| セリフ |
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| ━━50話 - That's why I'm here |
| 涼「ハァ、ハァ……。クソっ、いったい外はどうなってるんだ……!」 |
| 小梅「ひゅー………ひゅー………。ひゅーーー……。」 |
| 涼「だ、大丈夫だ。安心しろッ。この地下室なら絶対安全だ!あんなッ、あんなノロマなゾンビどもにあのドアは壊せっこない!フットボールの選手が束になったってビクともしないさ!」 |
| 小梅「…………。…………ぁぁぁぁ……。」 |
| 涼「……は、はははっ。オイ。オイオイオイ、なあ、冗談キツイぜ?いつまでエイプリルフールでいるつもりだ?」 |
| 小梅「あぁあおおおううぅぅ……。」 |
| 涼「そんなっ……お前までッ……!ああっ、クソ!やめろッ、やめてくれ!あッ、あああ!」 |
| 小梅「うがーーーー!!」 |
| 涼「NO-ーーー!!」 |
| 小梅・涼「あれ?ん?」 |
| ありす「わ、わあーーーー!」 |
| 涼「ありすッ!?おい、どうした?フライパンなんか持って。」 |
| ありす「はい、橘です!だ、だって、さっき悲鳴が……!強盗が……!」 |
| 小梅「強盗……いないよ?そんなひと……。」 |
| ありす「……へ?」 |
| 涼「悲鳴……あぁ、そういうことか。悪い、ありす。驚かせちまったな。アタシたち、ちょうど映画観てたとこなんだよ。な?」 |
| 小梅「うん……ゾンビの映画。それで、この映画、吹き替えがないから……。ふたりでアテレコしてたの。」 |
| ありす「ま、待ってください。整理します。その……つまり、ですね。………私の勘違いですか?」 |
| 小梅「ごめんね、ありすちゃん。迷惑かけちゃって……。あと……心配してくれて、ありがとう……。」 |
| ありす「あ……ええと、こほん。いえ、大丈夫です。私も早計でした。何事もなかったのなら、それでいいです。」 |
| 涼「ありがとな。そう言ってもらえると、こっちも気が楽だ。……しかし、ありすもロックじゃないか。強盗がいる部屋に、武器持って飛び込んでくるなんて。」 |
| ありす「これは……その、たまたまキッチンにいたものですから。料理の練習に場所を提供してもらおうと思っていまして。」 |
| ありす「まぁ、私のことはいいです。それよりも……涼さんと小梅さんは本当に仲がいいんですね。オフの日も一緒にいるなんて。」 |
| 小梅「意外、かな?」 |
| 涼「まあ、出身も違うし歳も離れてるしな。ありすが首を傾げるのもわかるぜ。」 |
| 小梅「仲良くなれたのは……偶然。出会った時のこと、今でも覚えてるよ。」 |
| ありす「へえ………素敵な出会いの物語があったんですね。よかったら、聞かせてもらえませんか?」 |
| 涼「それじゃあ、ちょっと思い出話といこうか。あれはアタシが事務所に入ったばっかりの頃だったな……。」 |
| 涼「ふう……ハードなんだな、ダンスって。体力はそこそこあるつもりだったんだが……。」 |
| 小梅「プロデューサーさん、どこかな……。名作ホラー映画……一緒に観て、お喋りしたい……。」 |
| 涼・小梅「おっと。ひゃっ。」 |
| 涼「ごめんな。怪我してないか?」 |
| 小梅「だ、だ、大丈夫です。ご、ごめんなさい。私、よそ見してて……。あ、映画………拾わないと……。」 |
| 涼「手伝うよ。割れたりしてなきゃいいんだが……。ん……おぉ、この映画、懐かしいなー。……よし、パッケージも中身のディスクも大丈夫だ。」 |
| 小梅「あ、ありがとう、ございます……。あ、あの……こ、この映画、知ってるんですか?」 |
