紅の夜明け(1)

 見つかったかけら - 第九巻  アシッドリック・ガットスプリッター
博識アシッドリック・ガットスプリッターが発見し再執筆した、世界の歴史のかけら第4巻

 暗黒の時代が世界を襲った。世界を優しさで包み込む、調和の取れたドフスのオーラが乱されていることを、人々はまだ知らなかった。そしてその乱れは徐々に世界を浸食し、月の保護者たちの努力によって生まれた2つの街、ボンタとブラクマールの間に戦いが勃発するまでに至った。

 勇敢な心団の騎士たちの話は、古文書に記載されたり、銅像が建てられたりするような、偉大なる歴史的事柄の一部とされて然るべき話である。ケンタウロスのメナルトによって率いられた彼らの運命−おお、何と悲しい運命であったことか−は、11の世界に存在する全ての吟遊詩人によって語られるべきものであったし、大理石に刻まれ、次の時代へと引き継いでいかれるべきものであったのに...。しかしそうはならなかった。何故なら、彼らの運命はそれを語ろうとする者までもが恐ろしくなってしまうようなものだし、その話が我々のところまでどうにかたどり着くことがあるとすれば、それは決まって低い声で、真夜中に語られるお話なのだから...。その話は、無謀で軽率な若者たちに対する警告でもあるのだ
 この夜中にひそひそと語られる話以外には、その歴史の痕跡を見つけることは出来ないはずだ。何故なら、9の月のある寒い夜に、騎士たちの体も魂も消え去ってしまったから。それは世界が始まったばかりの頃の出来事...。

 ルシュはゼロールの時計の一部を砕き、ジャウルを12の月の守護者にさせた。その後、ジャウルは世界に恐怖の影を落とした。あの偉大なるソラーの命は、彼の手によって奪われたのだ。そして彼は、アグアブリアルに護られていたドフスを盗み出すことに失敗し、その行為により、短気で厄介なボルグロットという名のドラゴンの誕生を引き起こした。このドラゴンを、ジャウルはあらゆる悪事に利用することになる。

 それらの全てが、世界に不安定な流れをもたらした。そして、ドフスのオーラは多くの渇望によって汚されていった...。

 それでもルシュは満足しなかった。悪魔の王は神となり、弟子たちから崇拝される存在になりたかった。しかしそれは叶えられなかったのだ!サクリエールという名の女神が、本来なら自分が居るべき神殿の場所を奪ったのだ!その腹いせに、彼は街を築き上げるようにジャウルに言いつけた。その街こそが自分の寺院となり、そして自分も忠誠な信者を持つのだ。ルシュは、他の神々の弟子たちを自分の信奉者にするつもりだった。彼の弟子たちは赤い翼を持ち、まるで悪魔のような容貌をしていた。こうしてルシュの手により、悪魔の王に捧ぐ街、ブラクマールが一夜にして作られた。

 ゼロールはというと、ソラーの後継者にはジヴァこそがふさわしいと考えていた。彼はまた、勇敢な心団指揮者であるケンタウロスの戦士メナルトに、嵐とにわか雨の季節である3の月の守護者になってくれるよう依頼した。メナルトはそれを引き受けた。1の月と8の月の守護者であるジヴァとプシュコットに倣い、メナルトは新しいボンタの街に居を構えた。10の神々の支えもあって、3人の守護者がブラクマールに対抗する存在となるような街を築き上げるには、1ヵ月もあれば十分だった。その後初めての戦いが勃発したのは、それから1年が経過した頃だった。

 26年9の月12日の夜明け頃。空気は冷たく、辺りは光が暗闇を貫くことが不可能なほど暗かった。団の騎士たちに率いられたボンタの前哨兵たちは霜によって白くなっていた。歩哨兵たちはその寒さに体が痺れるほどだった。皆は金属製のストーブの周りに集まっていたが、それでも寒さを和らげることはできなかった。普段ならざわざわとうるさく音を立てているはずの森は、幾度となく聞こえてくる叫び声を除けば、ひっそりと静まり返っていた。歩哨兵たちはその叫び声を最初こそ気に留めなかったものの、今ではずっと向こう、南の方角にある暗闇をじっと見つめていた。叫び声−彼らはそこら辺にいる動物が叫んでいるだけだろうと思っていた−が近付いてきた。

