「二人に続いて美佐枝さんまで…」
「一体どうしたのでしょう?」

 なかなか戻ってこないことみたちを心配する杏と渚に智代が冷静に話しかけてくる。

「これはもう、何かあったと考えたほうがよさそうだな…」
「何かって…何よ?」
「おそらく犯罪…そのものの行為だろう。残念だが、美佐枝さんたちはもう既に犠牲になっていると考えた方がいいな…
そうなると朋也の呼び出しもおそらく偽者だな」
「ちょ…ちょっと!めったな事言わないでよ!椋やことみがどんな目に遭ってるっていうのよ…」
「それは、お前が考えている通りだろう…こうなった以上、一刻も早くここから出て警察に助けを求めた方がいいな」

 胸倉を掴んでまくし立てる杏に、智代は冷徹なくらい冷静に現状を分析してみせる。
その正しさを頭では理解していても、中々それに素直に納得することが出来ない。

「椋たちを見捨てろっていうの…」
「一旦ここを離れるだけだ。私たちがここにいて何ができるんだ?」
「それは――」

 尚もまくし立てようとした杏だったが、その瞬間――校内放送用のスピーカーから場違いなほど
陽気な声が流れてくる。

"――ピンポンパンポーン♪ニュースの時間で〜す…――本日午後6時47分ごろ、一ノ瀬ことみさん(18)と
藤林 椋さん(17)の二人がトイレの中で何者かに襲われ、処女を喪失したあと数十人の男に
輪姦されるという事件が起こりました♪"

「なっ!?」
"その後の調べによりますと、男たちは全員ナマで精液を中出しして、二人はオマンコも口も尻の穴も
全〜部犯されて精液まみれの状態となっておりま〜す♪"



「…決まりだな。一刻も早くここを出て、警察に届けよう…」
「ちょっと!椋たちはどうなるのよ?アンタ、なんとも思わないの?」
「だったら好きにしろ…私はとにかくここを出る」
「こンの――っ!」

 智代の冷静すぎる態度に、杏はかえって逆上し殴りかかろうとする…その瞬間まるで見計らっていたかのように――

"藤林 杏さ〜ん、藤林 杏さ〜ん…妹の椋ちゃんをお預かりしておりま〜す♪至急、視聴覚室まで『一人で』お越しくださ〜い"
「椋っ――」
「あ…おいっ!」

 智代の制止の声も聞かず、放送を聴いた途端に部屋から飛び出していく杏…
そんな杏を呆れたように見送った智代に、次の放送が流れてくる…

"一応教えとくけど、この校舎から力ずくで出るのは不可能だから…窓は溶接してあるし、
ガラスは特殊防弾ガラスに変わってるからちょっとやそっとじゃビクともしませんよ〜
ここから出たかったら、私たちの内の誰かが持ってるマスターキーをゲットしないといけません。
もちろん妨害ははいりますけどね…では、健闘を祈る…なんてね♪"
「ふざけるな…――!」
「坂上さん…」

 試しに窓に向かって椅子を投げつけてみる智代だったが、ガン、とガラスとは思えない音が響き
傷ひとつついた様子もない…恐らく他の窓も同じだろう、試してみるのもばかばかしかった。

「これからどうすればいいんでしょう…」
「そうだな…」



(椋…椋っ!待ってて…今、助けに行くから――)

 演劇部室から飛び出し、全力疾走で視聴覚室に向かっている杏。そんな彼女の様子を少しはなれたところで
機械の目が追っている…

「こちら五七三こちら五七三…計画通り目標K・Fが妹の奪還のため単独でそちらに向かっている。
目的地で待機している六〇三、六二七は手筈どおりに行動する事、目標はきわめて凶暴…
勝手な行動は慎むように…繰り返す――」
「こちら六〇三、了解…」
「こちら六二七、了解…良かったね椋ちゃん…お姉ちゃん助けに来るって…じゃあ、分かってるね?頼んだよ、椋〜ちゃん♪」
「――おねえ…ちゃん…」

(続く)

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