漆黒の夜空〜Those who dye empty red〜第二話

作者:蒼夜


「ガンナーか…いいだろう俺はフィア・レフューゼ、大剣使いだ」
フィアは、リュースに向かって挨拶をした。
五歩ほどの距離を置いたところにいるリュースはフィアを見ながら…
「…よろしく」
しばしの沈黙…
「ま、まあじゃあ森と丘にいるイヤンクック狩りよろしくね」
沈黙に耐え切れなかったのか、ベッキーが言う。
「じゃあ行くぞ」
「…うん」
二人は、静かに森と丘行きの馬車乗り馬場に向かった。
「だいじょうぶかしら、あの二人陰と陰じゃない。でも二人とも強いことには変わりないし・・・」
ベッキーは多少の不安に駆られながらもカウンターに向かった

ガタッゴトッガタッ…
馬車の中で二人は完全なる沈黙を保っていた。
「・・・」
「・・・」
リュースの武器はラピッドキャスト…威力重視のヘヴィボウガンでありながら、リロード、移動が素早くできる。しかしほぼLv1の弾しか仕えないそれでも数多くの攻撃、補助の弾を使えるボウガンだ。
「…ラピッドキャストか、ねじれた角はどうやって手に入れた?」
沈黙を破ったのは、俺だった。
「分からない、このボウガンは母の形見・・・」
「そうかすまない、変なことを聞いた」
ガタッゴトッガタッ・・・
また、沈黙。重い空気が先の会話から更に重くなった。

ベースキャンプについたフィア達は支給品の中から応急薬を取り、ポーチにいれ携帯食料の包みを開け、丸薬のようなものを呑んだ。
携帯食料は、手に包めるような大きさの丸薬のようなものだが、一回の食事に必要なエネルギーを匹敵する様な栄養があり少々の満腹感が得られる。(中身に何を使われているかはギルド関係者しか知らないが)
口についた油をぬぐうとフィアは、
「まず、イャンクックはおそらくエリア3にいる。あそこは、飛竜が羽を休みに来る。
見渡しもいい『狩猟』には最適だ…崖から落ちなければな」
リュースは、コクと頷いた。了承の合図なのであろう。
「・・・あと、お前は見ているだけだ。しかし雑魚(ランポス)は任せる」
リュースは、再びコクと頷いた。
「それじゃあ、『狩猟』の始まりだ…」
フィア達はエリア3に向かった。

エリア3では、フィアの予想通りイャンクックが羽を休めていた。
「まずは、雑魚はいないようだ、俺が気づかれないように一撃を加えるからここで見ていろ」
「…ペイントは?」
リュースは狩りに最初にする作業ペイントを行わないフィアに疑問を言うが、
「ペイントは隙を作る、そのためイャンクック等の体力の低い飛竜には行わないし、体力の高い飛竜でも飛び立つときや、逃げるときの隙につければ問題ない、それに初撃は油断している相手に行うから、圧倒的優位の立場になる。覚えておけ」
リュースはコクと頷く。
背中から大剣ジークムントを抜き片手で左脇に抜けるように構えた
「っ!」
フィアはイャンクックのもとへ走った。大剣を地面に当てないように。
重い大剣を持っているのにかかわらず、速い。そして音を立てていない。
イャンクックはフィアに気づくと咆哮しようとするがすでに遅く、その嘴から咆哮を放つ前にフィアがジークムントを左下から右上にイャンクックの左足を凪ぐ。
ガッ、折れこそしなかったもののにぶい音を立てイヤンクックが倒れる。
イャンクックは無事なほうの足で地面を蹴り立ち上がろうとするが、土を浅く削るだけに終わった。
すかさずフィアはイャンクックの喉にジークムントを振り下ろした。
ミシッ、ブチブチッ、骨の折れる音と繊維を立つ音があたりに響き、噴水のように血が噴出す。
首を切り落とすまでいかなかったものの、首の骨は折れ、半分ほどもげていた。
イャンクックはこの瞬間絶命した。
息の調子を整えていたフィアは、手でリュースを来るように合図する。
リュースは、少々驚いているが気にせず。剥ぎ取りをするように促す。
フィアは、大型剥ぎ取り用ナイフで甲殻を3枚ほど剥ぎ取ると、そのナイフでかろうじてつながっていた首を完全に断つと、血が染み出さないよう丁寧に大きな布で包み、更に大きな袋に入れ担ぐと、
「さ、戻るぞ」
と言いベースキャンプに向かった。
リュースは頷き、フィアのあとを追いかける。

