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千のFX千夜一夜 第二十八夜 〜 テクニカル6:フィボナッチ・リトレースメント

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さて、今回はテクニカル第6回として、フィボナッチ・リトレースメントを取り扱おう。

フィボナッチ・リトレースメント」はテクニカルとして大変有名で、かつ比較的扱いやすい(計算も電卓レベルで実行可能な)テクニカルの1つである。

そのため、多くのFXの説明書でも解説されているし、ソトタメでも昨年来たびたび多くの人が触れてきたテクニカルである。

よって、ここではフィボナッチ・リトレースメントの一般的な使われ方をごく簡単に触れることにし、フィボナッチ・リトレースメントの背景について他で触れていなさそうな点も垣間見てみよう!

フィボナッチ・リトレースメント

フィボナッチ・リトレースメント(Fibonacci retracement)は、一般には単に「フィボナッチ」と呼ばれる。あるいは、さらに短く「フィボ」と呼ばれることもある。

普通、相場のテクニカル指標で「フィボナッチ」と言えば、「フィボナッチ・リトレースメント」のことを指すのだが、本説明では、きちんとフィボナッチ・リトレースメントと書くことにする。

なぜなら、フィボナッチの名を冠するテクニカル指標は他にも「フィボナッチ・アーク」「フィボナッチ・ファン」「フィボナッチ・タイムゾーン」など同種のものが多数あるからだ。

フィボナッチ・リトレースメント」もそうしたテクニカル指標の1つだが、最も簡単な扱い方が出来るので、普通「フィボナッチ」と言えばフィボナッチ・リトレースメントのことを指すのである。

リトレースメント(retracement)というのは、「引き返す、もと来た道を戻る」という意味で、「相場が、ある高値〜安値(もしくは安値〜高値)へ推移したあと、反転して“引き返した”とき、どこで止まるか?」を予測するものだ。

フィボナッチ・リトレースメントは、「38.2%」「50%」「61.8%」の3つの割合を用いる。
(この割合は、フィボナッチ・リトレースメントに限らずフィボナッチ・アークやフィボナッチ・ファンでも用いる)

この3つの数値は後で考察するとして、まずは一般的な使い方を見てみよう。

まず、チャートを遡って、適当な高値・安値ポイントを見つけ出す。
上り坂や下り坂の途中ではなく、なるべく明確な底や天井に見える点を選んだ方が良い。要は、チャートを見たとき、パッと目に付く高値・安値だ。見つけ出す時間スパンは、1時間でも1日でも1ヶ月でも良い。

ただし、現在値が、その高値と安値の間にいる必要がある。

そして、高値を100%安値を0%としたときに、その38.2%の位置、50%の位置、61.8%の位置のレートを計算する。

具体的には、選んだ高値をH、安値をLとしたときに、

61.8%の点=(H−L)×0.618+L
50%の点 =(H−L)×0.5  +L = (H+L)×0.5
38.2%の点=(H−L)×0.382+L

という値を計算する。

相場が引き返して(=リトレース)来たとき、この3つの点に差し掛かると、一旦もみ合う“可能性がある”、と考えられている。
(あくまで可能性。必ずもみ合うとは限らない)

実際には、多くの参加者が、様々な高安値からフィボナッチ・リトレースメントを計算しており、特に意識されている高安値から計算されたポイントには指値や逆指値のオーダーや成行オーダーが多く入り、一旦もみ合う、というわけだ。

例えば、安値から高値に上昇し、その後下落に引き返した(リトレース)ときに、どこで止まる可能性があるか、というと、順に、

61.8%の点 (この点は、高値からは「38.2%戻し」である)
50%の点  (この点は、高値からは「半値戻し(はんねもどし)」である)
38.2%の点 (この点は、高値からは「61.8%戻し」である)

の3点となる。

逆に、高値から安値に下落し、その後上昇に引き返した(リトレース)ときに、どこで止まる可能性があるか、というと、順に、

38.2%の点 (この点は、安値からは「38.2%戻し」である)
50%の点  (この点は、安値からは「半値戻し」である)
61.8%の点 (この点は、安値からは「61.8%戻し」である)