| 涼「ああ!もう何度も観たよ。特に高速のシーンなんか……っと、危ない。もしかして、まだ観てなかったりするか?」 |
| 小梅「う、ううんっ。大丈夫、ですっ。いっぱい、いっぱい観ましたから……あそこのゾンビ、かわいくて……。」 |
| 小梅「じ、じゃあ、こっちの映画は……?ちょっと昔の作品なんですけど……。」 |
| 涼「おお、これか!ははっ、なかなか渋いチョイスだな。チェーンソーの音がイカしてるんだよなー。それに、フィルムの粗い画質がまた雰囲気出てて。」 |
| 小梅「うん、うんっ!映像も音楽も、不気味で素敵……えへへ。」 |
| 涼「ははっ、いい顔するじゃないか。おっと、まだ名乗ってなかったな。アタシは松永涼。涼でいいよ。よろしく。」 |
| 小梅「白坂小梅、です。よ、よろしくお願いします。り……り、り、涼さん……。」 |
| 涼「あぁ!よろしくな、小梅。」 |
| 小梅「えへへ……。……え?……あ、そうだね。あの、涼さん。あの子も、ご挨拶したいって……。」 |
| 涼「あの子?んー……ここにはアタシたち以外、誰も……。」 |
| 小梅「い、いますよ?……ほら、ちょうど涼さんの後ろに……ふふ、ふふふ……。」 |
| 涼「……え。」 |
| ありす「そんなことがあったんですか……。なんだかドラマみたいですね。……最後のほうは、よくわかりませんでしたけど。」 |
| 涼「人生なんて、そんなもんさ。何がきっかけでどう転ぶかなんて、わからないもんだ。それこそ、アタシたちがアイドルになったのもな。」 |
| 小梅「そう、かも。涼さんは、スカウトされたんだよね。プロデューサーさんに。」 |
| 涼「ああ。ハコで……LIVEハウスでな。ステージもバイトしてるとこも見られちまったよ。確か、小梅はオーディションだったな。」 |
| 小梅「うん。最初はムリだと思ったけど、歌うことが楽しかったから……。ありすちゃんは、どうしてアイドルになったの?」 |
| ありす「私はスカウトです。アイドルには、あまり興味はありませんでしたけど……。将来は歌や音楽に関わるお仕事をしたかったので、その勉強に。」 |
| 涼「へぇ。歌う仕事がしたかったってのは初耳だな。」 |
| ありす「そうですね。あまり話す機会もないことですから。」 |
| ありす「その……歌や音楽には、力があると思うんです。演奏する人や、演奏を聴いた人の心を動かす、なにか特別な力が。適切な言葉で伝えられないのが、もどかしいですけど……。」 |
| 涼「特別なカ……か。ふふっ。」 |
| ありす「な、なんですか。ちゃんと答えられないなんて、子どもっぽいとでも?」 |
| 涼「あぁ、悪い。そうじゃないよ。アタシも同じクチだから、ついな。」 |
| ありす「涼さんも……。あ、すみません。子どもっぽいなんて言って……。」 |
| 涼「構わないよ。実際ガキさ。お気に入りのものを誰にも取られたくなくて、ずっとダダこねてるんだ。ロクな大人じゃあないな。」 |
| ありす「つまり……その、子どもをこじらせてしまったんですか。」 |
| 涼「あははっ、言うじゃないか!でも、その通りだな。」 |
| 涼「まぁ、そういうヤツもいるってことさ。世の中は広い。理屈じゃ説明しきれないこともある。その歳で、それを知れただけでも儲けモンじゃないか?」 |
| ありす「理屈ではないこと……。そうかもしれませんね。アイドルの活動をしていると痛感します。」 |
| 小梅「そうだね。あ……それに、他にもあるよ。説明できないこと。幽霊とか……。」 |
| ありす「幽霊?そんな非科学的な存在、いるはずありません。理屈以前の問題です。議論の余地も……。」 |
| ありす「ひゃっ!?」 |
| ありす「え……えっ?急に大きな音が……!こ、こ、今度は窓がガタガタって!」 |
