ハンターサポーター 第四部

作者:そけ



起きているのか寝ているのか…ベットの上でモゾモゾとしていた。
僕は起きるでも無く、寝るでもなく、温かい温暖期の風に抱かれてまどろんでいた。
「ん〜動きたくないな…休みだし…このまま寝ようか…」うだうだと独り言を言ってみる。
誰に言うではなく自分に言い聞かせるように2回目の眠りにつこうとした、その時だった。
ドンドンドンドン!!
とドアを叩く人為的な轟音によって僕の2回目の眠りは何処かに飛んでいってしまった。
ベットに腰をかけるが、寝起きでなかなか力の入らない重くなったお尻を持上げるのに手間取っている。しかし、その大きな音は無気力と戦う僕を無視して鳴り続けている。
僕は頭をかきむしりながら音のするドアにブツブツと独り言を言いながら向かう。
「ったく誰だよ〜眠りを妨げる奴は…ただでは済まさん…」僕は音を起てている犯人と対峙すべくドアを開けて犯人の顔をジッと見ようとした。
だが見ようとした僕の意思は案外と簡単に消えて行く事になったようだった。
「おう、帰って来たぞ。職場に行ってみたら今日は休みだって聞いて…・・・バタン・・・事情を説明する轟音を起てていた犯人を目の前に静かにドアを閉める。
そしてベットの上に再度座ろうとすると音を起てていた犯人は大声で
「閉めるんじゃねぇよ!このハゲ!」と勢い良く、大きな声と共に、轟音の犯人は部屋に入って来た。
「うるせぇ!こっちは寝てたんだよ!起こすな!そしてハゲてねぇ!」僕も大声で返す。
「この俺様の親切心を蹴るとは良い度胸じゃねぇか!おぉ?!」と上から物を言うコイツ。
このコイツ事、僕の眠りを妨げた轟音の犯人の名前は(ジグス)。僕の職場の後輩だ。年も4歳も年下だが口は大いに悪く、年功序列なんて言葉はコイツには無い。
職場でも大いに問題児で、数々問題を起こしている。ハンターと殴り合いの喧嘩をしたり、他のランドの先物隊ともめたり。だがセインが舵を握っているのか、そのエネルギーを仕事に向けさせている。
それでも問題を起こしているのだから、その舵の切り方は上手には行ってないんだろうが…昔はこのリベラル区で名の通ったチンピラだったそうだ。
だが誰がどうしたか、どう言う風の吹き回しかジグスは先物隊に入隊した。
入隊した当時も悪態をついては今にも噛み付きそうな目付きであちこちを睨んでいた。
今でも目付きの悪さは治らない様子で、今の今は僕にその噛み付きそうな目線を送っている。
僕はその視線に負けず「んで?人を叩き起こすに十分な理由はあるんだろうな?」と目線に合わせて言う。
「ん!土産だ!」と無愛想に横を向いたままジグスは僕に何か入った袋を押し付けた。
ジグスは温暖期の間に自分の両親が住んでいる雪山のふもとの村に1週間帰郷していたのだ。
「おう、ありがとう…な。しかし、お前に気を使われると逆に怖いな…」僕は力みを解き、笑みながら言うと
「う…お、お、お前だけ土産無しだと可愛そうだからな!」と少し照れたのか顔を隠しながらジグスは言う。
「んで?この土産の中身は何?」
「俺の村の特産物でポポノタンの燻製だ!ありがたく思え」そう聞くと正直に美味しそうだと思った。
寝起きだった僕は思ってる以上に空腹だったようだ。
「ふん!じゃ俺は帰るぞ。旅の片付けもあるし、お前のヨダレ垂れた顔は見たくないしな」そうジグスは言い放ち僕の部屋のドアをさっき登場した時の様に勢い良く閉めて出て行った。
空腹と美味しそうと言う想像のためにヨダレが出ている事に気付かなかった。
僕は時間差で恥をかいたようだ。
その空腹を満たすために食事を摂る事にした。
ジグスにもらったポポノタンの燻製をさっそく使ってみようと思い、袋から出した。それを薄くスライスして頑固パンに乗せてレアオニオンも薄くスライスして乗せる。
それに塩を少し降り頑固パンを上に乗せて、頑固パンでレアオニオンと燻製をはさんだ。
ポポノタンは燻製になっていてもジューシーで美味しかった。
ジグスに初めて感謝した瞬間かも知れない。
食べ終えた頃になっても、まだ日は高く、真昼間と言うにぴったりな時間なのだろう。ジグスのおかげで僕は美味しい物も食べれ時間を有効に使えそうな1日になりそうだった。
