最終更新: sen_no_risho 2009年05月24日(日) 21:23:07履歴
前回紹介したように、移動平均(MA=Moving Average)というのは、時系列のデータを滑らかにして動きの傾向を知るものであった。
それで、例えばMA25(25日移動平均)であれば、過去25日間の、つまり当日から24日前までの終値25個分の平均値を取ったものであった。
いいかえると、当日から24日前までの終値25個に、全て等しく「1/25(25分の1)」、つまり4%のウェイトをかけて足し合わせたものだ。
ここで、ウェイトの合計が1であるということがポイントである。
( (1/25)×25=1 )
MA25の場合、直近当日も、24日前も、同じ比率で平均に組み込まれており、24日前というかなり過去のものも同じ扱いになっていた。
また、常に25日間の期間を取ったので、ある日の終値が異常に高い、あるいは低いと、その日を含む25日間は、その値がずっとMA25(25日移動平均)に影響し続け、25日が経つと計算から除外されて急に影響がなくなる。
このように、古いレートも等しくウェイトが掛かり続けるために、異常な動きがあれば、計算期間中ずっと同じ影響が出る(日々古くなるにも関わらず)、という問題点が、移動平均にはある。
そこで、ウェイトを「直近のレートは重視、古いものは軽視」という工夫をしたものがある。
それらには、加重移動平均、指数移動平均など、様々な工夫があるが、ここでは、普通の移動平均(MA、SMA)と並んで使われる機会が多い「指数移動平均」を紹介する。
指数移動平均は、英語では、EMA(=Exponential Moving Average、エクスポーネンシャル・ムービング・アベレージ)という。また、指数平滑移動平均、指数平滑化移動平均、指数加重移動平均などといろいろな呼び方をされるが、指数という名前が入っているところがミソだ。
指数移動平均の算出方法のポイントは、
・日々のウェイトが、直近が一番重い
・過去にさかのぼるに従ってウェイトが軽くなっていく
という点だ。しかも、1日さかのぼるごとに「一定の比率で」ウェイトが軽くなるところがポイントだ。
例えば、かなり天下り的であるが、当日のウェイトを、15.4%(0.154)としよう
(これをAとする)。
また、1日過去にさかのぼるごとに、ウェイトを「×0.846倍」して軽くしていく。
(これは、1−A である)
とすると、過去の終値のウェイトは、
・当日 15.4% = A
・1日前 13.0% = A×(1−A)
・2日前 11.0% = A×(1−A)×(1−A)
・3日前 9.3% = A×(1−A)×(1−A)×(1−A)
・4日前 7.9% = A×(1−A)×(1−A)×(1−A)×(1−A)
:
・10日前 2.9%
:
という塩梅になる。
日々、0.846倍の比率でウェイトが軽くなっていくが、同じ比率で変わっていくことを「指数関数的(Exponential)」というので、“指数”移動平均という名前なのだ。
15.4%から始めて、0.846倍しながら求めたものを全部(無限に)合計すると、1になる。これは、ウェイトの合計が1ということだ。
こうやって、日々のレートにこれらのウェイトを乗じて、全て合算すれば、指数移動平均(EMA)が得られる。
実は、上記のようにして計算したものは「12日指数移動平均(EMA12)」になっている。
この辺は、非常に難しい数式になってしまうので、説明ははしょるのだが、「N日指数移動平均」の場合、当日のウェイトAは、
A=2÷(N+1)
で求められる。上記の例では、N=12なので、
A=2÷(12+1)=0.154 (15.4%)
というわけだ。
また、1日さかのぼるごとにウェイトの比率を下げる係数は、
1−A
で求められる。上記の例では、1−0.154=0.846、というわけだ。
ただ、この方式を取ると、すぐ分かるのは、どこまで過去にさかのぼっても、ウェイトはゼロにならない。徐々に小さくなってゼロに近づくが、ゼロにはならない。
実は、指数移動平均は、その定義上、無限に過去のレートが必要になる。
