モンスターハンティング! 〜序章〜

作者:滝紫蒼焔

〜序章〜


ドンドルマ? とガンズ
「す、すっげ〜……これが《ドンドルマ》か……」
 俺は思わず呟いた。
 ああ……ジャンボ村のみんなに見送られてはや数日。船や馬車をなんども乗り継ぎ、その度に激しい酔いや、俺の足元にいるプーギー、《ハーミット》の糞の始末に悩まされてきたが、もうそれとはおさらばだ。なにせ、今俺は、目的地だった《ドンドルマ》という街に来たからだ! 来たには来たんだけど……なんだか、聞いていたほど活気が無いな。
 この《ドンドルマ》という街は、はるか昔、先住民達によって築かれた山間の高地にある街だ。その為にモンスターに襲われることも少ないし、絶えることなく吹く風と、水面に建てられた街でもあるし、何よりも全ての狩猟地の中間地点にある事もあり、その辺に関してはかなり有名な街らしい。ジャンボ村の村長がそう言っていたから、それは確かなはずだ。彼は情報収集が上手く、真面目だから嘘を吐かない事はよく知っている。
 けど、実際のところ、俺はその情報だけを頼りにやって来た為に、この街についてよくは知らない。
 俺ことガンズ=グレンナルドが、この街にやってきた理由は仲間を探すためであった。
なんで仲間が欲しくなったのかというと、1人での狩りが少しばかり面白く無くなってきたからだ。
 なぜならば、全身を蒼い鱗で覆い、鳥のような鋭いくちばしに肉を簡単にえぐっていく爪をもった《ランポス》の親玉、《ドスランポス》を期限が約2日あるのに1日で倒してしまったからな!
 ハンターという職業はハラハラドキドキの連続で、一度狩猟の大地に立てば毎回死と隣り合わせ、と聞いたことがあって、幼い頃からハンターが夢だったのに、まったくもって《ハラハラドキドキ》というものを感じさせない狩りだったからな〜……ドスランポスの狩猟。
 だから、その事を村長に相談したところ、『そうか……君がいなくなるのは淋しいけど、君の意見を尊重しなくちゃね。たまには手紙でも頂戴ね! 仲間を探すんだろ? だったら、この街が一番いいはずさ!』―――そう言って、俺にこの街についての情報を教えてくれたのだが……本当にそんなんだろうか? だって、ほんとに聞いていたほど活気付いていないからだ。
 今、俺が見ている限りでは、たったの8人ほどしかいない。しかも、ハンターではなく、普通の住人や商人を入れてもだ。
 この街は、実はハンターが少ないんじゃないか? そう思っていながら出入口付近で立ちすくんでいた。
 と、いきなり、
「おい、どうした坊主」
 俺の左の方からそんな声が聞こえてきた。どうやら声の主は、何かの雑誌を売
っている若い男の商人だった。
 何だろう? 街では客を捕まえるために呼び掛けをしているのか?
 っていうか、今こいつ俺のこと“坊主”と言いやがったな! 俺は子供扱いされるのが大嫌いなのに!
 「どうした? ん? 坊主。そんなしかめっ面して」
 どうやら俺は、心の中で文句を叫んでいるうちに嫌そうな顔をしていたらしい。
「いや、どうもしないよ。……ただ、有名な街のわりには人が居なさ過ぎるなーって思ってな。なんだか期待はずれでさ」
「は? なに言ってるんだ坊主」
 いや、ただ人が居ないっていっただけだし。しかもまた坊主、って言いやがったな! ここはガツン、と言ったほうが良いな。街に来たら、強気を見せないと馬鹿にされるとも村長が言ってたしな。
「ただ単に人が居ない、って言ったんだよ。それで、おまえ! 俺の事を坊主、っていうな! これでも俺は17歳だぞ!」
「人が居ない? そりゃそうだ。だってココ、街の中じゃないぞ? ココは街の入り口だ。入り口にそんな人が居てどうする」
 なんかしゃくに障る言い方だな。俺の反撃がうまくながされたし。……段々腹立ってきた。ってか、もう十分立っているんだが………ん? なんか今、凄く重要な事を言ったような……何ていったんだろ。
「ココがなんだって? 聞き取れなかった」
「だから、ココは街の外、つまり街門だから、人が居なくて当たり前、って言ったんだよ。人の話を聞け」
「何!? ココって、街の中じゃないのか!?」
俺は驚きと戸惑いで、ついつい大声をだして問いただしてしまった。周りから、クスクス、と笑い声が聞こえてきた。
 ………す、すごく恥かしいな。
 俺は、わざとらしく咳払いをして、
「じゃぁ、《ドンドルマ》は何処だ?」
そう聞いた。
 ……何でか、また周りから笑い声が聞こえてくる。俺はそんなに変なことを言っているのか?
「はぁ? なに言ってるんだ、坊主。《ドンドルマ》はそこだ」
 そう言いながら、商人が自分の真正面のほうを指差した。
 なっ!
 俺は、パッ、っと商人の指差す方向に顔をむけた。たしかに、渓谷の中に風車が回っていたりしている。
 ……何てことだ。 こんな目の前にあったのに、気付かないなんて…………
 俺が《ドンドルマ》を見ながら口をあけてポカーンと眺めていると、またまた周りから笑い声。今度のは、クスクスではなく、『フフフ』や『クックック』といった笑いをかみ殺すものにランクアップしている。
 も、物凄く恥かしい。これは多分、俺の人生の中で上位に食い込むほどの恥かしさだ。
また俺はわざとらしく咳き込む。たぶん、周りから見たら俺が凄く真っ赤な顔をしているのが見れると思う。
「あ、ありがとよ……」
 俺は精一杯強がって礼を言い、早いところココから逃げ出したいため、急いで商人から前方にある《ドンドルマ》に向き直し、仲間を探すぞ、と気合いを入れて歩みだした。

