けもです。短編と言いつつ、結局何話にもわたっちゃうのが悪いクセです。
ヘイト溜めるための文章は時間をかけて丁寧に描きがちなんですが、いざ×殺パートになると筆がめっちゃ進むんですよね……
お見苦しい箇所等ありましたら申し訳ございません。
〜前回までのあらすじ〜
ズンちゃんは、絶体絶命のところでセツ（おねーさん）に助けられ、治療を受ける。ズンちゃんを殺そうとしたセイタロウ（おにーさん）は、妖精の中にも優しい種類がいるということに気づき、ズンちゃんに謝罪した。セイタロウの仲間たちは、ひと足先に妖精の村を襲い、ズンちゃんら植物型妖精の仇討ちを開始する。それでも、罪を認めない胎生型妖精たちのあまりにも尊大な態度に怒った彼らは、虐殺をエスカレートさせ、気づけば妖精の殆どを殺してしまっていた。一方、飛べなくなったズンちゃんの前に、「ずんぽ」を失って村を追い出された元・おさずんが飛来したのであった……
民族浄化��
「……ズンちゃん、あいつがお前の種族をめちゃくちゃにした張本人か…？」
「そうなのだ、おさずんは、ずっとボクたちをさべつしつづけてきたのだ…」
憎しみの感情をあらわにして、おさずんをにらみつけるズンちゃん。その体を、おさずんから守るように、セツが自分の後ろへと隠す。
「くちょにんげん、ぼくはいまおこっているのだ！！さっさとそのごはんさんをよこすのだ！！」
人間がいるのを発見したおさずんは、大量の果物が入った段ボール箱を指さす。
「誰がてメーなんかに……村はどうしたんだ、てメーらが卑劣な方法で乗っ取ったんじゃあねえのかよっ！？」
飛び出しナイフを構え、セイタロウが吐き捨てる。
おさずんは、セイタロウの言葉に顔を歪めると、早口でまくしたてた。
「だまれくちょにんげん！！ぼくは、れっとーしゅによってだいじなずんぽをかまれて、そのせいであいつらからさべつされて、むらをおいだされたのだあああああああ！！」
おさずんの股間には、大きな傷が出来ていた。
「何だよずんぽって……チ×ポのことかぁっ！？は〜っはっはっはっはっ！！」
「な、なにがおかしいのだくちょにんげん！！そのきたないわらいをやめるのだ！！」
腹を抱えて笑い始めるセイタロウ。そして、冷たい目でおさずんを再びにらむ。
「てメーらは、チ×ポがないだけで仲間を差別するような奴らなのかっ！！……散々ズンちゃんを差別していたてメーが、今度は差別されてどんな気分だよっ！？まったく、自業自得もいいところだぜっ！！だが、てメーとは違って、何の理由もなしに差別されて、仲間を殺されて、村を追い出されるズンちゃんの気持ちが、わかるのかあああああああっ！？」
おさずんに突進しようとするセイタロウ。セツの後ろから飛び出したズンちゃんは、その靴を掴んで、静かに言った。
「おにーさん、ありがとうなのだ……あとは、ボクがやるのだ！」
「お、おまえはれっとーしゅ……！！」
目の前に姿を現したズンちゃんに、驚きを隠せないおさずん。「ごはんさん」と「くちょにんげん」だけを見ていて、その存在に気が付かなかったようだ。
「おま、おまえのせいで！！おまえのせいでぼくはこんなことになったのだああ！！ぼくのずんぽ、かえせええええええ！！」
「…そのことば、そのままおかえしするのだ……おさずん。おまえたちがボクたちをずっとさべつして、ころしたから、ボクは、ボクは……」
「だまれ、れっとーしゅ！！どうしてくちょにんげんといっしょにいるのだ！？やっぱりおまえはうらぎりものなのだ、はんざいしゃなのだ！！」
「ボクは、おまえにいった。にんげんさんときょうりょくしなければ、むらにみらいはないと…！ここのにんげんさんたちは、とってもやさしくていいひとしかいないのだ！りゆうもなくボクたちをさべつするおまえたちなんかとはおおちがいで、はるかにすぐれているのだ！！」
ズンちゃんは、あの村で、自分の言ったことが正しいことであると確信した。人間から食物を奪って初めて生活が成り立つようでは、もはや妖精族全体の危機と言ってもよかった。
「れっとーしゅ！おまえはばかだからだまされているのだ！くちょにんげんが、やさしいなんてことはないし、ぼくたちよりすぐれていることなんてないのだ！」
「どうしても、ボクのかんがえになっとくしてくれないのだ…？にんげんさんときょうりょくしていけば、みんながしあわせになれるとおもうのだ…」
「ぼくのそうぞうしていたよりも、おまえはどこまでもすくえないれっとーしゅなのだ！！ぼくたち“もりのけんじゃ”は、かとーせいぶつときょうりょくするなんてばかなことはしないのだ！！くちょにんげんは、ぼくたちのどれーとして、“もりのけんじゃ”のためにはたらくべきなのだ！！おまえのようなれっとーしゅもれっとーしゅらしく、さいごはおとなしくぼくたちにころされるべきなのだ！！」
まさしく、禅問答であった。権力の象徴である「ずんぽ」を失っても、まだおさずんの、もとい胎生型妖精の強大な自尊心は健在のようだった。
おさずんの言葉に、怒りで体を震わせたズンちゃんは、一歩、一歩と歩みを進める。
ケガが完全には治っていないので、足取りは重い。
「のだぁ？このぼくとたたかおうなんて、なまいきなれっとーしゅなのだ……」
ぴょいっ、と浮かび上がったおさずんは、ゆっくり向かってくるズンちゃんを見て嘲笑う。
「のろま！のろまれっとーしゅ！！くやしかったらここまできてみるのだあああ！！」
ズンちゃんは、飛び上がっておさずんを叩き落としたい気持ちだった。だが、今の彼にはそれが出来ない……
彼の首の包帯に気が付いたか、勝ち誇ったおさずんが体を上下に伸び縮みさせながら、高らかに笑った。
「のーだのだのだのだ！！こいつ、そらまめさんをつぶされてとべないのだ！！のーだのだのだのだ！！れっとーしゅにはじべたがおにあいなのだ！！ほら、ふーりふーり、ふーりふーり！なのだああああああ！！」
「ううっ……！！」
空中でお尻を振る、届かない敵をにらんで呻くズンちゃん。その時であった。
びゅっ！！
「ズンちゃん！！これを！！」
タイマンに手出しするつもりはなかったが、自分のつけた傷のせいでズンちゃんが飛べずに苦しんでいる。それを放っておけるようなセイタロウではなかった。
ズンちゃんが、パスされた飛び出しナイフをキャッチする。彼の意図を瞬時に読み取ったようで、素早く刃を展開すると、おさずんめがけて勢いよく投げた。
ばちんっ、びゅん！ぐちゃあっ！！
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
おさずんの股間の傷に、深々と突き刺さるナイフ。
勢いよく体液を噴出させたおさずんは、絶叫して地面へと落ちる。
「ま、またずんぽがああああ！！く、くちょれっとーしゅ！！ころす！ころ……」
「うおおああああああああああああっ！！」
起き上がろうとしたおさずんに、雄たけびをあげたズンちゃんが襲い掛かり、2匹は激しく取っ組み合い、地面を転げまわる。
植物型妖精の若い個体と、胎生型妖精の成体との体格差は歴然としていたが、民族浄化を受けたズンちゃんの果てしない怒りが、彼を突き動かしていた。
ぐぐぐぐぐ……
「ああああああああああ！！いぢゃいい！いぢゃいよおお！！」
「ボクたちは、ただ、ひっしにいきていただけなのにっ！どうしてなのだっ！どうして、ボクたちのしゅぞくをめちゃめちゃにしてころしたのだああああ！！」
おさずんを再び地面に転がして叫ぶズンちゃんは、おさずんの股間に刺さったままのナイフに力を入れて、さらに奥深くまでねじ込んだ。体液がどくどくと流れ、おさずんが激しく痙攣する。
だが、圧倒的劣勢でもなお、汚らしい笑みを浮かべるおさずん。
「な、なんどもいわせるななのだ……お ま え た ち が 、 れ っ と ー し ゅ だ か ら ……」
「うううううあああああああああああああああああああああああああっ！！」
ついに、ズンちゃんの感情が爆発する。
その咆哮は、村の中で散々「れっとーしゅ」と言われて差別され続け、最終的に、無惨にも民族浄化されてしまった植物型妖精たちの総意でもあった。
その最後の生き残りが、抗う。
この村、そして最終的には、この世からの排除という避けられない運命から逃れようと、もがく。
ガブリッ！！
ナイフを離したズンちゃんは、咆哮した勢いのまま、おさずんの首元に噛みついた。
さながら、肉食獣が草食獣の息の根を止めるように……
「のだあああああっ！はなしぇ！はなしぇ！れっとーしゅ！！のーだ、のだのだ……こんなこうげき、やばんなれっとーしゅにふさわしいのだ……！！いぢゃいいぢゃい！」
