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千のFX千夜一夜 第十四夜 〜 基軸通貨と避難通貨

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基軸通貨といえば最近、中国が新しい国際基軸通貨を作ろう(国際通貨基金(IMF)の特別引出権(SDR)にその役割を持たせよう)という発言が注目を浴びた。

米国のガイトナー氏が一時、オープンに議論できることと言ってドルが急落したと思えば、あわてて「ドルは基軸通貨であるべき」と否定するなど、今、基軸通貨の議論がホットである。

たまたま今回も基軸通貨に関係したテーマであり、タイムリーであった。

今回は、その基軸通貨と、それと並んで使われることの多い避難通貨について、考えてみよう。

世の中には、基軸通貨避難通貨という呼ばれ方をする通貨がある。

基軸通貨とは、簡単にいうと、
「世界中のあらゆる商取引で決済の通貨として使える信認を得た通貨」
といった感じのものである。

避難通貨とは、簡単にいうと、
「何かリスクが生じたとき、資金を移してこれをしのぎたいと思う、最もリスクが少ないと考えられる通貨」
といった感じのものである。

まずは【基軸通貨】である。

基軸通貨は現在、米ドルだ。
しかし、昔からずっと米ドルだったわけではなく、米ドルの前は英ポンドであった。さらにその前は「金(きん)」であったといえる。

基軸通貨を簡単に考える際には、物々交換で通貨が誕生した様子と重ね合わせると分かりやすいかも知れない。

本シリーズでは以前、FXの取引をリンゴにたとえて表現した。あの時は既に市場は存在して、リンゴを円という通貨で売買した。

ここでは、まだ物々交換だった時代にまで遡って考えてみよう。

あなたはリンゴの生産者で、リンゴが余っているが、かわりにイワシを手に入れたいとする。

あなたは歩き回った挙句「イワシが余っている人」を見つけられるかも知れない。しかし、その人が「イワシは余っているがリンゴを手に入れたい人」である確率はかなり低そうだ。

こうなると、同時にリンゴとイワシを交換するのではなく、媒介として「何か」価値のあるもので代用して交換しなければ大変に効率が悪い。その「何か」は人々が共通に価値があると思えるものでなければ意味がない。
(自分の持ち物は、やはり価値あるものとしか交換したくはないだろう)

その「何か」は、もしかしたら人々が日々必要とする「お米」がその役割を果たせるかも知れない。

「お米」なら、あなたは、リンゴが余っている場合に、誰か「リンゴを欲しい人」から「お米」をもらうかわりにリンゴをあげ、今度はその「お米」を持って「イワシが余っている人」を探し、イワシをもらうかわりに「お米」をあげる。

こうして、共通に、品物と交換しても良いと皆が考える「お米」を媒介として、あなたはリンゴをイワシと交換することができた。

ここで挙げた「お米」は、それ自体商品・食品として価値があるものだが、今の例では「通貨」としての機能を果たしたとも言える。

そして、リンゴを売りたい人、買いたい人、イワシを売りたい人、買いたい人は、ばらばらに相手を待ったり探したりするのではなく、人の多そうなところに集まれば自然と交換がスムーズに行くことから、徐々に「人の集まる場」は「市場」として成長していく。

こうして、物々交換の交易をスムーズにする意味でも、様々なモノの取引の媒介役として「通貨(貨幣)」が登場したと言える・・・・

これを今度は、かなり強引ながら、一気に現代における世界中の商取引になぞらえてみる。

世界中の国々では、それぞれに異なる各国の通貨が使われ、様々な商品が取引されている。さらに各国間でも、商品(金融商品も含む)の取引が行われている。

例えば、アラブ首長国連邦(UAE)から日本が石油を買う。
代金をどう支払おうか。日本から支払うから日本円で払うのか。しかし相手は円をもらってもあまり嬉しくないかも知れない(その円は、次に日本の物を買う時にしか使えないだろう)。

