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千のFX千夜一夜 第三十六夜 〜 テクニカル9:一目均衡表

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今回は、テクニカルの9回目として、FXニュースでも簡易的に取り上げられることの多い「一目均衡表(いちもく・きんこうひょう)」について述べてみよう。

一目均衡表というのは、一目山人(いちもく・さんじん)という日本人が考案・開発したテクニカルであり、もともとは「株式相場における日足チャート」に対して適用したものである。

しかしながら、この日本発のテクニカルは海外でも非常に知名度が高く、海外のチャートでも「Ichimoku」の名でテクニカル表示できるものがある。

一目山人という名はペンネームで、本名は細田悟一といい、現在は「一目均衡表」ということばは、細田悟一氏の御遺族が経営する株式会社経済変動総研登録商標となっている。
(株式会社経済変動総研は、一目均衡表公式HPも立ち上げている)

先程も述べたように、一目均衡表は、もともと株式相場における日足チャートに、後述する演算を施したものである。

よって、元来、その演算に使われる定数(期間)や意味合いは、株式相場の日々の動きの特性を盛り込んだものである。

なので、株式市場とは性格が全く異なる為替市場に対してこの一目均衡表を適用するのは、本来的な一目均衡表の特性を活かしているとは言いがたい。
(株式市場と為替市場の違いについては、第七夜もご覧下さい)

また、チャート機能の向上により、為替相場の一目均衡表は、日足以外でも、分足・時間足・週足など、全く異なるローソク足チャートでも「同じ仕組みで」描画できてしまう。これらのそれぞれの時間足でも一目均衡表の特性が活かせるか、というと、厳密には違うだろう。

それにも関わらず、為替市場において一目均衡表も重視されるのは、「それをテクニカルとして利用する人が多いから」ということに他ならない。

しかも、この場合の使われ方は、一目均衡表の本来の複雑な利用方法から離れて、単に、計算される各ラインを「相場の重要なポイント(特にサポートレジスタンス)」として位置付けているだけとなっているだろう。

そこで、本解説でも、一目均衡表本来の複雑な解説はしない。一目均衡表は、総合的な判断をマスターするのは大変難しく、緻密な利用方法を要する。Wikipediaなどによれば「一部の巻が絶版となり、全てを正しく把握できている者は極少数」とのことであり、その全貌を体得することは極めて困難なようだ。

5つの補助線

一目均衡表には、5つの代表的な補助線がある。転換線基準線先行スパン1先行スパン2遅行スパンである。

大雑把に言って、
転換線基準線=直近の売買価格帯の相場水準
先行スパン1,2=未来におけるポジション保有者の売買価格帯
遅行スパン=過去との価格比較
を表しているといわれる。

その算出方法は、日足チャートを例に取ると(つまりローソク1本が1日とすると)、

転換線=(過去9日間の高値+安値)÷2
基準線=(過去26日間の高値+安値)÷2
先行スパン1=(転換線の値+基準線の値)÷2 を、26日未来にシフトしたもの
先行スパン2=(過去52日間の高値+安値)÷2 を、26日未来にシフトしたもの
遅行スパン=日足終値を26日過去にシフトしたもの

のようになる。

例えば、2009年年初〜6月中旬の約半年分のドル円の日足チャートに一目均衡表の補助線を入れると、絵のようになる。



このチャートには、一目均衡表の補助線のほかに、いくつかの移動平均線も一緒に描いてあるが、一目均衡表の補助線には名前を入れてある。

最も目立つ存在である「」(後述)と呼ばれるエリアはサポートやレジスタンスとして機能し、例えば絵の2月上旬に一度下から雲に突っ込もうとした時は抵抗となり、2度目で雲を突き抜けることが出来ていることや、反対に4月下旬に雲の上から突っ込もうとした時はサポートとなり、こちらも2度目で雲を突き抜けることが出来ていること、その後はしばらく雲の下限である先行スパン2に絡み付くように推移していること、などが分かる。

