第1種放射線取扱主任者が放射能とは何か、人体に対する影響は、法令はどのようになっているのか、についてわかりやすく解説します。マスコミやネット上の間違ったり、偏った情報に流されまくっている状況に憂慮しています。何か質問がある場合、掲示板を利用してください。気づいたら分かる範囲内でご解答します。

哺乳動物の体を構成している細胞は、生殖細胞と体細胞に分けることができます。生殖細胞であれ、体細胞であれ、または試験管内における培養細胞でも突然変異は誘発されます。このうち、生殖細胞の突然変異のみが遺伝的影響をもたらします。
突然変異誘発の実験は、もっぱらマウスを用いた研究で行われており、遺伝的影響のリスク推定もこれらの動物実験の結果に基づいている部分が多くなっています。

突然変異の線量率効果

ラッセルはマウスの雄にX線を照射し、その後7個の劣性遺伝子を1対ずつもつ雌にかけ合わせて雑種1代(F1)で突然変異を調べました。このような方法を特定座位法といいますが、これにより放射線誘発突然変異の実験を行いました。
精原細胞に照射した場合の突然変異率は線量に対して直線的に増加します。しかも、突然変異率は急照射と緩照射とでは異なります
高線量率のほうが低線量率よりも突然変異率は高くなります(線量率効果)。これは、突然変異に関しても回復があるためと考えられています。一方、精細胞や精子に照射した場合には線量率効果は認められません。

生殖細胞突然変異は、生殖細胞のいずれの発育段階の被ばくでも生じる可能性があります。雄の生殖腺(精巣)中の各発育段階の生殖細胞に対する突然変異誘発率を調べてみると、感受性の高いものから順に、精細胞 > 精子 ≒ 精母細胞 > 精原細胞、となっています。

突然変異の回復

これらの実験結果をラッセルは以下のように説明しました。
X線の照射から突然変異が成立するまでには前突然変異状態という中間の状態があり、この前突然変異状態には回復できる状態と回復できない状態の2種類があります。
回復できる状態については、精細胞や精子といった成熟した生殖細胞では代謝が活発でないため回復が起こりにくく精原細胞や卵母細胞のように代謝がさかんな細胞では回復が起こりやすい
このように、成熟した生殖細胞(精細胞や精子)では前突然変異状態からの回復がなく、すべて突然変異になってしまい、高い誘発率を示します。回復がないため、成熟した生殖細胞では突然変異率は線量に比例するのみで、線量率効果は見られません。
代謝の盛んな精原細胞や卵母細胞でも、一時的に多量の照射を受ける急照射では回復機能が働きにくいです。しかし緩照射では回復機能が十分に働いて、回復できる前突然変異状態の大部分が回復され、その結果として突然変異の頻度は低くなります。そこで、未成熟な生殖細胞(精原細胞や卵母細胞など)では、突然変異は線量率効果を示します。
このように遺伝的影響の発現頻度は吸収線量に比例してほぼ直線的に増加しますが、その勾配は照射した放射線の線質と線量率とで変動し、さらに性別および生殖細胞の発育段階に応じても行ってきます。

その他の実験

分割照射の効果
突然変異率は分割照射の時間線量配分に左右されます。総線量10 Gyにおける精原細胞の突然変異率については、24時間の間隔をあけて5 Gyずつ、計10 Gyを与えたときに最も高い突然変異率を示します。しかし雌では24時間の間隔をあけて照射しても、突然変異率は高くなりません。

発生段階と突然変異率
受精から照射を受けるまでの間隔によっても突然変異率が変わります。
マウスでは、受精してから7週までに照射を受けると突然変異率は高く、7週を過ぎると突然変異は見られません。

子孫への影響

突然変異のうちで、染色体変異は小線量の時はまれにしか起こらず、また大きな染色体異常は細胞死を招きます。
たとえば、染色体異常のかなりの部分は精子形成過程で排除され、精子まで至りません。したがって、将来の世代まで影響するのは主に遺伝子突然変異(点突然変異)です。
遺伝子突然変異もすべてが子孫に伝えられるわけではありません。染色体異常や遺伝子突然変異があると、受精から胚、胎児の時期を経て出生までに、分裂や分化の異常により流産となる場合が多くなります。このように突然変異には淘汰が起こるため、有害な遺伝子が集団中に増加し続けることはありません。
放射線誘発突然変異といっても、放射線に特有の突然変異が生じるのではありません。放射線被ばくによって遺伝病の疾病構造が変化するのではなく、自然に発生している遺伝病が量的に増加するのです。

倍加線量

自然突然変異と同数の誘発突然変異を生じさせるために必要な放射線量を倍加線量といいます。
倍加線量は放射線の遺伝的影響の指標となり、その値が大きいほど遺伝的影響は起こりにくいといえます。
ヒトでは倍加線量は0,5〜2.5 Gyの間と推定され、代表値として1.0 Gyが使われることがあります。

遺伝有意線量

放射線による遺伝的障害を評価する場合、重要なことは個人の生殖腺がどの程度被ばくしたかではなく、集団としての被ばくの程度です。被ばくによる遺伝的障害は生殖腺が受けた放射線の量生殖腺線量)に依存しますが、次代に伝えられるのは、被ばくした人が子供を作ったときです。
集団の年間遺伝有意線量Dg)は、ある被ばくから受ける個人の年間生殖腺線量に、被ばく後に産むと予想される子供の数(子供期待値)と集団の人数をかけ、それを年齢、被ばくの種類で合計し、その値を集団全体の子供の総数で割った値になります。

集団の遺伝有意線量は、年間遺伝有意線量(Dg)に子供をもつ平均年齢(30歳)を掛けたものです。つまり、30Dgを集団の遺伝有意線量といいます。
自然放射線からの生殖腺線量は1年間で約1 mSvとされています。その数字は体外被ばく(0.8 mSv)と、体内被ばくにおける40Kの寄与(0.18 mSv)の和として計算されています。

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