キョウカンロード★ 〜中編〜

キョウカンロード★ 〜中編〜


作者:そけ



眩しい。
そこには白と青が広がっている。
気付けば俺は浜辺を歩いている。潮風が気持ちいい。
何処までも続く水平線を見ながら浜辺沿いを進んでいく。
水平線を眺めているとはるか彼方の水平線から何かが高速で近づいてくる。
何かと思っているとその高速で近づいてきた何かは俺に向かって飛びついてきた。
「ぬはははは!さっさと起きんかぁっ!」な?!きょ、教官?!

ハッとするとそこには潮風も無ければ浜辺も無い。
そこはさっき教官の鉄拳を喰らって崩れ落ちた草原だった。
さっきはまだ夕暮れ前だったが、もう日も暮れ暗くなり始めていた。
そして俺は小高い丘の上で寝かされていたようだ。
数時間だろうか?気を失っていたのは…。
全身の痛みを押して横を向くと教官が座ったままで暮れ行く太陽を見ている。
「気付いたようだな。目覚めはどうだ?」とても良いとは言えない。
足はもう感覚がほとんど無いしあちこち痛むし息をするのも嫌になるほど体がダル
い。
「ぬ?何を寝転んだまま先輩の話を聞こうとしとるんだ?」…本物の鬼教官だ。
全身を石膏で固められたような体を起こして座ってみる。
すると、そこはただただ広い草原が太陽によって真っ赤に染められていた。
綺麗だな、と思っていると教官が続ける。
「ま、あれだけ走れればどんなモンスターからも逃げ切れるだろう」
俺も言葉を返す「最初に…逃げるなって教えたのはあんたじゃないのか?」
そう、試験が始まった時の最初の教官の言葉は「ひとつ!何があっても逃げるな!」
だった。
すると教官は笑いながら言う。
「生きるためにモンスターから逃げるのと、自分から出てくる恐怖から逃げるのは別
問題だろう」
そうか…最初に言われたのは恐怖から「逃げるな」だったのか。
これだけ長い期間一緒に居ても伝わらない事もあるんだなぁと実感する。
「なぁ、貴様は何故に教官になろうとしたんだ?」教官はいつに無く口数が多い。
「えっと…希望ある新人の育成に興味があって…」そう言いかけるとすぐに教官が口
を挟む。
「そんな事を聞いてるんじゃない。本当の理由だよ。キレイごとじゃない…な」
伊達に教官と呼ばれてるんじゃないと、ここでも実感する事になった。
「たいがい教官になりたいってヤツはハンターを引退した後の保険か、
そ� $l0J30$O <$r;H$C$F3Z$r$7$F
いしな」
事実、そんな人格未熟者が多いために試験の難易度も近年は格段に上がっている。
軽い気持ちで教官になるとは言いにくいレベルまで厳しくなっている。
「貴様は勘がいいから気付いていると思うが、これが…」「…最後の最後の試験?」

そうだ、と言わんばかりに教官が大きくうなずく。
この9ヶ月、俺から教官に過去や夢を語ったことは無いし、
教官も俺から過去や将来の事を無理に聞こうとしたことは無い。
ただ、俺がこの教官に押しかけて教官にさせてくれと必死に頼み、
この教官が何も言わずに引き受けてくれたから、こうして今の自分がある。
最後の試験ってのもあるが、この教官には自分の全てを知っていてっもらいたい。
だから自分の過去も夢も話してみよう。そんな気分になった。
「教官の志望理由…昔話になるが良いか?…じゃない、聞いてくれますか?」
教官は少し照れながら「うぬ!我輩も男!ドンっと聞いてやってもいい!」
素直に言われると恥ずかしいのか?やっぱり憎めない人だ。
そして俺は過去の出来事から、まずは話し始める。嫌な思い出も全て…。

