最終更新: sen_no_risho 2009年05月24日(日) 21:11:53履歴
「移動平均」とは、時系列のデータを滑らかにして動きの傾向を知るためのものだ。
英語では、MA(Moving Average)という。
実勢レートの動きは細かいので、今の相場が買われているのか売られているのか、どういうトレンドになっているのか、大局的な状況は実勢レートでは非常に分かりにくい。
そこで、ある期間内での動きを平均して実勢レートの動きを滑らかにすると、大局的な動きや傾向が分かりやすくなる。大局的な動きを知るのに「平均を取る」は最も簡単なやり方と言える。
例えば、毎日の値動きを見るだけではなく、5日間の値動きを平均して
4/1〜4/5の5日間の平均
4/2〜4/6の5日間の平均
4/3〜4/7の5日間の平均
(上記の日付は例。土日も相場が動いているとする)
のようにすると、日々、直近5日間の平均値を得ることができる。
このように、
・平均値を取る期間が5日間
・平均の取り方をずらしていく期間が1日ずつ
として、5日間という期間を「ずらしながら(=移動しながら)」平均を取る、というやり方が「移動平均」というわけだ。
「ある一定の期間内の計算を、それより短い時間で少しずつずらしながら算出する」ものは、FXに限らず、また移動平均に限らず、おしなべて「移動〜〜(Moving 〜)」と言うから覚えておこう。
それと、「移動平均」ということばは、別に金融の世界に限らず、気象データや各種の計測データを滑らかにするのにも使われる「ごく一般的な」用語である。
FXや株式の世界では「移動平均」は「過去の一定期間で“終値”の移動平均を出したもの」をいう。
先程の例では5日間の移動平均(通常「MA5」と略記する)なら、
4/1終値〜4/5終値の5日分の平均値 ⇒ 4/5のMA5
4/2終値〜4/6終値の5日分の平均値 ⇒ 4/6のMA5
4/3終値〜4/7終値の5日分の平均値 ⇒ 4/7のMA5
(上記の日付は例。土日も相場が動いているとする)
ということだ。
こうして毎日、直近5日分の各終値の平均値が算出される。これら毎日の移動平均を線で結んだものが「移動平均線」である。
(移動平均線そのものを「MA○○」と呼ぶ場合もある。MA5といえば、5日移動平均“線”を指す場合と、ある特定の日の5日移動平均の“値”を指す場合がある)
先程の例は5日間の平均を取ったので「5日移動平均線(MA5)」だった。簡単に「5日線」ともいう。
他にも、25日線、75日線、200日線など、さまざまな期間で計算される。
計算する期間が短いものは「短期線」、長いものは「長期線」、その中間的な期間なら「中期線」ともいう。
通常、
「短期線」といえば5日程度
「中期線」といえば20〜30日程度
「長期線」といえば100〜200日程度
とされる。
ものによっては、短期線を25日程度、中期線を75日程度、長期線を200日程度などとするものもある。この辺は特に定義はなく、短期・中期・長期はかなり感覚的だ。
むしろ「何日」の移動平均を取るか、のほうが大事だ。世の中で使われる数値は大体決まっている。
短期線は1週間分くらいが多い。FXは土日は休みなので「5日線」がそれにあたる。あるいは1週間は7日なので「7日線」のこともある。5・7・9あたりが良く見られる。
中期線は3〜4週間程度。土日が休みなので15日であったり、7日×3で21日だったり、あるいは25日だったりする。15・18・20・21・25・27あたりが良く見られる。
長期線は、短くて75日、長くて200日と範囲は広いが、75・90・100・150・200などキリの良いものが見られる。
あるいは、海外などではフィボナッチ数に即して、
1・2・3・5・8・13・21・34・55・89・144・233・377
が使われることもあるようだ(1〜3は使わないと思うが)。
いずれにせよ、「世の中で良く使われている」とされる期間を注目するのが大事だ。これは、注目する人が多い、ということであり、それにのっとったトレードもそれなりにあるだろうと思われるためだ。
同じ移動平均でも、世の中でほとんど使われていそうにない期間で計算しても、あまり旨味は無いかも知れない。
移動平均は、直近のある期間の平均的・大局的な姿であるから、
・日々の終値が移動平均線より上にくれば「平均的なところより買われている」
・日々終値が移動平均線より下にくれば「平均的なところより売られている」
と見ることができるし、
・移動平均線が上向きならば概ね上昇トレンド
・移動平均線が下向きならば概ね下降トレンド
