【定義】
江戸中期に日本曹洞宗が輩出した学僧で、名は伝尊。別に、滅宗・瞳眠楼・老螺蛤・老米虫などと称する。『正法眼蔵』参究の歴史に名を残す。
出身：紀伊国
生没年：正保5年（1648）〜享保20年（1735）
【内容】
紀州で生まれた天桂伝尊は、窓誉寺伝弓に就いて出家し、18歳には尾張万松寺の祖海、可睡斎?の衡天、興聖寺の龍蟠等に参じている。その後も、瑞龍寺の鉄眼に『楞厳経』、泉涌寺戒光院如周に『法華経』を、慈光寺の玄忍に戒律を学ぶなどの諸方の参学を終えたのち、駿河静居寺の五峯海音に参じて嗣法した。なお、他にも渡来僧である東皐心越や不生禅を主張していた臨済宗の盤珪永琢などにも参じたことが知られている。
天桂は壮年となって以降、65歳から志して『正法眼蔵』の参究を徹底して行い、その成果は、82歳の時に『正法眼蔵弁註並調絃?』（22巻）として大成された。しかし、内容としては、多くの議論を喚起することとなった。そもそも、この『弁註』は、江戸時代最初の『正法眼蔵』註釈書であったが、当時、宗統復古運動を終えて、正統的な宗学とされていた卍山道白及び同系統について、真っ向から向き合うことになった。その論点は、後に詳述する。
このような論争などもあって、江戸期全般を通じて、天桂及びその法系（天桂派）の参学については「天桂地獄」「地獄悟り」などとされて、異端視された。しかし、天桂は、道元禅師への追慕の念と、強い情熱を持って、『正法眼蔵』を参究し続けた優れた善知識であった。
住した寺院などだが、元禄2年（1689）には蜂須賀家の帰依を受けて、近江国の大雲寺に住し、他にも浪華の蔵鷺庵、阿波国丈六寺などにも遷り、享保6年（1721）摂津国退蔵峯（陽松庵）に退いた。享保20年12月10日に示寂、世寿88歳、法嗣は31人を数えた。
【天桂宗学について】
天桂独自の主張として、宗門から異端視されるのは、大きく２点あるとされる。
�〇緬ヾ�
『正法眼蔵』「面授」「嗣書」「授記」巻についての『弁註』では卍山系統の「面授嗣法」を退けて、「見性嗣法」とでもいうべき嗣法観を説いた。
�◆慇桔ヾ秣◆拱埆枯�
天桂は『正法眼蔵』は、永平寺５世義雲禅師編集という６０巻本（今では、これについても議論がある）に依拠すべきであるとし、さらに、自己の見解でもって、『正法眼蔵』本文に対して自由奔放に批評し、削除更改を行った。
まず、前者についてだが、確かに卍山が説いた「面授嗣法」は、道元禅師に師資が対面して嗣法しなくてはならないという主張があった（代付論はここでは置く）のは明らかである以上、その真意であったかもしれない。しかしながら、卍山がいうように、面授することに嗣法の本質があるとして、ただ形式的に伝法の儀を行うだけで、道元禅師の真意に契うのかどうかは疑問である。
特に、道元禅師のように優れた師家の下で、優れた弟子が育つことにより、師勝資強として嗣法されるのであれば、面授がそのまま嗣法にもなろう。しかしながら、時代が下り、徐々に社会の流れの中で、僧侶の質が低下しているような場合は、面授に重きを置くだけでは嗣法となるはずがなく、一応、卍山も、仏法への信と嗣法の表信である『嗣書』さえ調えば、成立するという条件は提示した。しかし、このような卍山系の嗣法観を批判したのが天桂であった。
天桂はとにかく大悟徹底して仏知見を開くことこそが嗣法であり、面授の本義を、自己の本面目を徹底して見極めることであるとして、もし、仏法を悟ることがなければ、嗣法にも面授にもならず、逆に悟れば、たとえ１人の師と相見することが無くても、面授であり嗣法であるとした。このような天桂の嗣法観は、天桂独自といいきることは出来ず、思想的先駆者であった独菴玄光（1630〜1698）の影響も考慮すべきである（独菴と、臨済宗の盤珪は交流があった）。余談だが、独菴自身は、『正法眼蔵』について何も述べていない。時代的制約などもあって、一般的な禅語録や経論などを参究したようである。
さらに、後者の『正法眼蔵』についてだが、自らの見解にそぐわない箇所は『正法眼蔵』でも誤ったものであるという主張し、提唱するときには、『正法眼蔵』の本文を直させたともされる。（中途）
【主な著作】
『弁註』以外の主な著作としては、『驢耳弾琴?』（7巻）、『海水一滴?』(5巻)、『報恩篇?』（2巻）などの著作を残し、また退蔵峯には天桂が書いたもので未だに開版されないものも残り、天桂及び天桂派の思想の全貌をつかませていないともされている。
