最終更新: sen_no_risho 2009年08月02日(日) 23:00:06履歴
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リミット、ストップというのは、第二十三夜でも解説したように、決済においては
・リミット(limit)=利益確定(利食い)のための指値注文
・ストップ(stop)=損失確定(損切り)のための逆指値注文
であった。
FXをする場合、すべてを成行注文で行うのでない限りは、ポジションを保有したらその決済にリミットとストップを設定するのが普通である。そして、これらは1つのポジションに同時に設定することが多く、決済注文としてはOCO(One Cancels the Other)注文で出すことになる。OCOについては、第二十三夜を参照して欲しい。
あるいは、新規注文の段階から、決済のリミットとストップも一緒に入れてしまうIFO(IFD-OCO)注文のこともある。
ここで多く議論の的となるのは、「リミット幅、ストップ幅は、どのように入れたら良いか」というものだ。
まず、前提となるのは、「リミットだけでなく、ストップも入れよ」ということだ。これは、ストップを入れないことで損切りすべきタイミングを逸し、塩漬けポジション化してしまう、ということを防ぐためでもある。プロでもストップは入れて損失を確定させるのだ(プロは必ずしも勝ち続ける存在ではない。差し引き勝っていれば良い)。
リミット幅、ストップ幅の具体的な幅については、ドル円やポンド円などの通貨ペアや相場の動きにも依存するので、具体的な幅を論じるのは難しいが、それ以前に「リミット幅、ストップ幅は、どちらが広いほうが良いのか」ということを考える必要がある。
リミット幅というのは、ポジションを持ったときの約定値から、リミットの指値までのレート幅である。
ストップ幅というのは、ポジションを持ったときの約定値から、ストップの逆指値までのレート幅である。
もちろん、リミットの指値に掛かった場合の利益はリミット幅であり、ストップの逆指値に掛かった場合の損失はストップ幅となる(スプレッドやスリッページを考慮しない場合)。
そして、教科書的には、「リミット幅はストップ幅よりも大きく取るべきだ」と言われる。
そのこころは、リミット幅>ストップ幅とすることで、利益幅より損失幅を大きくできるから、だそうである。
しかし、果たして本当にそうだろうか?
リミット幅>ストップ幅 ならば、確かに1ポジションの利益幅は損失幅より大きくなるが、平均的に見て(長期的継続的戦略として)有利なのかどうか、思考実験をしてみる。
ここでは、
・相場は完全にランダムであり、1 tick後のレートは、1pip上がるか1pip下がるかのどちらかである。
・スプレッドは0であるとする。
・スリッページは起きないものとする。
・ポジションは任意のタイミングで取るものとする。
という条件を考える。
これにより、ランダムな相場の動きに対して、ランダムにポジションを取った場合に、リミット幅とストップ幅の関係と総損益との純粋な関係を知ることができる。
ここでは、4通りの思考実験を行った。
(A) リミット幅 50pips、ストップ幅 50pips (リミット幅=ストップ幅)
(B) リミット幅 20pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅、少し狭い)
(C) リミット幅 60pips、ストップ幅 40pips (リミット幅=ストップ幅の1.5倍)
(D) リミット幅 40pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅の2倍)
(E) リミット幅 20pips、ストップ幅 100pips (ストップ幅=リミット幅の5倍)
それぞれ、20万tickの時刻をかけ、1 tick後に1pip上がるか下がるかし、リミットかストップに達した瞬間に勝ち負けを決め、次のポジションを取る。
1回の試行ではばらつきが出るので、上記の試行を10回繰り返す。
はたしてどれが有利であったろう。その結果を見てみよう。
なお、実際には20万tick時点で決済されていないポジションがあるが、それはカウントしない。
(A) リミット幅 50pips、ストップ幅 50pips (リミット幅=ストップ幅)
(B) リミット幅 20pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅、少し狭い)
(C) リミット幅 60pips、ストップ幅 40pips (リミット幅=ストップ幅の1.5倍)
(D) リミット幅 40pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅の2倍)
(E) リミット幅 20pips、ストップ幅 100pips (ストップ幅=リミット幅の5倍)