あるいはディルハム(UAEの通貨)で支払うか。しかしそのディルハムはどこから調達するか(事前にUAEに何かを売っておかなければいけないかも知れない)。

これでは事実上、日本とUAEは物々交換をしているのと変わりない。
また、UAEは日本以外にも石油を輸出しているから、その度に各国通貨を受け取っていたのでは極めて煩雑である。

この時、各国が共通に「米ドルなら扱っても良い」と思っていたとし、かつ米ドルはなぜか米国を離れて世界中に流通しているとする。

これなら、日本はまず為替(ドル円相場)により円を米ドルに替えておき、石油の代金を米ドルで支払う。UAEにとっても、円をもらうよりは米ドルをもらったほうが扱いやすい。必要なら、為替(ドル・ディルハム相場)により米ドルを売却してディルハムを得れば良い。ドルと他通貨の為替取引は恒常的に行われていて、不自由はしない。UAEが受け取った米ドルは、すぐにディルハムにしなくても、第三国から別のものを調達するときにそのまま支払いに使っても良い。受け取った第三国にとっても、ディルハムや円で受け取るよりは、米ドルで受け取ったほうが扱いやすいだろう。

要は、全ての商取引は「米ドル建て」決済で行われると、いろいろ煩雑さがないばかりか、取引そのものが非常に流通性が高くなる。

先程の例では、この役割を果たしたのは「お米」であったが、今の例では「米ドル」というわけだ(たまたま米という字がかぶっているが、ギャグではない・・)。

かつて物々交換の時代に、あらゆる商品の交易を効率的にした「通貨」の存在のように、世界中の商取引を効率的にする「通貨の中の通貨」、それが「基軸通貨」ということだ。

このようにして、米ドルは、世界中の商取引の潤滑剤として大量に、非常に流動性高く世界中を移動し続けている。

そして、各国通貨も、基本的に全て米ドルとの直接取引きによって為替されている。

例えばドル円、ユーロドル、ポンドドルといった具合だ。対円で見て、直接取引されているのは米ドルとユーロくらいであり、それ以外は直接取引はない(か、あっても量が少なく非常に流動性が悪くて扱いにくい)。

米ドルのこうした性質は、基軸通貨としてのメインの側面と言える。

我々FXを行う者も、このような「米国を離れて世界中を移動する米ドル」の恩恵にあずかっている。

例えば、あなたが「AUD(豪ドル)円」のポジションを取ろうとする際、外国為替市場には豪ドルと円との直接取引は存在しないため、必ず豪ドル米ドル、米ドル円の「直接取引がある通貨ペア」を介在させて行うからだ。米ドルの取引は売買で相殺できるといっても、そもそも米ドルが流通していなければ豪ドルと円の取引もまともにできないのである。

しかし、このように考えたとき、不思議な点もある。

米ドルは、世界中の商取引において、その媒介役を果たすのに十分な量が「世界中に」ある。

一方で、米ドルは本来、アメリカ合衆国という一国の通貨である。要は、米ドルを発行できるのは米国だけだ。
(一説には某国の輪転機もフル稼働であるとも言われるが)

とすると、どうしてこれだけの量の米ドルが、米国外に飛び出せたのだろう?

さらに言うと、これだけの量の米ドルが米国外に流れているにも関わらず、米国内は特段米ドルが不足してるわけではない。そればかりか、米国内には流通に不自由しないだけの十分なドルがある。いわば、米国内と世界中にあるドルの合計は、過剰なのだ。

このことは、米国が恒常的に経常赤字であったことと無縁ではない。また、1971年のニクソンショック(ドルと金(きん)との兌換(だかん=交換できること)の停止)とも関係がある。

