ずんだもん躾
最終更新：
saiyan_party 2023年01月08日(日) 02:32:21履歴
本文 作：祭屋 原案：相談相手 
[ごしゅじん、おはようございますなのだ！]
「おはようずんだもん。今日も時間通りで偉いね。ほら顔を洗っておいで」
[はーいのだ]
穏やかな朝。優しい主人の元で妖精ずんだもんは幸せに暮らしていた。
[ごちそうさまでしたのだ。ではごしゅじん、ぼくは かていさいえんのおせわをしてきますのだ]
「ふふふ、張り切ってるねずんだもん。おいしい枝豆を期待しているよ」
[おまかせなのだ！ごしゅじんとおいしいずんだもちのために がんばるのだ！]
(ああ、この子はなんて従順で可愛らしい子に育ったのだろう)
(初めの頃は手を焼いて叱ったこともあったけど、その甲斐あって今ではほとんど手のかからないいい子になってくれた)
(妖精ずんだもんは個体によっては生意気で人に慣れず、更にはゴミを荒らしたり人に迷惑をかける事すらあると聞く)
(ウチの子にはそんな風になってほしくないし、そうなってしまったら最悪殺処分だとか厳しい罰を与えられることになってしまう)
(そんなことをさせるわけにはいかない。あの子と穏やかな生活は僕が守るんだ。僕がしっかりしなくては・・・)
主人は妖精ずんだもんのことを本当に大切に思っていた。深く愛していた。
穏やかな生活とは主人と、そして妖精ずんだもんの努力があってこその結果だったのだ。
そんなある日・・・
「ずんだもん、ちょっと来なさい」
[ごしゅじん？なにかあったのだ？？]
「君は今日も家庭菜園の手入れをしていたね？」
[そうなのだ。いつもどおりなのだ。もうすぐ えだまめさんができるから たのしみなのだ]
「でも君は一つ忘れ物をしてしまったようだね？これが何だかわかるだろう？？」
[あっ]
主人が無表情のまま取り出したのは妖精ずんだもん愛用のじょうろ。
いつも使うものが見つからなくてうろたえていたことを思い出し妖精ずんだもんの顔が青ざめる。
[あ、あわわ・・・]
「整理整頓、使った物は決まったところに戻しなさいと言っているだろう？」
[ご、ごめんなさいなのだ・・・]
細かなミスを咎められているにしては随分と怯えた様子の妖精ずんだもん。普段の穏やかな主人の豹変っぷりに怯えているのだろうか？
「ずんだもん、確かにこれは細かいミスだけど僕は君にちゃんと教えたよね？」
[は、はいなのだ・・・。きちんとおそわったのだ。ぼくも しっかりおぼえたつもりだったのだ]
「『つもり』や『慣れ』は油断に繋がってしまう。君は今回油断をしてしまったね。残念だけど１ミスだよずんだもん・・・」
[ごめんなさいなのだ！ごめんなさいなのだ！ぼく しっかりはんせいしますから ゆるしてほしいのだ！！]
「もちろん許すよ。でも罰は受けないといけない」
「そうだな、今回はこのじょうろを捨ててしまおう。それで終わりだ、いいね？」
[うぅ・・・]
妖精ずんだもんにとっては愛用のじょうろで、家庭菜園を任されるにあたって主人に与えられた大切な、思い出の品であった。
買い与えられたときに嬉しさのあまりはしゃいだこと、それを見て主人も穏やかに微笑んでくれたこと、雨の日も風の日も苦楽を共にしてきたこと・・・
それらの記憶が一気に溢れ、妖精ずんだもんは大粒の涙を流していた。
[ごめんなさいなのだ・・・ごめんなさいなのだ・・・ぼくがわるかったのだ・・・]
「わかってくれればいいんだよずんだもん。また明日新しいじょうろを買ってあげるからね。もうミスはしないね？」
[うぅ・・・うぅぅ・・・]
思い出のじょうろをゴミ箱に放り込み、罰は済んだと穏やかな笑顔で頭を撫でる主人。
妖精ずんだもんは主人を深く慕い、尊敬すらしていたが“躾”だけはどうしても耐えられなかった。辛くて辛くて仕方がなかった。
しかしそのおかげでしっかりと成長し、様々な主人の期待に応えられているということも事実。
主人の願ったとおりに人に迷惑をかけない、野良のどうしようもない個体とは全く違う精神性を得られていた。
[もっと・・・もっとしっかりするのだ。ごしゅじんは ぼくのためをおもってくれているのだ・・・]
・・・
[ただいまなのだ。おそくなってしまったのだ・・・]
「おかえりずんだもん。門限を過ぎても帰らないから心配していたんだよ？無事でよかった・・・」
[ごめんなさいなのだ・・・のらのずんだもんにからまれて にげるのにひっしだったのだ・・・]
「ひとりで大丈夫かと思ってたけど野良ずんにやられたのか・・・怪我はない？」
[だいじょうぶなのだ。すこしすりむいたけど きれいにしたらなおるのだ]
「今日は大変だったね、お風呂に入ってご飯を食べたらもうおやすみ」
その翌日
[はっ！？ねぼうしてしまったのだ！]
[きのうつかれて ねすぎてしまったのだ、ごしゅじんにおこられちゃうのだ！！]
「おはようずんだもん。今日はお寝坊だね？」
[ご、ごめんなさいなのだ・・・おきれなかったのだ]