さて、それぞれの結果で注目したいのは、「1ポジション当りの平均損益」だ。
(A)〜(E)のいずれのケースも、平均1pip以下、多くても-2.8pips程度だ。これは、リミット幅やストップ幅をどのように設定したとしても、損益が平均1pip以下であれば、その優劣はない。
これは、「益ポジ:損ポジ比」と「リミット幅:ストップ幅」の関係を見れば明らかである。
この結果は乱数を用いているために、結果は完全には一致していないが、
リミット幅:ストップ幅=損ポジ数:益ポジ数
なのだ。つまり、リミット幅>ストップ幅にすると、確かにリミットに達した場合の利益は大きくなるのだが、ストップの方が近いためにストップにかかるポジション数は多くなり、その比率(益ポジ数:損ポジ数)は、最初に設定したリミット幅とストップ幅で理屈の上では決まってしまう。
結果、
リミット幅×益ポジ数 = ストップ幅×損ポジ数
になってしまい、合計の損益、つまり、(リミット幅×益ポジ数)−(ストップ幅×損ポジ数)はゼロになってしまう。
実際には、ここにポジションごとに一律にかかるスプレッドがあるため、平均的にはマイナスになる。
先ほど見たように、数100〜1000ポジション程度の平均損益が1pip以下か、多くて2〜3pipsであれば、スプレッドが1〜3pips程度であることを考えると、「たまたまスプレッドを上回って利益になる」ことを期待するのは難しい。
なお、ここでの思考実験は、「相場が完全にランダムで、ポジションもランダムのタイミングで取る」という場合であった。
実際の相場は、完全にはランダムではない。が、ポジションの取り方がランダムであれば想定される結果は同じである。つまり、
・リミット幅とストップ幅をどのような関係にするか
を悩むよりも、
・今の相場を読んで、どのようなポジションをどのようなタイミングで取るか
を悩むほうが、平均的な結果には大きく寄与する、ということだ。
つまり、「あるポジションを取った場合に、リミット幅>ストップ幅にすることで、平均的に利益>損失となるような絶妙なタイミング」でポジションを取るスキルが、結局のところ、求められることになる。
(そのようなスキルがあれば、必ずしもリミット幅>ストップ幅である必要もないかも知れない。ただ、「含み益である期間」が「含み損である期間」より長い、というだけかも知れない)
早い話が、そのようなポジション取りのスキル無くして、リミット幅とストップ幅を悩むのは無駄であり、その場合はどのようにリミットとストップを設定しても、平均的には損益ゼロ(実際はスプレッドでマイナス)になるだけである。
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リミット、ストップというのは、第二十三夜でも解説したように、決済においては
・リミット(limit)=利益確定(利食い)のための指値注文
・ストップ(stop)=損失確定(損切り)のための逆指値注文
であった。
FXをする場合、すべてを成行注文で行うのでない限りは、ポジションを保有したらその決済にリミットとストップを設定するのが普通である。そして、これらは1つのポジションに同時に設定することが多く、決済注文としてはOCO(One Cancels the Other)注文で出すことになる。OCOについては、第二十三夜を参照して欲しい。
あるいは、新規注文の段階から、決済のリミットとストップも一緒に入れてしまうIFO(IFD-OCO)注文のこともある。
ここで多く議論の的となるのは、「リミット幅、ストップ幅は、どのように入れたら良いか」というものだ。
まず、前提となるのは、「リミットだけでなく、ストップも入れよ」ということだ。これは、ストップを入れないことで損切りすべきタイミングを逸し、塩漬けポジション化してしまう、ということを防ぐためでもある。プロでもストップは入れて損失を確定させるのだ(プロは必ずしも勝ち続ける存在ではない。差し引き勝っていれば良い)。
リミット幅、ストップ幅の具体的な幅については、ドル円やポンド円などの通貨ペアや相場の動きにも依存するので、具体的な幅を論じるのは難しいが、それ以前に「リミット幅、ストップ幅は、どちらが広いほうが良いのか」ということを考える必要がある。
リミット幅というのは、ポジションを持ったときの約定値から、リミットの指値までのレート幅である。
ストップ幅というのは、ポジションを持ったときの約定値から、ストップの逆指値までのレート幅である。
もちろん、リミットの指値に掛かった場合の利益はリミット幅であり、ストップの逆指値に掛かった場合の損失はストップ幅となる(スプレッドやスリッページを考慮しない場合)。
そして、教科書的には、「リミット幅はストップ幅よりも大きく取るべきだ」と言われる。
そのこころは、リミット幅>ストップ幅とすることで、利益幅より損失幅を大きくできるから、だそうである。
しかし、果たして本当にそうだろうか?