酒場は夕方になり始めたからか賑わい始めていた。
その中に大きな袋を担いでいる青年とその後ろに隠れる様についてくる少女が入ってきた。
この騒がしさでは誰も気づかないが、それこそ好都合だと青年はカウンターに向かう。
ベッキーは、料理の配達は他の給仕に任せ、カウンターでハンターの接客を待っていた。
そのまま、うとうとしていると目の前のカウンターに大きな塊がドンッ、と置かれた。
「…!」
「依頼完了だ、証拠品のイャンクックの頭だ」
ベッキーは、まだ完全に覚醒してない頭をフル活動させ、目の前に置かれたものがイャンクックの頭でこの青年はクエストの完了を告げに来たのだと頭の中で整理した。
そして、袋の上から触りイャンクックの頭だと言うことを確認して、
「はいイャンクック討伐の成功ですね、では報酬品と契約金200z報酬額の2400zです…ってフィアちゃんじゃない、もうおわったの?」
ベッキーが顔を上げると青年…フィアが立っていた。
「ああ、このまま飯食うからアプケノスのステーキとビール…」
一旦話を区切り辺りを見回し空いている二人用のテーブルを確認すると、指を指して
「あの席に運んでくれ、リュースはどうする…」
リュースはフィアの影から出てきて、
「私は…アプケノスのステーキ小さいのと葡萄酒…」
小声で注文するリュース。そしてベッキーは
「わかったわ」
と行って料理を取りに酒場の奥へ入っていった。
フィア達はテーブルにつき、フィアが口を開いた。
「これからが講習だ。今日のイャンクック狩りについて俺が何をしたか?」
リュースは少し考えると、
「…足を攻撃して行動不能にして止めを刺した」
と言った。フィアは、
「おおむね正解だが、あれは大剣使いでのやり方だ。ではリュースみたいなガンナーはどうすればいいか…分かるか?」
リュースは、また少し考え言った。
「…ガンナーも足を撃ってから止めを刺す」
フィアは眉を吊り上げ、
「ただ普通にするのは駄目だ、大剣なら威力があるからいいがボウガンだと行動不能にする前に反撃されてしまう」
リュースは怪訝な顔をして、
「・・・じゃあどうすればいいの?」
そう、問うと…
「おまたせー」
ベッキーがステーキ2つとビール、葡萄酒を持ってきた。
「すまない」
フィアが礼をいうと、笑顔でいいのよ言うとカウンターに戻って行った。
「…それでどうすればいいのかというと、徹甲榴弾を足に撃ち素早く散弾か拡散弾に変える」
フィアは話しながら小さく切ったステーキを口に入れ、飲み込む。
「そうすれば突進する途中によろめきそして怒り、隙が出来るからその間に足を中心に攻撃して倒す」
そしてまた、切ったステーキを口に放り込み、飲み込む。
「あとは、貫通弾に変え頭から尾に抜けるように撃ち込み止めを刺す」
リュースはフィアの半分くらいのステーキを黙々と食べていた。
話は聞いていたようだ。
しかし、見かけによらず食うのは早いな…
少しそれた思考を、元にも戻しながら、
「俺はここまでだ、頼まれた約束も終わったし、後は自分でやれ」
といい、残っていたビールを飲み干し立ち上がると報酬の半分が入った袋をテーブル置いた。
「じゃあな」
フィアは酒場を後にした。

ゲストルームに着くとフィアは、鎧を脱ぎ簡素なベットで眠りについた。

酒場にいるリュースはステーキを食べ終え、ちまちまと葡萄酒を飲んでいた。
するとベッキーがやってきて、
「あれ、フィアちゃんは?」
「…帰った」
「あら、そう…」
態度どおり本当に人付き合いのない人なのかしら?
と思いながらベッキーは、カウンターに戻るのであった。
2006年12月21日(木) 21:07:59 Modified by soya444




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