さゆえり「れいなはココが感じるの?w」13 846-855

初めてリンリンを抱いてから、一年くらい経つ。
別に、かといってその後そこまで頻繁にしていたわけじゃないし
相変わらず奥手なリンリンは、キスだけでもすごく照れるし、可愛い

でもその、あんまり。
なんていうか、逆に。
リンリンて、自分からはそんなに求めてこない。


「…で、ジュンジュンてやっぱり田中サン大好きと思うですよ。こないだもネー」
「うんうん」
いつものように、さゆみはリンリンの話を聞く。
さゆみが面白がりそうな情報を積極的に入手してくれる辺りは、一年前とそう変わらない。
…なんでも報告するリンリン、だったもんなあ。そういえば。
ある意味、それがきっかけだったような気もする。
今みたいに、リンリンの家で話をするようなことは、あの頃はなかったけれど。

「あれでもジュンジュン意外とやさしいから、田中サンの嫌なことはしないし」
「そうだね」
「ただ、やっぱり田中サンとか亀井サンて…あ、道重サンもダケド…」
「……ん?」
急にリンリンの声が小さくなった。
…ん?
なに?絵里がどうした?
ていうか、あたし?

「…どうしたの?」
壁に背をつけてベッドの上に座っているリンリンに、少し寄る。
なんとなく、何か言いたそうな顔してるけど。
なんだろう…?

しばらく迷っていた風だったリンリンは、少し迷ったままの目でこっちを見た。
「…あの、田中サンは…亀井サンと、その、ずっとそういう…ことしてたデスヨネ?」
「えっ。…あー…うん…」
確かに。
それは『なんでも報告してたリンリン』はもちろんよく知っていることで。
でも、別に付き合ってるとか、そういうわけでもなくて。
今思えば若気の至りだと思うけど、さゆみたちは変な遊びばっかりしていたと思う。
しかも、それに関してつっこまれるのは、さゆみとしてもかなりイタい。
…特に、リンリンの前では。

「…道重サンも、あの二人と…あの…」
「………うん」
そう。
さゆみと絵里がれいなにしたことも。
さゆみがどういうことをしていたかも。
目の前のこの子は全部知っている。

いつからか、それが心苦しくて。
さゆみは、そういうことをしなくなった。
もちろん、リンリンとその話をすることも。
それが今、リンリンの方から切り出されたこと。
ちょっと…いや、かなり心臓が痛い。

居心地の悪さに変な汗が出てくる。
しかも、リンリンがそんなことを言い出すなんて初めてだ。
相変わらず思い詰めた表情のリンリンは、遠慮がちに―けれど、しっかりとこっちを見て言った。

「…今も、そうなんですか?」
「えっ」
「今も…3人は、そうなんですか?」
「…………」
さゆみは、一瞬迷った。
…結論から言うと、答えは『NO』だ。

半年くらい前から、れいなの様子がおかしいことに気づいたのは絵里で。
二人で問い詰めたらやっぱり、『ジュン子が好き』って白状した。
ジュンジュンは気づいてないみたいだけど。

そのときくらいから、なんとなく3人での行為はなくなった。
特にこだわりのなさそうな絵里はすんなり納得していたし。
さゆみは、正直ホッとした。

……だって、さゆみはもう…。

「…道重サン?」
「あ…あ、うん、えーっと…」
我に帰って、言葉を探した。
リンリンは今、どういう気持ちなんだろう。
さゆみはまだリンリンの質問に返事をしていない。

…『今もしてるよ』って言えば、リンリンは妬いてくれるのかな。
それとも、『もうしてない』って言ったら、安心してくれるのかな。
もしかしたら、『してない』って言ったら、自分の役目がなくなっちゃうとか思うかもしれない。

どの答えを選択していいのかわからないまま黙っていると、リンリンは少し唇を噛んだ。
「…あの、別にどっちでも…エト、私何も…」
言いながら、自分でも何が言いたいかわからなくなったらしい。
もどかしそうにこっちを見て、さゆみの肩に触れた。
思った以上の熱さに、胸が高鳴る。

それからすぐに、唇が重なった。
いつもみたいに、おねだりするようなキスじゃなくて
少し強引に、両手で頭をしっかり押さえられた。

「……ん、っ…」
目を閉じてもがくと、一旦唇が離れる。
けれど、すぐにまた熱い唇が触れて、舌が入り込んできた。
「…?」
不思議な違和感に目を開ける。
なぜか、絡んだ舌は甘い味がする。
飴でも舐めてたのかな。
でも、そういう感じでもなくて…。

「リンリン…なに?」
口の中の甘いものを唾液ごと飲み込むと、リンリンからも甘い吐息がこぼれた。
「…ビヤク」
「えっ」
ビヤク
…って、媚薬?