の3点となる。

これらのポイントでは、相場が一旦止まったり、もみ合い後に抜けたり、はたまたここで反転したりする。
つまり、サポートレジスタンスとして機能する。

特に、引き返す前の、元の動きが、トレンドとして勢いが強い場合は、引き返しが作る押し目は、浅く戻した「38.2%戻し」で再度反転する、と考えられている。

逆に、元の動きが、トレンドとして勢いが弱い場合は、「半値戻し」や「61.8%戻し」と深めに戻ってきたところで反転する、と考えられている。

(逆に言えば、そのようなポイントで反転したのを見て、トレンドの勢いが強かったか弱かったかを知る、と言った方が良いかも知れない)

時に、「全値戻し(100%戻し)」と言って、元の動きから引き返して来たとき、元の開始点まで全部戻ってきてしまうこともある。

また、普通はフィボナッチ・リトレースメントには含めないが、「倍返し」というのもある。

38.2%、50%、61.8%だけでなく、78.6%など、派生的な数値を用いる場合もあるが、あまり一般的ではない。
(38.2%、50%、61.8%ほど、相場の意識は高くない)

このようにして、計算に使った「高値」「安値」と、計算結果である「38.2%」「50%」「61.8%」の値段の合計5つの値を、1組のフィボナッチ・リトレースメントの値として扱うのである。

フィボナッチ・リトレースメントは、このように、高値と安値の間の3つの点を計算するだけだし、電卓でも計算可能なほど簡単なものであるが、実のところ使いこなすにはコツがいる。

それは、「どの高値と安値を選ぶか」だ。

何が難しいって、フィボナッチ・リトレースメントの最大のポイントはそこにある。基本的には、どの高値・安値でも構わないのだが、市場参加者の多くが意識しているであろう高値・安値ほど、効果が高い。そのような点をいかに選択するか、のスキルが大事となる。

なお、高値・安値を選んだ「時間スパン」(高値と安値の時間差)に応じて、そのフィボナッチ・リトレースメントが有効な時間スパンも変わりうる。

フィボナッチ数

さて、フィボナッチ・リトレースメントには、「フィボナッチ」という人名が入っている。フィボナッチとは一体何であろうか。

フィボナッチ(Fibonacci)、本名レオナルド・ダ・ピサ(Leonardo da Pisa)は、1200年前後を生きた中世イタリアの著名な数学者である。様々な功績を残した。

特に、「フィボナッチ数(フィボナッチ数列)」が有名である。

(ただ、彼は『算盤の書』の中で例としてこれを紹介したが、彼自身がこの数列を発見したわけではないようだから注意しよう)

フィボナッチ数とは、
●最初の2つの数を、 01 とする。
●2つ前の数と、1つ前の数を足して、次の数にする。
という条件で作り出される数(の列)のことだ。

数学っぽい記号で書けば、
●F0 =0 、  F1=1
●F(n+2)=F(n+1)+Fn  (nは0,1,2,...)
となる。

ここは文字表記に制約があるので、「n番目のフィボナッチ数」を Fn と書くことにしよう。

この計算を実行すると、

 F2=F0 +F1=0+1=1
 F3=F1 +F2=1+1=2

となり、その数を列挙すると、

 0, 1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21, 34, 55, 89, 144, 233, 377…

となる。有名なフィボナッチ数(フィボナッチ数列)である。どの数も、その前の2つの数の和であることが分かるだろう。

さて、このフィボナッチ数と、先ほど「フィボナッチ・リトレースメント」で使った38.2%・61.8%などの風変わりな数とは、一体どんな関係にあるのだろうか?

世間的な説明では、

 隣り合う2つのフィボナッチ数の比率は、徐々に 1.618…倍に近づいていく

という。この、1.618…という数は「黄金比率」と呼ばれるもので、正確には
 (1+√5)/2
で表される数だ。

この黄金比率の大変面白い性質は後で述べるとして、ここでは次の点に注意してみたい。

実は、フィボナッチ・リトレースメントは、この黄金比率しか使っていない。フィボナッチ数そのものは、一切使っていないのだ。

でも、フィボナッチ数の隣り合う2つの数の比率が黄金比率になるなら、「フィボナッチ」の名前を冠しても良いのではないか?と思えるが、ここはきちんと考えておこう。

実は、フィボナッチ数でなくても、つまり最初の数が 0 と 1 でなくても、

●2つ前の数と、1つ前の数を足して、次の数にする。
 (A(n+2)=A(n+1)+An  (nは0,1,2,...))

