狩人の鎮魂歌

ダイナ



いつもは笑い声やジョッキを叩き付ける音で騒がしいミナガルデの酒場も一つだけまったく別の雰囲気に包まれる時がある。
「またか...。」
その男はそう呟いていた。
「そうなのよ。ここのところいろんな飛竜の色違いが確認されててね。最近依頼されたモンスターじゃないってのがよくあるのよ。」
カウンターを挟んでその男
「亜種か...。無理だと思ったら逃げればいいのにな。死んで帰るんじゃなく、生きて帰るのがハンターなんだからな。」
その男の瞳に懐かしさのような悲しさのような、そういったモノが映るのを彼女、ベッキーは気付いていた。
「そろそろ戻るんでしょ?彼女が会いたがってんじゃないの?」
「そんなんじゃな...。」
男はベッキーがニヤニヤしているのを見てそれ以上言うのを止めた。
「ベッキーさんこそ誰かいい人いないんですか?」
その言葉にベッキーの眉がピクッと動いた。
「なに言ってんのよ。私は酒場のアイドルよ。いろんな男がよってくるんだから。」
目をキラキラさせてそんなことを言っている。
(そんなこと言ってると行き遅れるのに...。)
とそんなことを考えていると......
「なんか言った?」
爽やかな笑顔で聞いてきた。
(こ、怖ぇ〜。なんか後ろからオーラが...。)
「ふぅ。さっさと帰ってあげなさいよ。それに新人任されてるんでしょ?」
そうなのだ。それが面倒くさくて帰らなかったのだが、

いいかげん帰って来なかったらコロス

といった手紙が来て、すぐ帰ろうと思ったのが昨日の晩。
古龍を討伐して、街に来て有名になったのはいいが危険なクエストをするたびに帰って来い手紙がくるのも飽き飽きしていた頃だった。
「これから帰りますよ。そうだ、あいつベッキーさんのファンなんで遊びに来てくださいよ。」
「そうね。マスターに聞いて行ってみるわ。白い稲妻のお誘いだからね。」
「待ってますよ。それじゃあまた。」
そういって白い稲妻と呼ばれる男は竜車に乗り込んで自分の帰るべき場所に戻っていった......。


「飛竜を狩りに行かせてくれ!!」
「飛竜を狩りに行きたい!!」
2人分の大声に押されながらもアヤはわかったとは言わなかった。
「何度言ったらわかるの。あなた達を指導するハンターが来るまではダメって言ってるでしょう?」
やわらかな子供に言い聞かせるような(実際にそうだが)やさしそうな声でアヤは2人に言った。こめかみに血管を浮かせながら。
「そのソイツが来ないから俺たちだけで行こうとしてるんだろ!!」
そう言った男、いや少年の名前はタツヤはカウンターを殴りつけた。
年は十代半ばで髪は黒く、肌も日に焼けているのか赤黒かった。ハンターであった東方系の父とミナガルデ系の母のハーフで、父の血を濃く受け継いでいた。
ハンターシリーズで身を固め、背中には大剣バスターソードを背負っていた。
「そうよ。それにドスランポスまでは簡単だったんだから。飛竜だってチョチョイノチョイよ。」
そう言った女、もとい少女はエルという。
年はタツヤよりも少し上だろうか、少女と女性の間くらいの雰囲気をかもし出していた。装備は頭以外はチェーンシリーズで固め、背中にはショットボウガン・蒼を背負っていた。元々はシスター見習いだったらしいのだが、性格があわないということで止めたらしい。それでもしないと気持ち悪いということで朝と夜のミサはかかさない。そのミサの時間だけはエルが綺麗で神秘的に見え、ドキドキしてしまうのがなぜなのかタツヤにはよくわからなかった。

タツヤが接近戦でエルがそれを支援する。そういう戦い方で2人は今まで勝ってきたのだった。
「仕方ないわねー。じゃあ飛竜の討伐じゃなくて確認、調査ね。対象はイァンクック一頭っていうことになってるから。それでいいわね?」
「「はーい。」」

