その部屋の窓から光が漏れたのは、4ヶ月と22日ぶりだった。
前の住人はたしか一人暮らしの老人だったと記録してある。
その老朽化の進んだマンション―シティヴィレッヂ―のネーミングセンスはともかく、目の前に立つ姿は
暗い地面から這い出してきた所で力尽きた蝉の幼虫のようなイメージを掻き立てる。

今、僕が住んでいる数年前に出来た新しいマンション―シルクホームレジデンス―の背後に隠れるように建っている
マンションの一室が、目の前に大きく拡大されてPCのモニターに映し出されている。
僕の部屋のベランダからは、向かいのマンションの全ての部屋が一望できる。
そのことを利用し、全ての住人の監視を始めたのが今から2年前。
僕がこの部屋で一日の殆どを過ごすようになってから、一年が過ぎた頃、偶然、向かいのマンションで
カーテンを開け放ったまま無防備に着替えをする女性を見つけた事がきっかけとなり、
それ以来、僕の部屋には向かいのマンションの住人のプライベートが事細かに記録してある。
最初は双眼鏡、後に望遠鏡を使い、やがて望遠機能の付いたカメラを見つからないようにカモフラージュし
ベランダに複数設置した。後に、それでも飽き足らなくなり、実際にマンションに足を運び
数台の小型CCDカメラとレシーバーを設置した。
さらに複数の空き部屋の室内に侵入し、小型カメラを至る所に隠した。
あの506号室はカメラを仕掛けた4番目の部屋である。

さて、ここ一週間、僕の興味はこの506号室に釘付けだった。
見学に来たと思ったら、すぐに契約し、カーテンも買わずに異様な器具を大量に運び込んだ。
部屋の壁や床に金具や、恐らく拘束具と思われるものを設置している所を見ると
カメラが見つかるのではないかとヒヤヒヤしたが、どうやら気付いてはいないらしい。
その姿を見ると、一見普通のサラリーマンである。品のある髪型に、嫌味でない程度のお洒落、
小物類は毎回同じトーンで統一され、スーツは安物ではないようだ。
しかし、器具を用意している時の顔、これを見たとき僕は気付いた。
この男は、僕と同じだ。異端者であり、狂った人間である。と。
そして今日―6月14日土曜日のもうすぐ日付が変わる時間―動きがあった。
男が大きなダンボールを抱え、エレベーターに乗って5階まで上がってきたとき、
すぐさまベランダの望遠カメラであの部屋を捉え、複数の室内カメラのそれぞれのアングルを
複数のパソコンのモニターで映し出した。

今までの住人に異常者が居なかったかというと、そうでもない。
SMマニア、女装癖、僕と同じ盗撮マニアもいた(もっとも自分自身が盗撮されているとは思いもしなかったようだが)
しかし、今回の男はこれまでの住人の中でも、ずば抜けて常軌を逸している。
思わず舌なめずりをする。
さあ、一体何をするつもりだ?


ビールは結局一気に2缶呑んでしまった。
まだ手の震えが止まらない。
その時、物音が背後から聞こえた。
どうやらお姫様がお目覚めのようだ。

まだ意識が朦朧としているのか、身動きが取れない今の状況に混乱し、自分がボールギャグを嵌められている事も
良く分かっていないようで、しきりに口を動かしている。
振り返ると私の存在に気付いたようで、恐る恐る顔をこちらに向ける。
視線が合う。驚きと困惑の色が顔一面に広がっている。
鼻から息を吸い込み、ゆっくりと吐き出し、口を開く。
「こんばんは、始めまして。私の名前は呉 一郎といいます」
彼女は何か話そうとしているが、金属製のボールギャグがそれを許さない。かまわず続ける。
「あなたは、今から私の所有物になりました。さっきまでの世界には永遠に戻れません」
説明を求めるようにさらにうめく。
「あなたは人ではなくなりました。たった今から、あなたは物になりました」
繰り返し説明するが、きっと理解出来ないだろう。そんなことはどうでもいい。
ポケットからナイフを取り出し、彼女に見せる。
彼女の顔に恐怖と憎悪の表情が浮かぶ。
その表情はさらに私を興奮させた。
私は興奮を表に出さないようにしながら、ゆっくりと近づく。
彼女は私と距離を置こうとするが、拘束具に阻まれる。
四肢の自由が奪われ、さらに首に革製の首輪(もちろん玩具の簡単に外れるような物ではない。
舶来物の、本物)が嵌められている。その首輪には金属製の武骨な鎖で壁に打ち込まれた器具に繋がっている。
ワイヤでも良かったが、示威効果を狙い鎖にした。動くたびにジャラリと非情な音がする。
後手に拘束されて、一点で手足を縛られていることで無防備に胸を突き出している。
まだ肌寒いというのに露出の多い服を着ている。
薄い生地はいとも簡単にナイフの刃で引き千切られた。
下着も切断し、露になった胸を見下ろす。彼女は恐怖に引き攣った表情に羞恥の色を滲ませる。
かまわず、今度は下に移り、同じ要領で肌を露出させる。
ガムテープで拘束された手足以外、全てを剥ぎ取られた状態になった彼女の目から
その時初めて涙がこぼれた。


