第1種放射線取扱主任者が放射能とは何か、人体に対する影響は、法令はどのようになっているのか、についてわかりやすく解説します。マスコミやネット上の間違ったり、偏った情報に流されまくっている状況に憂慮しています。何か質問がある場合、掲示板を利用してください。気づいたら分かる範囲内でご解答します。

放射線は直接、人間の五感に感じることができないので、相互作用を通して物質に起こる変化、たとえば、電離現象、発光現象、化学作用などを利用して検出します。
以下に主な放射線検出器の検出原理を示します。

放射線の検出原理と検出器との関係
検出原理放射線検出器
電離現象一次電離現象−電離箱、半導体検出器
電子なだれ現象−比例計数管、GM計数管
発光現象即発−シンチレータ、チェレンコフ検出器
蓄積誘導−熱ルミネセンス線量計、蛍光ガラス線量計、イメージングプレート
化学作用化学線量計、写真乳剤
その他固体飛跡検出器、カロリメータ、放射化検出器、霧箱、泡箱

放射線のどのような情報を必要とするかは、放射線あるいは放射性物質の使用、環境放射能(線)測定、ならびに、放射線管理測定の目的により異なりますが、一般的には次のような項目があげられます。
1) 放射線の種別(α線、β線、γ線、中性子線等)
2) 放射線のエネルギー
3) 放射線の数(放射能)および、分布
4) 照射線量、吸収線量、線量当量

放射線測定装置は、放射線検出器および検出器からの出力信号を目的に応じて処理・解析を行う電子回路・データ解析装置などから構成されています。
放射線の測定を各種実験試料等の測定と放射線管理を目的とした測定に分けた場合、要求される点が異なるので、測定に使用する測定器もその目的により使い分けられます。

電離箱

放射線が気体の中を通過すると気体分子が電離され、イオンと電子(イオン対)が生成します。このままの状態では、やがて、生成したイオンおよび電子は再結合し、元の分子に戻ります。そこで、電極を設け電圧を印加すると、生成したイオンおよび電子を両電極に集めることができ、電気信号として放射線の検出ができます。
この電気信号を電離電流として取り出す電流型電離箱と、パルスとして取り出すパルス型電離箱の二つのタイプがあります。
電流型電離箱
放射線により、電極板の間で生成したイオンおよび電子はそれぞれ、陰極および陽極に移動していきます。このため、定常的に放射線が入射すると次々にイオン対が生成するので、イオン対の生成と収集が平衡状態となり外部回路に一定の電離電流が流れます。この電流は極めて微弱(10-11 A以下)であり、振動容量電位計などにより電流を読み取ります
この型の電離箱ではイオンおよび電子の両方による誘導電流を利用するので、入射する放射線の性状が変わらなければ、イオン対の生成位置によらず、一定の電流が流れます。また、電離電流を測定することから、放射線の数を測定することより線量の測定に適しており、照射線量および吸収線量の測定に欠くことができません
電離箱の優れた特性である長時間の安定性を利用して、γ線放出核種の放射能標準化に用いられています。また、充填ガスに放射性ガスを混入できるので、モニタ等に利用されています。
その他、電離箱式サーベイメータ、ポケット線量計など利用範囲が広いです。
パルス型電離箱
電離箱の主流は電流型ですが、外部回路を変えることにより個々の放射線をパルスとして数えることができます。
パルス型電離箱は集電極に生じる電圧変化を主に電子のみによる短い時間成分でカットするか、陽イオンをも含めた電圧変化までとるかにより、速い電離箱電子敏感型電離箱)と遅い電離箱に分けられます。
なお、放射線の入射位置によるパルス波高の依存性を補償し、計数率の高い測定を可能にしたグリッド付電離箱フリッシュ電離箱)が開発されています。
この電離箱は半導体検出器には及ばないがエネルギー分解能が優れているので、環境試料中のα線放出核種の分析などに使用されています。

計数管

円筒部分を陰極とし、その中心部分に細い線を陽極として高電圧を印加すると、陽極近傍の電界が著しく強くなります。このため、電離箱の場合と異なって、放射線により生成した二次電子がさらに気体分子を電離するようになります(電子なだれによるガス増幅)。この現象を放射線の検出に用いたものが、比例計数管およびGM計数管です。
円筒陰極−中心集電極間の印加電圧と、得られる出力パルス波高との関係は、電離箱、比例計数管およびGM計数管の特徴を理解するために重要です。