僕は温暖期で蒸れた部屋に閉じこもるのも嫌だったので外に出かける事にした。
外に出ると今日も市場が開けている。ここは町人でガヤガヤといつも人が多い。そのガヤガヤを聞くでもなく聞いている僕の中で何かが頭の中をよぎった。
「こないだの古龍襲撃から、どのぐらい経ったのだろう?」ご自慢の独り言にも出てしまった。
それほどに、それが頭の中をよぎり、今では頭の中でグルグルと回っている。昔からドンドルマと言う街は何回も何回も古龍と言われる謎多き生物から襲撃され壊滅状態にされ何回も何回も建て直し、力強く復興して来た。
その度にこんなに活気ある街に戻ってくる。
それは町民もギルドもハンターも無く、この街を立て直すと言う一致団結した気持ち。その気持ちが街を支え、栄え、抱えているのだと思う。
だが古龍の襲撃は定期的に起こる。
最近の古龍研究学者達はハンターの大型モンスターの狩猟数が関係あるとか、月の満ち欠けが関係あるとか、なんだかヤヤコシイ話をしては日夜研究し、襲撃時期も大体で予測出来る様になってきた。
その古龍研究所の一端の「古龍観測所」ここに行けば古龍に関する事を色々教えてくれる。どの地方にどんな古龍が出現したかや、古龍が街に来る確率まで教えてくれるのだ。
主にハンターが利用する施設であり、町人には関係深く無い施設なのだがギルド関係者はごく稀に利用する。
「久しぶりに観測所でも行くかな…」僕はやはりポツりと呟いて、足の進みを古龍観測所に向ける。
古龍観測所は街門にある。街門には、街に入る前のハンターや町人や旅の商人が居る。
街門は少し離れた場所で居住区に囲まれた長い長い階段を町人とすれ違いながら降りて行くと門番のガーディアンが立っていた。
そのガーディアンに一礼をして通してもらう。
街門はガランとしていた。
掲示板の前で1人ハンターが立っていた。
この掲示板はハンターが同志を見つけたり仲間と落ち合ったりするのに使うらしい。
何か見つけたハンターはガーディアンの横を通って街に入って行った。
これから狩りに行くのだろうか?僕はそのハンターを横目に古龍観測所へたどり着いた。
「こんにちは!」僕が元気良く挨拶すると竜人族のお姉さんは意外そうな顔で「あら、こんにちは♪」と言ってくれた。
「えっと、確か先物隊の子よね?」
僕は少し嬉しくなって
「はい!覚えててくれたんですか?」
と言うと
「当たり前でしょ?ハンター以外でここを利用する人は少ないからね」と少し笑いながら言っている。
観測所の人は竜人族と呼ばれる種族の人が主に切り盛りしている。
彼らは寿命が人間より遥かに長く、知識も多く、長い間、古龍や飛龍に携ってきた種族なのだ。そして観測所にはキレイなお姉さんと…
「にゃむ!古龍の研究か?!若いのに大したもんじゃ!かぁっかっ!」
お爺さんが居てるのだ…
「こんにちは!今日は古龍の襲撃の確率を伺いに来たので…」僕が分が悪そうに言うと
「にゃむ、いつでも勉強がしたければ来るのじゃぞ?いいな?」と満足そうな顔で爺さんは言った。
僕もまだ今の仕事が慣れない時にセインにこの場所を紹介されて来てみたのだが、この爺さんに「古龍について知りたいか?」と聞かれ「はい」と言ったばっかりに地獄を見た。
約10時間ほど立ちっ放しで古龍について話を聞かされた事がある。しかも難しい話ばかりで半分以下も理解できていない救えない状況だった。
嫌な思い出を思い出したせいか僕の顔が固まってたらしく竜人族のお姉さんが心配して「襲撃の確率…聞かなくていいの?」と顔を覗き込んで聞いてくれている。
僕は「お、教えてください!」と急に声を出したせいか裏声になっていた。
お姉さんはクスクス笑いながら地図を広げて僕に説明をしてくれた。
「えっと、風翔龍は雪山で目撃されて…次が密林…ん〜どうかしら…」僕には判らない事を僕より大きな独り言で話している。
「そうね繁殖期の砂漠での目撃例が最後で、そこからの情報は温暖期で砂漠に入れないから…」
少し悩みながら話は続いていた
「ん〜…まだそんなに心配はいらないでしょう♪」お姉さんの笑顔に少し安心のため息が出た。
しかし、横から爺さんが低い声で何か言い出した。
「にゃむ!もう案外近くに来てるやも知らんぞ?安心はせぬ事じゃ!」と僕の安堵を消してくれた。