話がやや錯綜して恐縮だが、「金との兌換」(通貨・紙幣が、等価な金と交換できること)についても記しておこう。

通貨は国が発行し、通貨を使う人は、国を信用することで通貨の価値も暗黙に信用している。

しかしこれは良く考えると不思議なことだ。

あなたの持っている1万円札は「1万円の価値がある」と思っているが、実体は「紙にインクで印刷した印刷物」に過ぎない(原価は20円程度らしい)。これに国が「1万円の価値がありますよ」とお墨付きを与えるから、この紙切れで1万円相当のものを買えるのだが、昔の国のように、まだ国そのものへの信認が低い段階では、通貨・貨幣は「誰しもが共通に価値を認める他のもの」と結び付けておかなければならなかった。

誰しもが共通に価値を認めるもの、それは金(きん)であり、金そのものが価値があるものだった。そういう意味で基軸通貨らしい性質を持った最初のものは金であり、
当初「壱圓」などと書かれた紙切れは、当時の国が「この紙切れは、1円分の金と交換できることを保証します」と信用を与えたからこそ、1円分の価値として流通できた。

その紙切れが信用できなければ、いつでも銀行で1円分の金地金(きんじがね=金塊)と交換できたのである。

このように、金との交換を約束した紙幣を「兌換紙幣(だかんしへい)」といい、こうした制度を「金本位制(きんほんいせい)」という。

様々な国の通貨は、何らかの形で最終的に「(中央銀行が持つ)金との交換」が約束される体制となった。

19世紀には、金にかわって英ポンドが流通の中心となる。
兌換紙幣の金本位制ながら、イギリスの植民地が世界中にあったことから、世界中でのポンドの流通が出来上がった(英語が世界中に普及したのと似たようなものだ)。

第二次大戦後、経済大国となった米国のドルがIMF(国際通貨基金)体制のもとで、各国の中央銀行に対して「米ドルの金兌換を約束した」ことで、ポンドにかわって基軸通貨の役割を担うことになる。

そして、各国の通貨は、米ドルとの固定相場制を介して、間接的に金本位制となった(金為替本位制(きんかわせ・ほんいせい)という)。

が、米ドルにとって、金との兌換は制約であった。
金の保有量以上に通貨を発行すれば、兌換、つまり金との交換を約束しきれないことになるからで、ドルの発行には限界が存在した。

米国は、国内の完全雇用を目指し、財政政策を支えるため、金融政策の緩和が必要となり、1971年、ドルは金との兌換を停止した。いわゆるニクソンショックである。

これによって、金の保有量と関係なくドルの発行は自由となり、米国外で流通するドルも増えていく。1950年代以降、米国は継続的に経常赤字になり、そのことがますます世界中にドルを撒き散らしていく。

こうして、ドルが基軸通貨となることと裏腹に、「米国の恒常的な経常赤字」「金融緩和でドルの過剰な供給」という、ドルの価値を落とす側面もあったわけだ。

なお、ニクソンショック以降はドルと金との兌換は停止され、各国通貨も変動相場制に以降したので、金本位制は完全に終了した。

現在では、紙幣と金とを交換するには、普通に金市場で商品として「金を買う・売る」しかない。むろん、金市場・金先物市場で価格は常に変動している。

また、金本位制が崩壊した今も、名残として貨幣のような価値をまだ認められており、各国の中央銀行が支払準備金として金を大量に保有している。経済的な危機が訪れた際は金価格は上昇する(金へ避難する)ということもあるから、貨幣としての役割は終わっているものの、依然、金には一定の価値が評価されているといえる。

このようにして、基軸通貨は、金⇒ポンド⇒ドル、のような変遷を遂げた。

ユーロは基軸通貨になれるだろうか。

欧州圏はそれまで別々の国が別々の通貨を持っていたのが、ユーロという単一通貨に統合され、流通量は米ドルに次いで第二位となった。欧州は、米国の好き勝手にさせないよう、ユーロを将来の基軸通貨にしたいという意思もあるようだ。

2008年にユーロが大きく上伸して史上最高値を更新したときは(ユーロドル1.6超え、ユーロ円169.9)、「ユーロは米ドルと並んで二大基軸通貨」あるいは「米ドルにかわって基軸通貨になる」といった強気発言も多かった。