再結合領域 放射線により生成したイオン対の一部は両極に移動して出力パルスを生じますが、残りは再結合により元に戻ります。したがって、電圧が高くなるとともに、再結合の割合が減少するのでパルス波高も大きくなります。
電離箱領域 放射線により生じたイオン対の大部分が再結合することなく、集電極に集められます。電圧を上げてもしばらくは電子なだれ現象は起こさないのでパルス波高は変化しません。
比例領域 集電極の近傍での強い電界のため、移動してきた二次電子が大きな運動エネルギーを得て気体分子を電離するようになります(ガス増幅)。この際、ガス増幅率は一定となるので一次イオン対の数に比例したパルス波高が得られます。また、ガス増幅が中心線の近傍だけで行われるので、パルス波高はイオン対の生成位置に依らず、放射線エネルギーに比例したパルス波高が得られます。
制限比例領域 電離過程で生じた陽イオンの作用により電荷分布が大きく変わり、ガス増幅が電界分布の変化に影響されるため、放射線エネルギーとパルス波高との比例性が失われます。
GM領域 さらに印加電圧を上げると、一次イオン対の数とは無関係にガス増幅が中心線全体に及び、きわめて多数の電子なだれが生じます。この結果、陽イオンの数が増して、ガス増幅を起こすしきい値以下に電界が下がり、電子なだれが止みます。このため、パルス波高はもはや一次イオン対の生成数に依存せず、ほぼ同じパルス波高をもつ大きな出力パルスとなります。
放電領域 放電が連続して起こり、計数管を傷めます。
比例計数管
比例領域で作動させる計数管で、一次イオン対数に比例した大きさの出力パルスが得られます。したがって、放射線の計数だけでなく、エネルギー測定も可能です。また、電離箱とは異なりガス増幅を利用しているので出力パルスも大きく、雑音との弁別も容易です。充填ガスとして、90%アルゴンと10%メタンの混合気体(PRガス)がよく使用されます。

検出部の構造として種々の型があり、充填ガスを封入して使用する密封型とガスをゆっくり流しながら使用するガスフロー型に分けられます。
後者の例としては、陰極の上下に二本の陽極を設け、薄膜上に放射性試料をのせて測定を行う4π型、あるいは2π型がよく用いられます。
この場合、測定試料自身を検出器の中に入れた状態で測定を行うので、α線、低エネルギーβ線、X線など、特に吸収効果を受けやすい放射線の測定に有効です。

比例計数管の分解時間は数μsであり、GM計数管(10-1 ms)と比べて102倍短いので、計数率の高い測定が可能です。
実用的には、α線、β線の計数測定および、低エネルギーX(γ)線のスペクトル測定に使用されています。
なお、一般に、スペクトル測定においては放射線エネルギーのすべてを検出器の中で失うことが必要であり、例えば、β線の飛程が検出器の有感体積を超えるような場合にはスペクトル測定は不可能です。
GM計数管
GM領域で計数管を作動させると、まず、放射線により直接および間接的に生じた二次電子による電子なだれが陽極の近傍でおこり、出力パルスを発生します。一方、陽イオンは質量が大きいため、ゆっくりと陽極に移動し、陰極物質との相互作用により陰極面から電子が放出されます。この電子は陽極近傍において気体分子を電離するので、ふたたび、電子なだれが起こるという過程が繰り返し生じます(多重放電)。
このため、放射線測定に使用するためには、一回の放電で止める工夫が必要になります。
この方法として、
内部消滅型−充填ガスの解離作用を利用する方法
外部消滅型−放電のたびに外部回路により電圧を下げる方法
とがあります。

内部消滅型では充填ガスとして、アルゴン等のガスに加えて、エタノールのような有機ガスまたはハロゲンガスが用いられます。
有機ガスの場合には放電のたびに解離してしまうので、計数管には総計数に基づく寿命があります。一方、ハロゲンガスを用いた計数管では放電により解離しますが、再結合により元に戻るので極めて長い寿命をもちます。なお、98%ヘリウムと2%イソブタンからなる混合ガスQガスと呼ばれ、充填ガスとして使用されます。

