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千のFX千夜一夜 第三十九夜 〜 リミットとストップ

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リミットストップというのは、第二十三夜でも解説したように、決済においては
リミット(limit)=利益確定(利食い)のための指値注文
ストップ(stop)=損失確定(損切り)のための逆指値注文
であった。

FXをする場合、すべてを成行注文で行うのでない限りは、ポジションを保有したらその決済にリミットストップを設定するのが普通である。そして、これらは1つのポジションに同時に設定することが多く、決済注文としてはOCOOne Cancels the Other)注文で出すことになる。OCOについては、第二十三夜を参照して欲しい。

あるいは、新規注文の段階から、決済のリミットとストップも一緒に入れてしまうIFO(IFD-OCO)注文のこともある。

ここで多く議論の的となるのは、「リミット幅、ストップ幅は、どのように入れたら良いか」というものだ。

まず、前提となるのは、「リミットだけでなく、ストップも入れよ」ということだ。これは、ストップを入れないことで損切りすべきタイミングを逸し、塩漬けポジション化してしまう、ということを防ぐためでもある。プロでもストップは入れて損失を確定させるのだ(プロは必ずしも勝ち続ける存在ではない。差し引き勝っていれば良い)。

リミット幅、ストップ幅の具体的な幅については、ドル円やポンド円などの通貨ペアや相場の動きにも依存するので、具体的な幅を論じるのは難しいが、それ以前に「リミット幅、ストップ幅は、どちらが広いほうが良いのか」ということを考える必要がある。

リミット幅というのは、ポジションを持ったときの約定値から、リミットの指値までのレート幅である。
ストップ幅というのは、ポジションを持ったときの約定値から、ストップの逆指値までのレート幅である。

もちろん、リミットの指値に掛かった場合の利益はリミット幅であり、ストップの逆指値に掛かった場合の損失はストップ幅となる(スプレッドやスリッページを考慮しない場合)。

そして、教科書的には、「リミット幅はストップ幅よりも大きく取るべきだ」と言われる。
そのこころは、リミット幅>ストップ幅とすることで、利益幅より損失幅を大きくできるから、だそうである。

しかし、果たして本当にそうだろうか?

リミット幅>ストップ幅 ならば、確かに1ポジションの利益幅は損失幅より大きくなるが、平均的に見て(長期的継続的戦略として)有利なのかどうか、思考実験をしてみる。

ここでは、
・相場は完全にランダムであり、1 tick後のレートは、1pip上がるか1pip下がるかのどちらかである。
・スプレッドは0であるとする。
・スリッページは起きないものとする。
・ポジションは任意のタイミングで取るものとする。
という条件を考える。

これにより、ランダムな相場の動きに対して、ランダムにポジションを取った場合に、リミット幅とストップ幅の関係と総損益との純粋な関係を知ることができる。

ここでは、4通りの思考実験を行った。

(A) リミット幅 50pips、ストップ幅 50pips (リミット幅=ストップ幅)
(B) リミット幅 20pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅、少し狭い)
(C) リミット幅 60pips、ストップ幅 40pips (リミット幅=ストップ幅の1.5倍
(D) リミット幅 40pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅の2倍
(E) リミット幅 20pips、ストップ幅 100pips (ストップ幅=リミット幅の5倍

それぞれ、20万tickの時刻をかけ、1 tick後に1pip上がるか下がるかし、リミットかストップに達した瞬間に勝ち負けを決め、次のポジションを取る。

1回の試行ではばらつきが出るので、上記の試行を10回繰り返す。

はたしてどれが有利であったろう。その結果を見てみよう。

なお、実際には20万tick時点で決済されていないポジションがあるが、それはカウントしない。

(A) リミット幅 50pips、ストップ幅 50pips (リミット幅=ストップ幅)
試行回数益ポジ数損ポジ数損益pips
1回目4532650
2回目3350-850
3回目31310
4回目3645-450
5回目3844-300
6回目4339200
7回目4235350
8回目3334-50
9回目4236300
10回目3644-400
1ポジション当りの平均損益-0.6pips
総 益ポジ数379
総 損ポジ数390
益ポジ数:損ポジ数49:51
リミット幅:ストップ幅50:50

