第1種放射線取扱主任者が放射能とは何か、人体に対する影響は、法令はどのようになっているのか、についてわかりやすく解説します。マスコミやネット上の間違ったり、偏った情報に流されまくっている状況に憂慮しています。何か質問がある場合、掲示板を利用してください。気づいたら分かる範囲内でご解答します。

一般に、放射線検出器からえられる係数は、測定試料中の放射性核種から放出される放射線の一部を測定しているに過ぎません。したがって、放射能を求めるためには、未知試料と放射能既知の標準試料との比較測定が行われます。一方、放射能標準試料を用いることなく、得られた計数率に幾何学的効率、散乱・吸収効率などの補正を行って放射能を決定する方法を絶対測定といいます。

比較測定

計数装置(カウンタ)
未知試料と同一核種で、放射能D0 (Bq)既知の標準試料を用いて測定を行い、得られた計数率n0 (s-1 = cps)から、検出器の計数効率e (= n0 / D0)を求めておきます。
次に、未知試料について、同一条件にて計数率n(s-1)を測定すると、放射能D (Bq = dps)は、
D = n / e
で決定できます。
比較測定により正確な放射能を求めるためには、標準試料と未知試料とで測定の条件が同一である必要があります。すなわち、
1) 標準試料と未知試料とで検出器に対する位置関係(測定ジオメトリー)、試料の形状が同じである。
2) 試料自身による放射線の吸収(自己吸収)が同じであること。とくに、α線、β線の測定の際に影響が大きい。
試料自身による放射線の自己吸収をできるだけ少なくするためには、ごく薄い測定試料を用います。

液体シンチレーション測定では、クエンチングにより試料のシンチレーション・パルス波高分布が変化し、計数効率が変わります。
このため、個々の試料について計数効率を決定し、放射能を計算します。
クエンチング補正法としては、イ)外部標準線源法、ロ)試料計数法、ハ)効率トレーサ法、ニ)内部標準線源法、などがあります。

外部標準線源法では、測定試料に外部からγ線を照射し、試料中の溶媒との相互作用でコンプトン電子を発生させます。本法ではこのコンプトン電子によるシンチレーション・パルス波高分布がクエンチングによって変移することを利用します。
すなわち、あらかじめ数本のクエンチング標準線源を用いて、コンプトン電子によるクエンチング指標と計数効率の関係(クエンチング補正曲線)を作成しておきます。次に、未知試料についてもγ線を当ててクエンチング指標を求め、クエンチング補正曲線から未知試料の計数効率を読み取ります。

測定効率
測定効率には、放射線検出器で計数されるパルスの数と測定試料の放射能の関係を表す計数効率、および、計数値と検出器に入射する放射線の数との関係を表す検出効率があります。
検出効率は検出器に固有の値ですが、計数効率はその他の種々の測定条件を考慮しています。

無限層厚
β線測定において、β線の最大飛程より測定試料が厚くなると、得られる計数率は、単位質量の放射能すなわち放射能濃度に比例します。このような試料を無限層厚の試料といいます。
この場合、無限層厚の標準試料を作成して計数管の計数効率を求めておけば、無限層厚の未知試料の計数率から放射能濃度が決定でき、さらには総放射能を計算できます。
このため、自己吸収を無視できるほど薄い測定試料を作成することが困難な場合には、無限層厚での測定が有効です。

飽和後方散乱係数
β線は、検出器の入射窓と異なる方向に放出された場合でも、後方散乱により検出器にある程度入射します。後方散乱は、測定試料の支持体の厚さおよび原子番号、検出器と測定試料までの距離等に依存します。とくに、後方散乱の割合は支持体の厚さとともに増加するが、ある厚さ以上になると一定値となります(飽和後方散乱係数)。飽和後方散乱係数は比較的容易に求められるので、飽和後方散乱をする厚さの支持体上で測定することにより、この影響を補正できます。
スペクトロメータ
γ線の測定にはNaI(Tl)シンチレーション・スペクトロメータ、HPGe半導体検出器が用いられ、得られたγ線スペクトルの全吸収ピークの計数値(全吸収ピーク面積)から次式で放射能D (Bq)を計算します。
D = N / t • ε • α
N:全吸収ピーク面積(counts)、t:測定時間(s)、ε:全吸収ピーク計数効率、α:対象γ線の放出比
Nおよびεはスペクトロメータの検出器の形状・容積、測定試料と検出器までの距離、γ線エネルギーなどに依存します。

