新狼1さゆみん 469-471


『ほら重さん、やっぱりさ、いつかは結婚とかすんじゃん?』

前までは吸わなかった煙草。旦那さんの影響だろうか。
臆病になってしまう。あの頃の別れ話を引きずって。

女同士じゃ限界があるのはわかってる。永遠にそばにいることなんてできない。
わかってる。わかってるから、彼女に触れるのが怖い。

『重さん、――』

「道重さん?」
「えっ?」

振り向くと、リンリンが不思議そうな表情をしてこっちを見ている。
仕事が終わって、近くのファミレスでご飯を食べて、今はあたしの家でのんびりしているところだ。

ぼーっとしてましたよ?笑う彼女に、なんでもない、と口元だけ笑って返した。

「今日泊まってく?」

明日はオフだ。といっても、午後からは一人での仕事があるけど。

「いいんですか?」
「うん」
「じゃあ、そうします」

気がついたら、唇が重なっていた。
まるで、吸い込まれるように、あたしは彼女に口づけていた。
ソファーの肩を持つ手が、震えた。
時間が止まったかと思った。

「…ごめん」

いたたまれなくなって、立ち上がった。逃げるようにお風呂場へ向かう。
どうしよう。とうとう、やってしまった。
水を顔に叩きつけ、わきあがってくる涙を堪えた。タオルで強引に水気を拭い、リビングへ引き返す。

困ったように立ち尽くすリンリンに、カバンを押し付けた。

「ごめん、やっぱり…帰って」
「なんで、謝るですか?」

「だって…気持ち悪いでしょ?」

無理に笑うと、余計に虚しくなった。泣いてるみたいに声が震える。

「気持ち悪くなんか、ないです」
「好きなの、リンリンが…その、そういう意味で」
「そういうってどういう…」

言葉にならなくて、抱きしめた。以前感じた彼女の戸惑いは、変わらず腕の中にあった。
付き合いたいとか、恋人になりたいとか、そんなことよりも。
ただ、そばに居たいんだ。お互いに想い合えていれば、それが分かれば、たまに手を繋げたら、それでいいんだ。形なんていらない。
これを、言葉でどう表現すればいいの?

「ねぇ、そばにいてよ」
「…対」

どぅい。そう、彼女は言った。


新狼1さゆみん 535-537

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