GM計数管では一次イオン対の数によらずほぼ同じパルス波高となるので、エネルギーに関する情報が得られません。また、後に述べるように、計数管の分解時間が長いので、計数率が大きくなると、計数の数え落としが大きくなり補正が必要になります。しかし、構造及び電子回路が簡単という利点があります。
数mg/cm2程度のマイカ(雲母)を放射線の入射窓とする円筒端窓型の構造をもつGM計数管が普及しています。ただし、この型のGM計数管では、3Hのように低エネルギーβ線放出核種の測定は不可能で、14C、35S、45Caの計数効率も極めて低いです。このため、32P、60Coなどβ線エネルギーの高い(〜0.3 MeV以上)核種が測定の対象となります。

a) プラトー特性
GM計数管の印加電圧−計数率の関係は計数管の良否を判断するために重要な特性であり、プラトー特性と呼ばれます。
印加電圧を徐々に上げると計数開始電圧において出力パルス波高が装置としてのしきい値を超え、計数が開始されます。この電圧を過ぎると急な計数の立ち上がり後、平坦なプラトーと呼ばれる領域になります。この部分では、多少の電圧変動があっても安定した計数が得られます。
電圧をさらに高くすると計数管内に連続放電が発生し、偽りの計数が急激に上昇します。計数管の故障につながるので、直ちに、電圧を下げなければなりません。
なお、計数管が劣化するにしたがって、(1) 計数開始電圧が上昇し、(2) プラトーが短くなり、(3) プラトーの傾斜が大きくなります。

b) 不感時間・分解時間・回復時間
GM計数管の出力信号をオシロスコープで観察すると下図のようなパターンが得られます。

計数管が放電すると中心の集電極周囲に陽イオンが残され、電子に比べて質量が極めて大きいので、陰極への移動がゆっくり行われます。この間、陽イオンは集電極の強い電場を打ち消すように作用して、弱めます。このため、次々に放射線が入射しても放電が起こらず出力パルスが生じません(ここまでを不感時間)。
しかし、ある程度、陽イオン(空間電荷)が陰極に移動すると集電極近傍の電界が強くなり出力パルスが生じるようになります。ただし、電場の強度が元に戻っていないので、パルス波高は低く、計数されるようなパルスに成長するまでに時間を要します(分解時間)。
さらに時間が経過して集電極近傍の電場がもとに回復すると出力パルスは元の大きさに戻ります(回復時間)。

c) 計数の数え落とし
数え落としの補正式として、分解時間をτ、得られた計数率をnとすると、真の計数率n0は次の式で求められます
n0 = n / (1-nτ)
たとえば、分解時間を0.1 msとすると、500 cpsでは数え落としが5%になります。
なお、計数率が極めて高くなると、もはやGM計数管が正常に作動せず計数の窒息をもたらします

d) 分解時間の測定
GM計数管の分解時間は二線源法により求めることができます。すなわち、放射能のほぼ等しい2個の線源を用意し、まず個々の計数率を測定します(n1n2)。つぎに両線源を一緒にして測定を行います(n12)。また、バックグラウンド計数率をnbとすると、装置の分解時間τは次式で与えられます。
τ=(n1+n2-n12-nb) / (n122-n12-n22)
中性子線測定用比例計数管
中性子は電気的に中性であり、直接的には電離・励起作用をもちません。このため、中性子と物質との衝突による反跳作用、核反応あるいは核分裂により放出される荷電粒子を検出することにより、間接的に中性子を測定します。

a) BF3比例計数管
比例計数管の充填ガスとして濃縮した10BをBF3の化学形で封入すると、低速の中性子は10Bと反応し、α粒子を放出します。このα粒子による電離作用を利用して低速中性子を測定します。
熱中性子では90%程度の検出効率が得られるものもありますが、中性子エネルギーが大きくなるにしたがって検出効率は急激に低下します。

b) ロングカウンタ
BF3比例計数管の周囲を減速材のパラフィンなどで包んだ構造をもつ計数管をロングカウンタと呼び、カウンタの一方向からの高速中性子を測定します。
この計数管は10 keV〜3 MeVの中性子エネルギーの範囲において検出効率があまり変わらず、平坦なエネルギー特性をもちます。ただし、検出効率は1%程度に過ぎません。

c) 3He比例計数管
中性子測定を目的とした比例計数管として、3Heを充填ガスとして用いた3He計数管が開発されています。3He(n,p)3H反応を利用したもので、熱中性子に対して3Heは10Beより大きな反応断面積をもつので高い検出効率が得られます。