小さな歯で噛みつかれながらも嘲るおさずんだったが、その動きはだんだんと弱っていく。
元来、妖精族の先祖の決闘方法は、野生動物と何ら変わりはなかった。負けたものが、首を噛まれて窒息して、命を落とす。そんな約束事が、かつては存在していたのだった。
「のだあああ”あ”あ”っ……く、くるち、くるち……く、くちょ、“もりのけんじゃ”、である、ぼくが、こんな、れっとーしゅ、なんかに……」
もがき続けていたおさずんの四肢が、硬直してピンと張り詰める。
もう少しだ。
「ふうううぅ……ふううううううっ！ぐうっ！？」
ぶしゅっ！
最後の力を振り絞って首を噛み続けるズンちゃんだったが、先ほどの格闘で傷口が開いたのか、首元から大量の血液を噴出し、おさずんの首から口を離して倒れこんでしまう。
「ぐううぅ……ぐううながあああああああああっ！！」
それでも、おさずんと刺し違える覚悟で、再び懸命に起き上がろうとする。
「……もうやめて！ズンちゃん！！こんな奴のためにズンちゃんが死ぬことなんて、ないんだよっ！！」
駆け寄ったセツが、傷口を必死に押さえて止血を試みる。その手のぬくもりに触れ、ズンちゃんが優しい顔に戻った。
「はあああ！はああ、はあ、はあ……おねーさん、ありがとうなのだ……」
「辛かったね、痛かったよね、ズンちゃん…でも、こいつは、ズンちゃんが命を落としてまで殺すような奴じゃないよっ……あとは、ウチに任せて」
じゅぽっ！
セツは、覚悟を決めた目で、おさずんの股間に刺さったナイフを抜く。
「お、おねーさん…？」
「…これは人間の勝手なエゴなんだ。でもね、ウチ、ズンちゃんには、優しいままでいてほしいの…」
「やさしい、ままで……？」
「ズンちゃんがこいつを殺しちゃったら、優しいズンちゃんはあとで絶対、自分が妖精を殺したことで責任を感じちゃう。ズンちゃんは、そんなに思い詰めなくていいし、こいつは最終的に、人間が駆除した……ってことで、いいでしょっ？」
「かまわないのだ、まきこんじゃってごめんなさいなのだ……」
「いいのよ」
止血処置をしたズンちゃんを、おさずんのそばに置き、ナイフをおさずんの心臓にぴったりと合わせるセツ。
「ズンちゃん。最後、殺す前に、何かこいつに伝えたいことはあるっ……？」
「ボクは……」
「ひゅうっ……ひゅううっ……」
呼吸を整えたズンちゃんは、気管を圧迫されたために不安定な呼吸を繰り返して横たわるおさずんへ語り掛ける。
「ボクたちは、おまえたちにされたことをぜったいにゆるさないのだ。ボクは……ううぅっ」
また、涙をあふれさせるズンちゃん。ゆっくりでいいんだよ、とセツが声をかける。
「ボクは……ボクは、おなじようせいとして、おまえたちとわかりあえるとおもったのだ。しゅぞくがちがっても、いっしょにいきていければ、それでよかったのだ……」
「れっ、とー、しゅ……くつ、じょく、なのだ……」
絞り出すように反論するおさずん。ズンちゃんは、無視して続ける。
「だけど、だけどわかったのだ！おまえたちはボクたちとはあまりにも、ちがうかんがえをもっているのだ！それをなによりもおまえがしょうめいしてしまったのだ！おさずん……ボク、かなしいのだ、つらいのだ！どうして、どうしてボクのなかまをっ、ははうえをっ、おとうとをっ！！」
「れっ、とー、しゅ。れっ、とー、しゅ……」
「かえせっ！！かえせよおおおおおおおっ！！ボクのたいせつなものっ、かえせよおおおおおおおおおおおおおっ！うわあああああああああああああああああんっ！！」
うわごとのように呻くおさずんを揺さぶって泣き出すズンちゃん。ズンちゃんは、健気にも、妖精たちとわかり合おうとしていた。だが、妖精たちの方が、ズンちゃんを頑なに拒絶し続けたのであった。
泣き疲れて落ち着いたズンちゃんは、最後にこう言った。
「……おさずん。おまえがなんといおうと、ボクはにんげんさんときょうりょくしていく。それが、ボクがただしいみちだとしんじているからなのだ……」
「……気は済んだ？ズンちゃん」
「もう、だいじょうぶなのだ」
「頑張ったね、ズンちゃん……」
セツは優しく微笑むと、次に激しい憎悪の表情をたぎらせてナイフを振り上げる。
「へ、へこぉ……へこへこお……」
「ずんぽ」を失ったおさずんは、最期に、決して叶わない欲望を口にする。ズンちゃんの言葉は、まるで届いていなかった。
ざくっ！ぶしゅっ！どしゅっ！！ぐちゃあっ！ぎゅちゅうっ！！
「へこへこぉのばあ”っ……」
おさずんの体液や臓物がその可憐な顔に飛び散るのも構わず、セツは行き場のない怒りとともに、ナイフを振り下ろし続けた。
「……やくそくなのだ、むらへいくのだ」
おさずんは、セツによって完全に肉塊へと姿を変えた。涙も涸れ果て、目をどす黒くしたズンちゃんが、おもむろにつぶやく。
「ズンちゃん、もういいんだよっ……そんな約束なんて」
「おねーさん、ちがうのだ……ボクが、いきたいのだ…」
「セツ。ズンちゃんの願いだ………村に行こう」
「おにーさん、おねーさん、わがままきいてくれてありがとうなのだ……」
ぶおおおおおおおおおおおおおん！！
ふたりと1匹を乗せたバイクが、山道を駆けあがっていく。
「……遅いぞっ！セイタあああああっ！！」
「のだっ！？くちょにんげん、まだいるのだ……？」
妖精の村まで到着すると、仲間たちが不満そうに出迎える。
妖精の死臭が、村の中に充満していた。
「すまん、ここの“おさ”とやらが、庭まで入って来てな……」
「こいつら、リーダーを変えてやがったのか！！変わったところでクズが変わるわけでもねえのによお……！！」
憤る男たちは、やがて、セイタロウの後ろに立ち尽くすセツを見て言葉を失う。
その腕に抱かれるのは、真っ黒な目をしたズンちゃん。
「せ、せっちゃんまでここに来たのかよっ！？……ズンちゃんも、ダメだって……」
「……ボクがむりをいったのだ。ごめんなさいなのだ……」
「い、いや、ズンちゃんが謝ることじゃねえんだけど……っ」
高校生たちは、この惨状を、ズンちゃんにだけは見てほしくなかった…
ズンちゃんの仇討ちというタテマエがあるとはいえ、彼らがやっていることは、感情に任せた「虐殺」以外の何物でもないという自責の念があったからだ。
実際にその現場を見ていなくても、地面のあちこちに散乱している妖精の残骸や血糊を見れば、どれだけ激しいことがおこなわれていたか推し量られるというものだった。
「ズンちゃん……なあ、これが終わったら俺たちを殺してくれても構わない……ただ、俺たちは、こいつらをどうしても許せなかったんだよっ！！」
ズンちゃんの前に跪いてヤマが涙をこぼす。他の男たちも、慌ててヤマに倣って土下座した。
ややあってズンちゃんはポツリと答える。
「おにーさんたち……ボクのせいで、こんなことにまきこんでしまってもうしわけないのだ……」
「俺たちこそすまないっ！！こいつらが乗っ取っていたって言っても、この村、もともとはズンちゃんの大事な住処だったんだろっ！？それを、こんな風に……」
「もう、いいのだ……ボクは、このむらに、あいそがつきたのだ……だから、おにーさんたちにまかせるのだ……ボクは、もうつかれたのだ…」
寂しく笑うズンちゃん。もはや、生気は抜けつつあるようだった。
ズンちゃんは、庭で、自分の言葉が元・おさずんに届かなかったことで酷く心を痛めていたのだった。二度と分かり合えない辛さ。何を言っても、もう失ったものは戻ってこない悲しさ…
負の感情が、ズンちゃんを支配していた。
「ズンちゃん…行こっ」
セツが、妖精たちからズンちゃんを遠ざけるように村の中心部へと歩みを進める。
「…ほんとうなら、ボクたちのしゅぞくがこのむらをつくったころに、おねーさんをあんないしたかったのだ…」
目に映る景色を眺めながら、かつての自分の記憶と重ね合わせるズンちゃん。
あの頃は、何もかもが輝いて見えていた。未来への希望もあった。
だが、今はどうだ。胎生型妖精たちの台頭によって木々は葉を落とし、木の幹はその形を変え、木のうろ等は妖精たちのフン尿によって、見るも無残な姿へと変わり果てている。
自分たちが苦労して編んだ家は、バラバラに蹴り壊されてしまった。もはや、植物型妖精の生きた痕跡は、残っていないも同然であった。
これが、本当の民族浄化であった。ささやかに暮らしていた者たちが、そこで確かに生きていたという「事実」、そのものを否定するのである。
高校生たちは、仕上げの作業に入る。おさずんを掴んだままのテツが足を振り上げる。