目の前のリンリンは、困ったような申し訳ないような顔で笑った。
手には、香水のような小さな瓶を持っている。
どうやら、さゆみが目を閉じている間に、口に含んだらしい。

「…本当に効くかわからないですケド」
「……いや…」
そういうことじゃなくて
いや、なんだかわかんないけど
…なんでそんなもの持ってるの?
っていうか、そういうプレイしたがる子じゃないはずだけど。
今日のリンリンは、なんかいつもと違う。

ゆっくり体重がかかって、ベッドに仰向けに倒れる。
積極的な気分、なのかな。
でもそういうのとも違う。
すごい、必死な顔してる。

「…どうしたの?」
少し心配になってそう聞くと、さゆみを見下ろす視線が少し揺れた。
「…なんでもないです」
なんでもないわけないじゃん。
なんで泣きそうなの?

さゆみがそう、口に出すより先に。
体に変化が訪れた。
急にがくんと力が抜けたような感覚。
それに、体がすごく熱い。
じわじわと全身を漂う熱が、中心に集まってくる感じ。
…これ、もしかして。
媚薬のせい?

「クダサイ…」
遠慮がちに求める口調はいつも通りで。
ただ、性急そうな手つきだけが気にかかる。
けど。
「…はぁ…」
正直、違和感あるからってその手を止められる気はしなくて。
どんどん膨らんでいく欲情にまかせて、リンリンの肩を抱き寄せた。
「んっ…欲しいの?」
「ハイ…あ、でも今日は…」
「え?」

ぐっと体重をかけられる。
頬を指でなぞられた。
「あっ…」
「…ワタシに、させてください…」
潤んだ目が訴える。
耳元に、唇が触れるか触れないかのところで囁く。
ぞくぞくする何かが、背中を駆け上がった。

「道重さん…可愛い…」
「ん、ぁぁ…」
何も知らない彼女を初めて抱いてから。
度々体を重ねたけれど、リンリンの方からすることは一度もなかった。
…だから、さゆみのことをどう思ってるのか、正直わからなかったし。
さゆみが、リンリンをどう思ってるのかも、多分伝わっていないと思う。
『遊びで抱いてると思われてても仕方ない』
そういう感じで…。

だから…
だから……

今のリンリンも、遊びでさゆみを抱こうとしてる?

「ねえ、リンリン…」
「……」
リンリンは、顔を上げない。
首筋を舌が這う。
どうしようもない快楽が襲う。
体が、ぐにゃぐにゃに溶けそう…。

「あっ、ん、くぅっ…!」
親指を噛んで耐えた。
甘い香りがする。
重なっている体の、密着した部分が熱い。
触って欲しいけど、心のどこかがそれを拒絶する。

リンリンに、遊びで抱かれるのはイヤだ。
…自分は、それをしたくせに。
あたしは何か言える立場じゃない。
でも
でも…
「ん、ああぁ…」
「脱いでください…」
「うん…ん、嫌、待って…」

欲しい気持ちを抑え、さゆみはその手を押し留めた。
どこか不安そうな目を見て、小さく呟く。
「リンリンは…」
「……ハイ?」
「………」
視線がぶつかる。
…けれど、やっぱり言えない。
遊びかどうか、なんて。
あんなはじまり方にさせてしまったのは、さゆみなのに。
今更『本気じゃないと嫌』だなんて。

しばらく、変な沈黙が流れた。
何を言っていいかわからない。
こんなワガママ、許されるはずがない。
なのに…。

困り果てて目をそらす。
白い天井。
目を閉じて、胸の苦しさに息を飲んだ。

その瞬間。
ぽつり、頬に暖かいものが落ちた。
「……?」
それがリンリンの涙と気づくまで、少し時間がかかった。
泣いているのは自分だと思ったから。
でも違う。
確かに、泣いているのはリンリンだった。

「どうして泣くの?」
次第にぼんやりとしてくる頭で問いかける。
リンリンは、気持ちのやり場がない感じで目を閉じた。
「…やっぱり、薬、効いてナイ?」
「え…」
正直、震えるほど薬は効いている。
でも、今そういう話だっけ。
今日のリンリンはやっぱりおかしい。

「あの、さ…」
ぽろぽろと泣き続けるリンリンに何を言おうか迷っていると、胸にぎゅっと頭を押しつけられた。
「ビヤクって、好きになる薬でショ?」
「えっ。…まあ、そう…だと思うけど…」
とりあえず頭をそっと撫でると、子どもみたいに口を引き結んだリンリンがまっすぐこっちを見た。
視線に思考が奪われる。

震える声で。
リンリンの唇が告げた。
「…わ、ワタシのこと…っ…好きになってクダサイ…」

「えっ…」
今までも、誘うような目をすることはときどきあったけど。
こんなに必死な表情は初めてで
ていうか今…リンリン、なんて言った?