(B) リミット幅 20pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅、少し狭い)
試行回数益ポジ数損ポジ数損益pips
1回目24424240
2回目238231140
3回目257264-140
4回目253273-400
5回目212255-860
6回目249227440
7回目263222820
8回目245264-380
9回目229249-400
10回目25925820
1ポジション当りの平均損益-0.1pips
総 益ポジ数2449
総 損ポジ数2485
益ポジ数:損ポジ数20:20
リミット幅:ストップ幅20:20

(C) リミット幅 60pips、ストップ幅 40pips (リミット幅=ストップ幅の1.5倍)
試行回数益ポジ数損ポジ数損益pips
1回目2754-540
2回目3845480
3回目4145660
4回目2457-840
5回目3864-280
6回目2851-360
7回目1960-1260
8回目2949-220
9回目3748300
10回目3556-140
1ポジション当りの平均損益-2.8pips
総 益ポジ数316
総 損ポジ数529
益ポジ数:損ポジ数37:63
リミット幅:ストップ幅60:40

(D) リミット幅 40pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅の2倍)
試行回数益ポジ数損ポジ数損益pips
1回目8616960
2回目82156160
3回目80187-540
4回目7614880
5回目78151100
6回目83155220
7回目8316440
8回目86167100
9回目83186-400
10回目82148320
1ポジション当りの平均損益+0.1pips
総 益ポジ数819
総 損ポジ数1631
益ポジ数:損ポジ数20:40
リミット幅:ストップ幅40:20

(E) リミット幅 20pips、ストップ幅 100pips (ストップ幅=リミット幅の5倍)
試行回数益ポジ数損ポジ数損益pips
1回目741480
2回目7410480
3回目7620-480
4回目8916180
5回目95190
6回目8119-280
7回目8419-220
8回目6718-460
9回目8415180
10回目7016-200
1ポジション当りの平均損益-0.8pips
総 益ポジ数794
総 損ポジ数166
益ポジ数:損ポジ数99:21
リミット幅:ストップ幅20:100

さて、それぞれの結果で注目したいのは、「1ポジション当りの平均損益」だ。

(A)(E)のいずれのケースも、平均1pip以下、多くても-2.8pips程度だ。これは、リミット幅やストップ幅をどのように設定したとしても、損益が平均1pip以下であれば、その優劣はない。

これは、「益ポジ:損ポジ比」と「リミット幅:ストップ幅」の関係を見れば明らかである。
この結果は乱数を用いているために、結果は完全には一致していないが、

 リミット幅:ストップ幅=損ポジ数:益ポジ数

なのだ。つまり、リミット幅>ストップ幅にすると、確かにリミットに達した場合の利益は大きくなるのだが、ストップの方が近いためにストップにかかるポジション数は多くなり、その比率(益ポジ数:損ポジ数)は、最初に設定したリミット幅とストップ幅で理屈の上では決まってしまう。

結果、

 リミット幅×益ポジ数 = ストップ幅×損ポジ数

になってしまい、合計の損益、つまり、(リミット幅×益ポジ数)−(ストップ幅×損ポジ数)ゼロになってしまう。

実際には、ここにポジションごとに一律にかかるスプレッドがあるため、平均的にはマイナスになる。
先ほど見たように、数100〜1000ポジション程度の平均損益が1pip以下か、多くて2〜3pipsであれば、スプレッドが1〜3pips程度であることを考えると、「たまたまスプレッドを上回って利益になる」ことを期待するのは難しい。

なお、ここでの思考実験は、「相場が完全にランダムで、ポジションもランダムのタイミングで取る」という場合であった。

実際の相場は、完全にはランダムではない。が、ポジションの取り方がランダムであれば想定される結果は同じである。つまり、

リミット幅とストップ幅をどのような関係にするか

を悩むよりも、

今の相場を読んで、どのようなポジションをどのようなタイミングで取るか

を悩むほうが、平均的な結果には大きく寄与する、ということだ。

つまり、「あるポジションを取った場合に、リミット幅>ストップ幅にすることで、平均的に利益>損失となるような絶妙なタイミング」でポジションを取るスキルが、結局のところ、求められることになる。
(そのようなスキルがあれば、必ずしもリミット幅>ストップ幅である必要もないかも知れない。ただ、「含み益である期間」が「含み損である期間」より長い、というだけかも知れない)

早い話が、そのようなポジション取りのスキル無くして、リミット幅とストップ幅を悩むのは無駄であり、その場合はどのようにリミットとストップを設定しても、平均的には損益ゼロ(実際はスプレッドでマイナス)になるだけである。

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