今日、絵里はガキさんの部屋に行くらしい。
ツアーでの楽しみである、ホテルで過ごす絵里との時間。

『たまにはいいじゃん、ね』

今日もいつも通りの夜を過ごせると思っていた。でも、たまには違う相手と過ごしたほうがいいだろう。
いってらっしゃい。わざと拗ねたように言ってみたら、絵里はうははと笑った。

「寂しかったら、ガキさんと遊びにいってあげる」
「いらないし」
「強がるなーあ」
「いいから早くいきなよ」
「うん、またね」

パタン。扉が閉まる音を聞いてからベッドに飛び乗った。
なんとなく携帯を開いて、アドレス帳をスクロール。
たまには私も。驚く表情を思い浮かべながら電話をかけた。

「おじゃまします」

ドアを開くと、リンリンが立っていた。私の顔を見ると、すぐに笑顔に変わる。
つられて緩む頬。ドアを大きく開いて、部屋に迎えいれた。

何歳になっても無邪気な笑顔は変わらない。出会った頃の彼女も、今と同じように笑っていた。
誰かを憎むような、醜い感情なんて持っていないんじゃないかと思ってしまうほど、純粋で。
驚いちゃうほど、優しい。

いつまでもこのまま、変わってほしくないなあって、目の前の笑顔を見て思う。

会話が途切れた。ふと、頭に浮かんだことを言葉にする。

「ねぇ、もし愛ちゃんに告白されたらどうする?」
「…え?」
「もしだってば、もしも」

愛ちゃんは女の子で、同じモーニング娘。のメンバーで。
何からつっこめば言いのかわからないというような表情で、リンリンは唇を結んだ。

困ってる姿を見て、面白いなあと思った私は、もう一つ質問をしてみた。

「じゃあ…さゆみだったら?」

驚いた表情で顔を上げる。思ったとおりの反応がかえってきて、笑ってしまいそうになるのをこらえた。

リンリンの手を取って、そのまま引き寄せた。ベッドに腰かけたさゆみの膝の上に、すとんと座る。

少し赤くなったように見える頬を指で撫でた。瞳を、とらえて離さない。目を逸らすことさえ許さないほど、まっすぐに見つめた。
腰を引き寄せると、距離なんて存在しないほど近づいた。こうやって見下ろされるのも、悪くない。ますます赤くなる表情を見てそう思った。

唇を指でなぞると、小さな肩がびくっと震えた。そのまま手でリンリンの頭に触れて、ゆっくりと顔を近づける。

「ねぇ、どうする?」

こんな状況で尋ねるなんて、我ながら卑怯だと思う。答えを待たずに口づけた。

柔らかい唇を、何度も重ね合わせる。触れるだけのキスを繰り返す。
どちらかともなく離れると、リンリンはすっと目を逸らした。
抱き締めたままリンリンを押し倒す。鼓動がうるさいくらいに高鳴った。
見下ろすと、濡れた瞳に見つめられる。溶けてしまいそうな感覚に襲われながら、再び口づけた。触れるだけじゃ足りなくて、舌をさしこみ、絡めた。
途切れ途切れに漏れるお互いの呼吸が部屋に響く。

止まらない。衝動がどんどん大きくなってきて、理性が今にも崩壊しそうになってきた。

「…嫌なら、やめるから」

今ならやめられる。今なら後戻りできる。
…多分。
ちょっとからかうだけのつもりだったのに。
夢中になってしまっている自分に気付いてしまった。

「……いや、じゃ…ないです」

濡れた瞳で私を見つめて答えた。張りつめていた理性の糸は切れた。

首筋を舌でなぞる。ビクッと体が揺れた。Tシャツの裾から手を差し込み、ブラの上から乳房に触れる。
リンリンは顔を背け、腕で顔を隠している。その腕をつかんでベッドに押し付けた。

「隠しちゃだめ」

耳元で囁くと、体が震えた。そのまま舌で耳をなぞる。敏感な体は、与えられる刺激にその度に反応する。
ブラを外して、頂点に触れると、小さく声が漏れた。

ジャージを脱がし、下着の上から触れる。自分の余裕の無さに、驚き呆れた。
まだ何もしていないのに、下着越しでもわかるほど、そこはすっかり濡れていた。
しばらく布越しに指でなぞる。びくびくと体を震わせ、唇を噛んで声を耐えるリンリン。
触れたままキスをした。閉じた唇をゆっくりと開いていく。口づけながら下着を脱がせた。
直に触れると、さっきよりも濡れている。くちゅくちゅといやらしい音が、さらに私の鼓動を速める。

「怖くないから、力抜いてね…?」

ゆっくりと指を沈める。濡れていてもそこは狭くて、いっぱいいっぱいだ。
ほぐすように動かすと、リンリンは腰を揺らしながら声を漏らした。
上ずったハスキーな声は、これ以上ないくらい色っぽくて、興奮を煽られる。
見つめると、わざとなのってくらい熱っぽい視線で私を見つめ返してくる。
仕掛けられたのは、私のほうかもしれない。そんなことを思ってしまうほど、夢中になってしまっている。

「…ぅあっ…ああ、みちしげさんっ……」
「なに?リンリン」
「なん、か……あのっ…」

ぐちゅぐちゅと音を立て、指を動かす。そのまま触れていると、リンリンはびくびくと体を震わせて、果てた。

ただ、お互いの呼吸だけが部屋に満ちる。肩で息をするリンリンに、口づけた。
苦しそうな表情で応えてくる。まだ私の中の熱は消えそうにない。
無我夢中に、彼女を求めた。

目が覚めた。時計を見ると、3時を過ぎたところだった。
隣には、幼い寝顔。先ほどまで繰り返した行為が想像できないほど、子どもっぽい表情だ。

今さら、彼女への気持ちに気付いてしまった。
目の前には、確実に別れが迫っているのに。
離れるのが辛くなるだけ。どれだけ好きになっても、そばにいることはできないのだ。


リンリンの頬を撫でると、涙がこぼれた。
一晩の過ちで済むなら、楽なのに。


終わり

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