「で、どうする?おとなしく調査する?」
「そんなこと決まってんだろ。」
そんな話をしながらタツヤとエルは装備の確認や準備をしていた。
「やっぱりそうだよね〜。2人でも飛竜を倒せるっての教えましょうか。」
「飛竜を狩れたらアヤさん見直してくれるかなぁ。」
そんなことを言いながらタツヤは妄想の世界に入っている。
「はいはい。タツヤはアヤさんLoveだもんね〜。でもアヤさんがしてるネックレスって恋人からのじゃないの。すっごい高そうだったもん。」
「このあいだ聞いたけど馬鹿なやつから仕方なくもらった、て言ってたんだ。だから恋人じゃない。大丈夫!!」
「...あんたってやっぱガキだわ。」
「うっさいなぁ!!エルだってこの村出身の有名なやつのおっかけなんだろ!!」
そういうとエルは顔を赤らめて、
「だって〜白い稲妻って名前からしてかっこい〜じゃな〜い。赤鳥の翼なんかもすごいけどやっぱり白い稲妻がかっこい〜。だって一人で古龍倒しちゃうしそれに.......」
(やっべ、長くなる...。)
30分ぐらいたってやっと落ち着いてきたのを見計らって、
「そろそろ行こうぜ!!」
「そうね。こんなもんでいいかしら。」
いろいろ用意した荷物を竜車に乗せ、2人も竜車に乗った。

「ふぁ〜やっと見えてきた。ん、2人組のハンターか。男と女、大剣とガンナーか。新人だな。肉でも取りにいくのかな。」

「あ、竜車だ。」
「商人でも乗ってんじゃね〜の?ここも以前よりは大分大きくなったらし〜しな。」

1つはジャンボ村に、もう1つは密林に。


__此処に安息を、此処に静寂を。
___此処に沈黙を、此処に永遠を。
____安らかなる永遠を。


「さて、と...。」
タツヤは地図を広げて、場所を確認していた。
「イァンクックの巣はエリア6だったよな?」
ボウガンの動作を確認していたエルに問いを投げつける。
「多分そうだと思うんだけど...。」
「じゃあ1,2,5の順に進んでそれでもいなかったら洞窟の中に入ってみよう。」
そう言いながら地図をたたみ、携帯食料を頬張りながら2人はベースキャンプを後にした。

クココココココココココ
(いたぞ。)
エリア5でイァンクックを発見したタツヤとエルはお互いの役割を確認してイァンクックに向けて走り出した。
バスターソードを使うタツヤが前衛、ショットボウガン・蒼を使うエルはタツヤの支援、あるいはランポスなどの小型モンスターの駆除という役割で今まで狩りを行ってきた。
ドゥゥゥゥ
エルがイァンクックの後ろからペイント弾を撃つと、イァンクックはそれに反応してエルに向けて走り出した。
「ウオオオオオオオオオォォォォ!!」
イァンクックが目の前を通りすぎるのと同時に、タツヤはイァンクックの後ろから武器出し攻撃をイァンクックの右翼に繰り出した。
飛竜の体の中で比較的もろく作られていた翼膜を引き裂きながらタツヤはバスターソードを振り抜いた。
グゲコココココココ
イァンクックが怒りに身を任せ尾でタツヤを殴ろうと体を大きく回す。
グシュ..ガァーーーン
そこにエルが徹甲榴弾Lv1をイァンクックの頭に打ち込む。
グガーーー
頭に着弾した徹甲榴弾Lv1はイァンクックの頭を傷つけ、耳を破壊した。
あまりの衝撃と音によりイァンクックは地面に倒れ、暴れていた。
「コイツで......終わりだ!!!」
タツヤが力を溜めたバスターソードをイァンクックの頭に振り下ろした。

「意外と簡単だったな。」
「そーね。まあ今回はペイントと徹甲榴弾だけだったしね。」
「それじゃさっさと剥ぎと......」
「だ〜め。」
「ちぇっ、やっぱアレすんのか。さっさとしてくれよ。」
「はいはい。
   __この御霊に安息を。
    __この御霊に救いを与えたまえ。
     __この者の肉をこれからの魂のために。
      __すべての安息のために、生きていくことをお許し下さい。」
瞳をつぶり、無き魂に祈りを捧げるエルはどこか神秘的で、どこか不思議だった。
「はいっ、終わり!!さ〜剥ぎ取るわよ〜。」
「お、おう。」

剥ぎ取りを終え、剥ぎ取りナイフに着いた血を拭き取る2人。
それをエリア6に続く洞窟の中から見つめる2つの瞳があった......。


「さて、と。そろそろ帰るか。」
一通りイァンクックの剥ぎ取りをすませ、2人はベースキャンプに帰ろうとしていた。

__ユルサナイ...
__ワタシノタイセツナモノガ...
__コイツラハ...
__ゼッタイニユルサナイ!!

クコココココココココココ

「な、なに!?なんなの?」
「わからない!!だけどなんかの殺気がヒシヒシと感じられる!!」
「も、もう終わったんだから帰ろぅょ。」
「あ、ああ。そうだ......。」