しかし2008年夏時点で欧州経済は既に疲弊しており、「欧州経済はダメです」と弱音を吐いてユーロの利上げも終了し、実際は金利相場だったユーロ相場は大きく下落、基軸通貨の地位を得るどころか「失脚」した感さえある。

円はどうか。円は確かに世界第三位の流通量とされる通貨である。

しかし、基軸通貨で世界中の商取引の決済に使える米ドルや、複数の国にまたがって通貨として流通するユーロと異なり、円というのは世界の中でただ日本でしか流通しない「極めてローカルな通貨」だ。

ただ流通量が多いというだけでアジア唯一の「ハードカレンシー(国際決済通貨)」にはなっているが、といって世界やアジアの商取引で「円建て取引」が多いわけではない。現時点ではとても基軸通貨になれるような融通の利く通貨ではない。

ローカル通貨にすぎない円が基軸通貨になることは、よほどのことが無い限り、無いだろう。

それに、先程述べたように、円が基軸通貨になるためには世界中の商取引で「円建て取引」が増大する必要があり、世界中で円が移動するために、日本を離れて世界中に円が広くばらまかれる必要がある。

これはすなわち「日本が恒常的に経常赤字になる」「国外に円が流出してもなお国内に通貨需要を満たす十分な円が供給される(総量では過剰)」という点を受け入れないといけないかも知れない。

いずれも、円の価値は落とすことになるだろう。

というわけで、ドルも基軸通貨としてどうか、といった議論はあるものの、では他に基軸通貨になれるような通貨はあるのか?というと、実際問題としては無いのではなかろうか・・・

さて、次は【避難通貨】である。

為替相場では「有事のドル買い」と呼ばれ、有事(戦争・紛争など)が起こった場合、基軸通貨である米ドルを買っておけば安心であるという経験則があった。いわゆる避難通貨の考え方である。

しかし、湾岸戦争を経て、2001年のアメリカ同時多発テロ事件以降は、世界の紛争に米国が絡むことが多くなり、逆に「有事のドル売り」となることが多くなった。

また、避難する要因としては、上記のような地域紛争に関するもの(これを地政学的リスクという)もあるし、経済的な危機によるものもある。

特に地政学的なものでいえば、「有事のドル売り」傾向になって以降は、永世中立国であるスイスのフランが地政学的避難通貨の役割を果たしてきた。伝統的に安全な通貨という認識や、スイスの金融機関に対する信認が浸透していることもある。

(ただし、そうしたスイスフランへの逃避(スイスフラン高)に悲鳴を上げたスイスが、スイスフラン高是正のため最近介入を行ったとも言えるようだが)

サブプライムローン問題以降、特に2008年に欧州経済が非常に悪化してからば、スイスとて欧州圏のど真ん中にあって欧州経済の悪化の影響を受けないわけがない、ということから、「経済的避難通貨」としてはスイスフランは選択されなくなり、当時「まだマシ」であった日本円が経済的避難通貨の位置づけとなった。このことで、まずドル以外に対して大幅な円高が(クロス円大暴落)、ついで対ドルの円高が(ドル円大暴落)が引き起こされたのは記憶に新しい。

もちろん、低金利の円に何らかの魅力があるわけではなく、ただ単にリスク回避のためだけに避難しているのであって、リスクが低減したり、日本経済そのものに悪化の兆しがあれば、当然速やかに円から離れていく。

(避難先はあくまで避難先。疎開先であってリゾート地ではないのだ)

このように、避難通貨は、リスクが発生したときだけ選択され、リスクが低減すれば調整が入る。

最近は、円の経済的避難通貨の性質にも変化が見られ、ドルがその性質を帯びた形になってきた。そのため、「リスク回避」が「ドル売り」なのか「ドル買い」なのか「円売り」なのか「円買い」なのか、良く分からない、といった状態も見受けられる。

リスク回避の場合の調整は、特にドル円で言えば、その都度どちらに動くのか、よく注意が必要となるだろう。

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