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千のFX千夜一夜 第三十八夜 〜 オプション

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FXをしていると、ニュースで「オプション」というものの存在をよく耳にする。通常、FXで直物為替(じきもの・かわせ)の取引をしている限り、我々が直接オプション取引に関わることはない。だが、オプション取引自体は、時として直物為替相場を大きく動かす要因になることがある。

例えば、2009年1月21日には、当日のNYカット(日本時間0時)を期限とする行使価格90円のドル円の大口の通貨オプションが設定されており、当日は終始90円前後で小動きしていたものが、NYカットと同時に一気に暴落し、短時間のうちに87.1円まで3円も下落する記録的なオプションカットとなった。

このように、為替相場を動かす要因として無視できない存在であるが、我々には直接見えないところで取引されたものが、結果として我々も参加する直物相場を動かしていく、ということで、是非、通貨オプションのことも見ていきたい。

オプション取引

オプション取引(普通、略してオプションという)は、
・あらかじめ決められた将来の期日・期間(行使期限)において、
・あらかじめ決められたレートや価格(行使価格)で
取引する権利を売買するものである。

この権利オプションである。

と書くと、すでにこの時点で分かりにくくなってしまうのだが、少し噛み砕いて書いてみると、通常我々がFXで行っている売買では、直物相場の動きに合わせて、例えば「ドル円95で1万ドルを売るか」「ドル円95で1万ドルを買うか」といった取引になる。

一方、オプション(為替市場でのオプションは通常通貨オプションと呼ばれる)では、今の直物相場の動きとは関係なく、例えば
3ヶ月後の○月△日に、1万ドルをドル円92で買う権利
というものを設定し、「この権利をいくらで売るか」「この権利をいくらで買うか」といった取引をする。

例えばこの権利を、AさんがBさんから買ったものとする。
(AさんはBさんから権利を買うので、AさんはBさんに権利の代金を支払う)

3ヶ月後の○月△日に、ドル円の相場が92円になっているかどうかは誰にも分からない。
しかし、もし○月△日に、ドル円相場が94円であれば、Aさんは、「1万ドルをドル円92で買う権利」をBさんに対して行使することができる。直物相場が94円なら、市場から買えば1ドル94円で買わなければならないところ、Aさんは権利行使によってBさんから1ドル92円とお安く買うことができる。
この場合、AさんとBさんとは、直物の為替相場(為替市場)を介さずに直接二者で取引を行う。

一方、もし○月△日に、ドル円相場が90円まで落ちていたとすると、Aさんは、「1万ドルをドル円92円で買う権利」は放棄する。Bさんから1ドル92円で買うよりも、直物の為替市場から買ったほうが安く買えるからだ。
この場合、Aさんは、自分は放棄した権利の代金(Bさんに支払ったもの)だけ損をする。

このように、権利を買ったほうは、権利の代金は支払うものの、権利を行使するかどうかの選択権があり、その権利を行使することでの損は基本的にない(損をするなら権利放棄すればよい)。トータルでいうと、権利の代金分の損失に限定されている。

一方で、権利を売ったほうは、権利の代金は手に入れるものの、売った相手から権利を行使されたらそれを受けなければならず、リスクは青天井である。

このように考えると、権利を売ることは大きなリスクのように見えるが、その代わりに、そのリスクに見合う権利を売る代金が設定されていると言える。実際に行使期限になってみて、相場がどちらになっているかに対する予想に応じて、その権利が「買い手に極めて有利な」ものと目されれば、その権利自体の値段は高くつく。無論、相場の動きに応じて、その権利が有利かどうかが変動するので、同じオプションでも日々この「権利の値段」は変化している。

コールとプット

さて、通貨オプションは、このように特定の条件で売買する権利を、売買するものであった。よって、

「1ドル何円で相手から買う権利」を買ったり売ったりする
「1ドル何円で相手に売る(買わせる)権利」を買ったり売ったりする

という4通りの取引がある。

「1ドル何円で相手から買う権利」を「コール・オプション」という。
「1ドル何円で相手に売る権利」を「プット・オプション」という。

コールはcallで、呼ぶ。呼び寄せるので買うということだ。
プットはputで、置く。自分から離すので売るということだ。

で、こうしたコールやプットといった権利を、二者間で売買するわけである。そこで、

コールを買う方=コールのロング
コールを売る方=コールのショート

プットを買う方=プットのロング
プットを売る方=プットのショート

ということになる。

ロングショートというのは、通常の取引におけるロング・ショートと同じで、実際に買ったり売ったりする行為のこと。
コールプットは、その時取引される商品自体と思えばよい。
で、その商品(コールやプットといったオプション)の値段を、プレミアムと呼ぶ。有利な条件の権利ほど、プレミアムは高い。