「おいくちょにんげん！！もうぼくたちだけでもたすけるのだ！めいれいなのだ！！」
「“民族浄化”って言ったよなあっ！？てメーら、勘違いしてんじゃねえっ！！みんな、ズンちゃんにやってきたことを後悔しながら死んでいけよおおおおおおっ！！」
ぐちゃ！ぐちゃ！ぐちゃ！ぐちゃっ！
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
テツはますます数が減った妖精を、さらに憎悪を込めて踏み潰す。やがて、地面では、10匹の妖精だけが生き残っている状態となった。
テツに持ち上げられているおさずんを含めれば、11匹。
彼らは知らず知らずのうちに、植物型妖精たちの殺される場面を追体験していたのであった…立場を、完全に入れ替えて。
「これが、ズンちゃんの仲間を殺した武器か…かわいそうに、こんなテキトーな武器で殺されたんじゃあな……っ！！」
マサルが、木のうろに隠してあった妖精たちの石器を取り出して吐き捨てる。
「く、くちょにんげん！それはしんせいなぶきなのだ！きたないてでさわるなんてぶれいなのだあああああああああ！！」
「ほおお〜っ！？」
カイが、妖精に顔を近づけて詰め寄る。たまらず、後ずさりする妖精たち。
「ならっ、俺たちも敬意を払って、人間の武器じゃなく、この神聖な武器とやらで、てメーらをなぶり殺しにしてやるよおおおおおおおっ！！」
どすっ、カランカラン……
自分たちの武器を投げ捨てた高校生たちは、ひとり1つ、石器を手に取り、妖精たちの背後に立った。
「く、くちょにんげん、なにするつもりな……」
「こうするつもりだよおおおおおっ！！」
がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！
「あぎゃああ、あ、あ、あ、にょ、だ、あ、あああっ！！」
「おぎゅい、い、い、い、いや、あああああああ！！」
「ゆ、ん、や、ああああああああああっ！！」
「ぐぼろ、ろ、ろ、ろい、ろゅちゃあああああっ！！」
…………
妖精たちの手製の石器は、お世辞にも切れ味が良いとは言えなかった。人間の力であっても妖精を即死させることが出来ず、妖精たちは自らの頭蓋がだんだんと砕かれていくのを感じながら、苦痛のままに死んでいった。
「あっ！れっとーしゅ！れっとーしゅがいるのだ！！」
最後に生き残った3匹の妖精たちは、視界の端に、ズンちゃんを捉えた。仲良く固まって震えているこの3匹は、ズンちゃんを茂みに連れ込んで、犯罪者だと罵って羽交い締めにした妖精たちであった…
「おいれっとーしゅ！！かわいいずんちゃたちをたすけるのだあああああ！！」
「“もりのけんじゃ”であるぼくたちをおまもりするのだあああああ！それがぎむなのだあああああ！！」
「れっとーしゅ、こういうときくらい、つかえるようになるのだあああああ！！」
口々に喚きたてる妖精たち。
その言葉を聞いたズンちゃんが、ぴくっと震えて反応した。
「ズンちゃん、大丈夫だ……俺がやろう」
おもむろに立ち上がったのは、セイタロウだった。何も持たずに妖精たちへ近づいた彼は、妖精の1匹をむんずと掴み上げる。
「のだっ！？いちゃいいちゃい！くちょにんげん、おまえはよんでないちゃ！うせるのだ！」
「黙れ…ズンちゃんだって、この村にお前らはお呼びじゃないだろうよっ！！」
「ど、どうしてちゃ……？だって、このむらは、もともと、ぼくたちのもの……」
ぐちゅちゅっ！！
「のぢゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
セイタロウは、鬼のような形相で1匹目を潰した。
「うわあああああああああ！おにーちゃ！おにーちゃ！！」
残った2匹がパニックを起こして泣き始める。セイタロウは、彼らを同時に掴み上げた。
「安心しろ、てメーらもすぐに“おにーちゃ”のところへ送ってやる…」
「いやなにょだ！いやなにょだ！！はなせ、はなしぃええええええ！！」
「ころすのはれっとーしゅだけでいいのだ！かわいいずんちゃたちはいきるのだあああ！！」
「少しは静かにしろ……ブチ殺すぞ……ゴミめら………！」
ぎゅぎゅぎゅ…ぶぴぴぴぴいいいっ！
「ぐごおおおおおおおっ！ずんちでりゅうううううう！」
「にょだあああああっ！ずんち、ずんちいいいいいぃぃぃ！！」
静かにさせるつもりでセイタロウは妖精を握ったつもりだったが、妖精たちは腹を刺激され、喚きながら大量のフンを垂れ流した。
「てメーら……もはや謝って済むような問題じゃあないが……ズンちゃんに、何か、言うことはないのかっ！？それを本心から言えたなら……」
「ほ、ほんとなのだくちょにんげん！？ずんちゃたちをころさないのだ！？」
「“もりのけんじゃ”のすごさをわかっているなんて、いいくちょにんげんなのだ！！」
「セイタよお……御託はいいから早く殺せよお……っ！！」
見ている仲間たちは、フラストレーションが溜まりに溜まって爆発寸前であった。
「……で、なにをいえばいいのだぁ？」
「ズンちゃんへの謝罪だっ！！“れっとーしゅ”なんて呼んでごめんなさい、本当の“れっとーしゅ”は僕たちです、これから責任を取って殺されます、って言えばいいんだ……簡単だろぉがよおおおおおおおっ！？」
「ふ、ふざけるなくちょにんげん！！そんなこと、いえるわけが……」
「俺はふざけてなんかいないぜ……謝罪の言葉を言えないなら、今ここで殺す。たとえ言えたとしても、問答無用で殺すけどなあああああああっ！！」
「くちょにんげんんんんんん！！ずんちゃたち、たすけるって、いっただろおおおおおおお！！」
「ヤマがさっき言ったはずだっ。てメーらに与える慈悲は1ミリもねえんだよっ！！このクズ妖精がああああああっ！！ほら謝れよおおおおおおおおおおおおおおおっ！！」
「かとーせいぶつううううううう！！れっとーしゅうううううううううっ…」
ぶちゅびゅちゅっ！ぎゅちゃちゅううっ！！
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
残響を山に響かせ、2匹は同時に息絶えた。
「終わったな……さてと、テツ」
「……ああ」
握り潰した妖精の死体を手から放り捨てたセイタロウは、テツに押さえつけられながら歯をむき出して威嚇するおさずんへと歩み寄る。
「さあ、てメーひとりだけになったぞ……俺たちの民族浄化も、てメーを殺せば終わるんだ……」
「ゆ、ゆるせないのだくちょにんげん！！かってなりゆうで、ぼくたちのしあわせをめちゃくちゃにしたなあああああっ！！」
「そのセリフ、そっくりそのままてメーに返してやるよっ！！さっきから言ってるように、てメーらは、勝手な理由で、何の罪もないズンちゃんたちの幸せをめちゃくちゃにしたんだっ！！その自覚はあるのかよおおおおおおっ！？」
「つみもない、なのだ？のーだのだのだのだ！のーだのだのだのだ！！」
狂ったように高速で体を伸び縮みさせ、笑い出すおさずん。その顔には、汚らしい笑みが浮かんでいる。
「これだからくちょにんげんはばかなのだ！！れっとーしゅは、ぼくたちのまえにそんざいしつづけること、そのものがつみなのだ！！だから、ぼくたちのやったことは、ただしいのだ！！ぼくたちは、“もりのけんじゃ”として、れっとーしゅのしあわせを、め ち ゃ く ち ゃ に し て あ げ た の だ ！」
「……は？」
男たちは唖然とする。おさずんの言い分は、まるで、旧時代的な……
自分たちの価値観と違うから、殺す。
自分たちと信じる神が違うから、殺す。
自分たちと話す言葉が違うから、殺す。
自分たちと肌の色が違うから、殺す。
そして、優れた自分たちこそが、劣った民族…………“劣等種”を、
救済してあ げ る 。
布教してあ げ る 。
教育してあ げ る 。
殺 し て あ げ る 。
…………
かつての人間が、平気でおこなっていたこと…………それよりも、もっと酷いものを想起させた。
げしっ！
「うぐっ！？」
あまりにも常軌を逸したおさずんの言葉に、高校生たちはたじろいでいた。その隙を逃さず、おさずんがテツを蹴り飛ばして、彼の腕の中から脱出する。
「ばいばい、くちょにんげん！ぼくのかちなのだああああああ！！」
「こいつっ！逃げやがった……！！」
おさずんは、自分の戦利品であるいなり寿司を忘れずに抱えると、背中を向けて一目散に逃げ出す。もはや、人間がジャンプしても届かない高度まで昇ってしまっていた。
だが、その首元に、突き刺さったものがあった。
ズバゥ！！