いくつかの線は、過去のある期間の高値と安値の平均値であるので、しばらくのあいだ、そのラインが横ばいになることがある。

例えば、基準線は、過去26日間の高値と安値の平均値であるから、その高値と安値が26日間の期間から抜け落ちてしまわない限り、同じ高値と安値が選択され続け、結果的に基準線の値が数日間同じになることがある。

ここでいう9日間、26日間、52日間というのは、株式相場において代表的なトレードスパンになっているのであろう。株保有者の保有期間に照らし合わせて、適度な期間に設定されたといえるのに対し、為替市場は、ポジションの保有期間が株式市場よりも相対的に短いと言えるので、為替市場でもこの日数が適切かどうかは不明である。

また、日足以外のローソク足では、ローソク足の本数を用いて、

転換線=(過去9本分の高値+安値)÷2
基準線=(過去26本分の高値+安値)÷2
先行スパン1=(転換線の値+基準線の値)÷2 を、ローソク26本分未来にシフトしたもの
先行スパン2=(過去52本分の高値+安値)÷2 を、ローソク26本分未来にシフトしたもの
遅行スパン=ローソク足の終値をローソク26本分過去前にシフトしたもの

となる。これにより、1分足チャートでも10分足チャートでも4時間足チャートでもそれぞれの時間足で一目均衡表を描画できるわけだが、このように任意の時間足でも一目均衡表が描ける場合、逆にローソク9本、26本、52本という数値に対する物理的な意味合いは大変に乏しい。


先の5つの補助線のうち、先行スパン1先行スパン2は、特別な意味をもって利用される。

先行スパン1先行スパン2に挟まれた、値幅のある領域を「」とよぶ。
通常、チャート上では、この領域をハッチング(網掛け)したりして雲っぽく表示する。

そして、先行スパン1又は先行スパン2のうち、高値側に来ているほうを「雲の上限」と呼び、安値側に来ているほうを「雲の下限」と呼ぶ。

先行スパン1と先行スパン2のどちらが雲の上限になっているかは、その時の相場によって異なる。
時々、先行スパン1と先行スパン2がクロスする場合があり、そこでは雲の値幅が最小となる。これを「(雲の)ねじれ」という。雲のねじれがあると、例えばそれまで先行スパン1が雲の上限だった場合、ねじれ以降は先行スパン1は雲の下限となり、反対に先行スパン2が雲の上限に入れ替わる。

しかし、この場合、先行スパン1と先行スパン2にそれぞれに特別の意味がある、というよりは、雲の上限と雲の下限という役割に意味がある、といえる。

さらに、他のテクニカル指標と際立って異なる「」の特徴は、それがローソク26本分「未来に」伸びている、という点である。つまり、今、相場に対して果たす役割だけでなく、将来の相場にどう影響するか、を示している点である。

」というのは、一目均衡表の最も特徴的な存在の1つと言えるだろう。

テクニカル水準としての使われ方

ここで説明する簡易的な使われ方は、本来の一目均衡表の使い方と異なり、単純に為替相場で各補助線が「テクニカル水準、サポートやレジスタンス」として使われる場合である。

サポート、レジスタンスとして使われたり、直近の目安となるポイントとして使われる時、単に基準線や転換線はその定義から離れて「単に目安ポイント」としてだけ使われたりする。
サポートやレジスタンスとしての雲

相場がより上にあれば、サポートとなり、雲の上限で跳ね返されたりする。
相場がより下にあれば、レジスタンスとなり、雲の下限で跳ね返されたりする。
雲の厚みが、その反発の強弱を示すとも言われる。

また、相場が雲の中に突っ込むと、上限と下限の両方が反転ポイントとなるケースがあり、上限がレジスタンス、下限がサポートになることがある。
(実際には、雲の中を迷走するよりは、一旦雲に突っ込んだら、速やかに反対側に抜けてしまうケースが多いようだ)