「そうね〜今は大丈夫だけど…近々は周期的にもありそうね…気はつけてましょう♪」
なんだか話が進むに連れて来る確率が上がって行ってる気がしたので僕はまたさっきとは正反対の気分でため息をついてしまった。
すると爺さんが続ける。
「にゃむ…次に風翔龍の襲撃があれば錆びておるだろう…大変危険じゃ」
その言葉に疑問が出て来た。
「錆び…?」爺さんに聞き直すと
「にゃむ?!こないだ話した事を忘れておるのか?!」と、凄い見幕になりそうで、また立たされて話聞かされそうで…
「いいえ、何も」と急いで返事するしか無かった。
「えっと…あ、砦の襲撃の方の確率は?」空気を変えようとお姉さんに聞いてみる。
「砦は今襲撃中よ♪小型の老山龍が来てるわね…小型って言っても大きさはあまり変わらないけど♪」
「…え?」僕は少し固まってしまった。
たった今襲撃中?しかも砦なら、そんなに遠くない。
「襲撃中よ、しゅ・う・げ・き・ちゅう♪」
僕は慌てて「ど、ど、ど、どう言う事ですか?!」と聞くとお姉さんは落ち着いた顔で
「ん〜とね、一人で迎撃してるハンターが居てるのよ」と涼しい顔で答えている。
「え、ラオシャオロンってあの山みたいにデカイあの古龍ですよね?」
僕が聞いても「そうよ♪」そう答えてくれるだけで、僕の頭の中はゴチャっとなっていた。
あんなに大きい古龍…いくら小型とは言え砦に入って来るほどの大きさの古龍を一人で?
僕があまりにも困惑した様子でオドオドと落ち着かなくなったのを見てお姉さんは続けてくれた。
「ジャンボ村って言う村があってね、そこに凄い腕利きのハンターさんが居るのよ。古龍を一人で何十匹と狩っててね、そのジャンボ村に私達の仲間で武器を製造してるお爺さんが居るんだけども、その人が時々村に行くのよ。そこで、そのハンターさんに小型の老山龍を一人で狩らすようにってね、お爺さんが言うのよ〜」
僕は無理やり頭の中で整理をさせた。
「つまり、武器職人の竜人族の爺さんの口利きで、その凄腕ハンターさんがラオシャオロンを狩りに来てる。って事ですか?」
「そう正解♪まぁ襲撃があって小型の時だけね♪もう何回も来てるけどクエストは完璧よ♪」僕は興味を持った。
「そのハンターの名前は?」
ワクワクして思わず聞いてしまった。
少し子供に返ってしまったのか?!だって一人であんなに大きな古龍に何回も挑みひれ伏させて来たって純粋に凄いと思い…また自分の届けた支給品で活躍してくれてるともなれば、凄く嬉しいからである。
竜人族のお姉さんの口が開く。
「実は名前は知らないのよ…男か女かさえも判らないわ。肌が白いのか黒いのかさえね」
僕は口が閉まらなくなりそうだった。
「え?ほんとですか?」
「本当よ♪」
「重要機密で言えないとか?」
「本当に知らないの♪」
「まさかぁ〜」
「本当よ♪」
どうやら本当に知らないらしい…僕が少ししょげていると、お姉さんが見かねて
「名前は知らないけど通り名は“ジャンボ村の英雄”とか“村長候補”とか言われてるわよ♪」
精一杯の情報なんだろう
「ありがとう…あ、また来ます!」
僕は少し残念な気分でまた家に帰ろうとした。
「またね〜襲撃には気をつけてね〜」と遠くなってから手を振ってくれた。
その横では爺さんが「にゃむ!」とうなずいていた。
僕は二人に手を振って街中に戻ろうとした。すると街門の方で
「…坊主って言うな!俺は17歳だぞ!」
と大きな声が聞こえた。
パッと振り向くと、足元にプーギーを連れた、いかにもハンターらしい若者が商人に怒っていた。見た目はなかなか腕が立ちそうなハンターだと見て取れた。だが商人とハンターの喧嘩では無さそうな、不思議な雰囲気が周囲を取り囲んでいる。
何があったのかと近付いてみると町人の皆がコソコソと笑っている。
小耳をはさんでみると、街門を街と勘違いした新人ハンターを旅の商人が若者をからかっているようだった。
僕も最初に街に入ったときはこの街門の所で戸惑って、立ち尽くしてたのを覚えている。その時は町人にギルドは何処かと恥ずかしさを隠し多少笑われながらも聞いたのを思い出した。
なんだか昔の僕と少しだぶって見えた。だが今は周りの町人が笑いをこらえるのに必死だった。
ブタ煎餅を騙されて買わされたのを見て、皆は必死で笑いをこらえている。