という決まりで作った数列 An は、どんなものでも、隣り合う数の比率は徐々に黄金比率1.618…倍に近づいていくのである。

最初の数を「0 と 1」以外にして、「2つ前の数と、1つ前の数を足して次の数を作る」という決まりで数列を作ってみよう。(やってみて欲しい)

 A0 =0、A1=2  これは、フィボナッチ数を2倍しただけ。
 A0 =1、A1=0  これは、すぐフィボナッチ数と同じになる。
 A0 =1、A1=1  これも、フィボナッチ数の2番目からと同じだ。
 A0 =1、A1=2  これも、フィボナッチ数の3番目からと同じだ。
 A0 =2、A1=0  これは、すぐフィボナッチ数の2倍と同じになる。

これらは多かれ少なかれフィボナッチ数と同等になる。

さて、

 A0 =2、A1=1  はどうだろう?

この数列を書き下してみよう。

 2, 1, 3, 4, 7, 11, 18, 29, 47, 76, 123, 199, 322, 521, 843…

となるだろう。これは、フィボナッチ数とは異なるものである。現れる数も全く違う。
(実はこれは「リュカ数」と呼ばれるものである)

ところが、この数列(リュカ数)も、隣り合う2つの数の比は、徐々に黄金比率1.618…倍に近づいていくのだ。

つまり、黄金比率1.618…倍が得られるのは、フィボナッチ数だけの特別な性質ではなく、「2つ前の数と1つ前の数を足して次の数にする」というものは、全部この比率になってしまう。

黄金比率

黄金比率 1.618… =(1+√5)/2 は、
●2つ前の数と、1つ前の数を足して、次の数にする。
で作られる全ての数列で現れ、隣り合う数の比が黄金比率になる。

この段落は数学が好きな人向け (+で展開)


数学的な考察はともかく、黄金比率 1.618… は、

二乗すると 2.618… になって、元の黄金比率に+1したものに等しい
逆数をとると 0.618… になって、元の黄金比率を−1したものに等しい

さらに、

0.618… を二乗すると、0.382… となるが、これは、1−0.618… に等しい

など、いろんな演算をしてもその中に黄金比率が出てくるという性質がある。

(数学的には、前述の段落に書いた x2−x−1=0 を式変形すれば全て導ける)

黄金比率は、いろいろなところに見ることが出来る。

五角形の一辺と対角線の長さの比は、黄金比率である。

自然界にも、植物の葉の並び方やひまわりの種の並び方に見られるとも言われる。
しかし、自然界に見られるのは確かだが、全てが黄金比率なわけではなく、オウムガイの殻に見られる螺旋の定数は黄金比率ではない

また、多くの美術作品でも意図的に黄金比率が使用されているという。

よく、「長方形が最も安定した美観を与える縦横の比率が黄金比率だ」という説があるが、これは1867年のグスタフ・フェヒナーの実験結果を論拠とするようだが、これについては1997年の国際経験美学会誌上で「フェヒナーの実験結果は永遠に葬り去るもの」と否定されている

黄金比率をフィボナッチ・リトレースメントで使うときは、
「黄金比率1.618…から1を引いたもの(もしくは、黄金比率の逆数)」
にあたる 0.618… を用いる。
(この値は、(−1+√5)/2 となる)

0.382 は、0.618 をさらに1から引いたものだ。(0.382=1−0.618)

この 0.618 と 0.382 と、半値を意味する0.5、の3つの数を使って「61.8%」「50%」「38.2%」という比率が導き出されている。

このようにフィボナッチ数以外の数列からも見出される黄金比率“しか”使っていないテクニカル指標を「フィボナッチ・リトレースメント」と呼ぶのは若干違和感があり、使っている数だけで言えば「黄金比率リトレースメント」とでも呼ぶべきところだろう。

相場の自己相似性

さて、フィボナッチ・リトレースメントに代表される、特定の比率で相場が転換しやすい傾向は、一体なぜ生じるのだろうか。

今や、黄金比率を使ったフィボナッチ・リトレースメントは、大変に支持されたテクニカル指標であるから、相場がそもそもそのような性質を持っていなかったとしても、多くの市場参加者がそれを意識してトレードする結果、その行為そのものがそのポイントでの反転を生み出してしまう。