江戸中期に日本曹洞宗が輩出した学僧で、名は伝尊。別に、滅宗・瞳眠楼・老螺蛤・老米虫などと称する。『正法眼蔵』参究の歴史に名を残す。
出身：紀伊国
生没年：正保5年（1648）〜享保20年（1735）
【内容】
紀州で生まれた天桂伝尊は、窓誉寺伝弓に就いて出家し、18歳には尾張万松寺の祖海、可睡斎?の衡天、興聖寺の龍蟠等に参じている。その後も、瑞龍寺の鉄眼に『楞厳経』、泉涌寺戒光院如周に『法華経』を、慈光寺の玄忍に戒律を学ぶなどの諸方の参学を終えたのち、駿河静居寺の五峯海音に参じて嗣法した。なお、他にも渡来僧である東皐心越や不生禅を主張していた臨済宗の盤珪永琢などにも参じたことが知られている。
天桂は壮年となって以降、65歳から志して『正法眼蔵』の参究を徹底して行い、その成果は、82歳の時に『正法眼蔵弁註並調絃?』（22巻）として大成された。しかし、内容としては、多くの議論を喚起することとなった。そもそも、この『弁註』は、江戸時代最初の『正法眼蔵』註釈書であったが、当時、宗統復古運動を終えて、正統的な宗学とされていた卍山道白及び同系統について、真っ向から向き合うことになった。その論点は、後に詳述する。
このような論争などもあって、江戸期全般を通じて、天桂及びその法系（天桂派）の参学については「天桂地獄」「地獄悟り」などとされて、異端視された。しかし、天桂は、道元禅師への追慕の念と、強い情熱を持って、『正法眼蔵』を参究し続けた優れた善知識であった。
住した寺院などだが、元禄2年（1689）には蜂須賀家の帰依を受けて、近江国の大雲寺に住し、他にも浪華の蔵鷺庵、阿波国丈六寺などにも遷り、享保6年（1721）摂津国退蔵峯（陽松庵）に退いた。享保20年12月10日に示寂、世寿88歳、法嗣は31人を数えた。
【天桂宗学について】
天桂独自の主張として、宗門から異端視されるのは、大きく２点あるとされる。
�〇緬ヾ�
『正法眼蔵』「面授」「嗣書」「授記」巻についての『弁註』では卍山系統の「面授嗣法」を退けて、「見性嗣法」とでもいうべき嗣法観を説いた。
�◆慇桔ヾ秣◆拱埆枯�
天桂は『正法眼蔵』は、永平寺５世義雲禅師編集という６０巻本（今では、これについても議論がある）に依拠すべきであるとし、さらに、自己の見解でもって、『正法眼蔵』本文に対して自由奔放に批評し、削除更改を行った。
まず、前者についてだが、確かに卍山が説いた「面授嗣法」は、道元禅師に師資が対面して嗣法しなくてはならないという主張があった（代付論はここでは置く）のは明らかである以上、その真意であったかもしれない。しかしながら、卍山がいうように、面授することに嗣法の本質があるとして、ただ形式的に伝法の儀を行うだけで、道元禅師の真意に契うのかどうかは疑問である。
特に、道元禅師のように優れた師家の下で、優れた弟子が育つことにより、師勝資強として嗣法されるのであれば、面授がそのまま嗣法にもなろう。しかしながら、時代が下り、徐々に社会の流れの中で、僧侶の質が低下しているような場合は、面授に重きを置くだけでは嗣法となるはずがなく、一応、卍山も、仏法への信と嗣法の表信である『嗣書』さえ調えば、成立するという条件は提示した。しかし、このような卍山系の嗣法観を批判したのが天桂であった。
天桂はとにかく大悟徹底して仏知見を開くことこそが嗣法であり、面授の本義を、自己の本面目を徹底して見極めることであるとして、もし、仏法を悟ることがなければ、嗣法にも面授にもならず、逆に悟れば、たとえ１人の師と相見することが無くても、面授であり嗣法であるとした。このような天桂の嗣法観は、天桂独自といいきることは出来ず、思想的先駆者であった独菴玄光（1630〜1698）の影響も考慮すべきである（独菴と、臨済宗の盤珪は交流があった）。余談だが、独菴自身は、『正法眼蔵』について何も述べていない。時代的制約などもあって、一般的な禅語録や経論などを参究したようである。
さらに、後者の『正法眼蔵』についてだが、自らの見解にそぐわない箇所は『正法眼蔵』でも誤ったものであるという主張し、提唱するときには、『正法眼蔵』の本文を直させたともされる。（中途）
【主な著作】
『弁註』以外の主な著作としては、『驢耳弾琴?』（7巻）、『海水一滴?』(5巻)、『報恩篇?』（2巻）などの著作を残し、また退蔵峯には天桂が書いたもので未だに開版されないものも残り、天桂及び天桂派の思想の全貌をつかませていないともされている。
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