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
おさずんの首元の飛行器官を狙い違わず撃ち抜いたのは、元・おさずんが得物にしていた虫ピン……
それを投げたのは、セツの元を離れて駆けだしたズンちゃんであった。
「いちゃい！！そ……そんな……えい、えい！！」
村の入り口付近へ力なく墜落したおさずんは、再び飛び上がろうと必死で体を伸び縮みさせるが、もはや浮かぶことは叶わない。
地面で体液を噴き出しながらもがくおさずんに、ズンちゃんがゆっくりと近づく。
「ズ……ズンちゃん……っ！？」
男たちは、飛べなくなったおさずんを一気に虐殺するつもりだったが、ズンちゃんの出す圧倒的な雰囲気に気圧され、動けないでいた。
目を真っ黒に染めたズンちゃんは、無言でおさずんの横に立つ。
はぐちゃむ……ちゃくちゃっく……
「おいち、おいち、おいち、おいち……」
まるでズンちゃんなど、気にも留めない様子で、いなり寿司を食べ始めるおさずん。
それが、彼なりの、ズンちゃんに対する自分の尊厳を保ち続ける方法であった。
「……かえすのだ」
「おいち、おいち、おいち、ぐちゃぐちゃ……」
ズンちゃんが、低い声でつぶやく。おさずんは、構わずいなり寿司を貪り続ける。
「そのおいなりさんは、おにーさんのははうえがだいじにしていたものなのだ……おまえなんかが、うばっていいものじゃないのだ……っ！！」
「ズンちゃん……俺の話を覚えていたんだなっ……」
セイタロウは、心打たれた。自分を傷つけた俺なんかのために、ズンちゃんが戦ってくれている……
「……かえせっ！！」
ズンちゃんが絶叫した。ついにおさずんは無視するのをやめ、ゆっくりとズンちゃんの方を向いて歯をむき出す。
「かえせ、なのだ…？れっとーしゅが、このぼくにめいれいするなんて、なまいきなのだ……」
「……おまえは、おまえたちは、ほかのいきもののしあわせをうばうことしかできない！！ボクは、もう、おまえたちを、おなじようせいとしてみとめたくないのだ！！」
ズンちゃんが叫び、おさずんの首元から虫ピンをずぼっと抜き取った。
「いぢゃい！！……おいれっとーしゅ、なにするつもりなのだ！！」
「だから、ほかのいきもののしあわせをまもるために、ボクがいま、おまえをころすのだっ！！」
「ぼ、ぼくをころしたら、もりじゅうのぼくのなかまがおまえをころしにくるのだ！れっとーしゅなんて、もののかずではないのだ！ころされたくなかったら、あきらめてぼくをにがすのだああああああ！！」
ズンちゃんの覚悟を持った目を見たおさずんが、露骨に狼狽してもがく。
しかし、ズンちゃんはもう躊躇しない。たとえこの後自分が殺されるとしても、民族浄化を実行したこの村の胎生型妖精の最後の生き残りを、生かしておくわけにはいかなかった。
「これからにどと、ほかのいきもののしあわせをうばって、むさぼってほしくないのだ」
「くちょれっとーしゅうううううう！！…………おいち、おいち！！おいち、おいち！！」
虫ピンを振り上げるズンちゃん。おさずんは、またも現実逃避をするように、目の前のいなり寿司にかぶりつく。
ぶしゅっ…………
「おいち、おいぢああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」
虫ピンで心臓を貫かれてもなお、生への欲望にしがみつくように、長い長い絶叫をするおさずんだったが、やがてその体が力を失い、くずおれた。
こうして、この村の胎生型妖精は全滅した。
植物型妖精の生き残りと、人間たちによる「民族浄化」が、今まさに、完了されたのだった。
それの決定打を叩き込んだのは、他でもない、ズンちゃんであった……
「ズ、ズンちゃん……っ！」
セツが呆然と立ち尽くす。ズンちゃんは、自分の手で、決着をつけた。
つまり、自分の意志で、妖精を殺した。
小さな反撃を、そしてささやかな復讐を、果たしたのだった。
だが、ズンちゃんが失ったものは、あまりにも大きかった…………
セツがズンちゃんに求めていた「優しい心」は、もはや消え去ったかのように思えた。
だが、ゆっくりと人間たちの方に向き直ったズンちゃんは、大きく震え始める。
それは、あまりにも小さい命。風が吹けば飛んで行ってしまいそうな、儚い命。
「う」
悲しみで光を失った黒い目から、涙が静かに零れ落ちる。
「ううぅ……」
ズンちゃんの優しい心は、あまりにも大きすぎる悲しみに圧し潰されていた。
じゅぽっ……
おもむろにその手が動き、死んだおさずんの心臓から、虫ピンを抜き取った。
「ううううううう……」
そして、震える腕を自分の前に回すと、虫ピンの先端を、自らの心臓のある場所へとあてがった。
彼が何をしようとしているか察した人間たちは、一斉に駆け寄る。
「ズンちゃん！！やめてぇっ！！」「やめてくれえええええええええっ！！」
だが、もう遅い。涙を流し続けるズンちゃんは、最期に、精一杯の笑顔を見せた。
最後に、弱い自分の味方となって、妖精たちと戦ってくれた愛すべき人間たちへと……
セイタロウ、テツ、カイ、ヤマ、マサル、タカシ。
そして、セツ…………
…………だいすきな、おねーさん。
「ありがとう、なのだ……」
あとちょっと、あとちょっとだけ続けさせてください………次回、最終回です！！
ヘイト溜めるための文章は時間をかけて丁寧に描きがちなんですが、いざ×殺パートになると筆がめっちゃ進むんですよね……
お見苦しい箇所等ありましたら申し訳ございません。
〜前回までのあらすじ〜
ズンちゃんは、絶体絶命のところでセツ（おねーさん）に助けられ、治療を受ける。ズンちゃんを殺そうとしたセイタロウ（おにーさん）は、妖精の中にも優しい種類がいるということに気づき、ズンちゃんに謝罪した。セイタロウの仲間たちは、ひと足先に妖精の村を襲い、ズンちゃんら植物型妖精の仇討ちを開始する。それでも、罪を認めない胎生型妖精たちのあまりにも尊大な態度に怒った彼らは、虐殺をエスカレートさせ、気づけば妖精の殆どを殺してしまっていた。一方、飛べなくなったズンちゃんの前に、「ずんぽ」を失って村を追い出された元・おさずんが飛来したのであった……
民族浄化��
「……ズンちゃん、あいつがお前の種族をめちゃくちゃにした張本人か…？」
「そうなのだ、おさずんは、ずっとボクたちをさべつしつづけてきたのだ…」
憎しみの感情をあらわにして、おさずんをにらみつけるズンちゃん。その体を、おさずんから守るように、セツが自分の後ろへと隠す。
「くちょにんげん、ぼくはいまおこっているのだ！！さっさとそのごはんさんをよこすのだ！！」
人間がいるのを発見したおさずんは、大量の果物が入った段ボール箱を指さす。
「誰がてメーなんかに……村はどうしたんだ、てメーらが卑劣な方法で乗っ取ったんじゃあねえのかよっ！？」
飛び出しナイフを構え、セイタロウが吐き捨てる。
おさずんは、セイタロウの言葉に顔を歪めると、早口でまくしたてた。
「だまれくちょにんげん！！ぼくは、れっとーしゅによってだいじなずんぽをかまれて、そのせいであいつらからさべつされて、むらをおいだされたのだあああああああ！！」
おさずんの股間には、大きな傷が出来ていた。
「何だよずんぽって……チ×ポのことかぁっ！？は〜っはっはっはっはっ！！」
「な、なにがおかしいのだくちょにんげん！！そのきたないわらいをやめるのだ！！」
腹を抱えて笑い始めるセイタロウ。そして、冷たい目でおさずんを再びにらむ。
「てメーらは、チ×ポがないだけで仲間を差別するような奴らなのかっ！！……散々ズンちゃんを差別していたてメーが、今度は差別されてどんな気分だよっ！？まったく、自業自得もいいところだぜっ！！だが、てメーとは違って、何の理由もなしに差別されて、仲間を殺されて、村を追い出されるズンちゃんの気持ちが、わかるのかあああああああっ！？」
おさずんに突進しようとするセイタロウ。セツの後ろから飛び出したズンちゃんは、その靴を掴んで、静かに言った。
「おにーさん、ありがとうなのだ……あとは、ボクがやるのだ！」
「お、おまえはれっとーしゅ……！！」
目の前に姿を現したズンちゃんに、驚きを隠せないおさずん。「ごはんさん」と「くちょにんげん」だけを見ていて、その存在に気が付かなかったようだ。
「おま、おまえのせいで！！おまえのせいでぼくはこんなことになったのだああ！！ぼくのずんぽ、かえせええええええ！！」
「…そのことば、そのままおかえしするのだ……おさずん。おまえたちがボクたちをずっとさべつして、ころしたから、ボクは、ボクは……」