俺は2年前まで自分の生まれ育った村でハンターをしていた。
が、毎日毎日狩りばっかりする事は無く、近隣で被害が出た時や、
大型のモンスターが村の近くで目撃された時にだけハンターになる。
普段はウォーミル麦を作る農家のとして生計をたてている。
そして俺は子供達に人気だった。優しくて面倒見が良いから…なワケがない。
むしろ子供は苦手な方だし、大人らしいと言えるほどの寛容な心も持ち合わせていな
い。
ただ子供達は普段は自分の親たちと一緒に麦を育てている野郎が、
ある時は果敢にモンスターにかかって行くのを見て単純に腕力に憧れてただけだろ
う。
その子供達の中でも憧れが普通の子供の3倍は強い男の子が居た。名前はソルジ。
母親を古龍に、父親を内戦に奪われた子供で、
街で船の無賃乗車で捕まりかけていた所を、この村の村長が見るに見かねて料金を肩
代わりし、
その厚意に何かで返したいと村に住み着くようになった。
ソルジは住む所が無いので、両親を病気で亡くした独身の俺の家に住むようにと、
俺は最初は断ったが他の村民も全員が断り、わざわざ村長命令で俺の家に住むことに
なった。
そりゃ無賃乗車で捕まりかけるような子供を家に入れるのは良い気分ではないだろ
う。
かくして、子供が苦手な俺とハンターに憧れるソルジの奇妙な共同生活が始まった。


「ねぇねぇ、あんたの名前は?」ボサボサ頭の男の子が言う。
「さぁね…言葉遣いの悪いガキに教える名前はねぇよ」短髪の俺が答える。
「自分だって、教養があるような顔もしゃべり方でも無いじゃないか」猫背の男の子が言う。
「あぁ確かに…でも無賃乗車をするほど落ちぶれてもいねぇよ」いかり肩の俺が答える。
「だって…3日も何も食べてなくて歩けなかったんだもん」靴に穴が開いてる男の子が言う。
「…ったく…腹減ってるんだろ?そこにあるパンでも食べな」洗いたての服を着た俺が言う。
「あ!…ありがとう!オレの名前はソルジ!今年で10歳!よろしく!」現金な男の子が言う。
「ちっ…俺はヘイス…歳は…あれ?…18か19だ」無愛想な俺が答える。
「にししし!いいよいいよ!アニキって呼ぶから!」純粋な笑顔の男の子が言う。
「アニキって…まぁ何でもいいや、好きにしろ」少し、くたびれた俺が答える。
「もふ!ほうぇど!びいふ〜っし!」嬉しそうに食べ物を口一杯に入れながら男の子が言う。
「うお!?凄いな!あの大きなパンを一口か!」その姿を嬉しそうに見ている俺が答える。

そうしてソルジに麦農家としての手伝いをさせながら不思議な共同生活が始まった。

ソルジは過去や経験を語り、俺も自分の過去を語った。
お互い両親を若く亡くしたと言う境遇が似ているため仲良くなるのに時間はかからな
かった。
ソルジも少しづつ自分で出来る仕事を見つけ出した頃だった。
久しぶりにハンターとしての俺に村長から依頼が来たのは…
内容はダイミョウサザミが村と村とを結ぶ国道に出没したとの事で、
討伐するために俺は装備を整え討伐に向かおうとすると、
家を出たすぐの所でソルジが立っていた。「アニキ〜どこに行くの?」
「ん?村長命令でな、狩りだよ狩り」そう言い終わるか終わらないかだった。
「オレも連れてって!」と俺の目を、キラキラ輝いた目でソルジが見ている。
「ダメだな」即答すると向こうも即答で「どうして?」と帰ってくる。
「まだチビだし、足手まといだ。俺は自分でイッパイイッパイなんだよ」
「ケチ!いいじゃないか!連れてけ連れてけ!」こうなるからガキは嫌になる。
「ったく、無理なもんは無理だ。そんなタッパで何が出来るんだよ」冷たく言うと
「アニキは、もう10歳のときから、もうハンターしてたんだろ?」痛いとこをつく。
「俺はいいの!それに最初は採取クエストばっかだったし」言い訳っぽくなった。
「そ、それに俺は毎日剣を振って、走り回って鍛えてたんだよ」そうそうこれだ。
それを聞いたソルジは「えぇ〜ん〜」と言葉に詰まっている。
「努力も何もしないで何かしようなんざ甘いんだよ。甘すぎ」
「…でもハンターがどんなだか知りたい!」まだグズるなら…こう言っておこう。
「もう少しでかくなって、一人前に片手剣でも振れるようになったらな」
「…うん!オレ、早速頑張ってみる!」どうやら納得したようだ。
そうしてソルジを納得させて狩りに出かける。村長の所に立ち寄り、
村長の奥さんの手作りの支給品を持って出る。そしてモンスターに対峙する。