表面障壁型半導体検出器などによるα線測定においてもピーク状スペクトルが得られ、そのピーク面積からα放射能を定量する際にも上式と同様な方法をとります。
なお、液体シンチレーション・スペクトロメータによるα線測定では実質的に4π計数が可能です。そのためα線のピーク面積は100%の計数効率を与え、ピーク面積すなわちα放射能となります。

絶対測定

絶対測定には、β−γ同時計数法、、4π計数法、2π計数法およびカロリメータ法があります。
a) β−γ同時計数法
β−γ放出核種に適用できます。いま、β線検出器およびγ線検出器を用意し、それぞれの検出器からの計数率(s-1)をnβnγとします。さらに、両方の検出器から同時に出力信号が出た場合に計数するように同時計数回路を設定し、その計数率(s-1)をnc、求める放射能をD (Bq)とすると、
nβ = D • eβ
nγ = D • eγ
nc = D • eβeγ
が成立します。ここで、β線、γ線検出器の計数効率をeβeγとします。
これらの式から計数効率を消去すると、
D = (nβnγ) / nc
となり、計数効率を知ることなく放射能を測定できます。
b) 定立体角計数法
放射性試料を検出器に対して定位置に置けば幾何学的効率を理論的に計算できます。したがって、自己吸収などの補正を行うことにより、放射能標準試料との比較を行うことなく放射能が決定できます。
c) 4π、2π計数法
放射性試料を検出器に対して比例計数管などの中心部に設定して測定を行うと、立体角4π方向に放出される放射線が効果的に測定されます。とくに、α線、β線などでは、自己吸収の補正などを行い、絶対測定ができます
また、放射性試料から立体角2π方向に放出された放射線だけを計数する方法も行われています。
d) カロリメータ法
物質に吸収された熱量を測定することにより吸収線量の絶対測定が可能であり、さらに、放射能に換算することにより放射能の絶対測定ができます。ただし、測定可能な放射能は数10 MBq以上となります。

微弱放射能測定

放射性試料を置かない場合でも、放射線検出器を作動させるとある程度の計数が得られ、また、計数率形の針が振れます。これが自然計数(バックグラウンド計数)と呼ばれるものです。
測定試料の計数率が自然計数率に比べて極めて大きい場合には、統計的に自然計数率は無視できます。しかし、測定試料の計数率が自然計数率に近いか、あるいは、それ以下の場合、有意な測定値を得るためには以下の努力が必要になります。
  1. 遮蔽などにより自然計数を下げる。
  2. 長時間測定により総計数を稼ぎ、測定精度を上げる。
  3. 速系系の動作の安定性を高める。
  4. 試料量を大きくする。
  5. 計数効率を高める。

なお、自然計数に寄与するものとして、以下の要因があります。
  1. 測定系を構成する材質中の放射性元素
  2. 環境(建屋、土壌、空気中)に存在する天然放射性元素(特に40K、U系列、Th系列)
  3. 核実験等に伴うフォールアウト(特に、137Cs、90Sr-90Y)
  4. 宇宙線(特に、μ粒子の寄与が大きい)
  5. 電子回路からの要因(ノイズ、偶発同時計数

反同時計数回路
測定試料の放射能を測定するための主検出器と、その周囲におかれた補助検出器で構成し、同時計数回路とは逆に、両検出器から同時に出力パルスが出てきた場合には、計数しないようにし、主検出器だけからの出力パルスを検出します。すると、自然計数の成分であるμ粒子には両検出器が応答するので、計数されません。したがって、主検出器の宇宙線バックグラウンドを低くできます
また、HPGe半導体検出器により微弱放射性試料を測定する場合、補助検出器としてシンチレーション検出器を用います。半導体検出器で検出されるコンプトン電子の信号とコンプトン散乱γ線による補助検出器からの信号は反同時計数回路により、除去できるので、主検出器によるコンプトン・スペクトルが抑制できます
一方、全吸収ピークに寄与するγ線は主検出器内で全絵ネルg−を失うので副検出器では検出器できません。この結果、全吸収ピークが明確になり、定性・定量が容易になります。

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