リミット幅>ストップ幅 ならば、確かに1ポジションの利益幅は損失幅より大きくなるが、平均的に見て(長期的継続的戦略として)有利なのかどうか、思考実験をしてみる。
ここでは、
・相場は完全にランダムであり、1 tick後のレートは、1pip上がるか1pip下がるかのどちらかである。
・スプレッドは0であるとする。
・スリッページは起きないものとする。
・ポジションは任意のタイミングで取るものとする。
という条件を考える。
これにより、ランダムな相場の動きに対して、ランダムにポジションを取った場合に、リミット幅とストップ幅の関係と総損益との純粋な関係を知ることができる。
ここでは、4通りの思考実験を行った。
(A) リミット幅 50pips、ストップ幅 50pips (リミット幅=ストップ幅)
(B) リミット幅 20pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅、少し狭い)
(C) リミット幅 60pips、ストップ幅 40pips (リミット幅=ストップ幅の1.5倍)
(D) リミット幅 40pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅の2倍)
(E) リミット幅 20pips、ストップ幅 100pips (ストップ幅=リミット幅の5倍)
それぞれ、20万tickの時刻をかけ、1 tick後に1pip上がるか下がるかし、リミットかストップに達した瞬間に勝ち負けを決め、次のポジションを取る。
1回の試行ではばらつきが出るので、上記の試行を10回繰り返す。
はたしてどれが有利であったろう。その結果を見てみよう。
なお、実際には20万tick時点で決済されていないポジションがあるが、それはカウントしない。
(A) リミット幅 50pips、ストップ幅 50pips (リミット幅=ストップ幅)
試行回数 | 益ポジ数 | 損ポジ数 | 損益pips |
1回目 | 45 | 32 | 650 |
2回目 | 33 | 50 | -850 |
3回目 | 31 | 31 | 0 |
4回目 | 36 | 45 | -450 |
5回目 | 38 | 44 | -300 |
6回目 | 43 | 39 | 200 |
7回目 | 42 | 35 | 350 |
8回目 | 33 | 34 | -50 |
9回目 | 42 | 36 | 300 |
10回目 | 36 | 44 | -400 |
1ポジション当りの平均損益 | -0.6pips |
総 益ポジ数 | 379 |
総 損ポジ数 | 390 |
益ポジ数:損ポジ数 | 49:51 |
リミット幅:ストップ幅 | 50:50 |
(B) リミット幅 20pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅、少し狭い)
試行回数 | 益ポジ数 | 損ポジ数 | 損益pips |
1回目 | 244 | 242 | 40 |
2回目 | 238 | 231 | 140 |
3回目 | 257 | 264 | -140 |
4回目 | 253 | 273 | -400 |
5回目 | 212 | 255 | -860 |
6回目 | 249 | 227 | 440 |
7回目 | 263 | 222 | 820 |
8回目 | 245 | 264 | -380 |
9回目 | 229 | 249 | -400 |
10回目 | 259 | 258 | 20 |
1ポジション当りの平均損益 | -0.1pips |
総 益ポジ数 | 2449 |
総 損ポジ数 | 2485 |
益ポジ数:損ポジ数 | 20:20 |
リミット幅:ストップ幅 | 20:20 |
(C) リミット幅 60pips、ストップ幅 40pips (リミット幅=ストップ幅の1.5倍)
試行回数 | 益ポジ数 | 損ポジ数 | 損益pips |
1回目 | 27 | 54 | -540 |
2回目 | 38 | 45 | 480 |
3回目 | 41 | 45 | 660 |
4回目 | 24 | 57 | -840 |
5回目 | 38 | 64 | -280 |
6回目 | 28 | 51 | -360 |
7回目 | 19 | 60 | -1260 |
8回目 | 29 | 49 | -220 |
9回目 | 37 | 48 | 300 |
10回目 | 35 | 56 | -140 |
1ポジション当りの平均損益 | -2.8pips |
総 益ポジ数 | 316 |
総 損ポジ数 | 529 |
益ポジ数:損ポジ数 | 37:63 |
