今月も掃除にやってきた徴税官Bが極星レジデンス蒲田南と書かれた銘板を拭いていると、不意に外階段から声をかけられた。
「ああ斎木さんこんにちは」
 302号室の斎木直哉さんである。斎木さんはタバコの煙を吐き出しながら徴税官Bに言った。
「あのさあ最近両隣がうるさくてさあ」
「わかりました、お伝えしておきます」
「よろしく頼むよー」
 それだけ言って斎木さんはタバコを手すりでもみ消して階段を昇って行った。
 公共スペースでの喫煙は禁止だし廊下や手すりで消すのもやめて欲しい。疑うわけではないが、来る度にあちこちにタバコの吸殻が落ちてもいる。
 さて、斎木さんの隣といえば301号室の真代さんと303号室の……オーナーの知り合いのネフティス様母娘とその知り合いである。
 真代さんは最近妹が家出した。正直なところ家賃さえ入金してくれればどうでもいい……とうそぶきたいところだが、家出の際に窓をぶっ壊して行かれたのではそうも言って居られない。
 先のセラフィエル・ストライクのせいで修理業者も忙しいらしく、応急措置だけされた窓は美観を損ねているのでとっとと直したいところである。

 物語は前日の夕方に遡る。

 301号室には最近良く訪れる女子高生が今日もまた来訪していた。
「……ちょっと真代、全然食べてないじゃない。詠ちゃんの事が心配なのはわかるけどちゃんと食べなきゃダメだよ。顔色も悪いし……」
(食ったから調子が悪いんだが)
 渡来愛花が『作り過ぎて』持ってきた煮物を食べた真代開はしばらく腹痛でトイレと今を行ったり来たりだった。足音や水音が響いたのが隣室の斎木直哉にはうるさかったらしい。
「まったくしょうがないわね。妹がいなきゃ食事も作れないなんてシャキっとしろこのバカ」
 兄妹二人暮らしで、女物の下着を洗うのははばかられたので洗濯は詠がする事になり、いきおい料理を担当するようになった開は多分愛花よりは料理が巧い。
 愛花が勘違いしているのはおそらく台所をこまめに片付けているからだろう。
 昔遊びに行った愛花の家の台所はいつも散らかっていたので、料理をする家の台所は散らかっているという先入観があるのではないだろうか。
「私がいなきゃダメなんだから! 仕方ないから今から何か作ってやろうかな……」
「ま、待ってくれ渡来。ファミレスでも行こうよおごるから」
「何言ってんの、贅沢はダメよ」
「いや……その、ほら誕生日だし、おまえの」
「な、なんで覚えてるのよっ!?」
「クリスマスの翌日だし覚えやすいからさ」
「あ、ああそっか……なるほど」
 クリスマスプレゼントとお年玉と誕生日プレゼントをまとめられるので彼女は誕生日があまりうれしくない。
 セラフィエル・ストライクの想い出といえば、藤宮真由美の援護をして帰ってきてみればクリスマスとお年玉と誕生日に小学校卒業の前祝いを合わせた等身大ぬいぐるみ七万円が
ストライクに伴う地震で落下して観葉植物の鉢を破壊し他のぬいぐるみ達が泥まみれになっていた事が一番に挙げられる渡来愛花であった。
「しょうがないわね、あんたが栄養失調で死んでも困るし、付き合ってあげ……バ、バカっ! 付き合うってそういう意味じゃないんだからねっ! アホ!」
「俺は何も言ってませんが」

 一方303号室でもネフティスが知り合いを引きこんで酒盛りを始めていた。
 娘とわれらがマインドブレイカーがいない寂しさを埋めるべくというと少しえろい。
 三人よればかしましいと言われる女性陣が徹夜で飲み明かしてキャイキャイ騒いでいたので隣室の斎木直哉は落ち着いて新作エロゲもプレイできなかった。
 301号室ではバカップルが騒いでいるし、リア充爆発しろ!と言いたいところだが、しかしあの日インターネット掲示板にリア充爆発しろと書いたらストライクで戦っていた彼の従妹の斎木新名が大爆発したので心の中でつぶやくだけにする。
 テレパシーを持つ彼の心のつぶやきは周囲にテレパシー放送されてリア充の性欲が爆発してしまったのはまあ計算外というほかあるまい。

 そうして直哉がエロゲの特典を眺めながら悶々としているところに、ネフティスと美鈴の大音声が聞こえてきたのであった……

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