実際には、そのような計算は出来ないので、EMAを次々と計算する際には、最初のEMAだけは前日のMAで代用することが多いようだ。そうやって、次の日以降はEMAの計算をしていくことで、そのうち「だいたい正しいEMA」に近づいていく。
そして、EMAの計算の特徴として、“前日のEMAが分かっていれば”当日のEMAは実は簡単に計算できるという点がある。
ひとたびEMAが計算されていれば、次のEMAは、前のEMAを「(1−A)倍」して、それに、当日のレートのA倍を加算すれば良い。
つまり、
当日のEMA=(当日のレート)×A + (前日のEMA)×(1−A)
と書ける。
(先程示した数式図からこのことが分かる人もいるかも知れない)
また、EMAで使う「当日のレート」は、必ずしも当日の終値でなくてもよく、「当日の現在の途中段階のレート」を使って計算してもよい。
先程も述べたが、EMAは定義上、無限の過去でもウェイトはゼロにはならず、「EMA12(12日指数移動平均)」のように日数(期間)を指定しても、計算期間が12日ではない。
EMA12では、11日前で2.5%のウェイトがあるが、20日前でも0.5%の、40日前でも0.02%の、わずかなウェイトがある。
(これに対し、普通のMA12なら計算期間はキッチリ12日で、それ以前のデータは一切計算に用いられない)
EMAで指定する「日数(期間)」は、計算の日数とは全然関係がなく、EMAの計算期間は、
・短いほど、日々さかのぼるごとにウェイトは早く減衰し、
・長いほど、日々さかのぼってもあまりウェイトは小さくならない。
のように、過去のウェイトを早く減衰させるか遅く減衰させるかのバランスを決めるパラメータに過ぎない。
・・・・とまあ、このように計算上のことは難しくなってしまうが、実際に使うときは、各FX会社のチャートでEMAが表示できるなら、そのチャートが計算してくれるので、今述べてきた計算方法については一切忘れてしまって一向に差し支えない。安心して忘れてしまおう。
ただ、
●MAと違って、EMAは直近ほどウェイトが高い
●1日さかのぼるごとにウェイトが「一定比率で」小さくなる
●EMAの計算期間は「データの使われる期間」ではなく、「ウェイトの減衰の強弱」を表すパラメータに過ぎない(計算期間に物理的な意味合いはない)
という点だけ、注意しておけば良い。
とりあえず日足チャートでEMAを使うときには、何らかの期間を設定するが、その「期間」に「12」と入れても、それは「12日間」とは一切関係がなく、単に、
・当日のウェイトを、2÷(12+1)=0.154 に、
・1日さかのぼったときのウェイトを軽くする比率を、1−0.154=0.846倍に、
という設定をしたに過ぎない。上式の割り算に12が使われた、というだけだ。
なお、EMAとMAを比較すると、
・直近当日のウェイトは、MAよりEMAの方が大きく、
・過去のウェイトはMAよりEMAの方が小さい。
そのため、EMAはMAより敏感に動く。
EMAそれ自体の使い方は、MAのそれとほぼ同じである。つまり、MAをEMAに置き換えて使うことができる。
なので、使い方は、MAでの説明(第十六夜)を参照して欲しい。
ただし、普通、EMA単独で使うことは多くないと思う。
例えば、FXニュースでも「5日線」「21日線」「200日線」などといわれるのは単純移動平均であるMAであって、EMAではない。FXニュースで「EMA○○日線が云々」というニュースを見かけることは、まず無いだろう。
それにも関わらず今回わざわざEMAを紹介したのには、訳がある。
それは、2つの異なる期間のEMAを比較する手法でトレンドの判断をする「MACD(移動平均収束発散)」で、このEMAが計算内に使われているからだ。
MACDというのは、比較的“凝った”テクニカル指標であるが、FXニュースでも取り上げられることの多いテクニカル指標だ。
このテクニカル指標は、MAではなく、EMAを使う、という特徴がある。つまり、MACDを説明するには、MA→EMA→MACDという「派生」をたどる必要がある。それで、今回あえてEMAに触れてみた。
次回は、テクニカル指標でしばしば使われるMACDについて紹介しよう。
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