半導体検出器

高純度の半導体結晶(不純物レベル10-6 ppm)に適当な表面処理等を行い、これに逆バイアス電圧をかけると結晶の中に空乏層と呼ばれる部分が形成されます。この状態では空乏層に電荷を運ぶキャリアが存在しないので外部回路に電流が流れません。空乏層に放射線が入射すると、結晶中の価電子帯の電子が伝導帯に移ることにより電子−正孔からなるキャリアが生じます。これらの電子および正孔は、それぞれ、陽・陰電極に向かってすばやく移動していき、その結果、回路にはキャリアの数に比例した電流が流れます。
これは、すでに述べた電離箱の充填ガスを固体で置き換えたような動作特性をもつ固体の電離箱であり、固体検出器(SSD, solid state detector)と呼ばれます。
半導体検出器は最も応答の速い放射線検出器に属します
半導体検出器は放射線を検出するために最も本質的な空乏層を形成する方法により、表面障壁型、PN接合型、リチウムドリフト型、および、高純度型に分類できます。
表面障壁型半導体検出器−Si
n型半導体(n-Si)の表面に金などを薄く蒸着して作成します。蒸着面のごく近傍に薄い空乏層(〜1 mm)が形成されるので、物質に吸収されやすいα線、重荷電粒子の測定に用いられます。
空乏層が薄いので、γ線の測定には適していません
PN接合型半導体検出器−Si
n型半導体(n-Si)の片面に反対型(p型)不純物を多量にイオン注入すると、その部分がp型半導体になります。これに、逆バイアス電圧を引火すると両半導体の接合面に薄い空乏層(〜1 mm)が形成されます。しかも、イオン注入は表面のごく近くだけに限られるので、放射線の入射窓が薄く、表面障壁型半導体検出器とよく似た特性をもちます。
したがって、測定対象となる放射線はα線、重荷電粒子です。
リチウムドリフト型半導体検出器−Si(Li)
p型半導体(p-Si)結晶の一面にリチウムを拡散させ、適当な温度と逆バイアス電圧をかけると、リチウムイオンが結晶の深くまで流動していき、厚い空乏層(〜1 cm)が形成されます。
SiはGeに比べてX線エスケープピークが顕著にならなので低エネルギーγ(X)線スペクトル分析に利用されています。また、Siは原子番号が小さく、後方散乱の影響がGeより小さいのでβ線の測定に有効です。
ただし、Si(Li)検出器は常温では漏えい電流が著しい雑音源になるので、使用時は液体窒素温度で冷却する必要があります。
高純度型半導体検出器−HPGe(またはGe(int))
極めて純度の高いGe結晶は本来的に半導体の性質を備えており、適当な加工を行うことにより放射線検出器として利用できます。
Geは原子番号が大きいのでγ線との光電効果が顕著になり、しかも有感体積の大きいものが作成できます。このため、もっぱらγ線の測定に汎用されています。

半導体検出器の最大の利点はエネルギー分解能がきわめて良いことです。
エネルギー分解は接近した2つのピーク状スペクトルの分離能力を示すもので、通常、パルスの高さの半分の位置におけるピーク幅、または、それとピーク・エネルギーとの比で表します。

シンチレーション検出器

放射線エネルギーを吸収し、そのエネルギーの一部を直ちに蛍光として放出するような物質をシンチレータといいます。
NaI(Tl)のように無機結晶を主成分とするものを無機結晶シンチレータ、キシレンのような有機溶媒を主成分とするものを液体シンチレータ、プラスチックを主成分とするものをプラスチックシンチレータといいます。蛍光の継続時間はシンチレータにより種々異なりますが、いずれも短いので計数率の高い測定が可能になります。
無機結晶シンチレータ
NaI(Tl)に代表される無機結晶シンチレータの多くは結晶中に極微量の活性化物質アクチベータ)を含んでいます。この結晶中に放射線が入射すると、NaI結晶の価電子帯の電子が伝導帯に移ることにより、電子・正孔対が生じます。この電子および正孔は大きなエネルギーを得ており、結晶中を移動してTl原子と相互作用します。
これにより、Tl原子は励起状態に移行し、基底状態に戻る際に蛍光としてエネルギーを放出します。すなわち、活性化物質による発光を検出することになります。