モニターの中の男は、自分のズボンを下げると、有り得ないほど巨大に、隆々とそそり立つモノを
彼女に見せていた。
室内のマイクは音声を拾っているが、スピーカーから聞こえた彼の短い演説を聞く限り、
彼―「くれ いちろう」と名乗っていた―はやはり期待を裏切らない異常者であるようだった。
この動画は全て保存してある。これを後に上手く使い、金儲けに使えないかとも考えていたが、
気が変わった。これは僕と、この画面の中の二人だけで楽しむことにしよう。

彼女―若く、荒い画像から判断が難しいが恐らく整った顔立ち―は頭をふり、拒絶の意を示そうとしているが
馬鹿な奴だ、こんな事をする奴がそんなことで止めてくれるとでも思っているのだろうか。
男は構わず彼女の膝を押しのけ、ソレを露にされた彼女の股の間に容赦なく差し込んだ。



もう私のモノは爆発寸前であった。
一刻も早く、身体の中でマグマのように熱く滾っているものを排出しなければならない。
取り出してみると熱を帯びパンパンに張っている。
ソレを見ると彼女は一層大きくうめき、悲鳴のような声を上げた。
構わない。下の口を抑えれば、次第に上も静かになる物だ。
彼女のモノに自分のモノをあてがう、この瞬間が何時も快感である。
ファースト・コンタクトの瞬間を想像し、全身で憎悪し、嫌悪する彼女。
ゆっくりと前進する。思ったよりもキツイが、亀頭を入れ終わり、カリまで入りきるとスムーズに動くようになった。
亀頭が入ると彼女は歯を食いしばり、目を硬く瞑った。悲鳴をあげても私を悦ばすだけだと悟ったのだろうか。
必死で我慢している様子が、またソソる。
しかし、そんな連れない態度をされると、どうにかして彼女に嬌声を上げさせたくなる。
一気に奥まで押し込む。口を大きく開き、声にならない悲鳴を上げる彼女。
構わず引き抜くと、間髪入れずに再び挿入をする。
彼女の身体が激しく波打ち、全身で痛みと屈辱に耐えているのが分かる。
前戯無しのため、滑りは悪いが、問題ない。
さらに彼女の下半身を片手で少し持ち上げ、動きをスムーズにする。
引き抜き、また奥を突く。
彼女の呼吸が荒く、早くなる。涙と汗でグチャグチャになった顔がなんとも言えず美しい。
だんだんとヌルヌルした液体を彼女の膣内(なか)に感じるようになった。
一度、彼女の肉体から私のモノを抜き出し、彼女に一呼吸与える。
終わったのかと僅かな希望を反射的に抱いてしまった彼女に、また亀頭を潜り込ませ、突き上げる。
その時、彼女が上体を激しく反らせ、ついに
「っ・・ぁああっ」
と声を上げた。
一度声を上げると決壊したダムのように声が漏れる。
どれもが私を激しく興奮させる。
やがて自然に腰の動きが速くなる。
奥まで突いたその時、腹の奥深くから、込上げるような洪水が起こり、彼女の中に放出された。
暫く、その場で止まり、私のそれがまるで心臓になったかのように鼓動するのを感じ、
そして何より、彼女と、肉体の最も深い場所で一体になれたような気がした。
彼女の身体も、まるで私のソレの鼓動に共鳴するかのように痙攣していた。
目を瞑り、果てた後の余韻を十分に堪能したのち、彼女の身体から、ソレを引き抜いた。
まだ激しく呼吸をしている彼女の姿は、より一層輝いて見えた。
だが、まだだ。彼女はもっと美しくなれる。



男はこの部屋にある、唯一のまともな家具であるソファに座り、激しい行為の後、うずくまっている彼女を
じっと眺めている。
ふと、彼女を入れていたダンボールに手を伸ばし、恐らく彼女の物であろう、小さなバックを取り出した。
中身を一つ一つ床に並べると、最後に出てきたのは携帯電話だった。
男はそれを床には並べず、折畳式の携帯電話を開くと何か操作した。
唐突に
「桃子、か」
男が独り言のように呟く。画面の隅に映る彼女の背中が一瞬震える。
男は携帯から彼女に顔を向け、こう言い放った。
「あなたが私の所有物になったからには、新しい名前が必要ですね」
男独自の思考回路によって弾き出された言葉。
「ここはあなたにとって、新しい世界です。前の世界とは完全に分離された、私の国です」
繰り返し、言い聞かせるように言う。
「もう前の世界の名前は必要ありませんよね」
口元に笑みを浮かべながら(もちろん、実際にモニターに映し出される顔では表情は分からないが、
彼の口調や声のトーンが、まるで自分の秘密基地を自慢する少年のような笑顔を想像させる)男が言う。
「ふん…桃子、モモコ…」
繰り返し呟いている。
「・・・そうだ、モヨ子、…モヨ子がいい。呉 モヨ子。うん、語感もいい」
パッと顔を上げ、その名を繰り返す。どうやら良い名前が決まり、悦に入っているようだ。
満面の、どこか狂気を含んだ笑顔で、男はこう言った。
「モヨ子。今日はもう寝なさい。明日から忙しくなるんだから」


その声が果たして彼女―モヨ子―に聞こえたかは、分からない。
しかし、マイクを通し、電波となってこの部屋に飛んできて、スピーカーから漏れたこの声は
悪魔の声と形容するのに相応しい無常さと狂気を孕んでいた。

コメントをかく


「http://」を含む投稿は禁止されています。

利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

メニュー

編集にはIDが必要です

メンバー募集!