「だまれ、れっとーしゅ！！どうしてくちょにんげんといっしょにいるのだ！？やっぱりおまえはうらぎりものなのだ、はんざいしゃなのだ！！」
「ボクは、おまえにいった。にんげんさんときょうりょくしなければ、むらにみらいはないと…！ここのにんげんさんたちは、とってもやさしくていいひとしかいないのだ！りゆうもなくボクたちをさべつするおまえたちなんかとはおおちがいで、はるかにすぐれているのだ！！」
ズンちゃんは、あの村で、自分の言ったことが正しいことであると確信した。人間から食物を奪って初めて生活が成り立つようでは、もはや妖精族全体の危機と言ってもよかった。
「れっとーしゅ！おまえはばかだからだまされているのだ！くちょにんげんが、やさしいなんてことはないし、ぼくたちよりすぐれていることなんてないのだ！」
「どうしても、ボクのかんがえになっとくしてくれないのだ…？にんげんさんときょうりょくしていけば、みんながしあわせになれるとおもうのだ…」
「ぼくのそうぞうしていたよりも、おまえはどこまでもすくえないれっとーしゅなのだ！！ぼくたち“もりのけんじゃ”は、かとーせいぶつときょうりょくするなんてばかなことはしないのだ！！くちょにんげんは、ぼくたちのどれーとして、“もりのけんじゃ”のためにはたらくべきなのだ！！おまえのようなれっとーしゅもれっとーしゅらしく、さいごはおとなしくぼくたちにころされるべきなのだ！！」
まさしく、禅問答であった。権力の象徴である「ずんぽ」を失っても、まだおさずんの、もとい胎生型妖精の強大な自尊心は健在のようだった。
おさずんの言葉に、怒りで体を震わせたズンちゃんは、一歩、一歩と歩みを進める。
ケガが完全には治っていないので、足取りは重い。
「のだぁ？このぼくとたたかおうなんて、なまいきなれっとーしゅなのだ……」
ぴょいっ、と浮かび上がったおさずんは、ゆっくり向かってくるズンちゃんを見て嘲笑う。
「のろま！のろまれっとーしゅ！！くやしかったらここまできてみるのだあああ！！」
ズンちゃんは、飛び上がっておさずんを叩き落としたい気持ちだった。だが、今の彼にはそれが出来ない……
彼の首の包帯に気が付いたか、勝ち誇ったおさずんが体を上下に伸び縮みさせながら、高らかに笑った。
「のーだのだのだのだ！！こいつ、そらまめさんをつぶされてとべないのだ！！のーだのだのだのだ！！れっとーしゅにはじべたがおにあいなのだ！！ほら、ふーりふーり、ふーりふーり！なのだああああああ！！」
「ううっ……！！」
空中でお尻を振る、届かない敵をにらんで呻くズンちゃん。その時であった。
びゅっ！！
「ズンちゃん！！これを！！」
タイマンに手出しするつもりはなかったが、自分のつけた傷のせいでズンちゃんが飛べずに苦しんでいる。それを放っておけるようなセイタロウではなかった。
ズンちゃんが、パスされた飛び出しナイフをキャッチする。彼の意図を瞬時に読み取ったようで、素早く刃を展開すると、おさずんめがけて勢いよく投げた。
ばちんっ、びゅん！ぐちゃあっ！！
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
おさずんの股間の傷に、深々と突き刺さるナイフ。
勢いよく体液を噴出させたおさずんは、絶叫して地面へと落ちる。
「ま、またずんぽがああああ！！く、くちょれっとーしゅ！！ころす！ころ……」
「うおおああああああああああああっ！！」
起き上がろうとしたおさずんに、雄たけびをあげたズンちゃんが襲い掛かり、2匹は激しく取っ組み合い、地面を転げまわる。
植物型妖精の若い個体と、胎生型妖精の成体との体格差は歴然としていたが、民族浄化を受けたズンちゃんの果てしない怒りが、彼を突き動かしていた。
ぐぐぐぐぐ……
「ああああああああああ！！いぢゃいい！いぢゃいよおお！！」
「ボクたちは、ただ、ひっしにいきていただけなのにっ！どうしてなのだっ！どうして、ボクたちのしゅぞくをめちゃめちゃにしてころしたのだああああ！！」
おさずんを再び地面に転がして叫ぶズンちゃんは、おさずんの股間に刺さったままのナイフに力を入れて、さらに奥深くまでねじ込んだ。体液がどくどくと流れ、おさずんが激しく痙攣する。
だが、圧倒的劣勢でもなお、汚らしい笑みを浮かべるおさずん。
「な、なんどもいわせるななのだ……お ま え た ち が 、 れ っ と ー し ゅ だ か ら ……」
「うううううあああああああああああああああああああああああああっ！！」
ついに、ズンちゃんの感情が爆発する。
その咆哮は、村の中で散々「れっとーしゅ」と言われて差別され続け、最終的に、無惨にも民族浄化されてしまった植物型妖精たちの総意でもあった。
その最後の生き残りが、抗う。
この村、そして最終的には、この世からの排除という避けられない運命から逃れようと、もがく。
ガブリッ！！
ナイフを離したズンちゃんは、咆哮した勢いのまま、おさずんの首元に噛みついた。
さながら、肉食獣が草食獣の息の根を止めるように……
「のだあああああっ！はなしぇ！はなしぇ！れっとーしゅ！！のーだ、のだのだ……こんなこうげき、やばんなれっとーしゅにふさわしいのだ……！！いぢゃいいぢゃい！」
小さな歯で噛みつかれながらも嘲るおさずんだったが、その動きはだんだんと弱っていく。
元来、妖精族の先祖の決闘方法は、野生動物と何ら変わりはなかった。負けたものが、首を噛まれて窒息して、命を落とす。そんな約束事が、かつては存在していたのだった。
「のだあああ”あ”あ”っ……く、くるち、くるち……く、くちょ、“もりのけんじゃ”、である、ぼくが、こんな、れっとーしゅ、なんかに……」
もがき続けていたおさずんの四肢が、硬直してピンと張り詰める。
もう少しだ。
「ふうううぅ……ふううううううっ！ぐうっ！？」
ぶしゅっ！
最後の力を振り絞って首を噛み続けるズンちゃんだったが、先ほどの格闘で傷口が開いたのか、首元から大量の血液を噴出し、おさずんの首から口を離して倒れこんでしまう。
「ぐううぅ……ぐううながあああああああああっ！！」
それでも、おさずんと刺し違える覚悟で、再び懸命に起き上がろうとする。
「……もうやめて！ズンちゃん！！こんな奴のためにズンちゃんが死ぬことなんて、ないんだよっ！！」
駆け寄ったセツが、傷口を必死に押さえて止血を試みる。その手のぬくもりに触れ、ズンちゃんが優しい顔に戻った。
「はあああ！はああ、はあ、はあ……おねーさん、ありがとうなのだ……」
「辛かったね、痛かったよね、ズンちゃん…でも、こいつは、ズンちゃんが命を落としてまで殺すような奴じゃないよっ……あとは、ウチに任せて」
じゅぽっ！
セツは、覚悟を決めた目で、おさずんの股間に刺さったナイフを抜く。
「お、おねーさん…？」
「…これは人間の勝手なエゴなんだ。でもね、ウチ、ズンちゃんには、優しいままでいてほしいの…」
「やさしい、ままで……？」
「ズンちゃんがこいつを殺しちゃったら、優しいズンちゃんはあとで絶対、自分が妖精を殺したことで責任を感じちゃう。ズンちゃんは、そんなに思い詰めなくていいし、こいつは最終的に、人間が駆除した……ってことで、いいでしょっ？」
「かまわないのだ、まきこんじゃってごめんなさいなのだ……」
「いいのよ」
止血処置をしたズンちゃんを、おさずんのそばに置き、ナイフをおさずんの心臓にぴったりと合わせるセツ。
「ズンちゃん。最後、殺す前に、何かこいつに伝えたいことはあるっ……？」
「ボクは……」
「ひゅうっ……ひゅううっ……」
呼吸を整えたズンちゃんは、気管を圧迫されたために不安定な呼吸を繰り返して横たわるおさずんへ語り掛ける。
「ボクたちは、おまえたちにされたことをぜったいにゆるさないのだ。ボクは……ううぅっ」
また、涙をあふれさせるズンちゃん。ゆっくりでいいんだよ、とセツが声をかける。
「ボクは……ボクは、おなじようせいとして、おまえたちとわかりあえるとおもったのだ。しゅぞくがちがっても、いっしょにいきていければ、それでよかったのだ……」
「れっ、とー、しゅ……くつ、じょく、なのだ……」
絞り出すように反論するおさずん。ズンちゃんは、無視して続ける。
「だけど、だけどわかったのだ！おまえたちはボクたちとはあまりにも、ちがうかんがえをもっているのだ！それをなによりもおまえがしょうめいしてしまったのだ！おさずん……ボク、かなしいのだ、つらいのだ！どうして、どうしてボクのなかまをっ、ははうえをっ、おとうとをっ！！」