「とりあえず顔を洗っておいで。ご飯を食べたら今日は家庭菜園に行こう」
[わかったのだ]
支度を済ませた主人と妖精ずんだもんは家庭菜園の前にいた。とはいっても家の敷地内なので出かけるというのも大げさなのだが。
「ずんだもん、昨日は門限を破ってしまったね？」
[は、はいなのだ・・・]
「でもやむを得ない事情があったのは間違いない。野良ずんに襲われてしまったんだったね？」
[そうなのだ・・・]
「その上で今日は疲れて寝坊してしまった、そうだね？」
[はいなのだ・・・ごめんなさいなのだ・・・]
「流石に２つをカウントするのは僕もしたくない。でもミスはミスだ、門限を守るという約束も破ってしまったね？」
[まちがいないのだ。ぼくはしっぱいしてしまったのだ・・・]
「合わせて１ミスとしよう。いいね？」
[わかったのだ・・・ごめんなさい、ごめんなさいなのだ・・・]
「自分のミスを反省できて立派だよずんだもん。今回の罰は・・・そうだな、この家庭菜園を焼いてしまおう。君がやりなさい」
[えっ・・・？]
「聞こえなかったかな？君の手で家庭菜園を焼きなさい。火元は僕が用意して後始末も手伝ってあげるから」
[あの・・・その・・・]
妖精ずんだもんにはわかっていた。主人は優しいが罰に関しては一切の妥協や譲歩をしない。やると決めたら徹底的にやる。何があってもそれが覆ることはない。
「さあ始めようずんだもん。準備ができたら言いなさい」
[・・・]
がっくりと肩を落とし、促されるままに準備を進めていく。
自らの手で大切に育てた収穫間際の枝豆畑。
自分のためでもあるが、何よりも敬愛する主人に喜んでほしかった・・・。
そんな思いも空しく全ては無に帰すことになった。おまけに自分の手で終わらせることを求められて。
生では燃えづらいと用意された藁をかけていく。妖精ずんだもんは無力であった。
[じゅんびできましたのだ。いつでもいいのだ・・・]
「君のタイミングでやりなさい。大切な家庭菜園だったね、しっかりお別れをするんだ」
妖精ずんだもんに松明が渡される。
燃える。燃える。燃える。
人から見ればささやかな規模だ。しかし妖精ずんだもんにとっては自分が任された一種の聖域であった。
手塩にかけて育てた枝豆畑が。指折り楽しみにしていた収穫の日が。恵みを受けて幸せな笑顔を浮かべる自身と主人の未来が・・・
[あ、あああああああああああああああああああああああ！！]
[うわーん！うわああああああああああああん！！！]
[ごめんなさいなのだ！ごめんなさいなのだ！！えだまめさんごめんなさい！ごしゅじんごめんなさい！！]
[ぼくはわるいこなのだ！ぼくのせいで こんなことになってしまったのだ！！]
[うわーん！うわーん！！]
罰を受けても声を上げることが少なくなっていた妖精ずんだもんが赤子のように泣きじゃくっていた。
その姿を見て主人も泣いていた。重苦しい空気、誰も幸せにならなかった・・・。
[ごめんなさいなのだ！ごめんなさいなのだ！！]
「辛かったねずんだもん・・・。思いっきり泣いていいよ。落ち着いたらまた家庭菜園を作ろうね・・・」
[うわーん！うわーーーーん！！]
妖精ずんだもんの泣き声はしばらく止むことはなかった・・・。
(また失敗をしてしまったね。でも僕は決して君を見捨てたりしないよ)
(大好きだよずんだもん。失敗のたびにしっかりと成長しているね、偉いよ・・・)
(可愛い可愛い、僕のずんだもん・・・)
あとがき
主人は妖精ずんだもんに手を上げたことがありません。心理フェイズ・精神攻撃は基本。
家庭菜園を燃やしてしまえと俺に吹き込んだ悪魔がいます。それを受けてどーせなら自分の手でやらせた方が面白いだろと考え今回の結果になりました。
ギャン泣きする妖精ずんだもんかわいいですね。
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このページへのコメント
最近小説全然読めてないけど、この作品は定期的に読みに来てしまう。
暴力描写ゼロ・精神虐オンリーでここまでずんだもんが可哀想になる作品はなかなか作れるものじゃない。
特に家庭菜園を焼くのは悪魔…もとい文豪の発想。
素晴らしい。素晴らし過ぎる…！！
熱心にありがとうございます、頭の下がる思いです。
俺自身本作に対し色々思うところがあったというか、複雑な感情を拗らせていたのですが一歩前進できた気分です。
きっかけをくださって感謝感謝でございます
これはある意味愛でずんなのでは?
妖精と主人の間に愛だとか絆(陳腐極まりない表現ですが)が存在するのは間違いないのでそういった意味ではひとつの正しい解釈なのかもしれません。
拙作をご覧になってそういった感想を抱いて頂けるのは意外でもあり嬉しくもあります。
精神虐でここまでやるとは
精神系ずん虐に新しいレパートリーが
思い出潰しとは新しい！
妖精ずんだもんの悲鳴でしたか摂取できない栄養が必ずある！それを確信できる様な見事な小説でした。次回作も楽しみにしています＾＾