もう本人には聞えているかも知れない。
「そろそろ助け舟を出してあげようかな?」
そう思っていると、その若手ハンターは街の中に駆け足で入って行った。
その後は必死に我慢していた町人の笑い声が爆発したかのように皆、声を出して笑っている。が、僕は昔の僕を笑うようで、笑えなかった。
そして、もう少し早めに助けてあげてればなと少し思ったが助ければ恥をかかずに済んだかも知れない。けど何事も経験。色々学んで大きくなるのだろう。彼にも大きな存在になって欲しい。色々困難の道を走り抜けて欲しい。
街門は静けさを取り戻し、僕も自分の家に向かって歩き出している。
まだ夕方と言うには早いだろうか。一旦、家に帰って釣り道具を持ち出し、家の目の前にある市場がある町人区画の橋を越えて、ハンター区画にやって来た。
食材屋のおばさんの前を通って釣り場へ行くとアイルーが座っていた。
「邪魔するよ〜」と言って餌のミミズを針につけて、糸を垂らす。
僕は腰をかけてウキを眺める。
横で座っていたアイルーもいつの間にか真剣にウキの先を見ている。
ハンターは時間短縮のために立ったまま釣りをしているが僕はゆっくり楽しみながら釣りをする。
キレアジ2匹と大食いマグロを1匹釣った頃には日も暮れかけていた。
釣れる魚の種類が変わってきたのを見て、寒冷期に近づいて来たのを感じた。キレアジ1匹をそこにいたアイルーにあげて、帰り道の道具屋で1匹キレアジを売った。
キレアジは背が硬く、味はまぁまぁいけるが調理がめんどくさくて僕は持って帰らない。
それにハンターの使う道具になるらしく、売ると以外といい小遣いになるので、キレアジは売るのだ。そして大食いマグロを袋に入れて酒場へ向かう。
襲撃に気をつけてと言われて疲れが出た気分だった。
自分で料理を作るのも面倒になって来たので酒場で済ませてしまおう。そう言う魂胆でいる。
釣り道具と、大食いマグロを入れた袋を外において店に入ろうとすると、足元に何か塊が見えた。
「何?これ…ん?爪?…か?まさかな」
僕はその入り口ド真ん前に置かれた物を半笑いでどけようと、取っ手らしき所を持ってせめて入り口の横に移動させようとした、だが。それはピクリとも動かない。引きずろうにも引きずれない。重いと判るまでは床に打ちつけられている物かと思った。
腰を沈めて、取っ手の滑らない所を選んで持ち、全力で持上げてみると、やっと自分の腰の高さまで持ち上がった。
「ふぅ……ふぅ……」
静かで荒い息を上げて全腕力で持上げないと動きもしない。
これは何なのか?
「あ!すいません!置きっぱなしで…」
どうやらコレの持ち主が現れた様だった。
「ふぅ〜…ふ〜…」
僕は置くことも出来ず、息を切らせて顔を真っ赤にして全身全霊を込めて持上げるしか出来なかった。
「あぁ、持ちます持ちます!」と言うと、そのハンターは持ち手の滑る所を持って、ヒョイっと軽々持上げて背中のフックにソレを引っ掛けて固定させて一息ついた。
僕は絶え絶えの息と声で
「はぁはぁ…っ…はぁ…っコレ何?!」
と精一杯聞くと、そのハンターは
「これはハンマーです。ドラゴンブレイカーって言う…ねぇ、大丈夫ですか?」
僕の心配までしてくれている。
「はぁはぁ…え…じゃぁそれ振り回すの?」やっと息が整ってきた僕は質問する。
「えぇ、振り回したり振り上げたり…なかなか忙しいんですよ?」と親切な説明までしてくれる。
「なんか大きな爪みたいだね」
僕は正直、爪じゃないです!と返事が来ると思っていると
「はい、爪です。」と冗談が本当になってしまった。
「そんな大きな爪、あり得ないでしょうに」
少し笑いながら言うと
「ラオシャオロンの大爪を使って作ったハンマーなんですよ〜」と少し自慢げに語っている。
「そかそか…ま、これから入り口にはハンマー置かないでね」
と、息の上がったまま強がりを言うと、
「ごめんなさい!気をつけますね」
と言い残し、そのまま、そのハンターは大老殿の階段を軽々と登っていった。
僕は今の一瞬で3回も驚いてしまった。
まずラオシャオロンの大きさ。10本あるだろう、たかが1本の爪があれだけ大きい。自分の手を見て考えた。自分の体は小さいが、爪はもっともっと小さい。爪であれだけ大きいって事は…どれほどの大きさなんだろう?
