「みみみみみ道重サン!」
「なっ何?どうしたの?」

帰るなりリンリンが飛び出してきた。
走ったりしたら心配だからやめてほしいんだけど・・・
それにもう深夜の1時をまわってる。
帰りの遅いさゆみに合わせて起きて待ってる彼女。
「妊婦さんなんだからしっかり寝てなよ」って言ったのになあ。

「い、今!今動いたデス!赤ちゃん!!」
「えええええ!うそ!ほんと?」

びっくり。もう胎動とかあるんだあ。
そういえばもう6ヶ月になるもんね。
なんか、あっと言う間だな。
最初のほうはつわりがひどくて大変だったし。
あんなに食べ物を前にすると嬉しそうにしてた子が急に
「見るだけで気持ち悪いデス・・・」っていうんだから驚いた。
食べてもすぐもどしちゃって、3キロも体重落ちちゃって・・・
本気で心配したんだから!

「あっ!ホラ今も!」
「うそうそ!さゆみも聞きたい!」
ゆっくりお腹に耳を当ててみると、
”トンッ”
「わあっ!今の?今のだよね!すごーい!」

こういうやりとりがすっごい幸せだと思う。
はじめのうちは情緒不安定?マタニティブルー?もすごかったし。
威嚇ってほどじゃないけど、すごい敏感になってて。
うしろから近づいた時にツナ缶投げられた時はびっくりした。
普段穏やかだからなんか、こう、怖いってよりも驚いたというか・・・
今はすっかり安定してて、順調に体重も増えてるみたい。
だんだんお腹も大きくなってきて妊婦さんってかんじ。
ちょっと早すぎる気がするけど・・・もしかして双子とか?
生まれてくるの、楽しみだなあ。

「もうすぐお母さんになるとか・・・実感わかないデス」
「さゆみも・・・こんな親でいいのか不安だけど」
「道重サンと二人なら、きっとバッチリですよ!」
「そうだね・・・早く生まれてこないかなあ」
「絶対道重サンそっくりのカワイイ子ですヨ」

赤ちゃんが生まれてもずーっとこうやって一緒にいたい。
子どもがあきれちゃうくらいずっとラブラブでいよう?
愛する彼女と子ども。
さゆみの一番の宝物。
絶対幸せにするから、ね・・・?

「ところでさ、そろそろ赤ちゃんも生まれるんだし、名前で呼んでよ」
「エェッ!?」
「赤ちゃんからしたら苗字にさん付けって変じゃん」
「でも・・・」
「それともさゆみって呼ぶの・・・やだ?嫌い?」
「アワヮヮ!違うデス!慣れないだけデス!好きです!」
「じゃあこれからはさゆみって呼んでね?リンリン♪」
「ハ、ハイ・・・」
「フフッ・・・好きよ、リンリン」
「ワタシも・・・大好きデス。さゆみ・・・サン・・・」
「もうっ!さんはいらないから」
「アゥ〜・・・」

”そんなリンリンも大好きだよ”って意味を込めて
そっと唇にキスを落とした。





本当は、わたしだって嬉しいんだよ。

リンリンが、妊娠した。相手は、さゆみん。
びっくりした、なんてもんじゃなかった。疑問に思う部分は限りなくある。
わたし個人としては祝福したいんだけど、サブリーダーという立場からはそうはいかない。
責任感に欠けすぎた行動だからだ。
愛ちゃんは「えぇやん、めでたいやん」なんてデレデレしながらリンリンのお腹を撫でていた。

二人がその事実を発表したとき、みんなが戸惑いながらもおめでとう、と声をかけるなか、わたし一人が、怒った。
あれだけ怒ってしまったあとだ。やはり、二人とは気まずくて、挨拶程度しか言葉を交わせていない。

覚悟を決めて、テーブルの上に置いてある書類の束を持って、今日、リンリンとさゆみんが診察に行ったという病院へ向かった。

「あ、新垣さん」

わたしを見ると、リンリンは驚いたような顔をして、すぐに笑った。さゆみんも、顔だけ笑って返す。

「体調はどう?しんどくない?」
「大丈夫です。バッチリンリン!」
「あはは、元気そうだね……お見舞い来れなくて、ごめんね」
「え?大丈夫ですよ、気にしないでください」
「これ…もう知ってることばかりかもしんないけど、妊婦さんの過ごし方について調べたから…読んで。さゆみんも」

さゆみんは、驚いた表情を隠さずに、口をぽかーんと開けている。
だから、なんて顔してんの、うけるー
って、笑い飛ばしてやった。さゆみんも我に返って、恥ずかしそうに口元を押さえた。

リンリンのお腹に触れる。いつもより少し膨れたお腹。まだ3ヶ月だから、そんなに変わりはないけど、何か、いるのは分かる。
涙がこみあげてきた。何故かは分からないが、胸を打たれた。我慢できずに流れた涙を、指でこする。

「に、新垣さん?」
「ガキさん、泣いてる?」
「大丈夫、だから…うん、はは」

わたしの頭を撫でるリンリン。ああ…ほんとわたし、頼んないなあ。


――――……


愛佳、ほんっまにびっくりしました。何か言わなきゃって思ってたら、周りのみなさんがおめでとうって言うから、愛佳も言うたんです。
じゃあ、新垣さんが、「あのねぇ」ってその場を静めたんです。
「どういうことかわかってる?ファンのみなさんにはなんて説明するの?二人ともプロなんだよ。自覚が足りなさすぎる。出来ちゃったものは仕方ないけどさあ…ほんとに、もう、なんていうか…」

でもね、いざリンリンと道重さんの赤ちゃんが生まれたとき、一番に泣いたのは新垣さんなんです。
生まれるまで、待合室をずーっとうろうろして、手術終了の声がかかると、手術室にかけだしてって、看護婦さんに止められてました。

愛佳は知ってます。新垣さんは、責任が足りないことに怒ってただけで、ほんまは誰よりも赤ちゃんのことを想ってたこと。





「ガキさあ〜ん」
「なに?」
「赤ちゃんってーどうやってできるんでしたっけ?」

飲もうとしてたお茶を吹き出しそうになったガキさんは、目を丸くして絵里のほうを見た。

「赤ちゃんってそりゃあんた・・・」
「それくらい絵里もわかってます。そうじゃなくて〜さゆとリンリンのこと」
「あー・・・」

ガキさんは腕を組んで考え始めた。あれだけ怒ってたくせに、経緯など、深くは考えなかったみたいだ。
それも、ガキさんらしいっちゃらしい。
赤ちゃんっていうのは、要するに精子と卵子がくっついてできるもんでしょ?
さゆってほんとは男なの?いや、それはない。じゃあ、考えられることは一つしかない。

「リンリンが誰かと作った子どもをさゆとの子どもってことにして――」
「それはない」
「え?」
「あんた、リンリンがどれだけさゆみんにベタ惚れなのか、見たら分かるでしょーが」
「でも・・・」
「世の中ね、分かんないことはたくさんあるの。難しいことは考えなくていい。そんなこと考える暇があったら書き物しなさい書き物」

しっしって手をわざとらしく絵里の顔の前で振って、ガキさんは楽屋を出て行った。

書き物をするはずの絵里の右手は、いつのまにかリンリンとさゆの子どもの名前候補を紙に連ねていた。
あ、そういえば子どもの名字はどうなるんだろ。

「ねぇ、ガキさーん!」
「ガキさんは打ち合わせに行ったで」
「愛ちゃんは行かなくていいんですか?」
「あ」

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