通常、FXを行うような直物相場(スポット spot ともいう)では、

・ドルを買う=ドル・ロング
・ドルを売る=ドル・ショート

というわけだ。直接取引する対象がドルなので、こう呼ぶ。一方、オプション市場では、

・「ドルを買う」という権利を買う=ドルコール・ロング
・「ドルを買う」という権利を売る=ドルコール・ショート
・「ドルを売る」という権利を買う=ドルプット・ロング
・「ドルを売る」という権利を売る=ドルプット・ショート

ということになる。実際に取引する対象は、ドルや円といった通貨ではなく、「ドル・コール」と「ドル・プット」の2種類のオプション商品だ。オプション市場は相対で二者間で売買の取引がなされることも考え合わせると、「ドル・コール」というオプションに関して、その買いと売りは同数のはずだ(AさんがBさんからコールオプションを買えば、BさんはAさんにコールオプションを売ったわけだ)。「ドル・プット」についても同様である。

よって、

・ドルコールのロングポジション数=ドルコールのショートポジション数(=ドルコールのオプション取引数)

・ドルプットのロングポジション数=ドルプットのショートポジション数(=ドルプットのオプション取引数)

である。

ただし、「ドルコールのオプション取引数」と「ドルプットのオプション取引数」のどちらが多いかは、必ずしもどちらともいえない。その時の相場により、ドルコールを売買したいという向きが増えれば、ドルコールの数のほうがドルプットの数を上回ることになる。

このような状況を「ドル・コール・オーバー」という。つまり、「ドルコールが(ドルプットより)オーバー=上回っている」ということである。

ドル・コール・オーバーというのは、「ドルコール」つまり「ドルを買いたい権利」を買いたいという人が増えている、という意味につながる。ドルを買いたい権利は、そのオプションの行使価格よりも、行使期限のときの直物相場のレートのほうが高いと有利(権利行使して安く買える)なので、これは「将来ドル相場が上昇する」と期待する向きが多い、という意味につながる。

反対に、ドル・プット・オーバーの場合は、「ドルプット」つまり「ドルを売りたい権利」を買いたいという人が増えている、という意味につながる。ドルを売りたい権利は、そのオプションの行使価格よりも、行使期限のときの直物相場のレートのほうが安いと有利(権利行使して高く売れる)なので、これは「将来ドル相場が下落する」と期待する向きが多い、という意味につながる。

よく、FXニュースでも、オプション相場で「ユーロ・プット・オーバー」といった表現を見かける。これはやはり同様に、単純に言えば「将来ユーロが(通常は対ドルで)下落する」と見る向きが優勢、と読み替えればよい。

直物相場への影響

さて、このように設定されたコールやプットのオプションは、基本は二者間のものだが、これがなぜ直物相場に大きな影響を与えるのだろう。

それは、次のようなケースがある。

1つめはこうだ。
AさんがBさんから「1万ドルをドル円92で買う権利(コール)」を買った(ロング)とする。もし、行使期限に、ドル円相場が94円であれば、Aさんは「1万ドルをドル円92で買う権利」をBさんに対して行使すると有利である。市場で買う場合に比べ、Bさんから買ったほうが安く買えるからだ。この取引は、直物市場を介さず直接二者で行うので、市場には何ら影響しない
問題はその次。AさんはBさんから、ドル円92で1万ドルを買った。しかし、為替市場はドル円94である。そこで、今買ったばかりの1万ドルをただちに「為替市場で」売り払う。こうすると、AさんはBさんから安く買って市場で高く売ることができ、大きな利ザヤを手にすることができる。為替市場からみれば、いきなりAさんからドル円の売りが持ち込まれるので、相場は下落する。このときに、直物相場に影響する。

2つめは防戦に絡むものだ。
その前に、オプションにからむ防戦について述べておこう。オプションは、一般に、権利を行使されると、権利を売ったほうは損をする。そこで、権利を売ったほうは、権利行使されないよう買い支えるか売り崩すかして権利落ちを狙う。
例えば、上の例であれば、Bさんは、なんとか直物市場をドル円92以下にしたい。こうすれば、Aさんは権利放棄するからだ。そこで、行使期限前に行使価格(ドル円92)に近付いていたら、売りを入れて92以下にキープしたい。このとき、権利の買い方(Aさん)は権利行使のために反対向きの取引を入れてドル円相場を変えようとする。このようにして攻防を繰り返すと、ドル円相場は一見膠着したように見えるが、最終的に行使期限を迎えて決着がつくと(権利行使または権利落ちが確定すると)、それまで買い支えたり売り崩したりしてたまったポジションはもはや不要になる。これらのポジションを一気に手放したときに大きくドル円相場が乱高下する場合がある。