・移動平均線が水平ならばトレンド無し
と見ることもできる。
ただし、これらは「過去のデータから経験的に」「結果論的に」そう言われているだけで、本当にそうなるかどうかは、あくまで「将来の事は誰にも分からない」ことは重々注意して欲しい。
移動平均の計算期間が短い「短期線」は、実勢の為替レートの動きに近いグラフを描く。極端すれば日足のMA1は普通に終値を結んだだけだ。
短期線はトレンドの転換に俊敏に反応してくれる一方で、ちょっとした値動きにも反応するため「ダマシ」を起こしやすい。例えば、上昇トレンドではないのに、ちょっとした買いに反応して移動平均線が上昇線を描き出してしまうことがある。
反対に、移動平均の計算期間が長い「長期線」は、計算期間が長いために価格の変化がゆるやかで、トレンドの転換には鈍感となる。実際の動きからもかなり遅れて滑らかにしていく。計算期間が長いがゆえに「かなり古いレートの影響を受けすぎる」という欠点もある。
移動平均線から売買のタイミングを見る方法としては、
・終値が移動平均線を上回ったら買いシグナル
・終値が移動平均線を下回ったら売りシグナル
とみなすことも出来る。
なお、移動平均線を使う場合は、1つの移動平均線に頼るのではなく、いくつかの期間の違う移動平均線の動きを観察したほうが良いとされる。
期間の異なる移動平均線を使っていると、その両者がときどきクロスすることがある。
「短期線が中期線を上回る」(短期線の方が動きが早いので、あたかも、緩やかな中期線を短期線が下から上に横切ったように見えるので、こう言う)ことを「ゴールデンクロス」といい、相場は上昇トレンドに入ったといえる。
逆に、「短期線が中期線を下回る」ことを「デッドクロス」といい、相場は下降トレンドに入ったといえる。
ただし、いずれにせよ、移動平均線は相場が動いてから反応するため、「指標としては遅い」ということが要注意だ。ある日の移動平均の値が出るのは、その終値が確定した時つまり翌日であり、ゴールデンクロスしたかデッドクロスしたかどうかが分かるのは、実際にトレンド転換があってから1〜2日ほど既に経過した後ということもあるのだ。
なお、移動平均線を使った買いシグナル・売りシグナルには「グランビルの法則」と呼ばれる8つの法則がある。(グランビルの法則の具体的な説明は例えばこちら)
移動平均は日々の「終値」を使用するといったが、終値とは何だろう?
一般的には、「FXの1日」はNYクローズで終わるので、「NYクローズ(NY17時、日本時間7時(米国夏時間は6時))」のレートが、終値だ。
しかし、FX会社によってはNY17時ちょうどではなく、メンテナンス時間のために10分前に終わったりしてそこが終値のこともある。
終値になる時間がずれていることで、各会社で終値も異なってくることになり、移動平均も少しずつ変わってくる。
よって、同じ「5日線」でも、各社、少しずつ違うのだ。
(ただ、長期線はこのずれは複数日の平均で解消される傾向である)
FX会社のチャートによっては、1日の区切りがNYクローズでないところもあるので注意しよう。
例えば、FX Online JapanがHP上で提供するチャートは、1日はロンドン時間(LDN)の0時〜24時になっており、終値は「LDNの24時」のレートだ。日本時間で言えば朝9時(夏時間は8時)である。これはNYクローズより2時間ほど遅い。
また、ここで1日を区切るため、
日本時間月曜6〜9時のシドニー東京時間はLDNの日曜日に(3時間のみ)
日本時間金曜9時〜土曜7時はLDNの金曜日に(22時間のみ)
となり、1週間が6日分になる。
(しかも週の初日は3時間で日足が出来る)
多くのFX会社では普通NYクローズで区切るので、1週間は5日分だが、先の会社では1週間に6本のローソク足が立つのだ。
こうしてみると、日足の区切りが違うことで、終値が違うだけでなく1週間のローソク足の本数さえ異なっている。MAを使う上で、1日の区切りがどこか、終値の時間はいつか、チェックは必要だろう。
そもそも「どのようにするのが正しい」というものはない。FXの1日はNYクローズ17時で切るのが妥当かも知れないが、FX参加者が皆それを使えるわけではない。色んな人が色んなチャートでMAを表示して判断しているので、そこには一定の差異がある。よって、MAの結果はもともとある程度ばらつくもの、最低限10pips程度は誤差として許容しなければならない。
25日線といえば、25日分の終値の平均だ。
だが、25日線の期間の初日である「24日前」は一体いつだろうか?