| 涼「お、おい、小梅……?これって……。」 |
| 小梅「ふふふ、ふふ……。」 |
| ありす「と、とにかく!幽霊さんは、いないと思いますので!えっと、あの、失礼します!!」 |
| 小梅「あ……行っちゃった……。あ、フライパン置きっぱなし。」 |
| 涼「ありすのヤツ、大丈夫か……?いや、アタシもマジなヤツは止めて欲しいけどな。はぁ……。」 |
| ━━映画鑑賞後 |
| 小梅「はぁぁぁ……。楽しかったぁ……!やっぱり、名作は何回観てもいい……!」 |
| 涼「だな!って、もう昼過ぎか。どうりで腹が空くわけだ。よし、どっか食べに行こうぜ。」 |
| 涼「あ、そうだ。途中、事務所に寄ってくか。たぶん、アイツのレッスンも終わったころだろ。」 |
| 小梅「アイツ……?………あ。」 |
| ━━事務所 |
| 巴「なにぃ!?改良版……じゃと……!?」 |
| ありす「はい。まだ研究中ですが、完成したあかつきには、ぜひ巴さんにも……。」 |
| 巴「それはこっちも望むところじゃ。橘流の心意気、楽しみにしとるぞ!」 |
| 涼「おっ、ドンピシャだったな。おはよう、巴。っと…ありす?」 |
| 巴「おお、涼の姉御に小梅!」 |
| ありす「あ……どうも。」 |
| 小梅「今日はよく会うね……。もう落ち着いた?」 |
| ありす「わ、私はいつでも冷静です。さっきは突然のことだったので、少し動揺しましたけど……。」 |
| 巴「なんの話をしとるのか、わからんが……まあ、ええわ。姉御たちはなんで事務所に来たんじゃ?今日は休みじゃろ。」 |
| 涼「ああ。そろそろ巴のレッスンが終わったころだと思ってね。よければ一緒に飯でもどうだ?」 |
| 巴「まさか……うちを誘いにきてくれたんか?そりゃ、また……ううむ、そうか……。」 |
| 小梅「もしかして……忙しい?」 |
| 巴「ああ、いや、そうじゃないんじゃ!断る気ぃはこれっぽっちもない。喜んで、ご相伴させてもらおう。」 |
| 涼「決まりだな。ありすも一緒にどうだ?」 |
| ありす「私も、ですか?いいんですか?」 |
| 涼「ああ!どうせ食べにいくなら、人数が多いほうがいいからな。」 |
| ありす「そういうことでしたら……その、はい。お断りするのも悪いですし、私の用事も済みましたから。事務所のキッチンの使用許可ももらったので。」 |
| 涼「よし、それじゃあ行くぞ!何か食べたいもの、あるか?」 |
| 小梅「うーん……何がいいかなぁ……。」 |
| ありす「私は……あ、そうですね。パスタを提案します。」 |
| 巴「うちが誰かと飯に行ったなんて知ったら、親父たちがまた騒ぎそうじゃなぁ。まったく、こそばゆいのぉ……。」 |
| ━━街中 |
| 涼「そういえば、巴。今日のレッスンはどうだった?本格的な演歌の歌い方を教わったんだろ?」 |
| 巴「ほうじゃ。いや、演歌っちゅうのは本当に奥が深い!改めて思い知らされたわ!」 |
| 涼「ははっ、その様子じゃあ相当充実してたみたいだな。」 |
| 巴「おう!レッスンルームの空きがあれば、もっと歌いたかったくらいじゃ。」 |
| ありす「巴さんがそこまでいうなんて……興味深いですね。」 |
| 小梅「うん。巴ちゃんの演歌、聴いてみたいな。」 |
| 涼「なら、こういうのはどうだ?腹ごしらえが済んだら、歌いに行くってのは。」 |
| 巴「おお、うちは賛成じゃ!」 |
| 小梅「私も、いいよ。」 |
| ありす「私も異論ありません。それでは、カラオケのお店に予約を……。」 |
| 涼「いや、待った。歌うんだったら、もっといいところを知ってるぜ。」 |
| 巴・小梅・ありす「いいところ?いいところ?いいところ?」 |
| ━━レンタルスタジオ |
| 小梅「わぁ……ここが貸しスタジオ……!」 |