仕事が終わり戦利品を片手に家に帰ると、村中の子供達が俺の家に集まっていた。そして毎回同じような質問に、毎回、律儀に答える。
適当に答えると逆に質問攻めに合い、余計に時間がかかると学んだ。
大体の質問は決まっている。
「何と戦ったの?」「どんなヤツ?」「大きいの?」「強いの?」「痛くないの?」

「どうやって勝ったの?」「もう安全なの?」これぐらいの質問が毎回飛び掛ってく
る。
が、今日は少し勝手が違った。それは何故か。
瞳をギンギラに輝かせる少年が一番前の俺の一番近くに座っているおかげだ。
いつもの質問に輪をかけてややこしい質問が飛んできた。
「ねぇ、その鎧は何の鎧?」えらく専門的な少年だ。「これはイーオスの鎧だ」
「ねぇ、今日は大きなカニ相手だからハンマーだったの?」やけに詳しい。
「そう、打撃がやや有効だし殻を壊せばいい代物も採れるからな」俺も律儀に答え
る。
この専門的なやりとりに大半の子供は口が開いたままになり、残りの子は帰ってし
まった。< BR「ねね、モノブロスの頭の骨を殻につけるのが多いんでしょ?」
「まぁな、でも砂漠が近くに無い場所では他の飛龍のズガイでもかぶるけどな」
そう話せば話すほど、こいつがハンターに憧れているんだと判る。
そして、俺も痛みを忘れて話が弾む。
ハンターの苦労を判る人が近くに居ないし、ハンターで食べていってる人とも知り合
わない。
防具や武器を作りに街に行くのは年に1,2回ぐらいだし、
近隣の農村にまで俺はこの村から派遣されるので近所にもハンターは居ない。
なので、ハンターの話をすれば判ってくれるソルジに話をしてしまうのだろう。
そして、このハンターの知識は街の酒場で掃除させられてた時に耳覚えしたらしい。

こいつ…よっぽどハンターになりたいんだな。そう思った。

そして次の日から、麦を育てながら俺は採取と合成をして、
いつハンターとして徴集されてもいいように準備を整える。
そしてソルジは俺が言ったように剣を振り村中を走りこむ毎日が続いた。
「ねぇねぇ師匠!前転で回避する時は刃を外に向けるの?」「体に触れないように横に持つ」
「ほえ〜さすが師匠!我流でも出来るもんだね!」「つか、いつから師匠なんだ?」

「え?こないだダイミョウに勝った日からあだよ!師匠!」
アニキと呼ばれた時も違和感があったが、今回はそれ以上の違和感だ。
しかも師匠と呼ばれるほどの器でも無いし、とても師匠らしい事もしていない。
こうして俺が持っている独学での知識と我流の剣術を教える日々が続いた。
それから1年が経とうとしていた日だった…

それまで毎日のように仕事をしながら特訓したソルジはガタイも良くなってきていた。
俺も何回もモンスターの討伐に行き、経験と新しい武器を手に入れた。
そんなある日の事、村民が慌てて村に入ってきた。
「た、大変だ!紫の体で大暴れして村中を毒まみれにするモンスターが隣村に出たそうだ!」
「毒怪鳥…ゲリョスか…」この村の周辺では出たことは無い。
俺も実際に戦った事は無いが、毒をばら撒き、閃光を放つと聞いた事がある。
そうしていると村長がやはり緊急で出てくれと言いに来た。
俺は快諾して、準備を整える。そして家を出たその時だった。
やはりソルジが立っていた。しかし1年前と違うと言えば鎧を装備している事だ。
「おい、お前それはどうした…」こっちが聞く前にソルジが話す。
「狩りに連れて行ってくれ!この鎧と剣は屋根裏で見つけた!」
そう俺が狩り始めたての時に作ったランポスセット。武器はドスバイトタガー。
「それはいいけど、まだ狩りは…」まだソルジは口を閉じようとしない。
「もう1年ぐらい鍛えてきたし、鎧のサイズがぴったりって事は師匠もオレぐらいの大きさでもう狩り始めていたって事だろ」
1年前の約束が「鍛える努力をしろ、大きくなれ」だった。
ソルジは二つとも約束を守った。俺� bLsB+$O
「よし!じゃ2人で狩りに行くぞ!だが無理はするなよ」「任せて師匠!」
二人とも笑顔だった、この時は。
そして、この日が笑い合う最後の日になるとは思いもしなかった。