a) γ線測定用
γ線のエネルギー測定の主流は半導体検出器に取って代わられていますが、NaI(Tl)は容量の大きいものが作成でき、高い計数効率が得られます。このため、測定対象となるγ線放出核種が決まっている場合の測定や、各種モニタの検出器として利用されています。
NaI(Tl)シンチレータは水分を吸湿して潮解し、シンチレータとしての性能が劣化します。このため、通常、シンチレータからの光を取り出す面をgラスで被い、他の面は酸化マグネシウム反射材を介してアルミニウム・ケースに収められています

活性化物質を含まない無機結晶シンチレータとしてBGOBi4Ge3O12ビスマスジャーマネイト)が開発されています。原子番号の大きいBiが含まれているのでγ線に対する光電吸収が大きくなり。高い計数効率が得られます。潮解性もなく、機械的強度もNaI(Tl)等より優れていますが、エネルギー分解能がやや劣っています。

b) α線測定用
粉末結晶のZnS(Ag)は光の透過に不透明であるが、シンチレーション効率が高くなっています。このため、シンチレーション光が透過する程度の薄い膜状にしてα線をはじめとして重荷電粒子の測定に用いられます

c) 中性子測定用
6Liを濃縮したヨウ化リチウム結晶を用い6Li(n,α)反応による低速中性子の測定を目的とした、LiI(Eu)シンチレータが開発されています。
液体シンチレータ
キシレン、トルエンなどの溶媒にPPOなどの第一蛍光体およびbis-MSB、DM-POPOPなどの第二蛍光体を溶かしたものが液体シンチレータです。
放射線が入射すると、まず、溶媒との相互作用により、これを励起します。励起された溶媒分子は隣接する溶媒分子に、励起エネルギーを移行させます。このような過程を繰り返して、最終的に第一蛍光体分子が励起エネルギーを獲得し、このエネルギーを蛍光として放出します。
この傾向エネルギーは紫外領域に属し、蛍光を検出する光電子増倍管の波長感度特性のピーク波長とずれているので第二蛍光体を加えることにより、蛍光スペクトルを長波長側にシフトさせ、波長感度特性に合わせます。このため、第二蛍光体は波長変換体ともよばれています。
測定試料が水溶性の場合には、試料がこれらの溶媒にとけないので、さらに、界面活性剤を加え、試料を乳化させて測定を行います。このようなシンチレータを乳化シンチレータといいます。

液体シンチレーション測定では測定試料を、直接、シンチレータに分類させて測定を行うので、
1) 放射線の自己吸収、外部吸収が無視できます。
2) 放射線の4π係数が可能です。
という大きな特長があります。このため、β線エネルギーの低い純ベータ線放出核種3H、63Ni、14C、45Ca等の測定に不可欠です。

しかし、シンチレータと測定試料が混在するために、シンチレーション光の発生過程が妨害され、発生する蛍光光子数が減少します。これが、クエンチング消光)とよばれている現象で、最終的には出力パルス波高の低下をもたらします。
クエンチングには化学クエンチングと色クエンチングがあります。
化学クエンチング:放射線エネルギーが蛍光体に移行する過程で生じます。すなわち、蛍光体の発光以前の過程で起こります。
色クエンチング:試料を含むシンチレータの着色のため、シンチレータ内で発生した蛍光の一部が吸収されるために生じます。
なお、放射性試料とシンチレータとが化学反応を起こし、これに起因する光、ケミルミネセンス化学発光)が発生することがあります。このため、偽りの計数(偽計数)となって誤差の原因となります。
プラスチックシンチレータ
蛍光体をスチレンなどの溶媒に溶かし、重合させて作成します。放射線による発光の機構は液体シンチレータと同様です。
加工が容易であり、sかも大容積のものが作成できるのが利点です。ただし、容積が大きくなるにしたがって、発生した光子がシンチレータ自身により吸収されシンチレーションが減衰します。
α線、β線、γ線、中性子および重荷電粒子の測定に用いられます。
プラスチックは原子番号の小さいHとCを主成分としているため、光電効果の確率が低く、このため容積が小さい場合、ピーク状のγ線スペクトルが得られにくい

