辺鄙な村の語り部

「じぃじ!」

子供達が、丸太で出来た小屋の中で揺り椅子に腰掛けている老人に話しかけた。

じぃじ、と呼ばれた老人は、何と無しに眺めていた窓の外から子供達へゆっくり

と目を移し、微笑んだ。

季節はもう初冬に差し掛かっていて、外にはちらほらと雪が降っている。

「なんだい?」

老人は外に降っている雪と同じくらい静かな声で子供達の呼びかけに答えると、

子供達の座っている前へあぐらをかいた。

いつの間にやら、子供達は中ではしゃいでいるのに飽きたらしい。

『寒冷期』と言われるこの時期は、

寂しく、人気のないこの集落の外で遊ぶには少し厳しい。というのも、

この時期は餌が少なく肉食獣達がことのほか凶暴になるからなのだが、

だからと言って家の中で一人で遊ぶのはあまり面白くないらしく、

老人の小屋に集まって賑やかにしていたが、

それも飽きると、今度は老人の話を聞くために皆で座って待つのだった。

「またあのお話してよ!おっきい竜とか出てくるお話!」

子供達の中でもリーダー格の男の子が言う。

この村は、幸いにも未だ飛流というものが襲来したことは無く、

来たとしても悪知恵の働く小型(とはいっても人間ほどの大きさなのだが)

肉食獣、ランポス程度なので、

子供達は外の世界を老人から聞くほか無かった。

俗にハンターと呼ばれる職業につくものもこの村に居はしたが、

殆どの者は普段酒場にいるのと、厳つい鎧と武器、そしてそれに負けないくらい

厳つい顔をしたものばかりだったので

子供達はあまりハンターに懐きはしなかった。

「わかったよ。」

よっこらしょ、と窓の外を眺めていた時と椅子を反転させ、

老人はゆっくりと、話し始めた。

      • ・・・いまやハンターの中で伝説と化している村長その人自身の回顧録を。
2006年11月23日(木) 20:29:06 Modified by crushout




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