「さゆみに…リンリンのこと好きにさせるために飲ませたの?その、薬…」
「…ハイ」
「…どうして?」
ああ、我ながら意地悪だ。こんな質問。でも、確認せずにはいられない。
泣き顔のまま視線を震わせて、リンリンは振り絞るように言った。

「私…、道重さんが他の人とそういう…そう、なるのが嫌で…」
握られた手にぎゅっと力が入る。上気した頬が愛おしい。
「最初はそんなこと思わナカッタのに…み、道重さんと仲良くなってきたら、どんどん辛くなってきて…」
「うん…」
抱きしめる力が強いほど、リンリンの匂いも濃く感じられて
正直、さゆみの我慢もかなり限界。
愛しさが爆発しそう

「ワタシ、道重さんが…」
「…待って」
唇を指で押しとどめる
その先は、さゆみから伝えたい。
絶対に目がそらせない至近距離で、しっかりと顔をこっちに向かせた。
「…好きだよ。どうしていいかわかんないくらい好き。…遊びで抱かれるのも…遊びで抱くのも、絶対に
嫌。…信じてもらえないかもしれないけど、あたしリンリンに夢中だよ。…本当だよ」
「…道重さ…」
少し震えてる肩を抱きしめて、耳元で囁いた

「…ねえ、一緒に裸になろ?」

今まで、脱ぐのはリンリンだけだった。
何度もリンリンを抱いたけど、一方的に気持ち良くさせていただけだった。
でも、今は。
裸で抱き合いたい。
全身で感じたい。

「…脱がせて?」
「…ハイ」
ゆっくり手を伸ばされて、ボタンを外すリンリンの手が冷たい
…緊張してる?
でも大丈夫だよ
さゆみもドキドキして壊れそう
裸を見せるのは、初めてだね

さゆみが一枚脱いだら、今度はリンリンを脱がせてあげて
替わりばんこにするうちに、お互い下着姿になって

…もうたまらなくて、キスをした。
「…ん…ぁ…」
ゆっくりとキスを繰り返して、ふと気づく。
まだ口に甘さが残ってる気がする。
そういえば…

「ね、さっきの薬ちょうだい」
「え?」
「媚薬」
少し驚いた目をしたけれど、リンリンは脱いだばかりのパーカーのポケットからそれを出した。

「どうするデスカ?」
「…リンリンも飲んで」
「え!?」
明らかにビクッとされた。
自分だって人に飲ませたくせに。

「…だって、これ飲んだら好きになってくれるんでしょ?」
「で、でもワタシはもともと好きだったダカラ…」
「さゆみだってそうだったもん」
「……」

ただの興奮剤ってわかってるけど
リンリンの理論なら、薬の効いてるさゆみの『好き』の方が上回っちゃうもん。
…どうせなら、一緒に。
黙ってしまったリンリンに構わず、さゆみは薬を口に含んだ。
そのままリンリンに口づける。

「ん…んんッ…」
薬を唾液ごと送り込んで
夢中で舌を絡め合った
甘い毒が回るみたい
態勢を入れ換えて、リンリンを組み敷いて
息が荒くなっていくのがわかってたまんない

「…舌出して…」
「…え…」
少し迷いながらも、唇が開いて舌が覗く。
すかさず舌先で突いて、また吸い付く。

「ん…!ふ…っ…」
なんだか体がびりびりする
…素肌が触れあってるせいかな
こんなに、気持ちいいものだったんだ

甘い舌に満足すると、今後は下着を脱がせた。
ブラジャーを外すと、柔らかそうなふくらみがあらわになる。
そのまま下を脱がそうとしてちらりとそこを見ると、手を掴まれた。
「…見ないでクダサイ…」
「え?」

顔を赤らめてそんなことを言われると気になる。
半ば強引にのぞき込むと、脱がせかけた下着のその部分が、はっきりと濡れていた。
「…えっち」
「!…み、見ないでって…」
泣きそうな顔で言われても、煽るだけでしかないよ。
本当に、可愛いなあ…