写真乳剤

放射線は通常の光と同様に写真乳剤中の臭化銀(AgBr)を活性化させ、乳剤に潜像を作ります。これを現像処理すると、活性化された銀イオンが銀粒子に還元され、さらに定着操作により、残った銀イオンが除去されて銀粒子が視覚化できます。
写真乳剤には、放射線により生じた黒化度を観察することを目的とするX線フィルムと、放射線が通過した飛跡を検出するための原子核乾板に分類できます。
X線フィルム
物質によりγ(X)線の透過度が異なることを利用して、物体内部の様子を観察する非破壊検査、生物に放射性標識化合物を投与し、その物質の生体内での挙動を調べるオートラジオグラフィなどに利用されています。
なお、写真乳剤はりγ(X)線との相互作用が小さいので、感度を上げるために
1) 蛍光剤(CaWO4 : Ag)を塗布した増感剤をフィルムに挟みます。
2) 二次電子を放出する薄膜を接触させて用います。
などの方法をとる場合があります。

個人被ばく線量の測定を目的とした個人モニタとしてフィルムバッジが最も普及しています。校正曲線を用いて、黒化度から線量を読み取るもので、0.1〜50 mSvの範囲で測定が可能です。なお、乳剤は低エネルギーγ線に対して感度が高くなります。

イメージングプレート(IP)
輝尽性蛍光体膜(IP)とレーザービームによる画像読み取り装置からなる好感度の二次元検出器です。X線フィルムと同様に、入射した放射線の二次元強度分布が測定できます。
IPは再度使用が可能であり、解像力はX線フィルムに及びませんが、感度が極めて高く(102倍)、広い測定範囲で定量性を有します。
原子核乾板
原子核乾板は荷電粒子による乳剤中の飛跡を効果的に記録するため、乳剤を厚く(〜500μm)塗布したり、ハロゲン化銀の密度を高くする工夫がされています。
看板に記録される飛跡の長さ、および現像された銀粒子の密度は入射した荷電粒子の種類、エネルギーを反映しています。

熱ルミネセンス線量計(TLD)

放射線により血漿中に生成した電子・正孔対が安定した状態で結晶中のそれぞれの捕獲中心に止まっている場合、捕獲中心の数が十分多いと、長時間の照射の効果が蓄積保存されます。
この結晶に熱を加えると、捕獲された電子および正孔は熱エネルギーを吸収して捕獲中心から解放され、結晶中を移動して、電子と正孔の再結合がおこり蛍光を発します。
熱ルミネセンス素子として、LiFのほか、Li2B4O7(Mn)、CaSO4(Tm)、CaF2(Mn)等多くの物質が開発されています。とくに、LiF、Li2B4O7(Mn)は平均原子番号が人体組織に近いので被ばく線量の測定に有効です。
また、LiFは低速中性子に高感度であることを利用して中性子の測定に用いられています。
熱ルミネセンス線量計は一度加熱して線量を読み取ると、捕獲中心にとらえられた電子および正孔をすべて再結合により解放してしまうので、アニーリング(焼きなまし)を行うことにより、素子は何度でも再使用できます。
線量計として測定範囲はおよそ0.01 mGy〜100 Gyときわめて広いので、個人被ばく線量のほか、大線量の測定にも用いられています。

固体飛跡検出器

固体に荷電粒子が入射すると、放射線損傷が生じます。これを酸またはアルカリで処理を行うと(エッチング操作)、放射線の通った飛跡が拡大され、光学顕微鏡で観察できるようになります。エッチピットと称するこの飛跡数を数えることにより、荷電粒子の入射数が得られます。
測定の対象となる放射線は、α線、中性子、重荷電粒子であり、ポリカーボネート、CR-39プラスチック、石英、雲母等の薄膜が検出器の材料として用いられます。
とくに、最近では環境中のラドンおよび娘核種から放出されるα線の測定に本邦が注目されています。

