前前から予定していた計画を実行に移す。
夜10時電車に乗る。通勤時に慣れているからか、それなりに混んでいるにもかかわらず
電車内がやけに広く感じた。それでも休日なのでそれなりの人数がいる。
回りを見回すが、目に入るのは過多な露出ばかりで品が無い、うるさい、うんざりだ。
群れを作るか、そうでなければ隣には男がいる。甲高い喋り声、嬌声のような笑い声。
まだ時間はある。慌てないように、高鳴る心臓の音を宥める。まだだ、まだ早い。
口の中が乾燥している。気が付くと口で息をしている、悪い癖だ。
舌が口内に張り付く、不快。
手が小刻みに震えだす。これでもう6回目だ、今更怯えはしない。これは、そう、むしろ武者震いだ。
激しく勃起している。
呼吸が浅く、荒い。脂汗が滲んでいる。これでは不信がられる。落ち着け。
10時30分頃、予定していた駅に到着。トイレにて自分の「武器」を確認。
まるで遠足前夜の小学生のような気分、高揚感。
大きく深呼吸、4秒息を吸い、8秒止め、また4秒で息を吐く。
脳に酸素が行き渡るのが分かる。意識がクリアになり、全身に力が漲る。
性器を出すと隆々と勃起している。あまりの興奮にその場で自慰をする。すぐ射精に至る。
まだ元気だが、本番はこれからだ。

一年間、そう、前回から一年が経った。
一年かけて周到に準備し、やっと全ての準備が整った。

初めての「行為」は稚拙の一言に限る。高校生の頃、発作的に考えた「計画」
ターゲットは全く知らない女。恐らく中学生かそうでなければ同年代だっただろう。
すぐに実行に移したが失敗が多く、最後に至る前に逃亡を余儀なくされた。
しかし、そのときの感情はなんとも形容できない。
彼女の怯えた表情、体の震え、肌の色、何も知らない女だが全てが愛らしかった。
まるで自分が神にでもなったような高揚した気分。
とはいえ、あの頃の自分にはまだ色々なものが足りていなかった。
知識も、忍耐も、資金も、計画性も。だが、今は違う。
必要なものを全て手の内に揃え、しかも時期を虎視眈々と捉えるまで待てる忍耐力を手にした。
前回、既に完成の域に達したと思える。しかし、まだ満足は出来ない。
やはりどうしても最初のあの日のような気分にはなれないのだ。
時が来た。待ちに待ったこの日だ。
外は鈍よりとくすんだ鉛色の雲が太陽からの日差しを遮っている。
今にも泣き出しそうな曇天。辛うじて雨は降っていない。トイレをでる。今日こそ、あの高揚感を再び取り戻すべく。


下見した場所、人通りは疎らで何より暗い。そこからよく気を付けなければ存在にすら気付かないであろう路地に見を隠す。
路地を挟む二つのビルの内、背の高い方は一階にはテナントが入っておらず、その他の階にもこの時間に人はいない。
もう一つの背の低い方は半年前に所有者が蒸発してから誰も手をつけず、放置されたまま。
絶好のロケーションである。準備期間の殆どをこの場所を探すことに当てたおかげで、後の準備が押してしまったが
それだけの価値はある。

必要なものを鞄から取り出す。
失敗した時のために顔を隠し、手袋を付け、武器であるテイザー(ワイヤー針タイプのスタンガン)を確認。
針を発射する銃器であるにもかかわらず、求める者には与えられる。
特に資本主義の現在においてこれは絶対である。
国内では手に入らない「はず」の武器を、いとも簡単に手に入れることが出来た。
後は待つだけである。

この場所は駅から住宅街への「抜け道」として地元住人の間で利用されるが、
この暗さや見通しの悪さが原因で倦厭されがちだ。とは言え実際に何か事件が起こった訳でもない。
そのため住人の危機感は薄い。

さっきから人の往来は疎らではあるが一定のペースで足音が聞こえる。
ゆっくりと上体を傾け、通行人を確認する。
待つこと約20分、来た。全身が緊張し、収まりかけていた心臓の高鳴りがぶり返す。
ターゲットは一人、ハイヒールを履いている、あれではいざという時逃げにくいだろうに。
年齢は高校生くらいだろうか、こんな夜遅くまで出歩き、大人に憧れる時期なのかも知れない。
気が強そうな顔である。
狭い道のほぼ真中をゆっくりとした足取りで歩いている。
距離7メートル、6、5、4、3、2、射程距離に入った。
トリガーを引く。彼女は立ち止まり、一瞬、怪訝そうな顔をし、その後崩れ落ちる。
成功か、数秒様子を見、起き上がる様子が無いことを確認。
ゆっくりと近づき、路地に引き込む。
地面に横たわらせ、路地に面した背の低い方のビルの窓から中に侵入し、中を確認。
すばやく路地に戻り彼女を室内に連れてゆく。
薄い身体、センス良くカットされ、手入れの行き届いた髪、精一杯背伸びした洋服。
予想以上に上物だったようだ。
この収穫に満足し、一度、深呼吸をする4、8、4。
さて、ここまでは計画どおりである。しかし、まだ安心は出来ない。
廃墟のはずのビルから光が漏れているのは何かとまずい。
すぐさま、彼女の身体を折りたたみ、予め準備してあったダンボールに梱包する。
ビルの裏のドアの鍵は既に壊してある。そこから外に出ると、外には一台の車が停まっている。
そっとダンボールを車の中に入れ、固定。運転席のシートに身を埋め、すぐに出発。
手がひっきりなしに震える。


時間は既に深夜。
先日の例の物件に直行する。

そこは昔のマンションブームで乱立したマンションの一つであり、最近出来た新しく立派な
マンションに日差しを遮られまた建物自体の老朽化も徐々に進みつつあり、しかも駅とのアクセスも悪い。
車を降り、住人の寝静まったマンションを大きなダンボールを抱えて歩く。
エレベータで5階まで上がる。部屋の番号は506。
左右上下、全ての部屋に住人は居ない。引越し蕎麦を準備する必要は無いようだ。

コンクリート打ちっぱなしの寒寒しい室内。まぁこの不快な天気にはちょうど良いが。
ダンボールから彼女を引っ張り出し、口にボールギャグをはめる。穴が空いているので窒息する心配は無い。
ガムテープで厳重に手足を縛り、さらに、先日整えておいた「内装」を使い身動きが取れないようにした。
改めて彼女を眺める、深く意識が潜行しているようで身動き一つしない。
少し釣り目気味で切れ長の目が気の強そうな雰囲気をかもし出している
彫りは浅く、しかしどこかギリシャの彫刻を思わせる精悍さを感じる。
小さな肩幅、華奢な身体、黒く、染めてない髪は好ましい。小ぶりな胸、そして細い足を遡れば
艶やかな太股が見て取れる。
胸の高鳴りが抑えきれない。
喉の渇きを潤すため、冷蔵庫からビールを取り出し、一気に飲み干す。
飲み始めて気付いたが、相当喉が渇いていたらしい。
この程度で酔いは回らない。頭が冴えている。
一息ついて、やっと実感が湧いてきた。
彼女を手に入れた。今から彼女は自分の所有物である。心臓の一刻みから自分が管理する。
正真正銘の自分の所有物となった。
ゆっくりと、一年間かけて集めた「内装」を眺める。
まだ週末も前半戦を終えたばかり。玩具も、時間も、沢山ある。

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