「もう、全部脱ごうよ」
言いながら、リンリンを脱がせて、さゆみも脱いだ。
…先に薬が効いてたせいもあってか、さゆみの方が濡れちゃってるけど…。

お互い生まれたまの姿になって、ゆっくりと抱きしめ合った。
「んっ…」
敏感な部分が当たって、思わず声が漏れる。
リンリンは、ぼぅっとした目をしてる。

刺激よりも、抱き合うことが気持ちいいなんて知らなかった。
感じてるさゆみを見て、リンリンもうっとりしてる。
そんなに愛おしそうに見つめられると、なんだか恥ずかしい。

「…あんまり見ないで。もっと濡れちゃう…」
「ア…あぁ、スミマセン…」
リンリンは慌てて謝ったけど、ぎゅっと抱きついてきた。
「…なんか…アツい…」
「うん。…さゆみもだよ」

興奮が高まってきているらしく、リンリンの息が荒い。
そのまま首もとに噛みつかれた。
「んっ…!」
「もっと…モット声聞きたい」
敬語が飛んでるあたり、結構思考があやふやになってるのかもしれない。
でも、さゆみも限界。
「触って…全部」
リンリンの手を導く。
熱い部分を指先が掠めるだけで、おかしくなりそうになる。
「あ…あっ!ん、っ…」
「綺麗…」
抑えていた声が出てしまったら、もう遠慮なく指が侵入して動き回る。
思ってたよりずっと荒っぽいのに、嫌じゃない。
さゆみを気持ちよくさせようと一生懸命なのがわかるから…。

「道重さん…好き…」
「あ、あたしもっ…す、好き…」
「嬉しい…もっと言って…?」
「あ、あっ…はぁ、あ、好き、好き、好きっ…!!」

満ち足りた表情でさゆみを見下ろして
溢れて止まらないあたしを、やめることなくかき混ぜる。
このまますぐにでもイッてしまいそうだけど
もっともっと抱き合いたい

「ねえ…リンリン、あ…っ…名前、名前で呼んで…?」
「…え…。さ、さゆみ…って?」
「うん…」

手が止まったリンリンをぎゅっと抱いて、耳元でもう一度言った。
「…お願い」
「あッ……うん…」

ビクリと身体をしならせた後、またゆっくりと指が動き始める。
そして、熱い視線で唇が重なった。
「ん…」
「さゆ、み…」
「あ、あ、あん…!」
普段より掠れて、上擦った声。
全身にビリビリくる。
耐えられなくて、リンリンの手を止めさせた。
「ア…痛い…?」
「ううん…」
このままでも気持ちよすぎるくらいだけど
一人じゃない方がもっと…

あたしはリンリン仰向けにさせて、その部分を触れ合わせた。
「アッ…!」
「リンリン。一緒に…一緒にいこ?」
ぎゅっと押し当てると、甘い痺れが走る。
そして、それと同時にリンリンの声が出る。
…さゆみが気持ちいいと、リンリンも気持ちいいんだ。

腰を揺すると、指を噛んだリンリンが仰け反った。
あんまり綺麗でぞくぞくしちゃう。
波の間で揺れてるみたいに、ゆらゆらと快感が体に浸みる。
「あ、アぁ…さ、さゆみ…」
「ん…ッ…あぁ…なに?」

リンリンが苦しそうに訴える。
それから、ゆっくりと言った。
「ワタシも…名前で呼んで…。ホントの名前…」
「…本当の…?」
少しだけ考えて気づく。
彼女の、本当の名前。

「……琳」
いつもの呼び方と似ているけど、きっと違う。
心を込めて、思いを込めて名前を呼んだ。
長い睫毛が嬉しそうに揺れてる。

「…もっとしていい?琳…」
「あっ…うん…もっと、もっとシタイ…さゆみ…」
それからは、お互いもう夢中で腰を動かした。
普段すぐイっちゃうリンリンも、薬のせいかずっと声を漏らし続けていて。
先に我慢できなくなってしまったのは、さゆみの方だった。

「あ、ああ、いやっ…琳…も、もうイきそう…」
「ん、ふっ…ワタシもずっと我慢シテ…あん、もうダメ…!」
「あ、ん…一緒…一緒に…っ!」
「さゆみ、さゆみ…っ!!」
「琳、琳…!!!あぁあああ!!」
「あぁ、イクっ…!」