「れっ、とー、しゅ。れっ、とー、しゅ……」
「かえせっ！！かえせよおおおおおおおっ！！ボクのたいせつなものっ、かえせよおおおおおおおおおおおおおっ！うわあああああああああああああああああんっ！！」
うわごとのように呻くおさずんを揺さぶって泣き出すズンちゃん。ズンちゃんは、健気にも、妖精たちとわかり合おうとしていた。だが、妖精たちの方が、ズンちゃんを頑なに拒絶し続けたのであった。
泣き疲れて落ち着いたズンちゃんは、最後にこう言った。
「……おさずん。おまえがなんといおうと、ボクはにんげんさんときょうりょくしていく。それが、ボクがただしいみちだとしんじているからなのだ……」
「……気は済んだ？ズンちゃん」
「もう、だいじょうぶなのだ」
「頑張ったね、ズンちゃん……」
セツは優しく微笑むと、次に激しい憎悪の表情をたぎらせてナイフを振り上げる。
「へ、へこぉ……へこへこお……」
「ずんぽ」を失ったおさずんは、最期に、決して叶わない欲望を口にする。ズンちゃんの言葉は、まるで届いていなかった。
ざくっ！ぶしゅっ！どしゅっ！！ぐちゃあっ！ぎゅちゅうっ！！
「へこへこぉのばあ”っ……」
おさずんの体液や臓物がその可憐な顔に飛び散るのも構わず、セツは行き場のない怒りとともに、ナイフを振り下ろし続けた。
「……やくそくなのだ、むらへいくのだ」
おさずんは、セツによって完全に肉塊へと姿を変えた。涙も涸れ果て、目をどす黒くしたズンちゃんが、おもむろにつぶやく。
「ズンちゃん、もういいんだよっ……そんな約束なんて」
「おねーさん、ちがうのだ……ボクが、いきたいのだ…」
「セツ。ズンちゃんの願いだ………村に行こう」
「おにーさん、おねーさん、わがままきいてくれてありがとうなのだ……」
ぶおおおおおおおおおおおおおん！！
ふたりと1匹を乗せたバイクが、山道を駆けあがっていく。
「……遅いぞっ！セイタあああああっ！！」
「のだっ！？くちょにんげん、まだいるのだ……？」
妖精の村まで到着すると、仲間たちが不満そうに出迎える。
妖精の死臭が、村の中に充満していた。
「すまん、ここの“おさ”とやらが、庭まで入って来てな……」
「こいつら、リーダーを変えてやがったのか！！変わったところでクズが変わるわけでもねえのによお……！！」
憤る男たちは、やがて、セイタロウの後ろに立ち尽くすセツを見て言葉を失う。
その腕に抱かれるのは、真っ黒な目をしたズンちゃん。
「せ、せっちゃんまでここに来たのかよっ！？……ズンちゃんも、ダメだって……」
「……ボクがむりをいったのだ。ごめんなさいなのだ……」
「い、いや、ズンちゃんが謝ることじゃねえんだけど……っ」
高校生たちは、この惨状を、ズンちゃんにだけは見てほしくなかった…
ズンちゃんの仇討ちというタテマエがあるとはいえ、彼らがやっていることは、感情に任せた「虐殺」以外の何物でもないという自責の念があったからだ。
実際にその現場を見ていなくても、地面のあちこちに散乱している妖精の残骸や血糊を見れば、どれだけ激しいことがおこなわれていたか推し量られるというものだった。
「ズンちゃん……なあ、これが終わったら俺たちを殺してくれても構わない……ただ、俺たちは、こいつらをどうしても許せなかったんだよっ！！」
ズンちゃんの前に跪いてヤマが涙をこぼす。他の男たちも、慌ててヤマに倣って土下座した。
ややあってズンちゃんはポツリと答える。
「おにーさんたち……ボクのせいで、こんなことにまきこんでしまってもうしわけないのだ……」
「俺たちこそすまないっ！！こいつらが乗っ取っていたって言っても、この村、もともとはズンちゃんの大事な住処だったんだろっ！？それを、こんな風に……」
「もう、いいのだ……ボクは、このむらに、あいそがつきたのだ……だから、おにーさんたちにまかせるのだ……ボクは、もうつかれたのだ…」
寂しく笑うズンちゃん。もはや、生気は抜けつつあるようだった。
ズンちゃんは、庭で、自分の言葉が元・おさずんに届かなかったことで酷く心を痛めていたのだった。二度と分かり合えない辛さ。何を言っても、もう失ったものは戻ってこない悲しさ…
負の感情が、ズンちゃんを支配していた。
「ズンちゃん…行こっ」
セツが、妖精たちからズンちゃんを遠ざけるように村の中心部へと歩みを進める。
「…ほんとうなら、ボクたちのしゅぞくがこのむらをつくったころに、おねーさんをあんないしたかったのだ…」
目に映る景色を眺めながら、かつての自分の記憶と重ね合わせるズンちゃん。
あの頃は、何もかもが輝いて見えていた。未来への希望もあった。
だが、今はどうだ。胎生型妖精たちの台頭によって木々は葉を落とし、木の幹はその形を変え、木のうろ等は妖精たちのフン尿によって、見るも無残な姿へと変わり果てている。
自分たちが苦労して編んだ家は、バラバラに蹴り壊されてしまった。もはや、植物型妖精の生きた痕跡は、残っていないも同然であった。
これが、本当の民族浄化であった。ささやかに暮らしていた者たちが、そこで確かに生きていたという「事実」、そのものを否定するのである。
高校生たちは、仕上げの作業に入る。おさずんを掴んだままのテツが足を振り上げる。
「おいくちょにんげん！！もうぼくたちだけでもたすけるのだ！めいれいなのだ！！」
「“民族浄化”って言ったよなあっ！？てメーら、勘違いしてんじゃねえっ！！みんな、ズンちゃんにやってきたことを後悔しながら死んでいけよおおおおおおっ！！」
ぐちゃ！ぐちゃ！ぐちゃ！ぐちゃっ！
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
テツはますます数が減った妖精を、さらに憎悪を込めて踏み潰す。やがて、地面では、10匹の妖精だけが生き残っている状態となった。
テツに持ち上げられているおさずんを含めれば、11匹。
彼らは知らず知らずのうちに、植物型妖精たちの殺される場面を追体験していたのであった…立場を、完全に入れ替えて。
「これが、ズンちゃんの仲間を殺した武器か…かわいそうに、こんなテキトーな武器で殺されたんじゃあな……っ！！」
マサルが、木のうろに隠してあった妖精たちの石器を取り出して吐き捨てる。
「く、くちょにんげん！それはしんせいなぶきなのだ！きたないてでさわるなんてぶれいなのだあああああああああ！！」
「ほおお〜っ！？」
カイが、妖精に顔を近づけて詰め寄る。たまらず、後ずさりする妖精たち。
「ならっ、俺たちも敬意を払って、人間の武器じゃなく、この神聖な武器とやらで、てメーらをなぶり殺しにしてやるよおおおおおおおっ！！」
どすっ、カランカラン……
自分たちの武器を投げ捨てた高校生たちは、ひとり1つ、石器を手に取り、妖精たちの背後に立った。
「く、くちょにんげん、なにするつもりな……」
「こうするつもりだよおおおおおっ！！」
がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！がんっ！
「あぎゃああ、あ、あ、あ、にょ、だ、あ、あああっ！！」
「おぎゅい、い、い、い、いや、あああああああ！！」
「ゆ、ん、や、ああああああああああっ！！」
「ぐぼろ、ろ、ろ、ろい、ろゅちゃあああああっ！！」
…………
妖精たちの手製の石器は、お世辞にも切れ味が良いとは言えなかった。人間の力であっても妖精を即死させることが出来ず、妖精たちは自らの頭蓋がだんだんと砕かれていくのを感じながら、苦痛のままに死んでいった。
「あっ！れっとーしゅ！れっとーしゅがいるのだ！！」
最後に生き残った3匹の妖精たちは、視界の端に、ズンちゃんを捉えた。仲良く固まって震えているこの3匹は、ズンちゃんを茂みに連れ込んで、犯罪者だと罵って羽交い締めにした妖精たちであった…
「おいれっとーしゅ！！かわいいずんちゃたちをたすけるのだあああああ！！」
「“もりのけんじゃ”であるぼくたちをおまもりするのだあああああ！それがぎむなのだあああああ！！」
「れっとーしゅ、こういうときくらい、つかえるようになるのだあああああ！！」
口々に喚きたてる妖精たち。
その言葉を聞いたズンちゃんが、ぴくっと震えて反応した。
「ズンちゃん、大丈夫だ……俺がやろう」
おもむろに立ち上がったのは、セイタロウだった。何も持たずに妖精たちへ近づいた彼は、妖精の1匹をむんずと掴み上げる。
「のだっ！？いちゃいいちゃい！くちょにんげん、おまえはよんでないちゃ！うせるのだ！」