しかし、仮にそのような意識がなくても、相場は、特定の比率で反転を起こす可能性は十分あると思われる。

以前、本シリーズの第二十四夜(ローソク足)の最後に、

ローソク足チャートは、どの時間足のものを見ても、良く似ている

と述べた、特に、5分足以上〜週足以下のものはだいたい似通っていて、明確な特徴が無ければ、適当な通貨ペアの適当な単位時間のローソク足チャートを見ても、なかなかどの時間足のものか言い当てるのは難しい。

ちょうど、長期のローソク足チャートを拡大していくと、ローソク1本の中の値動きが詳細に拡大され、その部分の値動きも、元のチャートと似通った上下動を繰り返しており、その一部分をさらに拡大すると、その部分も相似的な上下動が見えてきて、という具合に、「どの部分を拡大しても全体の縮図のように相似的」なのだ。

この性質を「自己相似」や「フラクタル」という。

これは、相場がほぼランダムウォーク(次に上下どちらに動くか分からない)で形成される結果ということと関係ありそうだ。ランダムウォークで作られた形は、多かれ少なかれ自己相似の性質を持つと言われ、一部分を拡大すると全体の縮図のように、元と相似な形が出てくる。

ローソク足チャートがそのような性質を持っていることはすぐに確かめられるから、実際の相場の動きもそうした自己相似的な性質を持っていると言えるだろう。
(この点については第三十四夜でも数学遊びとして扱ってみたい)

すると何が起こるか、というと、実は、自己相似な形は、至るところに「決まった比率」が現れるのである。

というのも、部分を拡大すると全体の縮図になる、ということは、そこに一定の比率がある、ということだが、どの部分を拡大しても自分と似た形、ということは、そのような比率は「至るところに」見出すことができる、ということだ。

フィボナッチ数列(0, 1, 1, 2, 3, 5, 8…)も、いわば自己相似な性質を持つ。数が進むと、徐々に、一定の比率(黄金比率1.618…倍)が現れるということは、どこを適当に選んでも、全体の縮図と言える。

・・・・さて、厄介なのは、特定の比率が「至るところに」現れるという点だ。

例えば、チャート上で、どこでもいいから適当な高値と安値を選び、そこからフィボナッチ・リトレースメントを計算して横線を引くと、必ずといっていいほど、どこかに(どこかは分からない)その点で反転するポイントがある。

その点は、ローソクの中に埋もれているかも知れないが、短い時間足に拡大していけば、その点で反転する場所を見つけることが出来るだろう。

逆の言い方をすれば、「どの高値・安値」を選んでも、どこかにフィボナッチ・リトレースメントの条件を満たす点が来る。

だとしたら、一体どのようにフィボナッチ・リトレースメントを使えば良いのだろう?

どのレートも、過去のどこかの適当な高値・安値のフィボナッチ・リトレースメントの計算値に合致するなら、あらゆるポイントが「反転か、突き抜けるかするポイントだ」と予測しても、それは何も予測したことにはならない

だからこそ、最初に書いたように、「フィボナッチ・リトレースメントを使う際には、どの高値・安値を準備するか」が大事なのである。

どの高値・安値を使ってフィボナッチ・リトレースメントを計算する人が多いか、というのが分かれば、そのポイントは相場のもみ合いポイントとしての意識が高まるわけであるから、結果、実際にもみ合いポイントとなる確率が高くなる。

最も使いやすい高値、安値を例として挙げるなら、
・前日1日の高値、安値 → 概ね当日1日(〜半日)に使える
・前日NY時間の高値、安値 → 概ね当日1日(〜半日)に使える
・直近6時間くらいの高値、安値 → その後の6時間くらいに使える
といった塩梅だ。

もう少し短期、あるいは長期にとって、
・ここ1〜2時間程度の高値、安値 → その後の1〜2時間くらいに使える
・ここ1〜2ヶ月程度の高値、安値 → その後の1〜2ヶ月くらいに使える
というのも意識されやすいだろう。

ここは、適切な個別のトレードポイントをレクチャーする場ではないので、詳しいポイントについては、是非自分で多くの時間足チャートを見ながら感じ取って欲しいと思う。

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