そして、あたしたちは殆ど同時に果てた。
裸のままで抱き合って。
頭はお互いのことでいっぱいだったと思うし、今までにないくらい気持ちよかった。
「はぁ…はぁ…」
「あ…」
息を整える。

腕の中にいるのに、目を閉じて思い描いたのは。
出会った頃の、リンリンの笑顔だった。

--------------

それから、何回抱き合っただろう。
一晩でこんなにしたのは初めてかもしれない。

疲れ切った体で目が覚めたとき、微かにリンリンの声が聞こえた。
意識が曖昧な中、照明を落とした部屋で。
ベッドに腰掛けたリンリンが、小声でなにか歌っている。
寝ているさゆみから見たら背中しか見えないけれど。

〜♪一番綺麗な私を 抱いたのはあなたでしょう
愛しい季節は流れて 運命と今は思うだけ……


…なんだっけ、これ。
聞いたことある。
でも、それより。
なんだかそれが、さゆみにむかって歌っているみたいで…。

もう少し聴いていたくて
でも、黙って聞いていられなくて
さゆみは静かに体を起こして、白い背中を抱いた。

「…ア…」

後ろから首筋に顔を埋めているから、表情は分からないけど
今の彼女は、出会ったどの瞬間より綺麗だと思った。

「…多分、人生で一番綺麗な私を抱いたのは、道重さんと思いマスヨ」
「うん」
穏やかな声がそっと伝える。
さゆみも、それは確かだと思う。
初めてリンリンを誘ったあの日から
どんどん綺麗になっていくのを感じてた。
もしかしたら今夜が…今まで見たどのリンリンより、一番綺麗だったかもしれない。

「初めてが、道重さんでよかった」
「…うん」
リンリンの手が、腰に回したさゆみの手をぎゅっと握る。
会話はまるで別れの言葉のようだけど、握った手の強さには、別れを悲しんでいる様子は少しもなくて
これから先のさゆみたちも『大丈夫』って、心から信じている感じで…

「日本に来る機会、きっとこれからも多いデスカラ。多分、中国と変わらないくらい日本にいますカラ」
「…そうだね」
そうだといい
ううん、きっとそうだ

さゆみが頷いた瞬間
リンリンは体をよじって、こっちを向いた。
向かい合う体
そして、これ以上ないくらい甘い視線と共にそっと囁く

「…道重さんに抱かれに、帰ってきマス」
「………リンリン」

なんだか泣きそうになって、ちょっと焦った
リンリンが可愛くてたまらなくて、胸がぎゅっと痛む

初めてこの子を抱いたとき
こんなに愛しく思えただろうか
こんなにも、涙が出るほど愛おしく

「…いっぱい来てくれないと、さゆみ浮気しちゃうかもよ?」
「あはは…じゃあ、いっぱいいっぱい抱かれにきます」

リンリンは困ったように笑ったけれど
本当は自分でもわかってた
もう、浮気なんてできそうにないくらい好きだってこと
手放せない温もりに、気づいたから。

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年が明けて
3人が卒業した余韻に浸る暇もなく、さゆみはなんだかんだと忙しく仕事をこなしていた
毎日があっという間に過ぎていく中で、春が来て
少し日差しが柔らかくなってきたある日、唐突にリンリンからメールがきた。
一ヶ月くらいメールらしいメールがなかったから、思わずドキドキしてしまう
春からのツアーのリハーサル中だったけど、隙を見てそれを開いた

『お花畑に帰ります』

たったそれだけの、短い文章。
それに添えられていたのは、唇に指を当てるリンリンの自分撮り画像だった。
「……懐かしっ」
思わずメールにそう突っ込みながらも、笑みがこぼれた。
初めて抱いたときのあの言葉
イクことを『お花畑』って言った冗談、リンリンはかなりの間信じてたっけ。
写真のリンリンはなんだかまた綺麗になったみたいで、誘ってるとしか思えないその視線に、ちょっとゾクゾクしてしまう

あの日、リンリンはあんな風に言ったけど。
リンリンが『一番綺麗』になる瞬間て、まだまだこれから先なんじゃないかな
それを見ることができるさゆみは、きっと幸せなんだと思う

「…誘ったこと、後悔しないでよね?」
少し笑いながら、さゆみは短くメールを打った

『帰れなくなるくらい抱いてあげる』

覚悟してなよ、琳
会えなかった夜の分と
素直になれなかったあの日々の分まで愛してあげるから
早く帰っておいで

リンリンの照れた表情を思い描きながら、さゆみはゆっくり送信ボタンを押した。

どなたでも編集できます