「黙れ…ズンちゃんだって、この村にお前らはお呼びじゃないだろうよっ！！」
「ど、どうしてちゃ……？だって、このむらは、もともと、ぼくたちのもの……」
ぐちゅちゅっ！！
「のぢゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
セイタロウは、鬼のような形相で1匹目を潰した。
「うわあああああああああ！おにーちゃ！おにーちゃ！！」
残った2匹がパニックを起こして泣き始める。セイタロウは、彼らを同時に掴み上げた。
「安心しろ、てメーらもすぐに“おにーちゃ”のところへ送ってやる…」
「いやなにょだ！いやなにょだ！！はなせ、はなしぃええええええ！！」
「ころすのはれっとーしゅだけでいいのだ！かわいいずんちゃたちはいきるのだあああ！！」
「少しは静かにしろ……ブチ殺すぞ……ゴミめら………！」
ぎゅぎゅぎゅ…ぶぴぴぴぴいいいっ！
「ぐごおおおおおおおっ！ずんちでりゅうううううう！」
「にょだあああああっ！ずんち、ずんちいいいいいぃぃぃ！！」
静かにさせるつもりでセイタロウは妖精を握ったつもりだったが、妖精たちは腹を刺激され、喚きながら大量のフンを垂れ流した。
「てメーら……もはや謝って済むような問題じゃあないが……ズンちゃんに、何か、言うことはないのかっ！？それを本心から言えたなら……」
「ほ、ほんとなのだくちょにんげん！？ずんちゃたちをころさないのだ！？」
「“もりのけんじゃ”のすごさをわかっているなんて、いいくちょにんげんなのだ！！」
「セイタよお……御託はいいから早く殺せよお……っ！！」
見ている仲間たちは、フラストレーションが溜まりに溜まって爆発寸前であった。
「……で、なにをいえばいいのだぁ？」
「ズンちゃんへの謝罪だっ！！“れっとーしゅ”なんて呼んでごめんなさい、本当の“れっとーしゅ”は僕たちです、これから責任を取って殺されます、って言えばいいんだ……簡単だろぉがよおおおおおおおっ！？」
「ふ、ふざけるなくちょにんげん！！そんなこと、いえるわけが……」
「俺はふざけてなんかいないぜ……謝罪の言葉を言えないなら、今ここで殺す。たとえ言えたとしても、問答無用で殺すけどなあああああああっ！！」
「くちょにんげんんんんんん！！ずんちゃたち、たすけるって、いっただろおおおおおおお！！」
「ヤマがさっき言ったはずだっ。てメーらに与える慈悲は1ミリもねえんだよっ！！このクズ妖精がああああああっ！！ほら謝れよおおおおおおおおおおおおおおおっ！！」
「かとーせいぶつううううううう！！れっとーしゅうううううううううっ…」
ぶちゅびゅちゅっ！ぎゅちゃちゅううっ！！
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
残響を山に響かせ、2匹は同時に息絶えた。
「終わったな……さてと、テツ」
「……ああ」
握り潰した妖精の死体を手から放り捨てたセイタロウは、テツに押さえつけられながら歯をむき出して威嚇するおさずんへと歩み寄る。
「さあ、てメーひとりだけになったぞ……俺たちの民族浄化も、てメーを殺せば終わるんだ……」
「ゆ、ゆるせないのだくちょにんげん！！かってなりゆうで、ぼくたちのしあわせをめちゃくちゃにしたなあああああっ！！」
「そのセリフ、そっくりそのままてメーに返してやるよっ！！さっきから言ってるように、てメーらは、勝手な理由で、何の罪もないズンちゃんたちの幸せをめちゃくちゃにしたんだっ！！その自覚はあるのかよおおおおおおっ！？」
「つみもない、なのだ？のーだのだのだのだ！のーだのだのだのだ！！」
狂ったように高速で体を伸び縮みさせ、笑い出すおさずん。その顔には、汚らしい笑みが浮かんでいる。
「これだからくちょにんげんはばかなのだ！！れっとーしゅは、ぼくたちのまえにそんざいしつづけること、そのものがつみなのだ！！だから、ぼくたちのやったことは、ただしいのだ！！ぼくたちは、“もりのけんじゃ”として、れっとーしゅのしあわせを、め ち ゃ く ち ゃ に し て あ げ た の だ ！」
「……は？」
男たちは唖然とする。おさずんの言い分は、まるで、旧時代的な……
自分たちの価値観と違うから、殺す。
自分たちと信じる神が違うから、殺す。
自分たちと話す言葉が違うから、殺す。
自分たちと肌の色が違うから、殺す。
そして、優れた自分たちこそが、劣った民族…………“劣等種”を、
救済してあ げ る 。
布教してあ げ る 。
教育してあ げ る 。
殺 し て あ げ る 。
…………
かつての人間が、平気でおこなっていたこと…………それよりも、もっと酷いものを想起させた。
げしっ！
「うぐっ！？」
あまりにも常軌を逸したおさずんの言葉に、高校生たちはたじろいでいた。その隙を逃さず、おさずんがテツを蹴り飛ばして、彼の腕の中から脱出する。
「ばいばい、くちょにんげん！ぼくのかちなのだああああああ！！」
「こいつっ！逃げやがった……！！」
おさずんは、自分の戦利品であるいなり寿司を忘れずに抱えると、背中を向けて一目散に逃げ出す。もはや、人間がジャンプしても届かない高度まで昇ってしまっていた。
だが、その首元に、突き刺さったものがあった。
ズバゥ！！
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
おさずんの首元の飛行器官を狙い違わず撃ち抜いたのは、元・おさずんが得物にしていた虫ピン……
それを投げたのは、セツの元を離れて駆けだしたズンちゃんであった。
「いちゃい！！そ……そんな……えい、えい！！」
村の入り口付近へ力なく墜落したおさずんは、再び飛び上がろうと必死で体を伸び縮みさせるが、もはや浮かぶことは叶わない。
地面で体液を噴き出しながらもがくおさずんに、ズンちゃんがゆっくりと近づく。
「ズ……ズンちゃん……っ！？」
男たちは、飛べなくなったおさずんを一気に虐殺するつもりだったが、ズンちゃんの出す圧倒的な雰囲気に気圧され、動けないでいた。
目を真っ黒に染めたズンちゃんは、無言でおさずんの横に立つ。
はぐちゃむ……ちゃくちゃっく……
「おいち、おいち、おいち、おいち……」
まるでズンちゃんなど、気にも留めない様子で、いなり寿司を食べ始めるおさずん。
それが、彼なりの、ズンちゃんに対する自分の尊厳を保ち続ける方法であった。
「……かえすのだ」
「おいち、おいち、おいち、ぐちゃぐちゃ……」
ズンちゃんが、低い声でつぶやく。おさずんは、構わずいなり寿司を貪り続ける。
「そのおいなりさんは、おにーさんのははうえがだいじにしていたものなのだ……おまえなんかが、うばっていいものじゃないのだ……っ！！」
「ズンちゃん……俺の話を覚えていたんだなっ……」
セイタロウは、心打たれた。自分を傷つけた俺なんかのために、ズンちゃんが戦ってくれている……
「……かえせっ！！」
ズンちゃんが絶叫した。ついにおさずんは無視するのをやめ、ゆっくりとズンちゃんの方を向いて歯をむき出す。
「かえせ、なのだ…？れっとーしゅが、このぼくにめいれいするなんて、なまいきなのだ……」
「……おまえは、おまえたちは、ほかのいきもののしあわせをうばうことしかできない！！ボクは、もう、おまえたちを、おなじようせいとしてみとめたくないのだ！！」
ズンちゃんが叫び、おさずんの首元から虫ピンをずぼっと抜き取った。
「いぢゃい！！……おいれっとーしゅ、なにするつもりなのだ！！」
「だから、ほかのいきもののしあわせをまもるために、ボクがいま、おまえをころすのだっ！！」
「ぼ、ぼくをころしたら、もりじゅうのぼくのなかまがおまえをころしにくるのだ！れっとーしゅなんて、もののかずではないのだ！ころされたくなかったら、あきらめてぼくをにがすのだああああああ！！」
ズンちゃんの覚悟を持った目を見たおさずんが、露骨に狼狽してもがく。
しかし、ズンちゃんはもう躊躇しない。たとえこの後自分が殺されるとしても、民族浄化を実行したこの村の胎生型妖精の最後の生き残りを、生かしておくわけにはいかなかった。
「これからにどと、ほかのいきもののしあわせをうばって、むさぼってほしくないのだ」
「くちょれっとーしゅうううううう！！…………おいち、おいち！！おいち、おいち！！」
虫ピンを振り上げるズンちゃん。おさずんは、またも現実逃避をするように、目の前のいなり寿司にかぶりつく。
ぶしゅっ…………
「おいち、おいぢああああああああああああああああああああああああああああああああああ……」