 が、
「おい待て坊主。話がある。ちょっとこっち来い」
 商人の野郎が俺を呼び止めやがった。
 畜生! 何か用があるなら早く言ってくれ! 俺は一刻も早くこの場から逃げ出したいんだぞ!
「なんか用か!」
 若干声を上ずらせる俺。せっかく気合いを入れたのに台無しだ。
「いやなに、おまえの足元に居るのってプーギーだろ?」
「そうだけど。こいつがどうかしたか?」
「そうかそうか。だったら、ドンドルマの場所もわからん初心者ハンターの君に、おれがプレゼントしてやろう。ちょっと待ってろ」
 そう言いながら隣にある箱の中をガサゴソし始める商人。
 ああ、早くしてくれ。まわりの人達が俺のことをジッ、と見ているのが感覚でわかる。
 俺が早くしてくれと思っているのに、「どこだっけかな〜?」とか「これか! いや、違うな……」とか言っている商人。絶対わざとだろ!!
 かれこれ2、3分たったが、俺にとってこの数分が何十分もかかっている感じがした。だんだん視線も薄くなってるといっても、恥ずかしいことこの上無し。
 ……ってか、まだか。
 このままだとトラウマになるぞ。……いや、もうなってるか。
「おおっ! あったあった。ほれ。」
 やっと見つかったか! そう心の中で叫び(また大声出したらマズイしな)、商人の手のひらが掴んでるモノを見た。
 そこにあったのは…………手のひら大の形をした煎餅だった。
「なにこれ?」
「これはだな、プーギーの大好物を何種類か磨り潰して作られた《ブタせんべい》っていう煎餅だ」
「へぇ〜……」
 俺は商人から煎餅を受け取って、ハーミットに食べさせてみた。
 と、その瞬間、ハーミットが飛び上がって喜んだ。どうやら、本当にプーギーが好きなモノが入ってる様子だ。
 だって、飛び上がって喜んだ後、ハーミットが俺の顔に鼻を近付けてフガフガしてきたからだ。
「すごいな。この煎餅。」
「だろ? おれもたまにあそこにいる黒いプーギーにあげてるからな」
 そう言い、商人はかなり巨大な大木の下にいる、紫色のスカーフをした全身真
っ黒のプーギーを指差した。
「あいつもこれ食わせたら喜んだからな」
「そうなんだ……じゃ、この煎餅ありがとな」
 俺はココに居たくないという欲求にかられたため、そそくさと退散しようとした。
「待て坊主。何か忘れてないか?」
「何か…………」
 何だろう? 礼も言ったしな。これ以外に何か忘れているだろうか。
 商人は手を差し出して、
「《ブタせんべい》一枚10ゼニー。お買い上げどうも」
こんな事を言いやがった。
「さっき『プレゼント』って言わなかったか?」
「あれは嘘だ。商売人が品物タダでくれてやるはずないだろが」
「だ、だましたな!?」
 俺は声を張り上げて言った。
―――クスクスクス
 ……また聞こえてきたぞ、笑い声。ここは人が少ないから俺の大声は貫くがごとく周りの人々の耳をかけていく。
 くそっ! せっかく忘れかけてたのに………!
 もう俺は何も言わず、少ないゼニーが入っているゼニー入れに手を突っ込んで10ゼニー掴み取り、商人に向かって投げ渡し、早歩きでハーミットを肩に乗せて《ドンドルマ》へ歩いていった。後ろから「まいどあり〜」とかいうのん気な声が聞こえたが、俺は形振り構わずに《ドンドルマ》のみを見て走った。
2006年04月23日(日) 10:04:57 Modified by ukobnnes




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