化学線量計

放射線による化学反応を利用し、物質の化学変化量と吸収線量との関係を利用して線量の測定に用いられます。フリッケ線量計およびセリウム線量計が利用されています。
化学線量計は個人被ばく線量のような低線量では検出は不可能で、102 Gy以上の高線量の測定に限定されます。

a) フリッケ線量計鉄線量計
硫酸第一鉄アンモニウムまたは硫酸第一鉄を主成分とする水溶液を用います。放射線が入射すると第一鉄イオンが第二鉄イオンに酸化され、300 nm付近に吸収スペクトルが現れます。したがって、この吸収スペクトルの強度を分光光度計を用いて測定することにより、標準物質の強度と吸収線量との校正曲線から吸収線量を読み取ります。
化学線量計において、放射線照射により生成する物質の収率を表す値としてG値があります。これは放射線エネルギー100 eVの吸収により生成される物質の分子数であり、フリッケ線量計においては、そのG値は15〜16が得られてます。ただし、G値は放射線の線種、酸素の有無、溶液の濃度等、条件により変化します。

b) セリウム線量計
硫酸セリウム水溶液も化学線量計として用いられています。これは放射線による還元反応を利用しています。

蛍光ガラス線量計

銀イオンを含むある種のガラスに放射線を照射すると、放射線エネルギーの一部が蛍光中心に蓄積されます。放射線の照射後、これをレーザ光あるいは紫外線で刺激すると銀イオンからの蛍光が観測でき、吸収線量と蛍光強度の校正曲線から線量を読み取ります。
熱ルミネセンスとは異なり、読み取り操作による蛍光中心の消滅がないので、繰り返し読み取りが可能であり、再使用もできる特徴があります。
測定範囲も0.01 mGy〜10 Gyと広く、個人被ばく線量計として使用されています。

その他の放射線検出器

チェレンコフ検出器
荷電粒子がガラス、水などの媒体中で、その媒体中における光速度( = c/n, c : 真空中での光速度、n : 媒体の屈折率)よりも速い速度をもつとき、一種の衝撃波が生じ光子(チェレンコフ光)が発生します。このように、チェレンコフ光が生じるためには、荷電粒子のエネルギーにしきい値があることを利用して、宇宙線の弁別測定など、しきい検出器として利用されています。
水(n = 1.33)を媒体とすると、電子に対するしきいエネルギー0.26 MeVとなり、これ以上のエネルギーをもつβ線放出核種は水溶液の形でチェレンコフ効果による測定が可能です。
たとえば、32P(βmax:1.71 MeV)、90Y(2.28 MeV)などが液体シンチレーション測定装置を利用して測定されます。
なお、放射性核種からのα線では1000 MeV以上でないとチェレンコフ光が発生しません
放射化検出器
多くの物質は中性子が照射されると核反応が起こり、放射能が誘導されます。誘導放射能は、物質の中性子に対する反応断面積および中性子フルエンスに依存するので、中性子照射のあと誘導された放射能を測定することにより、中性子束モニタとして利用されています。
金箔、インジウム箔、コバルト細線などが検出器として用いられており、熱中性子では(n,γ)反応、速中性子では(n,2n)、(n,p)、(n,α)反応による放射化を利用します。
物質によって核反応を起こしはじめる中性子のエネルギーが異なるので、しきいエネルギーが既知の物質を複数使用して、放射化の有無を調べ、中性子エネルギーを推定できます。
カロリメータ
物質に放射線を照射すると、そのエネルギーは熱として吸収されます。カロリメータは、吸収された熱を測定することにより物質の吸収線量を求める装置です。
また、吸収線量から高い精度で放射能に換算できるので放射能測定の標準機器として用いられます。
ただし、感度が低いため、測定可能な放射能は数十MBq以上です。
霧箱
過飽和状態の気体中に荷電粒子が入射すると、生成されたイオンが凝結するための核となり、荷電粒子の飛跡に沿ってごく小さな霧滴が生じ、光を当てると飛跡が観測できます。
気体としては空気、水素、アルゴンが、また、蒸気としては、水、エチルアルコール、メチルアルコールが用いられます。
泡箱
過熱状態の液体は極めて不安定な状態にあり、荷電粒子が入射すると、イオンが核となり、荷電粒子の飛跡に沿って泡が発生し、光を当てると観察できます。
液体としてはフレオン、キセノン、液体水素などが用いられます。
最近、この原理に基づいた、極めてコンパクトな形の気泡検出器バブルディテクタ)が開発されました。ゲル状の重合体の中で発生する気泡の数を観測し、線量に換算します。
中性子測定用とγ(X)線測定用があり、10μSv程度の検出限界が報告されています。

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