虫ピンで心臓を貫かれてもなお、生への欲望にしがみつくように、長い長い絶叫をするおさずんだったが、やがてその体が力を失い、くずおれた。
こうして、この村の胎生型妖精は全滅した。
植物型妖精の生き残りと、人間たちによる「民族浄化」が、今まさに、完了されたのだった。
それの決定打を叩き込んだのは、他でもない、ズンちゃんであった……
「ズ、ズンちゃん……っ！」
セツが呆然と立ち尽くす。ズンちゃんは、自分の手で、決着をつけた。
つまり、自分の意志で、妖精を殺した。
小さな反撃を、そしてささやかな復讐を、果たしたのだった。
だが、ズンちゃんが失ったものは、あまりにも大きかった…………
セツがズンちゃんに求めていた「優しい心」は、もはや消え去ったかのように思えた。
だが、ゆっくりと人間たちの方に向き直ったズンちゃんは、大きく震え始める。
それは、あまりにも小さい命。風が吹けば飛んで行ってしまいそうな、儚い命。
「う」
悲しみで光を失った黒い目から、涙が静かに零れ落ちる。
「ううぅ……」
ズンちゃんの優しい心は、あまりにも大きすぎる悲しみに圧し潰されていた。
じゅぽっ……
おもむろにその手が動き、死んだおさずんの心臓から、虫ピンを抜き取った。
「ううううううう……」
そして、震える腕を自分の前に回すと、虫ピンの先端を、自らの心臓のある場所へとあてがった。
彼が何をしようとしているか察した人間たちは、一斉に駆け寄る。
「ズンちゃん！！やめてぇっ！！」「やめてくれえええええええええっ！！」
だが、もう遅い。涙を流し続けるズンちゃんは、最期に、精一杯の笑顔を見せた。
最後に、弱い自分の味方となって、妖精たちと戦ってくれた愛すべき人間たちへと……
セイタロウ、テツ、カイ、ヤマ、マサル、タカシ。
そして、セツ…………
…………だいすきな、おねーさん。
「ありがとう、なのだ……」
あとちょっと、あとちょっとだけ続けさせてください………次回、最終回です！！
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このページへのコメント
胎生型のゴミ共がいくら蹂躙され断罪されようとも全く考えを改める素振りを見せないのは現実の人間に通じるものがありますね…
コメントありがとうございます。自らを優良種であると勘違いしてしまった存在の考えを修正させるのは容易ではありませんね……
ずんだホールディングス様に読んでいただけたのがとても嬉しいです！よかったらこれからも応援よろしくお願いいたします；；
森の仲間が復讐しにくるとかのたまってるけど、ずんぽなくしただけで見捨てるような奴らだし死んだ奴らのために復讐なんてしないし、そんな心も持ち合わせてないんだろうな
本当すべてが自分に都合良く起きると考えすぎててどうしてこんな生き方ができるのか甚だ疑問でしかない
そしてそんなやつらに虐げられてきたずんちゃんがどうか報われますように…
コメントありがとうございます。ご明察のとおりです！おさずんが殺されたくないから咄嗟についたウソ、と考えるのが妥当ですね。
最終回も見ていただけたら嬉しいです！！
>「ゆ、ゆるせないのだくちょにんげん！！かってなりゆうで、ぼくたちのしあわせをめちゃくちゃにしたなあああああっ！！」
→･･･勝手なのはそっちの方だ。
どんな生物にしろ『理由があって』他の幸せを
奪わねばならんのだ。
>「これだからくちょにんげんはばかなのだ！！れっとーしゅは、ぼくたちのまえにそんざいしつづけること、そのものがつみなのだ！！だから、ぼくたちのやったことは、ただしいのだ！！ぼくたちは、“もりのけんじゃ”として、れっとーしゅのしあわせを、め ち ゃ く ち ゃ に し て あ げ た の だ ！」
→･･･そんな理由でズンちゃんや他の植物性達の幸せを奪ったのか。
･･･許せん。許せんぞ!!このクズどもが!!
例え死んでも、お前等だけはぶっ潰し続ける!!
お前等胎生の血が、種が、存在がこの世から消え去るまで!!
>「……おまえは、おまえたちは、ほかのいきもののしあわせをうばうことしかできない！！ボクは、もう、おまえたちを、おなじようせいとしてみとめたくないのだ！！」
>「だから、ほかのいきもののしあわせをまもるために、ボクがいま、おまえをころすのだっ！！」
→ちゃんと言えたじゃねぇか･･･
俺達もこんな奴等を生物として認めたくからな。
>胎生型妖精たちの台頭によって木々は葉を落とし、木の幹はその形を変え、木のうろ等は妖精たちのフン尿によって、見るも無残な姿へと変わり果てている。
→なんて事だ･･･
自然が･･･
森が悲鳴を上げている。
尚更許す訳には行かねぇ。
徹底的にぶっ潰す。
>まるでズンちゃんなど、気にも留めない様子で、いなり寿司を食べ始めるおさずん。
それが、彼なりの、ズンちゃんに対する自分の尊厳を保ち続ける方法であった。
→クソ虫がァ!!
最後の最後に美味しい思いして逝こうとしてやがる!!
なんて野郎だ!!
>おもむろにその手が動き、死んだおさずんの心臓から、虫ピンを抜き取った。
>そして、震える腕を自分の前に回すと、虫ピンの先端を、自らの心臓のある場所へとあてがった。
→･･･自分の同胞の為に戦った、
でも理不尽に奪われた物は何も戻りはしなかった。
ズンちゃんからにすればもう生きる意味も無いと同じ･･･
せめて、安らかに逝かせても良いんじゃないかな･･･
(以下感想)
・何処までも醜悪な胎生の最期すら醜く書けてて良き。(いや展開的に良くはない)
・全て終わってハッピーエンド、って訳にはいかないよね･･･
(読んでる途中で
やっと村を取り返せたのに、何も残ってなかった、そんな虚無感が押し寄せてきた。)
・ズンちゃん、死なないでくれとは言いたいけど、「楽に逝かせても良いんじゃないかな･･･」っていう思いもある。
あとちょっと、ですか。
でも、読んでて感情移入出来る位に読んでて飽きませんし、何週間でも、何年経とうと待とうではありませんか。
楽しみしております。
"もりのけんじゃ"だとか"しぜんをまもる"だとか言いながら実際は自然環境を食い荒らし汚染し破壊する……もはや名ばかりどころか｢大嘘つき｣だわあのゴミクズ共…!!!
もう存在そのものが害にしてヘイトでしかない胎生型共を一度でいいから｢奴らの発する言葉を模した鳴き声を(奴らがいつもやってるように)ガン無視して終始一方的に虐殺する(クズんだの調子に乗るシーン0な)話｣を書いて欲しい……
あのゴミクズ共に植え付けられた胸糞悪さから胸をスカっとさせてくれや。
コメントありがとうございます。今回はちょっと重くなりすぎました……十字軍とか宗教戦争、かつての白人がおこなっていた先住民虐殺みたいな分野まで行っちゃうと戻れなくなりそうです……
お待たせいたしました、最終回は本日投稿予定です！
胎生の悪魔共め……追い詰められてなお、死してなお最後の最期まで醜悪で下劣で傲慢な欲望しか口にしないとか…!!
それに森の木々をも糞便で汚染して枯らしまくってたとか"もりのけんじゃ"なんてやっぱり名ばかりじゃねーか!!!どんだけ他から命や幸せを奪い尽くせば気が済むんだこの害悪そのものは!!!!!(激憤)
……嗚呼、もう二度とアイツらの"言葉"……否、"言葉を模倣しただけの｢下品な鳴き声｣"なんて耳を傾けたくも聴きたくもねぇ……
(いつか｢あのゴミクズ共に文句や罵詈雑言を鳴かすだけ鳴かしといて、人間側は耳を貸さずに黙々と捕獲&駆除しまくる｣話を出して欲しい!!"会話が不可能"な奴らのヘイトや挑発の鳴き声が無意味なまま虐殺しまくってほしい…!!!)
コメントありがとうございます。死から逃れられないと悟った元・おさずんや現・おさずんが、欲望にしがみつきながら死んでいく、という最期、個人的にめっちゃ愚かさが描けて満足です！！
アイデアありがとうございます！今書いているストーリーが完結したら、挑戦してみますね！！
もう喋らなくていいから、全員虫ピンとかで口を閉じさせて放置する方法もある。自分達で口を開くこともできず現実逃避の為にへこへこに走り、産まれてくる子は汚い言葉や思想は覚えることなく生きられる。
つむぎやはうの｢実験｣でコレやってほしいわ……
(けど胎生おちびの時点で可愛い子ぶってるほど傲慢で狡猾だしなぁ……奴らのクソ思想が途絶えるのに何百世代かかるだろうか?)
コメントありがとうございます。生まれた瞬間に親から引き離したらどうなるのか？
そのような「実験」も今後題材としていきたいです！