、リンリンは差し伸べられたその手を、バシッと振り払った。
いつにない乱暴さにジュンジュンは驚いた顔をする。
「え…リンリン?」
「何?」
様子を見ていたメンバーも含めて、控室は少し緊張した空気になった。

「リンリン!」
さゆみは慌てながらもすぐに駆け寄って、なるべくみんなに怪しまれないように手を取った。
「気分悪いの?ほら、ちょっと外の空気吸いに行こうよ、ね」
とっさのお芝居に応じてくれる気があるのかないのか、リンリンは片手で顔を覆ったまま、鋭い視線を向けるだけ。
…まともに意識が保ててないのかもしれない。
返事を待ってられなくて、ほとんど引きずるようにその場を離れる。

「ジュンジュンごめん、ちょっと出てくるね」
「あ…ハイ」

不思議そうないくつもの視線を振り払って廊下に出た。
とにかく人気のない場所で、落ち着かせるつもりだった。
そう思ってとりあえずトイレに入ったけど、入ってすぐに『しまった』と思った。
ここに来るまでは、リンリンを引っ張っていたはずなのに。
人がいなくなった途端形勢が逆転して、さゆみはすぐにトイレの個室に引きずり込まれた。

「ちょ…いたっ…」
「………誘ってるんですか?」
「え…」

個室に入って、鍵をかけて。
思い切り顔を近づけてささやいたリンリンは、完全に豹変が完了していた。
目つきが違う。
笑い方が全然違う。
まるで、獲物を前にした肉食獣だ。

「こんなトコロに、二人きりで…」
「や、それは…」

本当に、そんなつもりはなくて。
でも、舐めるような視線でリンリンに見つめられると、否定の言葉もしぼんでしまった。
心臓がばくばくしてくる。
跪きたくなる。
耳のあたりを舌先でなぞられて、力が抜けた。
自分より小さな体のリンリンにしがみつく。
まだ何もされてないのに、足に力が入らない。

「どうしたデスカ…?」
しがみついた腕をゆっくりふりほどかれて。
壁に、肩をぐっと押しつけられる。
リンリンの体にもたれかかることは許されなかった。
固くて冷たい壁が背中にぶつかる。
けれどその乱暴さも、今はたまらない。

「ねえ、リンリン…」
きっと今のさゆみ、もうおかしくなってる。
何をされてもかまわない。
いっそ傷つけられたい。
でもその前に、一度だけでいい

キスがしたい

壁に背を押しつけられたまま、目だけで必死に訴えた。
「お願い…。キスしたい…キスさせて…」

リンリンの目つきは変わらない。
普段なら、『キスしよ』って言うだけで、照れたような甘い表情になるのに。
どこか見下すように口元だけ歪ませて、それでも唇が近づいてきた。
なのに、それは寸止めで止められた。

「…ダメです」
「…え…んっ!!」

左手で強く肩を押されて。
さっきまで触れそうだった唇が、服の上から胸の頂点を噛んだ。
これは痛みのはずなのに
下半身にじんじんと電流が伝わる。

ああ…もう、立ってるのはキツい。

「ねえ、するなら…」
便座を下ろしたトイレに座ろうとする。
けれど、再び強く肩を押された。

「…今日は座るのはナシです」
「えっ…」

立たされたままの体。
びりびりと疼くその部分に、ぐっとリンリンの膝が当てられた。
「ぅんっ…!」
スカートの上からにもかかわらず、刺激が強すぎるくらい。
冷たくて妖しい視線。
その目を見れば見れば見るほど、濡れてくるのがはっきりわかってしまう。

「手、邪魔だよネ…」
撮影用の衣装に使っていたネクタイをほどいて、さゆみの手首に巻く。
元々几帳面な方ではないせいか、かなり乱雑にぐるぐると巻かれた。
それでも、容赦ない力できつく縛られると『ああいつものリンリンじゃないんだ』って気づく。

「…ねえ、ちょっ…痛いよ…」
わずかに抵抗しながらそう言うと、見透かすような目で微笑まれた。
「…でも好きデショ?」
「………」

その通りすぎて何も言い返せない。
そのまま、縛られた手のネクタイが、個室内のフックに引っかけられてしまった。
結構高い位置にあるフックで、体勢がきつい。
少し背伸びするくらいな感じで、縛られた腕を高く上げる格好になる。
…なんて格好させられてるんだ、自分。
でも、舐めるような視線がたまらない。

「…は…はやく、して…」
「…どうしようカナァ」
なにか企んでいるような顔で、リンリンはさゆみのショートパンツを下げた。
そのまま下着も膝まで下げられて、ソコがあらわになってしまう。

すぐにでも触って欲しくて待っているのに。
リンリンは、悠々と便器に腰掛けて足を組んだ。
「…え、なんで…」
「ちゃんと見てカラ」
「…!」

くすくすと笑いながら、下半身が晒されてしまっている状態で見つめられる。
触られることには慣れたけど、さすがにこれは恥ずかしすぎる。
「…ねえ、やだ…お願い、本当にやだっ…」
「ふうん?」
それがなんだとでも言いたげな目をして、まったく動く気配がない。
本当に恥ずかしくて耐えられなくて、でも何故か体はさらに熱くなった。
腰が自然と、刺激を求めて揺れてしまう。
触れられてないのに。
抱きしめてもらってさえいないのに。

「……ん…はぁ…」
刺激が与えてもらえず、腰を振ってもただただ欲しい気持ちが募るだけで。
それでも、蜜は溢れてくる。
太ももを伝う感覚が自分でもわかる。

「…可愛いデスよ。今の道重サン…」
「やだぁっ…」
壁に背をこすりつけるように身悶えして、必死にアピールする。
こんなに触れて欲しいって。
もう、おかしくなりそう。

「ねえ…し、してぇ…」
甘ったるい声に自分で驚く。
でも、止められない。
リンリンはゆっくりと顔を上げて、自分の指をしゃぶった。
「…これが…欲しいんデスカ?」
「……うん…」
舌先で指をたどり、濡れた指でお腹をなぞられた。
濡れた感覚が走る。
そして、今まで全くノータッチだった敏感な部分を、いきなり指で刺激された。

しかも、それは一番感じる部分で。
ぶる、と体が震える。

「…!!!あぁ…ん」
「…アレ、もう?早すぎナイ?」
軽くイッてしまったのを見逃さず、意地悪くそう言われた。
でも、もっと欲しくて腰がリンリンを求める。

「はぁ…やだ…。もっと、し、して……」
「……可愛いデスね。道重サン」
力が上手く入らないのに、縛られているせいでほとんど動けない。
自分でしてしまうことも叶わない。

「ねえ…さ…触ってっ!お願い…お願いだからぁ…」
泣きそうになりながらそう言うと、リンリンは唇を舐めて目を細めた。
「…スケベ」
「あ…あぁん!!」
乱暴に、だけど的確に。
さゆみのイイところを指が往復する。

中途半端に背伸びさせられたままの体勢。
腰は前後に動いてしまうけど、上半身が固定されている。
動く度に痛む両手。
それすらも気持ちいい。
こんなところで誰か来たらどうしよう、って思うことが、さらにさゆみを煽る。
リンリンは、薄笑いを浮かべてこっちを見てる。
「あ、あ、あ…いや、ダメ、はぁあ…」
「イタイ?気持ちイイ?」

天使の顔。
悪魔の表情。
どこかオカシイんだと思う。
リンリンも。
さゆみも。

自由を奪われた頭で、ぽつりと思った。
もっともっと虐められたい、と。


7.6さゆみん 435-440

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