 歩哨部隊のキャプテンが敵の戦略に勘付いた。ここ最近、ブラクマール人たちはとても大人しかった。いや、大人しすぎると言っても良いほどだった。彼は慌ててボンタに使者を送った。そのとき突然、辺りが騒がしくなった。歩哨兵たちの視線の向こうで、何者かの気配が動いている。数秒唖然としたその後、歩哨兵たちは警報用の鐘に向かって押し寄せた...。だが、遅かった!鐘の音は轟音で掻き消されてしまった。騎士たちの耳には鼓手隊の打つ太鼓の音が聞こえた。攻撃だ!シドモートの山々のあちこちから、兵士たちが彼らに向かって押し寄せてくる。喧騒で地面が震えた。そして未だ夜は明けなかった。

 ボンタではジヴァが警報を発し、民兵たちの士気を煽っていた。敵の攻撃が街までやってきたら、彼らが何とかしなくてはならない。ジヴァは強力な弓を持った弓兵たちを防衛に配置し、歩兵たちをゲートの後ろに配置した。城壁の向こうでは、足を忍ばせて進む敵陣の足音が、彼らのところまでたどり着こうとしていた。そうこうするうちに、敵がテリトリーに入って来た。それも、ものすごい速さで!それは楽観できる状況とは言えなかった...。メナルトとプシュコットはジヴァに合流した。しばしの議論の後、ジヴァが街の防衛を指揮し、メナルトとプシュコットはそれぞれ勇敢な心団の騎士たちを50人ずつ指揮することで合意した。彼らのうち、その約半数はメナルトの団に所属するケンタウロスであり、その他の騎士たちは武器で装備を固めた歩兵たちであった。

 「ボンタに勝利を!」という叫び声のもとに剣が抜かれ、彼らは仲間の救援に向かった。しかし!遠くでは、前哨兵たちがゴブリンの一団に貪り食われていた。命を落とした騎士の数は少なくとも40に及んだ。援軍の到着は遅すぎたのだ。ボンタの一団は必死に進み、ケンタウロスたちは今までにないほどの速さで駆けた。見たところ、ゴブリンはボンタに対する攻撃のほんの一部に過ぎないようだった。

 敵たちが彼らの前にうごめいていた。まるで夜明けがそこで固まってしまったかのように、夜が明けることはなかった。突然、青白く灰色がかった炎がゴブリンの一団の上に燃え上がり、戦いの様子を弱々しく照らした。再び不吉な叫び声があがる。ブラクマールの一団が、ボンタの前哨兵たちを一掃した。目の前で、騎士たちに止めを刺そうと彼らの後を追い回すカルネ・ライダーを、メナルトは強い不快感を持って見つめた。彼らを指揮しているブラクマールのキャプテンであるイオップが、戦いから一歩引いた場所に身を置き、彼らを指揮していた。

 「ブラクマールの力は大きいが、勝てないほどではない!」プシュコットは言った。「ケンタウロスたちは側面から敵陣営に突っ込むのだ。ゴブリンたちを両側から挟むように。私がヤツらを潰し、他の部隊はブラクマールの戦闘隊長たちに立ち向かうのだ!キミたちも知っているだろう、ブラクマールの指揮の元で戦う生き物の大部分は、脳みそのない愚かで不服従な者たちだ。自分たちの指揮官が倒されてしまったら逃げ出して行くだろう。今こそ、この不気味な叫び声の正体に立ち向かう時だぞ!」プシュコットが良い、メナルトがそれに同意した。

 騎士たちはゴブリンの一団のところに辿り着いた...。それはまるで肉屋のような光景だった!殺戮の場面!内臓を取り出すような!ボンタの兵士たちは刀を振り上げ、振り下ろす度に血しぶきが鎧を汚した。しばらくして、彼らはようやく動きを止めて一息ついた。騎士たちはメナルトとプシュコットの周りに集まった。かすり傷を負った者がいる以外には、被害を被った様子はなかった。戦いの規模を掴むために、メナルトは辺りをぐるりと見渡した。攻撃は上手くいった。とても上手く。上手くいき過ぎたと思えるほどに。メナルトは、先程目にしたイオップの姿を探した。彼は残りのブラクマールの一団に合流し、これ以上戦わぬよう彼らを抑制していた。シャファーによって編成されたその一団は、ゴブリンを助けには来なかった。メナルトは自分たちの間違いに気付いた。耳を塞ぎたくなるような呻り声が響き渡った。灰色の光によって、再び暗闇が引き裂かれた。ゴブリンはおとりに過ぎなかったのだ!そして、さらに恐ろしいことが起ころうとしていた...。
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