それに削られて加工されて使われてるとすれば、あれより大きな爪って事になる…考えただけで恐ろしい。
そして、ハンターの凄さ。あんなに重たい物を軽々と持上げる力。
それに力だけではない。あれを持ち続けるには持久力も並外れた物ではないだろう。バランス感覚も必要だろう。そして、その大きいと言う言葉だけでは足りない大きさのモンスターにかかっていく勇気。無事に倒して、勝つと言う事。そのどれもが凄い事だと感じた。
改めてハンターの凄みを見た気がする。そして最後は強敵だったであろう、ラオシャオロンの巨大な爪を武器に加工してしまう技術。毒を持って毒を制すなんて言葉があるけども、モンスターの素材を使ってモンスターを制す。あんだけの大きさ重さの物を加工する武器職人の凄みも感じた。
さすが裏方の花形だ。そんな驚きのせいと以上に力んで重たい物を持ったせいか食欲の欠片も飛んでいってしまった。
酒場で夕食を摂るのは止めにして、大食いマグロだけ持って帰る事にした。
家に帰って大食いマグロを捌いてみると、お腹から石ころが出て来た。
大食いマグロは貪欲で何でも食べるので時々高価な物も食べている事があるらしい。
僕も1回大食いマグロを捌いていると腹から薬草が出て来た事があった。
しかし何で薬草なのか…あの時は頭の上にはてながいっぱいだった。そのまま捌いたマグロを氷結晶の箱の中に入れようと必死になって詰め込んでいるとトントンと静かにドアが鳴った。
朝の轟音とはえらい違いだ。はい〜とドアまで走って行きドアを開けるとマツが袋を持って立っていた。
「よう!お疲れさん」
僕も自然と笑顔でマツを出迎える。マツも
「邪魔するぞ?」
と家に入ってきた。
「どうした?」
色々詰め込んだ質問にマツは
「一緒に飲むか」
と袋から冷えたホピ酒を出して机に置く。
「いいね〜アテは何がいい?」
その質問に「なんでも」とマツは答えたので、朝にジグスからもらったポポノタンの燻製を切って皿に盛り付けて出した。
冷えたホピ酒で乾杯しあって本日の報告をお互いにする。
ジグスがアカネにさっそく怒られた事、セインが階段から転げ落ちたこと、全部…僕も今日あった事を話す。
古龍観測所に行った事、ハンターのハンマーが重かったこと、全部…そして僕が冗談を言い、マツがつぶやき、一緒に笑う。こうして楽しい酒は進んでいく。
いい時間になった頃にマツが
「久しぶりに笛…聞かせてくれるか?」
と遠慮がちに聞いたので
「もちろん!いっつも吹く曲でいいか?」
そう聞くと
「うん」
と大きくマツは頷いた。
ちょっと久しぶりに出す角笛に穴を開けて音階がつくようにした笛はホコリがかぶっていた。
それを服でさっさと払って、いつもの曲を吹く。
マツは気に入っているらしい。
僕も遠い記憶の中で、小さい頃に父の背中で聞いた曲。思い出しながら吹く。曲の題名も、正しく吹けてるかも、本当に父の背中で聴いたのかも判らない、おぼろげな曲。音程も変わり映えしない、のんびりとした草原の様な曲。
1曲吹き終わった所でマツは涙しているのだろうか…うつむいたまま
「そろそろ帰る、邪魔した、また明日」と言い帰っていった。
何だか不思議だがマツの心にはこの曲が響くらしい。
僕も明日は仕事だ。今日はゆっくり出来たような逆に疲れたような。
明日からは問題児も帰ってくるし、気候も良くハンターも多くなりそうだ。
シャワーを浴びて窓を開けて外の風に当たってみる。
なんだか、冷えてきたような少し肌寒い様な風が体に触れて駆け抜けていった。
古龍…今何処まで来ているのだろうか…観測所の予報通りに接近しているのだろうか…不安と季節の変わり目と仕事への意気込みを胸にベットに横になった。

〜第4部完〜
2007年04月22日(日) 21:24:41 Modified by funnybunny




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