| ありす「レッスンルームとは随分、雰囲気が違いますね。建物の入り口も、色んなバンドのポスターがいっぱいで……。」 |
| 巴「楽器も貸出しとるんか。ドラムとキーボードくらいはわかるが……あれはギターか?涼の姉御の電話が終わるまで、触らんほうがええな。」 |
| 涼「……ってわけだ。メッセージ聞いたら連絡くれ。時間は長めにとってある。なんなら直接来てくれもいいぜ。じゃあな。」 |
| 涼「悪い、待たせたな。どうだ、スタジオの感想は。音楽やるにはいい場所だろ?」 |
| 小梅「うん。ちょっと狭くて……落ち着く広さ。涼さんは、こういう所でバンドの練習してたんだね……。」 |
| 巴「ほお、涼の姉御はバンドをしとったんか。」 |
| 涼「昔の話さ。お……なんだ、ありす。そんなにギターが気になるか?」 |
| ありす「あ……その、あまり間近で見たことがないものですから。今後の参考のために……。」 |
| 涼「ははっ、そっか。なら……参考ついでに弾いてみるか?どの楽器でも、初歩の初歩くらいなら教えてやれるぜ。」 |
| ありす「……本当ですか?」 |
| 小梅「じゃあ、私も……!」 |
| 巴「せっかくじゃ、うちも頼む!」 |
| 涼「よし、わかった。じゃあ、歌う前にバンドの練習でもするか!」 |
| ━━バンド練習後 |
| 涼「もしもし?」 |
| 夏樹「よう。パーティーはもうお開きだったか?」 |
| 涼「まさか。ツレたちを送ってきただけさ。こんな時間まで連れまわすわけにもいかないからな。」 |
| 夏樹「そりゃよかった。ハコん中、あっためとくぜ。」 |
| 涼「ハコか。ははっ、そりゃあいいな。」 |
| 涼「おう。随分とゆっくりだったな。もしかして、デートだったか?」 |
| 夏樹「まぁ、そんなとこさ。後ろに乗っけたやつが、安全運転しろってうるさくてね。そっちはどうだったんだ。」 |
| 涼「似たようなもんさ。相手は3人だったけどな。」 |
| 夏樹「ははっ、いい女はオフの日も大変だな。」 |
| 涼「お互いにな。しかし……オフの日、か。ここで歌ってたときは、そんなもの考えたこともなかったよ。」 |
| 夏樹「本当、いいご身分になっちまったよな。お互いに。」 |
| 涼「まったく。すっかり、贅沢なぬるま湯に浸かってるように見えるかもな。」 |
| 夏樹「かもなぁ。」 |
| 涼「なあ、夏樹。」 |
| 夏樹「なんだ?」 |
| 涼「ナメてもらっちゃ困るよな。」 |
| 夏樹「……あぁ、困るな。ロックもアイドルも、ナメてもらっちゃ困る。」 |
| 涼「だな、アタシたちはぬるくない。さて……いつもどおり、まずはセッションでもするか?」 |
| 夏樹「いや、弾くのはアタシだけでいい。」 |
| 夏樹「涼は歌えよ。そのために、ここにいるんだろ。」 |
| 涼「悪いな。なら遠慮なく……歌わせてもらうぜッ!」 |
| ━━LIVEへ |
| ━━LIVE終了後 |
| 涼「……ありがとな、プロデューサーサン。アタシに歌う場所をくれて。いや……アタシが歩いてきた道を、無駄にしないでくれて。」 |
| 涼「別に過去が恋しいわけじゃないさ。ただ、捨てたいのかって言われると違うんだ。生まれも育ちも、バンドの思い出も忘れようとは思わない。」 |
| 涼「過去があって、今のアタシがいる。自分が選んで進んできた場所で、アタシはここにいるって叫んでるんだ。」 |
| 涼「たったそれだけのことが……なんだか、たまらなくてね。」 |
| 涼「おっと……はは、なんだろうな。ちょっとセンチになっちまった。らくないな。……さ、打ち上げいこうぜ!」 |
| [……涼] |
| 涼「ん?なんだい、プロデューサーサン。」 |
| [いい歌だった] |
| 涼「ヘヘ…おう!」 |