防戦に絡むケースでは、権利の売り方(Bさん)が「防戦できない」とあきらめるケースでは、先ほどのようにドル円の売りを入れて防戦するのではなく、ドル円の買いを入れる場合がある。これは、権利の買い方(Aさん)に権利行使された場合に、要求数量のドルを売らなければならないので、そのためのドルを市場から調達しておかなければならないからだ。

オプションの存在は、一般には市場参加者には明らかになっていない

というのは、この取引は、例えばAさんとBさんが直接「相対(あいたい)で」行うものであり、当事者である二者以外は「本質的に知り得ない」ものだからだ。

しかし、時として、大口のオプションは、参加者に漏れ伝わってくる場合があり、FXニュースとして取り上げられる。その場合でも、FXニュースにおける「オプション観測」(=オプションが存在するっぽいという噂)はあくまで噂であり、本当に存在するかどうかは分からないことに注意したい。

なお、本当に存在して、行使期限間際に相場が行使価格に近いと、上で述べたように、防戦による膠着状態になる場合がある。このような場合、相場は、オプション価格に吸い寄せられるように推移することが多い。といっても、その時点で存在するオプションは、今より上のレートから下のレートまで多数存在するはずであり(というのも、これらのオプションは今よりも過去に設定したものだから、今日の時点でいくらかというのは様々な予想が存在したはず)、明らかに相場と乖離しすぎた行使価格をもつものは、はなから防戦もなく買い方か売り方のどちらかは「諦めている」オプションのはずだ。クローズアップされ、防戦が観測できるのは、「たまたま行使期限間際に相場に近い行使価格をもつ大口オプション」といえる。

行使期限の時刻

オプションの行使期限は、各日の時刻はだいたい決まっていて、もっともメジャーなものは、
NYカット(ニューヨーク・カット)=NY時間10時(夏時間で日本時間23時。標準時間で日本時間0時
TKYカット(東京カット)=日本時間15時
の2つである。

このタイミングで、権利行使か権利落ちかが確定し、相場が大きく動くことが多い。

オプションの種類

オプションには様々な種類がある。

もっとも基本的なものは「設定された行使期限に権利行使が可能で、行使期限(のカット時刻)の時点で相場がいくらか」で条件が決まるものである。これは「ヨーロピアンタイプバニラオプション」である。

権利行使日で区分すると、
ヨーロピアン・タイプ・・行使期限に権利行使可能
アメリカン・タイプ・・・行使期限までのいつでも権利行使可能
バミューダン・タイプ・・複数の権利行使日が設定されていて、そのいずれかで権利行使可能
などがある。

オプションの種類も多種多様であり、通常のオプション(バニラオプション)に条件を付加した「エキゾチック・オプション」がある。
メジャーなものは、「ノックインKI、期間内に設定価格に達した瞬間に有効)」「ノックアウトKO、期間内に設定価格に達した瞬間に無効)」「ダブルノータッチDNT、期間内に設定価格レンジの上限下限に達した瞬間に無効)」であるが、様々なものがあり、同じ名前でも市場によって異なる場合がある。

オプションに絡む防戦や、行使期限を迎えた後の相場の乱高下は、時として予想外な動きを見せる場合が多い。

また、ニュースで見られるオプション情報も基本的には噂であり不確実なことが多い。そのため、オプション情報が見られた場合には、ある程度注意が必要である。

また、オプションの種類も重要で、通常のオプションであれば行使期限のカット時刻(東京カットかNYカット)が重要であるが、ダブルノータッチ・オプションの場合には、行使期限前でも「相場がタッチしてしまえば」権利が消滅するため、その時点で終わり、ということもある。

なお、ニュースでオプション情報が観測されない場合でも日々オプションは行使期限を迎えていると思われる。ただ行使価格が相場と乖離していたり、小口であったりなどで相場への影響が限定的な場合もある。

巻き込まれると乗りづらい側面もあるため、オプション情報には幾分注意を払って、適度に回避する方策も有効であろう。

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