クカカカカカカカカカカカカカ

「エル、危ない!!」
「え?」
ドッ、ズザザザザザァ
ズザザザザザザザァ
エルとソレが同じ方向にとんでいく。
タツヤはエルを助けるためにエルとソレのほうに向かっていく。
そして土煙の中から出てきたソレを見て、タツヤは息を呑んだ。
「ぁ、青いイァンクック、だと...。」
エルを見つけ、タツヤはエルのそばに駆け寄る。
「ぅ、タ、ツヤ?あたし、どうし、たの?」
「喋るな!!これ飲めるか?」
「ぅ、ぅん...。」
応急薬をエルに渡し、タツヤは青いイァンクックに身体を向けた。
「オマエはそれを飲んで帰れ!!あいつは俺が止める!!」
そう言ってタツヤはバスターソードを構え走り出した。
「うおおおおおお。」
エルをやられたという怒りに身を任せながら、タツヤは青イァンクックに攻撃を繰り出す。
しかし頭に血が上っているためかイァンクックの体の中でも比較的堅い甲殻のある部分しか攻撃をしてなかったため、次々とバスターソードが欠けていく。
(くそっ、全然効いてねえ。)
そのとき、青イァンクックが体を大きく回し始めた。
気づいた時にはよけることはできなく、バスターソードでガードしようとしたときだった。
ゴッ、メキメキメキ、バッキィィィィ。
「グガハッ。」
なんで?ガードしたのに...。)
十数メートル吹き飛んだタツヤの手には今はもう半分に折れているバスターソードが握られていた。
(そうか、だからか...。)
自分の手にあるものを確認して、そこでタツヤの意識は途切れた。
「タツヤ?タツヤーー!!」
応急薬を飲んである程度回復したエルがタツヤに向かって叫ぶ。
その声に反応したのか青イァンクックはエルの方に向き直る。
すでに動かないモノよりも先に動ける方を殺し、動かない方を食すことを選んだのだった。
少しずつエルに歩み寄っていく青イァンクック。青イァンクックが何を考えて何をしようとしているのかエルがわかっても彼女には何も出来ない。
応急薬で回復しようとも足の骨折までは直せなかった。
「ィ、ィヤッ。こっちに来ないでよぉ...。」
足には力が入らず、腕の力だけで後ろ後ろと逃げていく。
「ぁ、...ゃだ...、死にたく、ないょぉ。」
それでも青イァンクックからは逃げ切ることは出来ず、エルは壁際まで追いつめられてしまった。
「ぃ、ぃゃょ。まだ、死にた、くない。」
エルの顔に絶望が広がっていく。
「ぐ、エ、ル。にげ、ろ...。」
タツヤの願いもむなしく、青イァンクックはエルの目の前までに迫った。
「ぁ、ぃ、ぁぁぁぁ...。」
恐怖なのだろう。エルの出す声はもう声になっていなかった。
クカカカカカカ
青イァンクックが勝利の雄叫びをあげ、エルに襲いかかろうとしていた。
「ぁ、ぃゃ。ぃやぁ....ぃゃ。」
エルの瞳からは涙が流れ出ていた。といってもエル自体は気づいて無く、恐怖のあまりに涙腺がゆるんでいるのだった。
「エ、ル。グッ。...逃げろぉぉぉぉぉぉぉ。」
「イヤッ、イヤァァァァァァァァァ。」
クカカカカカカカカカ

......ザシュッ......

「ギリギリセーフ、ってところか?」
「「えっ?」」
その声に瞳を閉じていたエルはおそるおそる瞳を開け、青イァンクックとエルを見ていたタツヤは我が目を疑った。
エルの目の前には、甲殻を切り裂かれ翼膜一枚でつながる左翼を持った青イァンクックと、振り下ろした太刀を持つ白いハンターがいた。
「あ、あなたは?」
「話は後だ。少しそこで待ってろ。」
そう言うとその白いハンターは太刀を背負い、エルから離れるように走っていく。青イァンクックは自分の翼を切り裂いた原因をその白い生き物だと認識しその息の根を止めるべく攻撃を仕掛けていく。
それをよけながらも、一太刀一太刀浴びせていく白いハンター。

「す、すごい...。」
自然に口から漏れていた。
自分たちも強いと思っていた。しかしそれを根底から覆すような実力の差。その差にエルはなぜかしら恐怖を感じていた。
洗練された力。見ていて美しいとも思えた。舞っているようなそんな戦い方。しかしその裏には何か黒い力がある、そんな気がしていたのだった。

「...次で終わりだ。」
青イァンクックは白いハンターめがけて突進をしていた。しかし白いハンターはよけることもなく太刀を構え、振り下ろすと同時に土煙があたりにまった。