カレンダー通りなら普通に24日前で良いが、FXは土日が休みなので週5日で考えれば、カレンダー上は約34日前になる(平日25日分)。
一方で、先のFX Online Japanのチャートでは1週間に6本のローソク足が立つので、カレンダー上は約29日前になる。
このように、単に「MA25」を指定してもチャートのローソク足の出来方によって、いつからの平均なのか計算期間が変わる可能性がある。
これは長期線の「200日線(200日移動平均線=MA200)」で顕著だ。
最近の相場で切り下がって100円台を割ったドル円の200日線も、どの200日間か。カレンダー通りなら199日前(約6ヶ月半前)だが、FXの週5日で考えれば約279日前(約9ヶ月前)、週に6本ローソクが立つチャートなら約239日前(約8ヶ月弱前)、とかなり異なってしまう。
実際、あるチャートでのMA200が99.44だったとき、同じ日のFXニュースでは99.24と言っていた。その日の相場は、前者で言えばMA200に到達しなかったのだが、後者で言えばMA200を突破していた。このように、同じMA200でも、どこのチャートによったかで20pipsもの差が出て判断も変わってきてしまう。
大局判断は違わないが、細かい点では違ってくる好例である。
さて、実際にお使いのローソク足チャートでMAを表示させようとすると、パラメータで「期間(period)」という入力欄があるだろう。
日足チャートで25日線を出したければ、ここに「25」と入れるわけだ。
だが、注意したいのは、どのMAのパラメータも、期間に入れるのは、
●その時間足で数えたローソクの本数
ということだ。時間の単位はローソク1本の期間である。
日足なら、ローソク1本が1日だから、期間に「25」と入力すれば25日分となる。ローソク1本の終値は、1日の終値なので、25日分の終値が平均化される。
しかし、もしあなたが今見ているローソク足チャートが1時間足で、ここに「5日線」を表示させたいと思ったらどうしたらよいか?
1時間足チャートを見ているときに、MAのパラメータに「5」を入れたら、それは「5時間線」になってしまうことに注意しよう(1時間ごとの終値の5つ分の移動平均=ローソク5本分)。
もし、5日分の期間を取りたければ、5×24=120と入れなければならない。
そう、5日=120時間だから、期間に「120」を入力すれば、とりあえず移動平均の期間は5日分になってくれる。
ただし、これはあくまで代用だ。
5日線(“日足5本”移動平均線)と120時間線(“時間足120本”移動平均線)は、同じではない。
5日線が日々の終値5個を平均するのに対し、120時間線は毎時の終値120個を平均するから、5日線では計算に入っていない途中のレートが混ざっている。
だから、期間が同じというだけで、値が同じわけではない。
同様に「“5分足1440本”移動平均線」も、期間は7200分=5日間で同じだが、表示されるものは上の2つとも同じではない。
そういう意味では、移動平均線(MA)は、時間足と本数をきっちり定義しないと使えない。
今回は、最も基本的なテクニカル指標であるMA(移動平均)について見てみた。
移動平均には、
●移動平均を取ることで、日々の時々刻々のレート変化と違って相場の大局的な動きを知ることができる。
●移動平均線より上にいるか下にいるかで、現在の値動きの傾向・乖離が分かる。
●異なる期間の移動平均線の動きで、ゴールデンクロス・デッドクロスからトレンドを推定できる
といった利点がある。
その反面、
●過去の期間の平均を取るため、期間が長くなるほど動きが鈍くなり、反応が遅くなる(トレンドを逃しやすい)
●ゴールデンクロスやデッドクロスを知ることが出来るのは、それが発生した翌日か翌々日である(終値が出てから計算されるので)
●チャートにより、MAを計算する終値や1日の定義、土日の扱いが違うので、同じMA25やMA200でも、各社少しずつ違っている
ということも注意点しておいて欲しい。
移動平均は、その期間の新しいものも古いものも平均化の扱い(比率、ウェイト)が同じだ。MA25なら、直近当日も24日前も同じ比率(25分の1)で平均に組み込まれる。24日前というかなり過去のものも同じ扱いになる。
古いレートの影響を排除しようとすれば期間を短くせざるを得ず、これでは短期線になって早い値動きに敏感になってしまう。
そこで、「直近は重視、古いものは軽視」という工夫をした加重移動平均や指数移動平均もある。
次回は、後者の「指数移動平均(EMA)」について、述べてみよう。
なお、今回の移動平均は、指数移動平均(EMA)等と区別するため「単純移動平均(SMA=Simple Moving Avarage)」と呼ぶ場合があるが、同じである(SMA=MA)。
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