村長の奥さんに2人で出ると伝え、2倍用意してもらい、狩りに出かける。
「いいな、危ないと思ったら帰るぞ。俺達がしないでも本職を雇えば済む話だしな」

「うん判った。オレも手は出さないで隠れながら師匠の動きを見てるよ」
そうして俺たちは森の中に入って行き、毒怪鳥・ゲリョスと対峙した。
紫の体は毒々しく、顔つきには何か、ただならぬ物を感じた。
そして死闘が始まる。俺の新しい武器のヴァイパーバイトがゲリョスの身に入る。
が、ぶにょぶにょ皮膚で入りにくい。だが麻痺性の毒が蝕んでいくはずだった。
なんかいも切りつけていくと怒り出した。とても手がつけれない。
走り回るは毒液は撒き散らすは閃光は放ちまくるは。
だが苦戦しながらも追い詰めていく。それをソルジは大木の上から眺めているはずだ。
これが狩り。これが命のやりとりだと、俺は背中で教える。
そして最期の一撃がゲリョスに当たってゲリョスは息絶えた。
俺はまたボロボロになりながらも一息ついた。
そして俺の狩りの傍観者の名前を呼ぶ「ソルジ!終わったぞ〜!」
すると木の影から目をこすりながらソルジが出てくる。
「師匠!やったね!オレは閃光で目が痛いや」と笑いながら歩いてくる。
「痛ぇ…命からがらなんだぞ、お互いに」そう言って地面に座り込む。
「ほえ〜!これがゲリョスって言うんだ〜ふ〜ん」
そう言いながらソルジはゲリョスの亡骸に近づき触ろうとする。
「あっははは!な?まだまだ一人で相手するにはキツイだろう!」
俺は満面の笑みで興味津々にゲリョスに近寄っていくソルジを見ていた。
その一瞬で悲劇は起きた。
パキっと何か折れる音が前でして、次にグシャっと何か潰れる音が後ろから� J9$3$(
た。
俺はビックリして笑顔で細くなった目を開けると、
目の前にさっきまで立っていたのはソルジのはずだった。
なのにさっきの一瞬でゲリョスがこっちを睨みつけて立っている。
ゲリョスは命が尽きてはいなかった。
ソルジがゲリョスに吹き飛ばされたと俺は理解した。
後ろを振り向いたがソルジがどうなっているかは見えなかった。
そうしてる間にもゲリョスは俺の命を奪おうと襲い掛かってくる。
俺は思い切り剣を振るった。どこをどう切ったかなど覚えてはいなかった。
だが気付いた時はゲリョスは動かず今度こそ命を奪ったのだと判った。

息絶えたゲリョスをほって置き、ソルジが吹き飛ばされた場所にかけつける。
ソルジを見つけはしたが、人の形としては異常な形になっていた。
上半身はこちらを向いているのに下半身は逆方向を向いていた。
そして吹き飛ばされ岩に叩きつけられたせいか、口と鼻からは血が流れ出していた。

「おい!しっかりしろ!大丈夫だ!なんとかしてやる!」俺は必死に回復薬をかけ
る。
「…師匠…やっぱオレ…ハンターになれそうもないや…」力ない声で返してくる。
「まだ…まだこれからだろう!諦めるんじゃない!」回復薬が間に合いそうもない。

「…にししし…やっぱ師匠はすげぇや…」流血の量が増えていく。もう話すな…
「ごめんな…ごめんな…俺に余裕が無かったからだ…」クソ、泣くな。俺、泣くな。

「…師匠…ハンター…オレ…見てるから…」その言葉を最期にソルジは動かなくなっ
た。

村まで冷たくなったソルジを抱え、叫び泣きながら村へ帰った。
俺は混乱と怒りと悲しみとで自分がどうなっているのかすら覚えていない。
村では翌日、ソルジの弔いをし皆が涙を流す頃、俺は自責の念に潰されていた。
俺が弱く、周りに気を配る余裕も無いのに連れ出したから…
たいした腕でもないのに、自分の腕を測り違い傲慢になっていたか…
最後の最後で気を抜いて脇が甘くなっていたのか…
師匠と呼ばれ、その気になり己の力を見誤ってソルジを殺したのも同然だった。

これが俺の新しい人生の底辺からの出発点であり、
人生で初めて夢を追いかける事になる皮肉なきっかけになったのだった。
2007年08月04日(土) 22:24:18 Modified by funnybunny




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