「な、そんなことが...。」
「あ、ありえない...。」
土煙の中からは太刀を背中に背負った白いハンターと、真っ二つにされた青イァンクックの死体があった。
青イァンクックの突進のエネルギーと振り下ろす太刀のエネルギーによる「斬鉄」と呼ばれる動作により斬ったのだ、と白いハンターは言った。

「さてと。」
モドリ玉を使いベースキャンプに戻ってから白いハンターは口を開いた。
「遅くなって悪かったな。俺がお前らの指導をすることになってたんだが、村に帰ったらお前らがクエストに行ったから様子を見てこい、ってアヤに言われてな。んで来てみたら死にそうだったから助けたというわけだ。」
白いハンターの説明が終わっても2人は口を開かなかった。地面をただ見つめていた。
(無理もねえか、死にそうになったんだしな。)
新米のハンターにはよくあることだった。死にそうな目にあった、仲間が死んだ、村が壊滅したなど理由は様々だった。しかしこれを乗り越えられないとハンターとしては生き残ってはいけないのも事実だった。
「ふ〜、そいや自己紹介がまだだったな。俺の名前はカイト。ちょっと前まではジャンボ村で狩りをしていたんだ。今は街を中心に狩りをしている。街では白い稲妻って呼ばれてるんだけど知らねえか?」
ピクッ
先に「白い稲妻」という単語に反応したのはエルだった。
「白い、稲妻?白い稲妻白い稲妻白い稲妻......ええぇぇぇぇぇ!!!あの白い稲妻なんですか!?」
エルの大声にカイトとタツヤは顔をしかめ、耳をふさいでいた。
「うっせえよエル。」
「だってタツヤ、あの白い稲妻が目の前にいるんだよ。それにそれに...。」
「あーはいはい。わかったわかった。それじゃ白い稲妻さん、こっちも自己紹介するよ。」
「え〜と、その白い稲妻っていうのもう止めてもらえるかな?カイトでいいからさ。」
「んじゃカイトさん。俺がタツヤ。年は16。一応大剣使い。以上。」
「え〜と私がエルです。年はタツヤより2つ上の18でガンナーです。」
「タツヤにエルだね。じゃあこれからよろしく。」
「よろしくおねがいしま〜す。」
「......お願いします。」
エルはカイトが指導してくれるということで喜んでいるのだがタツヤはなぜかムスッとしていた。
「じゃあそろそろ迎えの竜車が来ると思うから帰る前に水でも浴びてきなよ。」
「は〜い、わかりました。タツヤも一緒に入る?」
「ば、ばかやろう!!入るわけねえだろっ!?オマエなんかとよりもアヤさんとはいりてえよっ!!」
「ふ〜〜んだっ。あんたなんかこっちから願い下げよ!!カイトさん入ります?」
「いや、いいよ。入っておいで。」
「ちっ。わかりました〜。一人で入ってきます〜だ。」
ぶつくさ言いながらエルは水場のほうに歩いていく。
「さて、タツヤ。」
「なんすか?」
「きみ、エルのこと好きだろう?」
「ぶっ、な、な、あ、なん...。」
「だてにきみよりは長く生きてないよ。」
フフンと言った擬音語が似合いそうな仕草をしながらカイトは自信満々に言った。
「う〜〜〜〜、...はぁ〜。エルには内緒っすよ。」
「わかってるって。それよりなタツヤ。」
急にカイトは真剣な顔になり、その鋭い視線にタツヤは背筋に恐怖を感じた。
「自分の大切なものを守るために死のうと思ったらいけないぜ。ソイツを守っても自分が死んじまったら守れたとは言えない。必ずみんなで生き残る、そいつがこの世界と共に生きていく秘訣だ。」
ニッと笑いながらそう言うカイトの言葉にはどこか現実味があり、それが真実だと思わせる匂いがあった。
「...はい。俺頑張ります。アイツも俺も生きていけるように。」
そう言うタツヤの瞳には希望と覚悟が生まれていた。
「あ〜、気持ちよかった。な〜に2人して笑って。何話してたの?」
「「男と男の話さ。」」
共に笑い合う仲間ができ、守るモノが増え、新たな道を進むことになったカイト。
カイトに教えられ守るための力をつける決心をしたタツヤ。
カイトに憧れ、タツヤと共に高みを目指そうとするエル。
この3人が新たに伝説を作るのはまだまだ先のお話。

__いかなる苦労があろうとも
__この魂の行く先に
__安息があることをただ願う
__この世の一部であるために
__我がただ生きていくことを
__お許しください
2006年08月05日(土) 22:22:36 Modified by funnybunny




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