リミット幅:ストップ幅 | 60:40 |
(D) リミット幅 40pips、ストップ幅 20pips (リミット幅=ストップ幅の2倍)
試行回数 | 益ポジ数 | 損ポジ数 | 損益pips |
1回目 | 86 | 169 | 60 |
2回目 | 82 | 156 | 160 |
3回目 | 80 | 187 | -540 |
4回目 | 76 | 148 | 80 |
5回目 | 78 | 151 | 100 |
6回目 | 83 | 155 | 220 |
7回目 | 83 | 164 | 40 |
8回目 | 86 | 167 | 100 |
9回目 | 83 | 186 | -400 |
10回目 | 82 | 148 | 320 |
1ポジション当りの平均損益 | +0.1pips |
総 益ポジ数 | 819 |
総 損ポジ数 | 1631 |
益ポジ数:損ポジ数 | 20:40 |
リミット幅:ストップ幅 | 40:20 |
(E) リミット幅 20pips、ストップ幅 100pips (ストップ幅=リミット幅の5倍)
試行回数 | 益ポジ数 | 損ポジ数 | 損益pips |
1回目 | 74 | 14 | 80 |
2回目 | 74 | 10 | 480 |
3回目 | 76 | 20 | -480 |
4回目 | 89 | 16 | 180 |
5回目 | 95 | 19 | 0 |
6回目 | 81 | 19 | -280 |
7回目 | 84 | 19 | -220 |
8回目 | 67 | 18 | -460 |
9回目 | 84 | 15 | 180 |
10回目 | 70 | 16 | -200 |
1ポジション当りの平均損益 | -0.8pips |
総 益ポジ数 | 794 |
総 損ポジ数 | 166 |
益ポジ数:損ポジ数 | 99:21 |
リミット幅:ストップ幅 | 20:100 |
さて、それぞれの結果で注目したいのは、「1ポジション当りの平均損益」だ。
(A)〜(E)のいずれのケースも、平均1pip以下、多くても-2.8pips程度だ。これは、リミット幅やストップ幅をどのように設定したとしても、損益が平均1pip以下であれば、その優劣はない。
これは、「益ポジ:損ポジ比」と「リミット幅:ストップ幅」の関係を見れば明らかである。
この結果は乱数を用いているために、結果は完全には一致していないが、
リミット幅:ストップ幅=損ポジ数:益ポジ数
なのだ。つまり、リミット幅>ストップ幅にすると、確かにリミットに達した場合の利益は大きくなるのだが、ストップの方が近いためにストップにかかるポジション数は多くなり、その比率(益ポジ数:損ポジ数)は、最初に設定したリミット幅とストップ幅で理屈の上では決まってしまう。
結果、
リミット幅×益ポジ数 = ストップ幅×損ポジ数
になってしまい、合計の損益、つまり、(リミット幅×益ポジ数)−(ストップ幅×損ポジ数)はゼロになってしまう。
実際には、ここにポジションごとに一律にかかるスプレッドがあるため、平均的にはマイナスになる。
先ほど見たように、数100〜1000ポジション程度の平均損益が1pip以下か、多くて2〜3pipsであれば、スプレッドが1〜3pips程度であることを考えると、「たまたまスプレッドを上回って利益になる」ことを期待するのは難しい。
なお、ここでの思考実験は、「相場が完全にランダムで、ポジションもランダムのタイミングで取る」という場合であった。
実際の相場は、完全にはランダムではない。が、ポジションの取り方がランダムであれば想定される結果は同じである。つまり、
・リミット幅とストップ幅をどのような関係にするか
を悩むよりも、
・今の相場を読んで、どのようなポジションをどのようなタイミングで取るか
を悩むほうが、平均的な結果には大きく寄与する、ということだ。
つまり、「あるポジションを取った場合に、リミット幅>ストップ幅にすることで、平均的に利益>損失となるような絶妙なタイミング」でポジションを取るスキルが、結局のところ、求められることになる。
(そのようなスキルがあれば、必ずしもリミット幅>ストップ幅である必要もないかも知れない。ただ、「含み益である期間」が「含み損である期間」より長い、というだけかも知れない)
早い話が、そのようなポジション取りのスキル無くして、リミット幅とストップ幅を悩むのは無駄であり、その場合はどのようにリミットとストップを設定しても、平均的には損益ゼロ(実際はスプレッドでマイナス)になるだけである。
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