なお、簡易的な解説によれば、先行スパン1先行スパン2に挟まれたゾーンは、過去のある期間においてその水準でポジションが取られた価格帯を表しており、そのためにサポートやレジスタンスとなるとされる。おそらくは、逆張り的な指値が置かれやすいのであろう。

転換線と基準線の関係

転換線基準線を上抜けると買い、下抜けると売りとされる。

これは、計算式に従うと
転換線=(過去9日分の高値+安値)÷2
基準線=(過去26日分の高値+安値)÷2
であり、過去の期間の高値・安値の平均は、非常に荒っぽく言えば移動平均のような性格を帯びているから、
転換線MA9(9日移動平均線)に性格が近く、
基準線MA26(26日移動平均線)に性格が近い
といえる。

とすると、MA(移動平均)の回(第十六夜)でも述べたように、
・短期線が長期線を上抜けると上昇相場、
・短期線が長期線を下抜けると下降相場、
ということと通じる。

遅行スパン

遅行スパンは、日々の終値を26日分過去へシフトしたものであるが、これを、日々の終値を比べると、これは26日前にポジションを保有した人の現時点での損益を表していることになる。約1ヶ月ほどポジションを保有した人が、引き続きポジションを保有し続けようとするか、利確もしくは損切りしようとしているのか、判断できる、というものである。

ただし、これこそ株式相場の特性に基づいた判断といえる。為替相場では、26日前のポジションがどうこう、というより、もっと短い期間でのポジション動向が大事だろう。強いて言えば、遅行スパンと日々の終値の比較をすると、26日前に漬け込まれたポジションがプラスに転じる可能性があるかどうか(プラス決済に働くかどうか)が分かる、という程度かも知れない。

E・V・N・NT・4E計算値

一目均衡表には、先に述べた5つの補助線の他、チャートの高値・安値から次の高値ポイントや安値ポイントを探るいくつかの簡単な計算値がある。

例えば、現在、安値Aから高値Bまで上昇したあと、高値Bから安値C(ただしCAとする)まで下げた∧字の相場を形成しているとする。このあと、どの水準がキーとなるかを知るのに、以下の計算がある。

E計算値B+(BA)   安値Aから高値Bまでの上昇幅を高値Bに加えるもの
V計算値B+(BC)   高値Bから安値Cまでの下落幅を高値Bに加えるもの
N計算値C+(BA)   安値Aから高値Bまでの上昇幅を安値Cに加えるもの
NT計算値C+(CA)  安値Aから安値Cまでの上げ幅を安値Cに加えるもの
4E計算値B+3×(BA)  安値Aから高値Bまでの上昇幅の3倍を高値Bに加えるもの

である。

ちなみに、V計算値は、第二十八夜で紹介したように、「フィボナッチ・リトレースメント」の200%点(つまり「倍返し」)と同じである。V計算値の場合は、最初の安値Aは、無関係である(BCだけで決まる)。

また、N計算値は、第二十九夜で紹介したように「フィボナッチ・プロジェクションフィボナッチ・エクスパンション)」における100%点と同じである。

これらの計算値のうち、E計算値V計算値N計算値NT計算値を絵で表すと次のような感じになる。(安値A、高値B、安値Cの関係は、前述のとおりのケースとする)

E計算値


V計算値
 ※点Aは無視してよい。

N計算値


NT計算値


4E計算値は、E計算値で加える上の方の B-A が、この3倍分になればよい。

まとめ

これらの補助線、価格計算値が、為替相場において簡易的に「テクニカル水準・指標」として用いられている。

これ以上の、一目均衡表のより深い部分を期待されていた方には本説明は物足りないかも知れないが、最初に述べたように、本来一目均衡表は「株式相場の日足チャート」に適用すべきもの。これを為替相場に転用し、さまざまな時間足チャートに適用する時点で、一目均衡表の緻密な部分が成立するのかは微妙である。

それよりも、むしろ「多くの人が利用するテクニカルの部分が、実際の相場に影響する」という風に割り切って見てみても、十分価値あるものといえるだろう。

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